goo

社会インフラモデル--「社会全体のコスト負担」

『2030年のIoT』より

IoTのビジネスモデルというと、調達から製造、保守まで長いプロセスを保有する製造業への注目度が高い。その反面、都市管理、交通、防災等、公的な分野については、社会インフラと直結しており、費用対効果が曖昧になりやすいこともあり、ビジネスモデルに関しての検討は、遅れているといわざるを得ない。

超長期では10兆個を超えるセンサーやビーコンが世界中の都市に設置され、人や車の動き、水やエネルギーの効率的な供給、安心・安全に大きく貢献するというのが、広くいわれるIoTに関するビジョンとなっているが、これはIoTから発想されたことではなく、むしろ2010年頃からのスマートシテイ構想を、IoT視点から再度取り上げたというほうが実態に近い。

これらの街作り、社会インフラモデルには以下の課題が指摘されている。

時間感覚と信頼性に対する相違

 ICTソリューションの多くが、早ければ1年以内に導入されるようなスケジュール感覚であり、導入に10年かかるような大規模システムの開発プロジェクトは非現実的とする見方が強い。

 「なぜなら、その間に、技術が古くなってしまう。今ある技術の導入に何年もかかるのは、どこかがおかしい」と考えるのに対して、街作りの視点で見れば、「都市計画においては10年を超える期間はごく一般的。場合によっては30年を想定するもの」となっており、両者の時間軸がすり合わせられない。

 都市計画とICTのそれぞれの専門家が同席したときに、ICTの専門家は都市計画のあまりの遅さに、都市計画の専門家はICTの速さというよりは、「いい加減さ」にあきれることが多い。

 加えて、自動車、エネルギー等人命や生活に直結している業種の安心・安全のマージン設定(導入までのテスト期間、評価手法等)に多くのICT専門家は理解すら及ばない。

 社会インフラや自動車の専門家からすれば、「(社会インフラは)ガレージのなかでチョコマカ作るものじゃないし、致命的なエラー等、あってはならない。ましてや発生したときにリセットする等許されるはずもない」となってしまう。両者、お互いに深い溝に無力感を感じて、話し合いをやめてしまいがちである。

行政の縦割りとICTの立ち位置

 加えて都市インフラの高度化とIoTの話が進展するにつれて、もう一つの問題が出てくる。それが「行政の縦割り」である。

 都市計画は本来、エネルギー、交通、上下水道、安心・安全等から構成されているものの、実態としては、それぞれを管理する公的機関は基本的に縦割りであり、予算も運営も独立している。相互の連携には、これ以上踏み込んではならないとされる歴史的な境界線があって、相互不可侵となっており、その境界線は厳密に守られている。

 ところがIoTの最大の便益は、それらの「縦割り」を横につないだときに発揮される。都市計画も本来は、そのように策定・運用されるべきであるが、実態としては縦割りのほうが横断運用よりもはるかに強力であり、都市管理の横断的な運用は、永遠の課題となっている。

 代表的な相互関係領域としては、自動車、鉄道等の交通機関、人の移動、警察等の交通管制等があげられる。

 都心部の交通規制、たとえばシンガポールの車両侵入規制や北米の動的な車道規制、そのための有料ゲート等を使った動的な通行料金システム等、道路と交通、関連する鉄道や防災時の対応等も、横断的なインフラ管理の代表例であり、交通信号の活用(車両台数計測や速度情報等)等も関連組織にまたがった課題といえる。

ビジネスモデルではなく、自治体モデルに突破口を

 ただ、近年、行政の縦割りに風穴を開けるようなアプローチが、一部の自治体で取り組まれていることには注目する必要がある。全国レペルで規制を見直すのではなく、首長が強い主導権を発揮することで、国に先んじてICTを活用した街作り、IoTの萌芽ともいうべき取り組みを先導する自治体もある。

 たとえば富山市の取り組みはビジネスモデルではなく、自治体モデルとして評価が高い。

 人口減少環境下での都市内交通を活用した都市機能の再編、スマートフォンを使った通勤・通学の安心・安全に向けた取り組み等、今、利用できるICTを活用しての意欲的な取り組みは、閉塞感を感じがちな縦割り行政対応についても、異なる可能性を感じさせるものがある。

 IoTの社会インフラヘの導入・活用についても、民間企業同様、強い主導権の存在が必要であり、全国的、包括的な取り組みではなく、エッジの利いた自治体にこそ期待できる点がある。

IoTエコポイント、社会インセンティブをめぐる議論

 突破口としての自治体アプローチを受けて、全国的なIoTの社会インフラヘの活用を考えるとしても、やはりIoTの特性である、導入に時間を要すること、当初のコスト負担と受益者のズレ、受益者の不明確さに留意する必要がある。ここを解決しないと、持続性、汎用性を有する施策とはなり得ない。

 特に社会インフラが子供服のように大きくなることを前提として構築されてきたという点には、注意が必要である。たとえば電力の場合、夏のピーク時に対応するため、現在の発電システムにおいては、重油や石炭等の火力による「上積み」の発電能力等、通常時には利用しない設備のコストが全体コストに含まれている。

 もちろん、電力サービスの品質維持のために必要とされているのだが、IoTの普及時には、電力需要の低下時に2次電池等へ蓄電し、需要集中時に放電することで、見かけ上、総発電量が減少する可能性がある。誤解を招く言い方だが、現在のスキームでは、電力事業者の売上は減少することになる。

 したがって、電力会社の経営者からすると、IoTへの投資は自社設備を効率化する反面、短期的には業績の低迷につながる可能性が無視できない。

 当然、長期的には環境負荷の軽減につながり、社会全体への貢献、電力会社自身の資産のスリム化にもつながるのだから、長期視点で経営されている日本の電力会社にとってIoTへの投資は受け入れ可能な選択肢となっている。

 しかし、欧米先進国の一部の電力会社経営者が、自分の代でIoTに投資しても、その果実は自分の後の経営者が享受し、自分がコスト負担による業績悪化の責任をとらされるのは嫌だと考えることも十分考えられる。

 全体最適化だとはわかっていても、経営者としての自分への見返りが少ないと判断されることで、投資や取り組みが、先送りされる可能性は否定できない。このような事態は電力等のピーク変動が大きいインフラには顕著に表れるものであり、交通等においても同様の懸念がある。

 結局のところ、長期的な全体最適化のために、短期的に発生するコスト負担と社会インフラ運営企業の短期的な業績低迷を、何らかの形で整合させないと、IoTの本格導入に向けた具体的な取り組みが進みにくい。

 この点については、公的な資金、もしくは税制等によるインセンティブを当てるべき、とする見方が検討されている。

 短期的な業績悪化につながっても、長期的な環境負荷軽減につながる投資、初期費用負担を、短期的な収益性とは切り離して推進するための公的なサポートとして、IoTインセンティブ(IoTエコポイント)、もしくは非IoT課徴金がEU等では検討されている。

 想定されることとしては、家庭向けでは、エネルギー負荷の高いエアコン、洗濯機、冷蔵庫、照明、テレビ等を対象に、IoT化を義務づける、もしくはセンサーやメーターと通信機能をユニットとして設置することを義務づけることである。

 対象機器の買い換え時に、IoT対応機器にポイントを付与する、もしくは非対応機器の購入については、一種の課徴金を徴収し、それをIoT対応化へのファンドとすることになる。

 もちろん、生活者視点では、家電製品の価格上昇につながるため、必ずしも歓迎されない見方もあるが、自動車の排ガス規制のように家電機器や住宅設備に対する規制の取り組みも検討すべき段階に達しつつある。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
« 自動車のIoT トレードオフ... »
 
コメント
 
コメントはありません。
コメントを投稿する
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。