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晩婚化・未婚化現象とジェンダー問題

『アジアのなかのジェンダー』より 少子社会におけるジェンダー問題--結婚というウィンドウからみる--

晩婚化・未婚化か進行しているとはいえ、若者の結婚意欲が減少したわけではない。テレビや雑誌などのメディアによる情報は、結婚に関するものであふれている。映画もドラマもアニメも恋愛の先のゴールを結婚に定め、社会もそれを違和感なく受け止めている。「婚活」なる言葉まで登場して、若者たちが真剣に結婚の途を模索している様子がよくわかる。ではなぜ結婚しない若者たちが増えているのだろうか。その理由として、最も多くあげられるのは、「適当な相手にめぐり会わない」からだとされている。その「適当な相手」とはどのような相手なのだろうか。 2010年のデータによると、男女ともに最も重視しているのは相手の「人柄」、次に「家事・育児の能力」、「仕事への理解」と続くが女性の場合は特に後者2つの値が高くなっている。この2つの条件からみて、女性は結婚後も就労意欲が高く、家庭生活と仕事の両立のために男性の協力や理解が不可欠なものと考えていることがわかる。しかしその一方で最も男女差で際立っのが、女性が相手に求める〔経済力〕の条件の比重である。相手の「職業」、「学歴」についても重視又は考慮すると回答した割合が高いことは、それがすべて〔経済力〕につながるからである。一方、男性の場合、女性の〔経済力〕には関心が低く、女性よりもこだわる条件は相手の「容姿」のみとなっている。この結果から、女性は男性と比べて結婚相手に求める条件が多岐にわたること、特に男性に〔経済力〕、さらに〔家庭生活と仕事の両立への協力や理解〕を望んでいることがわかる。では、女性は男性よりもわがまま、よくばりなのだろうか? 実はそうではない。男性との相違が目立つこの2点について、本節ではさらに詳しく検証する。

1 なぜ女性は結婚相手の男性に〔経済力〕を求めるのだろうか

 その答えは簡単である。一般に日本の女性は、男性に比べて〔経済力〕の面で劣り、また維持することが難しいからである。「男女雇用機会均等法」が誕生して四半世紀たっというのに、女性の平均賃金は未だ男性の7割程度であり、職種によってはさらにその差は大きくなる。また結婚したカップルのほとんどが夫婦共稼ぎを選択するものの、子どもができると育児に専念するために仕事を辞め専業主婦となる女性が少なくない。そのため、日本では30代前後の女性の労働力人口が減り、その後ある程度、子どもが大きくなったら再び労働市場に戻っていくM字型カーブを描く就労パターンが未だに多くの女性の間で選択されている。したがってその平均勤続年数は当然、男性より低くなる。しかもいったん家庭に入った女性の正規雇用としての門戸は狭く、ほとんどの女性はパートをはじめとした非正規雇用者として再就職することになる。平均勤続年数の短さと非正規雇用層が多いことが平均賃金の低さに反映されるのである。さらに正規雇用者であっても男性に比べて昇進などの途が狭いこと、また長らく女性が占有してきた職業の賃金が比較的低く抑えられていることによって給与間格差を生み出している。加えて雇用のシステムに家父長制の価値観が具現化され、男性の給料にのみ家族手当などがついているケースもめずらしくないこともその現象を強化している。その一方でこの価値観は、女性は家計補助者という男女の“棲み分け”も伴うから、女性の給与は低く抑えられるのである。

 このような状況は、女性たちに、結婚すれば男性に経済的に依存することになるという想像を働かせる。近年、ある有名タレントが、結婚相手には自分の年収の2倍を求めるといって周囲の顰蹙を買ったことがあるが、子どもを出産し専業主婦になるのであれば、男性の収入に喪失する自分の収入分を求めたとしても何ら不思議はない。またその後、再就職したとしても元の収入が期待できないのであれば、女性が結婚相手に〔経済力〕を求めるのは、わがままでもよくばりでもなく、ごく普通の生きる者としての防衛本能なのである。しかし若い男性の非正規雇用が社会問題となり、大卒の就職率も年々下がる傾向にあるこんにち、女性たちの希望をかなえてくれる男性に出会う確率は極めて低い。

2 なぜ〔家事・育児への協力〕的な男性が女性の結婚条件になるのか?

 現代の女性は結婚後も仕事を続けることにためらいはない。結婚相手に望む条件に「自分の仕事への理解と協力」があげられているのも、そのためである。また男性の側も、不安定な雇用状況を考えると、専業主婦を養えるだけの余裕がないことは承知している。だから以前のように、プロポーズと同時に「結婚したら仕事をやめてくれ」などと口走る種類の男性は現在ではほぼ絶滅種に近い存在である。それどころか、子どもができても働き続ける妻を求めている。最近の若い男性のほとんどには、自分の給料で3食昼寝付きの専業の妻を雇う経済力もなければ、そのような意志もない。したがって女性たちが結婚相手に特別、仕事への理解・協力を声高にいわなければならない時代は終わったはずである。

 しかしである、実際に結婚するとどうなるのか? 2011年の統計によれば、日本男性が1日平均従事する家事関連時間は42分、これは5年前の38分と比べれば前進している。興味深いことにこの状況は妻が専業主婦であっても外に職業をもっていても変わらない。これを6歳未満の子どもがいる家庭に絞ってみてみると、家事・育児時間は1時間以上に増える。しかしそのうちの40分近くは育児に費やすため、平均5時間ともいわれる妻が行う家事への負担は消えない。背景の一つには、日本の長時間労働の問題がある。日本では、過労死もめずらしくなく、働き盛りの男性が身体ばかりか心のバランスまで崩し、うつ病になるケースも増えている。リストラの恐怖に怯え、心身の不調にも耐えながら働き、帰宅時間も遅い男性に、「もっと家事を」とはいえない現実がある。未だに女性が結婚相手に、〔家事・育児への協力〕ができる男性を選ぶ理由はここにある。彼女たちは、自分の親世代をみてその現実を知っている。

3 性別役害扮業という壁

 以上みてきたように、結婚を阻む要因として、女性が求める男性の〔経済力〕に対しては若年の不安定な雇用の状況が、また結婚後の〔家事・育児への協力〕については長時間労働の日本社会がある現実をみてきた。つまり晩婚化・未婚化には、日本の経済状況が大きく影響しているのである。しかし結婚を阻むこれら2つの条件の他にもう一つの重要な要因がある。それが性別役割分業の存在である。

 例えば女性が男性の〔経済力〕に頼る背景には、女性の経済的自立の困難な状況があった。女性の家計補助的な位置づけが歴史的に女性の賃金を抑制し、また子どもが産まれると専業主婦になるというライフスタイルがその状況を促進してきたことを確認してきた。そしてこれらの状況を生み出しているのが、「男は仕事、女は家事・育児」という性別役割分業の規範なのである。男性が一家の稼ぎ手であることを前提としたこの規範では、女性の賃金は家計を援助する程度で抑制されて当然である。また育児のためにいったん仕事を辞めるというM字型就労も、女性が家事・育児の主担者であるという規範が招く結果なのである。

 そして男性が〔家事・育児への協力〕をできないのは、たしかに日本の長時間労働、現在の不安定な経済状況が影響しているからである。しかしそれにしても、欧米諸国の男性の家事・育児参加度と比べるとその違いは歴然としている。アメリカの男性の労働時間に関しては、日本とそう遜色がないデータもある。サービス残業の存在を考慮しても、この差は一体、どこから来るのだろうか。そこにはやはり「家事・育児」という家族世話係は女性であるという性別役割分業の規範が働いているのではないか。性別役割分業観について、国際比較を行ったデータがある。日本はいわゆる先進諸国と比べると、この規範への抵抗が低い。

 そのことが育児休業の取得率にもはっきりと表れている。男女ともに育児休業をとることができる「育児休業制度」(1992年)が施行されて20年近くになるというのに、利用する男性は女性の1割にもはるか届かない。もっともこれには、もう一つの要因もあると思われる。子どもを産み控える要因には、経済的理由が大きいことが明らかにされているが、日本の「育児休業制度」の所得保障は他の国に比べて万全とはいえない。2013年においても、失業保険から支給される育児休業給付は職場復帰の条件でようやく給与の50%という値であった。ただでさえ育児の経済的負担が大きいのなら、一家全体の家計で考えて賃金の高いほうがそのまま働くという選択がなされるのは当然のことであろう。そしてそれは男性なのである。また「育メン」の流行語が物語るように育児をする男性への社会的評価も高まりつつあるが、それは職場では昇進の評価にはつながらない。それどころか、30代での1年に及ぶ休暇は、出世レースからの撤退と受け止められかねない厳しい雇用の現実がある。一家の稼ぎ手として期待される男性にとって、育児休暇の取得は、生まれた子どもの将来のためにも選べない選択肢なのである。
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