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自律だけでは自立できない

『宮台教授の就活原論』より

3・IIの原発事故以降、今後の日本社会が生き延びるために必要なことを、僕が幾つかのスローガンにまとめているので、紹介します。

 〈任せて文句垂れる社会〉から(引き受けて考える社会) ヘ

 〈空気に縛られる社会〉から〈知識を尊重する社会〉ヘ

 〈行政に従って褒美を貰う社会〉から(善いことをすると儲かる社会〉ヘ

 〈国家と市場に依存する社会〉から〈共同体自治で自立する社会〉ヘ

 〈便利と快適を追求する社会〉から(幸福と尊厳を追求する社会〉ヘ

今述べたように、日本社会は今後もデタラメが続きます。〈引き受けて考える社会〉でなく、〈知識を尊重する社会〉でなく、〈善いことをすると儲かる社会〉でなく、〈共同体自治で自立する社会〉でなく〈幸福と尊厳を追求する社会〉ではありません。

日本は〈任せて文句垂れる社会〉であり、〈空気に縛られる社会〉であり、〈行政に従って褒美を貰う社会〉であり、〈国家と市場に依存する社会〉であり〈便利と快適を追求する社会〉です。近代社会のテイをなさず、自殺や孤独死や無縁死が蔓延します。

ここで、社会を個人に置き換えてみて下さい。皆さんは〈引き受けて考える個人〉となり、〈知識を尊重する個人〉となり、〈善いことをして儲ける個人〉となり、〈共同体自治で自立する個人〉となり、(幸福と尊厳を追求する個人〉とならなければなりません。

繰り返すと、ワークライフバランスとは自由な時間に趣味を楽しむという意味じゃない。未熟な日本人が〈引き受けて考える個人〉〈知識を尊重する個人〉〈善いことをして儲ける個人〉〈共同体自治で自立する個人〉〈幸福と尊厳を追求する個人〉になることです。

社会や個人がこうした方向に変わることを最終目標にする場合に限り、先進国の各企業はプレミアムバリューを訴求でき、経済界全体としては新興国と同じ土俵でコスト削減競争をするジリ貧化を免れて産業構造改革を実現できます。于不ルギー問題が象徴的です。

でも、コスト的にもリスク的にも環境的にも持続可能性的にも合理性を欠いた原発や、原発に象徴される地域独占供給的な巨大電力会社の存続に、政治家の大半や経済界のトップが未だに固執し続けることに明らかな通り、日本社会のデタラメは続くでしょう。

このデタラメに巻き込まれていたら、皆さんに将来はありません。デタラメに巻き込まれないためには〈引き受けて考える〉〈知識を尊重する〉〈善いことをして儲ける〉〈共同体自治で自立する〉〈幸福と尊厳を追求する〉といった価値セットの死守が必要です。

社会学では価値コミットメントと言います。日本の教育では価値コミットメントの重要性が教えられてきませんでした。四〇年代末以降の冷戦深刻化を背景としたGHQの方針転換--日本を極東の不沈空母にする11が背景にあります。だから皆さんには(ンディがあります。

ハンディを越えて価値コミットメントを維持するにはどうしたら良いか。志をエンパワーしてくれる人間関係を持つこと。日本社会はデタラメなので様々に受忍しなきゃいけないことがあります。戦略的な受忍だと言い続けるには、本音を支える人間関係が必要です。

例えば、僕は若い頃から自分の意志力に自信がありませんでした。自信のなさを補うために人間関係を使ってきました。志を共有する絆で結ばれた人間関係を作り、志が挫けそうになったら本気で叱咤してもらえるようにする。そうしてきた御蔭で今の僕があります。

誰もが口を開けば「意志の強さ」や「志の強さ」を唱い、そのための自己啓発手法を奨励しますがI-その手の本は枚挙に暇がありませんがI一頭が悪すぎます。自己啓発手法は、禁欲のかわりに欲望自体を書き換える試みですが、ここで使うべきではありません。

自己啓発手法は、敢えて言えば、絆から見放された孤独な米国人エグゼクティブのために開発されました。その程度のものに淫すれば、欲望自体の書き換えの副作用で、大切なものが見失われてしまいがちです。

そうではなく、人間が所詮はしょぼい存在であることを出発点にすべきです。しょぼいからこそ人間関係を支えにする。むろん依存にならないように工夫するのです。工夫して、他律を呼び込みつつ自立する。自律(自己決定)だけでは自立できない。それが人です。

ちなみに、自律的依存より他律的自立を評価するのが初期ギリシア哲学です。セム族の一神教的信仰を自律的依存として却け、不条理を神の仕業として祈ることをせずに「スゴイ奴に感染することで不条理に身を晒しながら前に進む」他律的自立を推奨しました。
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