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自動車のIoT

『2030年のIoT』より

IoTの背景

 自動車分野でのIoT導入は、ITS(Intelligent Transport Systems)に代表される道路情報・運転支援と、自動車の電装化やハイブリッド化、電気自動車等の自動車の構造そのものから生じるニーズの2つの流れから取り組まれている。

 ITSに代表される自動車向け情報提供システム、運転支援や事故時の緊急通報等は、GPSによる自動車の位置情報把握から始まって、携帯電話等の無線通信ユニットが装備されることで、一段の飛躍をとげている。

 そのポイントとしては、車体等の物理的な車そのものの情報というよりは、車の運転状況(場所、速度等)に重点が置かれていることがあげられる。

 自動車の電装化、ハイブリッド車・電気自動車対応は、車内システムからのデータ収集を目的としたOBD(On-Board Diagnostics)ポート等、自動車の内部状況を把握できるようにするためのインターフェースが整備されたことで、自動車そのもの、いわば自動車の内側を管理するための仕組みとなっている。

 もちろん、GPSによる位置、移動状況とOBDによるエンジン状況は密接に関連しており、今後は両者を合わせたものがIoTの対象となると捉えられている。

 自動車は建設機械や農業機械同様に、故障予知や稼働状況管理のニーズを持つだけでなく、それらの機械以上に広範囲を高速で移動するため、より幅広い周辺状況の変化に対処する必要がある。

 渋滞(周辺の車両数と移動状況)、道路環境(道幅、降雨、舗装の有無)高速道路と一般道等の周辺環境変化によって運転にともなうリスクも変化するため、IoTへの要件もより広範囲かつ困難なものとなっている。

 また、自動車メーカーは、他の産業機械メーカーと同様、自社製品である自動車がどのように利用されているかについて、広範囲かつ精緻なデータの収集を、これまでも進めてきたが、IoTはさらに、その対象、範囲、精度を飛躍的に高めるためのツールとして位置づけられている。

 その標準化、利用技術動向等に強く注目すると同時に、他産業、特にICT産業による自動車産業への影響に警戒心を強めている。

IoTの構成

 自動車の電子部品、車内LANの高度化にともない、従来、車載ユニットとしてカーナビ等に外づけされていたIoT関連ユニットが、OBDに直結するIoTユニットヘ徐々にシフトしつつある。

 携帯電話をそのまま車内に設置するといったアドホックなアプローチもICT側からは増えており、現在では自動車に対するIoTユニットは多様化の一途をたどっている。

 ネットワークについては、有料道路ゲートや路側帯等の専用通信サービスもあるが、サービスエリアの広さ、伝送速度の速さ等から、携帯電話の利用が急速に存在感を強めている。

 また、データを収集する仕組み自体は、他産業と大きな違いはないが、位置情報を記録する機能が、他の産業に比較してより重要性が高く、システムやストレージヘの負荷となっている点に特徴がある。

IoTのアプリケーション

 ■運転情報・支援系

  当該車両の運転状況に関する情報(位置、速度、加速、燃料、タイヤ圧等)を収集、蓄積する。車両の利用状況を把握するための基本的なデータであり、自動車メーカーにとっては、極めて重要な位置づけとなる。

  たとえば、ハイブリッド車や電気自動車等、蓄電池が車両価値の多くを占める製品については、中古車価値算定において、蓄電池の利用履歴を把握しておくことは極めて重要であり、中古車ビジネスの展開においても有利な立場に立つことができる。

 ■交通情報系

  当該車両位置、道路混雑・周辺車両配置状況を把握する。一般的には渋滞情報は、外部から車両に提供されると考えがちであるが、広い道路網への渋滞検知の仕組み作りには多額の費用が必要となる。むしろ、街中を走る車両の運行状況から、当該道路における渋滞の有無を判別して、センター側に集約した情報で広域での渋滞情報を把握するほうが効率的となる場合も増えている。特に新興国における渋滞情報には、このボトムアップ型アプローチ(プローブ)を採用する例が増えている。

  東日本大震災の際にも、大手自動車メーカーが、道路の通行可否を、現地を走る自動車からの情報で判別して、走行可能な道路マップを作成して高い評価を得ている。

 ■運転支援・安全系

  自動停止ブレーキ、居眠り運転防止等、運転時のドライバー支援に関するセンサー等の管理を対象とする。現時点では映像認識が主であるが、ドライバーの体温や脈拍等を測定・監視する等の取り組みも開発されている。

 ■車両整備系

  OBDポート等、自動車の電装化に対応して、診断結果をデータとして取り出すための仕組み。これをネットワーク経由で外部へ蓄積、もしくは外部から照会、管理していくことが想定される。

  基本的には故障診断情報の提供であるが、車両の整備状況、故障予知等への発展が想定される。

 ■システム・安全系

  自動ブレーキシステム等、運転時のドライバーヘの安全支援ではなく、車の制御システム等、車載コンピュータやシステムに対する外部からのハッキングに対する防衛である。

  厳密にはIoTというよりも、IoTの防衛を目的とした周辺システムとなる。

  これまで、パソコンや携帯電話、通信ネットワーク機器等に導入されてきた侵入防止等の仕組みを自動車においても導入する必要に迫られつつある。

 ■マーケティング支援

  運転情報、道路情報、安全情報等の収集された情報にもとづく、自動車のマーケティング、販促に対する活用も想定される。

  最も単純なものとしては、運行距離等を把握して、オイル交換を提案する等であるが、車両の通行位置、運転速度等を収集することで、「ファミリー向けの車だが、夜、ガンガン運転しているドライバーが多い」場合、自動車の製品開発そのものへのフィードバックデータを収集できる。

  「後部座席の利用と週末のレジャー向けドライブ」から、その顧客の車の利用シーンを把握することで、自動車の買い換えタイミングをはかる(自動車の買い換えは、子供の成長に合わせて行われることが多いため)等、研究開発から、個別販促まで幅広い支援への応用が想定される。

IoT導入の課題

 自動車産業は、その製品特性上、広域の移動、人命リスクヘの関与、音楽や交通・地域コンテンツの活用、電気自動車等のパワートレイン移行等、多様なIoT関連ニーズを有しており、その課題も多岐にわたる。

 そのなかから、特に緊急度の高いテーマとしてテレマティクス活用の安全運転保険(以下、PHYD:Pay How You Drive)の導入をめぐる課題に注目する。

 これまでの自動車保険が、無事故履歴にもとづく料金割引等であることに対して、運転者がより安全な運転を行っていることをIoTで確認することで、運転者に有利な料金を提供する保険が、欧米で普及し始めている。

 IoTの役割は、急発進、急加速等の乱暴な運転の有無、危険な地域や時間帯の運転履歴の収集であり、それらのデータをもとに、運転者を保険会社がレイティングし、優良運転手に優遇料金を提示していくものである。

 代表的な企業としては、米国のプログレッシブ社があげられる。欧州等でも、このタイプの自動車保険は急速に普及しつつある。

 日本においても、国土交通省を中心に、PHYD導入に向けた検討が始まっており、データの収集方法、レイティングのガイドライン等が定められるとぞえられる。
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