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生産性を高めよう すべては集中から始まる

『SOFT SKILLS』より 生産性を高めよう

集中とは何か

 単純に言えば、集中は散漫の逆である。問題は、私たちの住む世界が注意を逸らすものに満ちていて、本物の集中とはどんなものかを知らない人が多いということだ。一日じゅう働いても集中できなかったということは簡単に起きる。メール、電話、テキストメッセージ、気晴らし、割り込みといったものが絶えず襲ってきて、集中力を奪い、ついには集中とはどういうものかすら、わからなくなってしまう。最後に集中したときのことを思い出すのに苦労している読者のために、本物の集中というものを思い出していただこう。

 最近のできごとで、本当に難しい問題に取り組んでいたのはいつだづたろうか。おそらく、何らかのバグをフィックスしようとしていたとき、あるいは、自分のコードが動かない理由を調べていたときだろう。そのときは、仕事に必死で立ち向かっていて、寝食を忘れ、時間は飛ぶように過ぎていったはずだ。あなたの気持ちをあえて逸らそうとした人々はあなたに怒嗚られるほどだっただろう。あなたはすべての注意をひとつの仕事に注ぎ込んでいたのである。

 これが集中だ。私たちは時々このような状態を感じている。しかし、問題は、ほとんどの時間では集中していないことだ。ほとんどの時間、私たちはまったく集中とは逆のモードで仕事に向かっている。簡単に気が散って、しなければいけないことがわかっている仕事に入り込めない状態になる。集中は、人生の多くのことと同じように、勢いの問題だ。一度集中した状態に達してしまえば、集中し続けることは、集中することよりも簡単である。

集中の不思議

 私は普段、魔法の薬などを信じないが、集中が生産性向上に効く魔法の薬だということは認める。集中が買えるなら、クレジットカードの上限を使い切ってもかまわない。投資の元が取れることは、ほとんど保証されたも同然だとわかっている。集中はそれくらい大切だ。

 問題は、集中を欠くと、仕事が終わるまで非常に時間がかかってしまうことである。私たちの集中を破る(あるいは集中に達するのを邪魔する)誘惑は、実際にそれのためにかかった時間よりも、多くのコストを奪っていく。複数の仕事を並行して行うマルチタスキングを取り上げる第41章で詳しく説明するように、私たちが行う仕事の多くには、コンテキストスイッチのコストがかかる。ある仕事から別の仕事に移るときには、失った土地を奪い返すようなコストをかけなければ、新たな仕事を始めることはできない。

 集中は仕事に立ち向かおうとするときに、繰り返し繰り返し基礎を作らなくても済むようにしてくれる。そういう意味で、集中はきわめて重要だ。集中は、車を高速走行状態にするものだと言えるだろう。車が高速走行を維持するためには、それまでに何度かシフトチェンジをしなければならない。絶えず停止や発車をしなければならないとしたら、全体を通じてはるかに遅いスピードで進まざるを得ないだろう。5速にシフトアップして再び高速走行状態に達するには、かなりの時間がかかる。しかし、1度達してしまえば、ほとんど苦労せずにクルージング走行ができる。

 あなたも、とても一所懸命に働くことができたのに、それほど苦労しなかった経験があるだろう。集中した状態に達するまでには多少の時間がかかるものの、ひとたび集中状態に達してしまえば、短時間のうちに多くの仕事をこなせるのだ(捕まえどころのないバグと追いかけっこをしている場合は別だが)。

集中している時間を増やす

 集中がいかに大切かをこれ以上説明する必要はないだろう。あなたは、どうすれば集中している時間をもっと増やせるのかと考えているのではないだろうか(申し訳ないが、薬で集中を手に入れる方法はまだ私にもわかっていない。もしわかったら、あなたにもきっとお知らせしよ引。実際、集中した状態に持っていく方法を身に付けることはきわめて重要だ。集中状態になれなければ、第4部のここからの章はほとんど役に立たないだろう。私はあなたに世界じゅうに存在する生産性向上策を教えられるが、あなたが座って仕事に集中することができなければ、それらのテクニックはほとんど無力だ。

 集中する方法を実際に試すなら、今が絶好のときだ。今すぐ15~30分ほどかかる仕事を用意できるだろうか。この本には栞を挟んでおいて、すぐにやってみよう。しかし、完全に集中してその仕事に全力を注がなければならない。ほかのことは一切考えずに、仕事に向かおう。そのときに、どんな感しかするだろうか。

 先はども触れたように、集中には独特の勢いがある。集中モードに入りたいのなら、パチンと瞬間的に入るスイッチはないことを認識しよう。瞬間的に集中モードに入れるなら、あなたはちょっとした変人だ。あなたがコンピューターの前に座るやいなや、目をどんより曇らせながら一心不乱にタイピングを始めたら、人々はあなたを怖がるだろう。

 集中モードに入るためには、ひとつの仕事に向かうように頭をコントロールするという、最初の苦痛に耐え抜く必要がある。そして、その仕事があなたにとってとても楽しいものでないなら、最初のうちはかなり苦痛だ。しかし、ここがポイントである。苦痛と不快は一時的なものに過ぎず、それほど長い間続かないことを認識しよう。

 私がこの章を書くために初めて座ったとき、私はメールを見たい、トイレで小用を足したい、コーヒーを飲みたい、という燃えるような欲望を全部同時に感じた。しかし、私はもうコーヒーさえ飲んでいない。私の脳は、私が集中するのを妨げるためにあらゆる攻撃をしかけてきた。私はそれを鎮めて指に無理やりダイビングを始めさせなければならなかった。今の私は、何時間でもタイピングし続けられるようなゾーンに入っている(30分で終わるかもしれないが)。集中モードに入るためのポイントは、無理やり自分をその方向に進ませるということだ。

 私が生産性を上げるために使っているテクニックの大半は、集中モードに入るというこのバックボーンに支えられている。第38章では、あなたを強制的に椅子に座らせ、十分に長い間仕事に打ち込ませて、集中のゾーンに突入する勢いを作る「ポモドーロテクニック」について説明しよう。

話に聞くほど簡単ではない

 私の説明を読んだ読者は、集中モードヘの突入を実際よりも少し簡単に感じてしまったかもしれない。集中モードヘの突入は、キーボードの前に座ってダイビングを始めるだけで済むほど単純なものではない。シフトアップしてクルニジング走行に入るまでは、あなたに降り掛かってくる様々な誘惑と必死で戦わなければならない。誘惑と戦うためには、ちょっとした準備が必要だ。

 仕事を始める前に、あなたの内外からやってくる割り込みから自分を守るためにできることをすべてしておくようにしよう。スマホをサイレントモードに変え、気が散る元になるブラウザーウィンドウを閉じ、ホップアップを無効にし、ドアやキューピクルの入口に仕事中の札を吊るすことまで考えた方がいいかもしれない。札を吊るすという部分は冗談だろうと思われるかもしれないが、私は本気だ。同僚や上司は、最初のうちは少し抵抗するかもしれないが、あなたが一心不乱にコードを書き出したら理解してくれるはずだ。それどころか、彼らもあなたの魔法の薬を買いたいと思うかもしれない。

 これで仕事を始める準備が整った。コンピューターの前に座ってタイピングを始めよう。気が散るものは視野にはない。……ちょっと待て。誰かがあなたのFacebookに「いいね!」をしたかどうかを見なくちゃ。いやいや、こういうことは考えてはいけない。ここで仕事にしがみついていられるかどうかは、自分の意志の力を使えるかどうかにかかっている。最初のうちは強制しなければ集中できないが、いずれ弾みがついて自然に集中できるようになる。目標は、最初の5分か10分を耐えることだ。そこを過ぎれば、ちょっとした誘惑が襲ってきても、あなたの集中は破れないだろう。
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