goo

行政上の事務処理の方式--民間委託など

『行政法読本』より 行政活動の主体と組織

国・公共団体の行政組織は、法律や条例をうけて、行政活動を行うためのものである。行政活動は、言い換えると行政上の事務の処理ということができる。公務員は、国・公共団体の行政組織の中においてこの事務の処理を行うことを仕事とする人々である。

だが、行政上の事務処理は、この行政組織のみによって、またそこで働く公務員のみによって行われているのではない。行政上の事務処理は、様々な形によって行われている。

(1)別の組織の創設

 上記のように、本来の行政体である国・地方公共団体のほかに、各種の組織が設けられている。その中には、独自の法人格が与えられ、公共団体と呼ばれるものがある。また、第三セクターのように、国・地方公共団体と民間企業の共同出資により設けられているものもある(鉄道だけでもその例は多い)。こうした組織の存在は、本来の行政体の組織だけでは行政上の事務処理を行うことができない(または不適切である)ことの表れである。

(2)外部の人・団体の行政組織への取込み

 行政委員会や審議会の委員には、大学教員・一般の国民などがなることが多い。国・公共団体が訴訟の当事者になれば、弁護士がその訴訟代理人になることがある。また、土地価格の算定のためには不動産鑑定士に依頼が行われる。そして、弁護士や不動産鑑定士との間では委託契約が結ばれる。委託については、次に述べる。

(3)事務の委託

 行政上の事務の処理が他の公共団体や民間団体に委託(委任または請負)されることが少なくない。アウトソーシングと呼ばれることもある。

 (a)私行政たる事務や内部管理事務の委託

  これは、庁舎などの清掃・警備、情報システムの管理(データの打込み、コンピュータの保守・管理など)といった事務の委託である。設計、調査、試験の採点の委託もこれに当たる。例えば2007年度から文部科学省が行っている小・中学生の全国学カテストの採点は民間企業に委託されている(2014年9月4日付朝日新聞朝刊)。政策上の当否は別として、これらの委託は、法律の授権がなくとも許容されるであろう。

 (b)対外的な行政活動のうちの非権力的なものの委託

  この分野で委託がとくに問題になるのは、公共施設の設置・管理や公共的事業の実施(例、職業訓練)の委託であるが、前者については、PFI方式や指定管理者制度が設けられている。

  PFI方式は、「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律」(1999年制定)により導入されたもので、公共施設などの整備や運営を民間企業に行わせるものである。事業者の選定は、公募の方法等により行われる。

  指定管理者制度は、2003年の地方自治法の改正により導入されたもので(地方自治法244条の2第3項以下)、「公の施設」の管理を「法人その他の団体」(民間事業者を含む)に行わせる制度である。地方公共団体の「指定」により行われるが、ここでも公募手続がとられることが多いようである。

  さらに、「競争の導入による公共サービスの改革に関する法律」(平成18年法律第51号)は、公共サービスの実施を契約により民間事業者に委託することを許容するとともに、この公共サービスの中に、「研修の業務」、「調査又は研究の業務」などに加えて「施設の設置、運営又は管理の業務」をも含ませている。

  この他、例えば廃棄物処理法は、一般廃棄物の収集・運搬・処分を市町村の責任とするが、それらが委託されることも予定している(6条の2第1項~第3項)。また、児童福祉法は、同法が定めている療育の給付、相談・助言、指導などについて委託を許容し、また委託を受ける児童福祉施設の長などに対し受託義務を課している(20条4項・21条の11第3項・26条1項2号・27条2項など。受託義務につき、34条の7・46条の2)。

  この分野では、法律の授権がなくても委託ができるとは言いにくいので(公共施設の利用は行政処分である許可により行われることもあるが、行政処分を行うには法律の授権が必要である)、委託を許容する規定が設けられているのであろう。

 (c)対外的な行政活動のうちの権力的権限の行使の委託

  これには法律の授権が必要であろう。権力的権限は法律によって創設されるが、同時にその権限を行使する機関が指定される。この権限行使の委託は、この法律の指定に変更を加えるものであるから、法律による承認が必要というべきである。

  その一例は、駐車違反の取締りに見られる。道路交通法51条の8第1項によると、警察署長は、違法駐車の放置車両の確認および標章の取付け(51条の4第1項)に関する事務を、公安委員会の登録を受けた法人に委託することができる。

(4)協力

 前述のように、行政機関相互間における協力を定める法律の規定かおるが、国と地方公共団体との間での協力や国・地方公共団体と私人との間での協力も必要なものである。この協力は、国や地方公共団体がその任務を達成するために必ずしも十分の力能(財政力や技術力など)を持っていないために必要になる(さらに、法律論ではないが、個人間の協力が人間関係の円滑さをもたらすように、行政レペルでの協力も各行政体間の良好な関係の形成に寄与するかもしれない)。協力には次のような形態がある。

 (a)意見の提出

  国と地方公共団体の間では、都道府県知事・市町村長などの全国的連合組織(例えば全国知事会)が「地方自治に影響を及ぼす法律又は政令その他の事項に関し、総務大臣を経由して内閣に対し意見を申し出、又は国会に意見書を提出することができる。」という規定が設けられている(地方自治法263条の3第2項)。

  また、個別の法律で、国の機関の意思の決定に当たり、地方公共団体の長の意見の聴取が定められることは少なくない(例、河川法36条、国土利用計画法5条3項)。

 (b)協議会

  協議をより恒常的に行う場として、最近の法律では、協議会という組織の設置が定められることがある。例えば、自然再生推進法は次のような規定をおいている。

  実施者」は、行政体に限られていないが、国の機関や地方公共団体が実施者になる時には、協議会は行政の協力の仕組みとしての意味を持つことになるにの他、景観法15条、中心市街地の活性化に関する法律15条、児童福祉法25条の2、道路交通法108条の30)。また、その協議会に地域住民や私的団体も参加するとき、協議会は公私協働の場としての意味を持つだろう。

 (c)応援

  例えば、消防組織法39条は次のような規定をおいている。

  消防に関してその設置者である市町村が協力すべきことは容易に理解できる。応援をするために別に協定は必要ではないが、協定を結んでおけば火災時の応援ないし協力が円滑に進むだろう。

  この消防の際の応援・協力をもっと大規模にしたものが地震などの災害時の地方公共団体間の応援・協力である。災害時の応援については、災害対策基本法で定められているが、東日本大震災の経験を踏まえ、2012年に同法の改正が行われ、災害時の応援のあり方に関する規定の充実が図られた(災害対策基本法49条の2・72条・74条以下など)。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
« 豊田市図書館... 法律関係の文... »
 
コメント
 
コメントはありません。
コメントを投稿する
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。