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『知的財産法』私的使用のための複製

『知的財産法』より 公共のための効力制限(自由利用)

制度の趣旨

 著作物は、個人的にまたは家庭内その他これに準ずる限られた範囲内で使用することを目的とする場合には、その使用者はこれを原則として無償で複製することができる(30条)。この私的な範囲内での使用のための複製が認められる理由は、著作権者の利益を害することはないという考えにある。

要件

 この複製が認められるのは、第1に複製の目的が、私的・家庭内使用目的の場合に限られる。したがって、販売目的や企業などの資料としての複製は認められず(東京地判昭52.7.22無体集9巻2号534頁〔舞台装置設計図事性〕)、インターネットのホームベージヘのアップロードのためのパソコンヘの複製は複製権を侵害することなる。第2に複製の客体は、公表・未公表を問われないが、違法に作成された複製物を用いた著作物の複製も許されるとの学説もある。しかしながら、そのような行為まで許されるとは解されない(ベルヌ条約9条2項の「スリー・ステップ・テスト」参照)。第3に複製の主体は、私的・家庭内使用者に限られる。したがって、たとえば、タブレット型端末で視るために、いわゆる「自炊代行業者」に著作物の複製をさせることは許されない(知財高判平成26.10.22裁判所HP〔自炊代行控訴審事件〕(第12章312(1)参照)は、自炊業者の私的使用目的の複製に当らないとしており、少し誤解を生みやすい。問題となっているのは、自炊業者の複製行為が利用者の私的使用目的のための複製行為とみなされるかどうかだからである)。第4に複製の態様は、写真・複写・録音・録画等いずれの複製方法であってもよいが、次の3つの方法による複製は認められない。①文献複写機器を除き、公衆の用に供する目的で設置されている自動複製機器を用いる複製は複製権を侵害することとなる(30条1項1号、附則5条の2)。クラウドサービス業者が提供するサーバーが、この自動複製機器に該当すると解するとユーザーは民事上の侵害責任のみを負うが、業者には民事上・刑事上の侵害責任が生じる(119条1項・2項2号、民719条2項)。②技術的保護手段の回避により可能となり、またその結果に障害が生じないようになった複製を、その事実を知りながら行う行為は複製権侵害となる(30条1項2号)。

 ここで、技術的保護手段とは、コピープロテクションとかコピーコントロールと呼ばれるものであり、著作権等を侵害する行為の防止または抑止をする手段であって、著作物等の利用に際しこれに用いられる機器が特定の反応をする電子的または磁気的方法等による信号を著作物等とともに記録媒体に記録または送信する方式によるものをいう(2条I項20号)。この技術的保護手段は、著作権法には使用権がないため、不正競争防止法上の技術的制限手段とは異なり、アクセスコントロールは含まれないとされている。しかし、プログラムに関する限りは、著作権侵害行為に使用行為が含まれるから(113条2項)、アクセスコントロールも含まれると解すべき点には注意を要する。③著作権を侵害する自動公衆送信を受信して、その事実を知りながら行うデジタル方式の録音または録画(ダウンロード)も複製権侵害となる(30条1項3号)。これは、平成21 (2009)年改正法により違法な著作物等の流通抑止のための措置として新設されたものである。著作権を侵害する自動公衆送信には、公衆送信権を侵害するインターネット送信(23条)だけでなく、翻訳権・翻案権等を侵害するインターネット送信も含まれる。この受信対象には、国外で行われる自動公衆送信であって、国内で行われたとしたならば著作権の侵害となるべき行為、つまり日本法によれば著作権を侵害するものも含まれる。これら私的使用目的の複製から除外され複製権侵害となる3つの場合には、違法性の程度は著作権侵害罪に問うほどには高くないことを理由に罰則規定は適用されないこととされている(119条1項)。

 この私的使用目的の複製に該当するかどうか問題となっていたのが、動画投稿サイト等から動画等を視聴する際に行われる動画等のデータのキャッシュフォルダ等への蓄積である。この点については、平成21年改正法により複製権侵害とはならないとされ(47条の8)、これには送信可能化権を侵害して投稿された動画等の視聴の場合の蓄積であっても複製権侵害とはならないとされている。著作権には使用権がなく、視聴自体が著作権侵害とはならないことがその理由である。

 これらの要件を充たす限り、複製のほかに、翻訳、編曲、変形または翻案して利用することも認められる(43条1号)。

 なお、映画館における映画の盗撮については、平成19 (2007)年成立の「映画の盗撮の防止に関する法律」4条により、法30条1項は適用されないことが明定され、民事上・刑事上の責任が生じることとなった。

目的外使用の複製権侵害

 私的使用目的の複製として認められる方法により作成された複製物を、私的使用目的以外のために頒布し、またはその複製物により著作物を公衆に提示した場合や、私的使用の目的のために作成した二次的著作物の複製物を頒布し、またはその複製物により二次的著作物を公衆に提示した場合には、その時点で複製権を侵害したものとみなされる(49条1項1号・2項1号)。

 したがって、たとえばファイル交換サービスのユーザーが、当初は私的使用目的で音楽データを複製した場合であっても、公衆がその音楽データを受信して音楽を再生できるような状態にした場合には、目的外使用として、複製権侵害とみなされることとなる(東京地決平14.4.11判時1780号25頁〔ファイルローグ仮処分事件〕。
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