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「点」か「線」か「面」か--スマート企業のポジショニング戦略

『アリババ』より 「点」か「線」か「面」か--スマート企業のポジショニング戦略
3つの役割
 ビッグE、ルーハン、レッドカラー、シャンピンのような会社は、偶然あるいは孤立した環境で生まれるわけではない。タオバオが苦労して構築したプラットフォーム機能や、そこに集まる貴重なリソース(第2章で説明した数多くの独立系サービスプロバイダー)をうまく活用しているのだ。それと同時に、こうした企業はタオバオのようなプラットフォームの成長を可能にしている。新たなプレーヤーは常にプラットフォームとともに、そしてプラットフォーム上でさまざまなサポート機能を提供するプラットフォーム・パートナーとともに成長する。要するに、ブランド、サポート機能、そしてブラッドフォームがそろって、エコシステムとしてともに成長するのだ。
 テクノロジー産業において「エコシステム」は、使い古された感のある言葉の一つだ。しかし、アリババにおいては「エコシステム」は、組織内で戦略目標を一致させ、事業が正しい方向に向かっているかを判断するうえで、きわめて重要な言葉だ。従来のポジショニングという概念の下では、企業は独白に戦略を決める。一方エコシステムの中核となる思想は、システムを構成する個々のプレーヤーの成功は、他のプレーヤーにかかっているというものだ。プレーヤーは相互に依存している。
 本書では「ビジネス・エコシステム」に「顧客の複雑な問題を解決するために変化するスマートネットワーク」という精緻な定義を与えたい(「スマートネットワーク」とは「ネットワーク・コーディネーション+データインテリジェンス」と同義だ。この二つがなければエコシステム、すなわちスマートネットワークは成立しえない)。ビジネスーエコシステムはリソースを引き寄せ、またプレーヤーが成功し、確固たる成長を遂げるためのインフラやメカニズムを備えている。エコシステムはさらに「点」「線」「面」という三つの役割に分割できる。エコシステムの強みは、ビッグEのような新興企業が、顧客により良いサービスを提供できるように支援することだ。プレーヤーが最高の顧客価値を提供し、競争優位性を獲得するのを支援することで、従来の産業のあり方を揺さぶっていく。
「点」「線」「面」--新たなフレームワーク
 私は経営者や起業家によくこう尋ねる。あなたの会社は成長を続ける産業のエコシステムのなかで、どのような位置を占めようとしているのか、と。するとほとんどの人が、プラットフォームになりたいと答える。高い収益力とスケーラビリティを兼ね備えた、壮大なプラットフォームを創りたいと考えている。自ら重要な意思決定を下し、圧倒的な利益を手にしたいのだ。
 続いて私は別の問いを投げかける。あなたはアリババのような会社になりたいのか。五〇〇〇億ドルの時価総額を維持できるかは、広大で信じられないほど複雑なグローバル組織で働く数万人の従業員と、彼らが管理する数千万社の売り手やサードパーティー・サービス・プロバイダーに、そしてもちろん急成長を続ける物流、金融、クラウドコンピューティングのサブプラットフォームの成否にかかっている。それともビッグEのような会社になりたいのか。工場など一切保有せず、ブランドの利益の半分近くを懐に納め、世界中を気ままに旅行して、ソーシャルメディアに新しい洋服の写真を投稿するだけで数百万ドルを稼ぐような存在だ。あるいはライター、デザイナー、それともトップタルのような人材派遣会社はどうだろう。他の企業や野心あふれるウェブセレブのためにソーシャルメディアにさまざまなコンテンツを代筆すれば、大勢の読者に読まれ、すぐに対価を受け取り、柔軟に働くことができる。こう聞くと、途端にプラットフォームビジネスはそれほど魅力的に思えなくなる。
 続いて、質問の聞き方を変える。あなたはエコシステムあるいはネットワークのなかで、どんな役割を果たしたいのか、と。
あなたはどれに当たるか
 伝統的な経営戦略理論の中心にあるのが、ポジショニングという問題だ。これは基本的に三つの問いから成り立っている。あなたの顧客は誰か。あなたの価値命題は何か。そしてあなたのポジショニングは競合のそれとどこが違うのか、だ。これらの問いに答えるうえで、マイケルーポーターによる古典的戦略理論は、三つのポジショニング戦略を提示している。①コストリーダーシップ、②差別化、③ニッチである。このシンプルなポジショニングの枠組みは、企業が戦略を立案するうえで大きな助けとなってきた。
 しかし経済活動のうち、なんらかのスマートネットワークのなかで発生するものが増えてきた今、企業はそうしたネットワークや、相互に結びついたネットワーク同士のウェブのなかでの戦略的ポジションを考える必要がある。アリババは社内で戦略を議論する際、エコシステムの中の三つの基本的な戦略的ポジションを、点、線、面という幾何学用語で表現する。
 「点」とは専門的スキルを持っているものの、単独では生き残ることのできない個人あるいは企業である。第5章で紹介したルーハンのパートナーエ場などがその例だ。「点」は機能をサービスとして提供する。一方「線」はビッグEやルーハンのような生産機能と商品やサービスの開発機能を併せ持った企業で、線や面が提供するサービスを活用することが多い。「面」はタオバオやウェイボーのようなプラットフォームで、インフラサービスを提供することで新たな線の形成や成長を支援したり、点が一気に成長することを可能にする。
 それぞれのプレーヤーのカギとなる価値命題、競争優位性、組織としての能力は異なっている。それぞれの戦略的ポジションには固有の戦略がある。図表6-1にビジネスネットワークのなかで三つの核となるポジションの重要な差異をまとめた。
 ビッグEのように、ネットワークのなかで商品やサービスを生み出したいだろうか。その場合、あなたは「線」だ。プラットフォームのパートナーのリソースを活用し、商品を生み出すために必要なパートナーを効果的にそろえるのが中核的戦略となる。もちろん最大の関心事はターゲットである顧客のニーズを満たすことだが、戦略的に最も難しい問題の一つは、どのプラットフォームに加わるかだ。たとえば中国では、活動の主たるプラットフォームとしてタオバオを選ぶか、JDドットコム(別のオンライン小売業)、あるいはテンセントを選ぶかが、その会社の将来に大きく影響する。
 それともタオモデルやデザイナー、ウェブセレブなどのアパレルショップのために商品を製造する工場のような、ネットワーク上の専門的プレーヤーだろうか。その場合、あなたは「点」だ。事業上の目的がシンプルだからこそ、柔軟でいられる。成長しているネットワークに順応し、自らの専門性を最も生かせるようなプラットフォームや商品と組めばいい。自分のニッチを見つければ、事業全体の複雑さなど気にすることなく利益をあげることができる。こうしたニッチーポジションは日々、新たに出現している。機会が出てきたら、いつでもとらえられるように準備をしておくだけだ。
 あるいはタオバオのように、プラットフォームとしてネットワーク全体を運営しようとしているのか。その答えがイエスなら、あなたは面だ。多種多様なプレーヤーを結びつける市場を創造し、それぞれのビジネスモデルを後押しすることが目標となる。市場に参加するすべての企業が成長の可能性を感じられるように、相互作用のためのルールや仕組みを作る。長くつらい立ち上げ期を乗り切ることができれば、時価総額は莫大な金額に達するだろう。しかし管理と放任、自分の利益とプラットフォームのプレーヤーの利益のあいだで、日々葛藤することになる。
 この三つのポジションを評価するためには、企業はそれぞれの核となる考え方と、異なるポジションが互いにどのような関係にあるかを理解する必要がある。それぞれのポジションにはまったく異なる能力が必要であり、それがなければ競争できない。点が線へ、線が面へと「進化」するケースもあるが、それは会社のポジショニングとそれにともなう能力を根本的に変えるという大変な作業になる。多くの場合、それほど基本的なレベルで戦略を転換するのは、別の業界に移ること以上に難しい。
 三つのポジションに規範的差異はなく、またいずれかを選ぶべき当然の理由といったものもない。戦略的ポジションが違う企業同士が直接競合することはないが、各ポジションの価値の分け前をめぐって争うことはあるだろう。私は経営者や起業家には、ポジショニングはどれだけの企業価値を目指すかだけではなく、自らのミッション、ビジョン、能力に基づいて選択すべきだ、とアドバイスする。
 協調的ネットワークを構成する三つの中核的ポジションのうち、点と面の戦略は比較的わかりやすい。スマートビジネスの世界で、その戦略が大幅に変化するのはブランド、すなわち線の企業だ。読者が創業あるいは分析する機会が最も多いのもこのグループだ。だから最初にこのポジションの戦略と戦術を説明しよう。

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