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天声人語 2012秋

『天声人語』より

「看板に偽り」の消費税

 看板に偽りあり、の仕打ちにやられた人は古今東西に数え切れまい。米国のある作家がこんな皮肉を言ったそうだ。「奇跡の薬とは、効能書きの通りに効く薬のこと」。

 日本の政治も似たり寄ったりだ。民主党が麗々しく掲げた政権交代の「効能書き」は、軒並み崩れて見る影もない。公約通りに行われれば奇跡、という政治では、怪しげな薬と変わらない。そんな呆れた総崩れに加え、またぞろ新たな「看板に偽り」の芽が萌えだしている。

 消費増税は「財政再建」と「社会保障の充実」のため、と聞かされてきた。その二枚看板に「公共事業」が割り込みつつある。増税で3党合意をした自民党など、「10年で200兆円」だと喧伝し、大借金どこ吹く風で景気がいい。

 公明党は少々控えめだが、それでも「10年で100兆円」を使えと言う。民主党の「コンクリートから人へ」はどこかに消えた。防災、減災の美名に隠れるような3党そろっての先祖返りに増税の目的はゆらりと揺れている。

 「庶民増税を打ち出の小槌にした新たな無駄づかい」という共産党、市田忠義氏の指摘はもっともだ。少子高齢化と天文学的財政赤字に向き合い、持続可能な国をつくるという大看板を、ゆるがせにしては困る。

 消費税を10%にすると歳入は13.5兆円増えるそうだ。国の財布が重くなって、心も軽く大盤振る舞い。そんな政治では、納税者は泣く。

民主党の孤城落日

 童謡の「どんぐりころころ」にもたとえられる民主党の代表選だった。三つのどんぐりがお池にころがり、どじょうと戯れた。そんな印象だ。消化試合とされた選挙での、番狂わせの匂いさえない野田首相の圧勝、再選である。

 といっても、しょせんはお池の中の争い。外に出れば、世間の風当たりはいまや暴風なみだ。19日に東京であった街頭演説会は激しいヤジに見舞われた。「帰れ」「うそつき」の怒号もわき、辻立ちで鍛えた首相もだいぶ参ったように聞く。

 それにしても、迫力と盛り上がりを欠く代表選だった。自民党の総裁選が同時進行して「ダブル党首選」とも言われたが、レコードでいえばこちらがB面だろう。針を落とせば流れる童謡に政権党の孤城落日はきわだつ。

 もっともA面の歌も歌手も、さして新味があるわけではない。総裁選の5人は「七光リ」の二世らばかりで、風を読んだようなタカ派的発言がもっぱらだ。下野して3年、党を変え、出直しを図ったという実態はよく見えてこない。

 日本の国力低下を国民は感じてはいた。だが今回、領土をめぐる近隣2国の態度にその思いをいっそう強くした人は多かろう。

 腰の定まらぬ政治の責任は大きい。外から敬意を持たれ、信頼される政府を持てないものか。高望みなら、せめて平均点で機能する政治がほしぃ。民主にせよ自民にせよ、それとも他にせよ。
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