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家庭危機管理への展開

『リスクマネジメントの本質』より リスクマネジメントとファミリー・リスクマネジメント 家庭危機管理への展開 ⇒ 家族制度の変革に向けての参考文献

危機管理の始まり

 元来、危機管理は国際政治や社会経済における不測事態に対処するための政策や対応策を意味し、主として国家安全保障上の危機が問題とされてきた。ところが、対象とする危機の範囲が国家の存亡や国家間の紛争に直結するものだけではなく、経済不安や社会不安にまで拡大されるとともにその主体が国家レベルから企業レペルにまで拡張され、さらに、家計にまで拡張されるようになってきた。

 すなわち、石油危機、通貨危機、食糧危機、財政危機といったような経済不安のほか、地震などの大災害、大事故、ハイジャック、破壊活動、凶悪犯罪といった社会不安についても危機という用語が用いられ、それに対する対応策についても危機管理という語が使用されるようになった。また、企業が倒産するような兆候を示したり、経営難に陥るような状態も経営危機といわれ、場合によってはこれも含めて危機管理を考えるという向きも出てきた。

 また、家庭の破壊についても家庭危機管理が考えられるようになってきた。

 本書によれば、危機管理とは予想される危機に対して事前に計画を立てておくことであり、現状から多くの危険や不確実性を除去し、自分の運命を自分でコントロールする技術である。

家庭危機管理の意義

 現在の社会を構成している経済主体は国家を別とすれば、家計、企業、地方自治体となろう。その各々に固有のリスクマネジメントが存在するが、共通するリスクマネジメントもある。

 共通するリスクマネジメントといえば、さしずめ災害管理型リスクマネジメントであろう。それは、企業、家計、地方自治体(行政)にとっていくぶんニュアンスが異なっているが、密接かつ不可分的に協同してその処理に当たらねばならないものである。

 元来、企業の危機や家計の危機は、個人責任の原則に基づいてマネジメントし、各種のリスクに対応していかねばならない。

 筆者(亀井利明)は、かつて、企業危機管理はビジネス・リスクマネジメントとして、①保険管理型、②危機管理型、③経営管理型、④経営戦略型に類別し、①と②を災害管理型リスクマネジメント、③と④を経営政策型リスクマネジメントとして体系化した。

 しかし、時代の進展、リスクマネジメントから危機管理への移行、経営の実態の研究が深まるにっれ、以上の考えを少し変えるようになった。すなわち、災害管理型リスクマネジメントを、企業、家計、行政に共通するものとするならば、企業危機管理は経営管理型をメインとし、それに業務管理型、経営戦略型を付加して3分類とすべきだと考えるようになった。

 また、家庭危機管理は、かつてファミリー・リスクマネジメントといわれていた分野である。しかし、ファミリー・リスクマネジメントは保険論の延長で、家庭リスクの付保金額の大きさと種目選択に集中し、物的リスク、生保以外の金融リスク、不動産リスク、家族リスク・親子リスク・不登校・ひきこもり・家庭内暴力・非行・いじめ、といった昨今の家庭崩壊リスクには何のメスも入れず、心理学の研究やカウンセリングの導入などは全くなされていなかった。

 そのため、筆者(亀井利明)は、家庭危機管理にはコンサルティングとカウンセリングの導入が必要ということを強調して、『危機管理カウンセリング』という本を書き、さらに心の危機管理と癒しの必要性を強調して、ストレス・マネジメントを中心として、『心の危機管理と陶芸』という小冊子を公刊した。

 また、正しい家庭危機管理を研究し、それを普及すべく、2000年、家庭危機管理学会を設立し、FCCや家庭危機管理士の制度化を図った。なお、家庭危機管理学会は2003年、家庭危機管理研究所と名称を変えて、日本リスク・プロフェッショナル学会に融合された。

家庭危機管理の充実

 阪神・淡路大震災以降、相変わらず地震や噴火などの災害リスクが多発している反面、金融機関、ゼネコン、雪印乳業事件などに見られる経営リスクの多発、多様化からリスクは社会化し、わが国は自然災害と社会化リスクに満ちた危機が一般化し、企業危機管理を重視しなければならない時代を迎えた。

 また、他方において、企業を構成する個々の家庭においても、通常の経済リスクのみならず各種の葛藤リスクが多発し、それが悪質化、犯罪化し、家庭崩壊や学校崩壊現象を起こし、単なる家庭カウンセリングや教育カウンセリングでは十分な対応ができなくなってきた。

 つまり、家庭リスクも、不登校、ひきこもり、家庭内暴力、いじめ、非行、離婚、親子の断絶、家出、児童虐待、過食、拒食、等々の形をとり、個々の家庭では対応できない社会化リスクとなってきた。それゆえ、家庭の葛藤リスクだけでも早急に解決すべく家庭危機管理の強化とその重点的実施が要請される。

 現代はおそらく家庭危機の時代といわれるだろう。危機は生命を脅かすストレスや事件で、心と身体に大きな反応を引き起こす。ストレスは人間が対人関係を持って生きている限り、大なり小なり発生するもので、傾聴、共感、受容といった非指示的カウンセリングやセルフ・コントロールとしての癒しの行動によって時間をかければある程度は対処できるだろうが、何よりも大事なことは強力な予防である。ストレスの予防が困難なことはわかりきっている。しかし、それでも予防が第一で、次いで軽減、修復、除去ということになろう。

葛藤リスクと家庭危機管理

 家庭は相互の緊密な愛情に基づいて結ばれ、健全で平和かつ円滑な相互信頼関係が永続することが期待された人間の集団である。人間の集団である限り、たとえ夫婦関係にあっても、血縁関係にあっても対人関係の葛藤に巻き込まれ、危機的状態が出現する。そこに家庭危機管理の必要性が出てくるのである。

 しかし、理屈はどうあれ、家庭の葛藤リスクは絶対に予防されなければならない。予防という文字を何字重ねてもよいくらい「予防」が大切で、それがためには細心の注意を払った行動が必要である。

 家庭危機管理としての危機管理コーディネイションの第1課程は、資料または現場の「調査」および面接による「傾聴」である。これによって「問題点」や「主訴」が何であるかを明確化する。非指示的カウンセリングではこの傾聴をとくに重視し、最初から最後までここに主力を置いているように見える。その結果、いろいろな効果が得られる。

 すなわち、クライエント・相談者にありのままの話をさせ、その話を非難も批判もせず、丸ごと受け止めて、耳を傾け、不安やイライラ、怒りや憎しみといった感情をそのまま受け止める「受容」という態度をとれば、心の中にあった緊張や不安が取り除かれ、心身がリラックスし、心が「浄化」される。これは「カタルシス効果」である1)。

 次に相談者に向かい合い、寄り添い、その言葉の裏にある気持ちを正確に理解するという「共感」が必要である。共感は一種の安心感で、親や教師からよりも、カウンセラーや仲間から得られることが多い。同じような境遇の者同士で話をすることによって、類似の悩みに共感することができるわけで、グループ・カウンセリングや相互カウンセリングで、喜びや悲しみ、不安や葛藤を分かち合い、理解し合う感情もまた共感といえるだろう。これによって、クライエントは安心感を得られる。これを「バディ効果」と呼ぶ。

 面談と傾聴を続けると、やがて「気づき」に到達する。「気づき」は目が覚めて意識を取り戻すことで、自分の感じ方や考え方など今まで無意識だった自分の内なる部分に「ハッ」と気づき、潜在化させているものに自分自身が「気づき」、「目覚め」させることができる。つまり、これによって、自分自身の悩みやストレス解決の糸口や方法が見えてくるのである。これが自分の潜在意識に気づく「アウェアネス効果」という。

 次に第2段階に入るわけであるが、この場合には問題点の整理、分析、対応策の相談、指示ということになるが、その場合、クライエントとコーディネーター(コンサルタント)との間にラポールが形成され、安心感、信頼感、意見の自由な交流が見られなければならない。これは一口にいって両者間の「相性がよい」という問題である。
 これによってクライエントは自ら心を開き、本心をさらけ出し、本音の発言としての自己開示を行うものである。これによって第2課程の相談から、第3課程の助言、援助というプロセスに入る。

 助言は明らかに示唆、解釈、指導、命令、禁止、訓戒等を意味し、援助には動機づけ、解説、説得、激励、慰撫等が含まれる。

 第4の課程は、解決案の吟味、選択、採用、実施等の行動化とその成果に対する評価である。評価は家庭危機管理がコンサルティングにカウンセリングを導入したコーディネイションが成功したかどうかの判定ということである。これは、成功、無意味、失敗のいずれかの結果となる。
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