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日本の教育をとりまく社会状況

『コミュニティ/スクール入門』より

今、日本の教育をとりまく社会状況は「危機的な状況にある」と言われていますが、どのような「状況」にあるのでしょうか。

急激な少子・高齢化、人口減少社会

 私たちは、急激な少子高齢化の時代に入っています。図表1-1-1にその推移が示されていますが、これは、深刻な内容です。

 日本は世界に先駆けて、急激な少子・高齢化、そして人口減少を迎えています。 2010年の総人口は12、806万人でしたが、2030年には、11、662万人です。65歳以上が総人口の3分の1に達します。そして生産年齢人口(生産活動の中核をなす年齢の人口層で、日本では15歳以上65歳未満を指します)は総人口の約58%にまで減少すると見込まれています。

 また、高齢化率(高齢人口の総人口に対する割合)は2010年(平成22年)の23.0%から、2013年(平成25年)には25.1%で4人に1人を上回り、50年後の2060年(平成72年)には39.9%に、これは2.5人に1人が65歳以上となることが見込まれています。

 このまま放って置きますと、日本の人口は30年後には8千万人、50年後には2010年時の半分になってしまいます。そして「30年後には全国の自治体の半分が、なくなっていく」と言います。地方から大都市圏への人口流入や少子化か止まらなければ、「約1800の市区町村のうち896自治体が将来なくなってしまう(2013年3月)」というのです(「日本創成会議」の人口減少問題検討分科会〔座長・増田寛也元総務相〕の推計)。センセーショナルな話です。なんらかの手を打だなければ人口が減っていき町がなくなるし、学校もなくなります。私たちはどうしたらいいのか、真剣に考えなければなりません。

 高齢者が増え、それを支える生産年齢人口は減り続けます。経済規模が縮小し、税収が減り、社会保障費が拡大していきます。社会全体の活力が低下し、非常に厳しい時代になっていきます。日本の総人口も、今後100年間で、100年前(明治時代後半)の水準に戻っていく可能性があると言うのです。ただし「何もしなければ」という条件付きですが。

 教育関係者は本業の人材育成をしなければなりません。その人材も、多様で変化の激しい社会を乗り越えるために、「タフで社会を生き抜く力」を持った子どもたちを育てていかなければなりません。

グローバル化の進展

 世界はグローブ、球体です。地球の裏側でも世界はつながっています。もはや自国だけを守って成り立っていく世界ではなくなっています。グローバル化は、「知識基盤社会」(変化が激しく、常に新しい未知の課題に試行錯誤しながらも、対応することが求められる社会)の本格的な到来をもたらしました。 ICT(インターネット等に関する情報通信技術:Informadon and Communication Technology)を通じて、軽々と国境を越え、人、モノ、金、情報等が流動化を促します。知識そのものや、人材をめぐる国際競争も加速させるとともに、異なる文化・文明との共存や国際協力の必要性を増大させます。

 世界の文化・文明がグローバルになることは同時に、異なる宗教や、価値観、倫理観の間で摩擦を生み出す危険性もはらんでいます。そのため、実際に多様な国の人だちと触れ合い、国際交流を促し、異文化・文明を理解・尊重し、受け入れる寛容さが求められます。

 また、気候変動、感染症、テロ、移民、難民、経済危機の拡大などのような地球規模への課題も突きつけます。このような地球環境問題をはじめ、さまざまな問題を共同で取り組み、複雑化・深刻化した課題解決に向けて、共に持続可能な社会をっくっていく教育の実現こそが大切になってきます。グローバル化は教育にも新たな課題と対応が求められています。

 学校の先生は当然「人材育成を」といいますが、人材育成は先生方だけでは解決できません。グローバル化を見ても分かるように、世界は新しいステージ入ってしまっているのです。先生方も新しい加速された状況を認識しながら、多様な人だちと協働で課題の解決が求められます。

雇用環境の変容、働く母親は過去最多

 近年、共働き世帯が増加しています。1996年に「無職の妻の世帯」と「共働き世帯」が逆転し、2012年には、「無職の妻の世帯」が787万世帯、「共働き世帯」が1、054万世帯と、ここ16年間で1.3倍になり、大きく生活格差が広がっています。

 2015年には、18歳未満の子どもがいて、働いている母親の割合が68.1%に上り、過去最多になるといいます。母親の4割近くが「非正規」で働き、一番下の子どもの年齢が高いほど増える傾向にあります。

 また、非正規雇用者が正規・非正規雇用者の合計に占める割合についても、1990~2014年の間に、2倍近く上昇しています。これらは新しい問題ではありません。東日本大災害を契機にその危機的な状況が顕在化してきました。一人ひとりの意欲が減退し、社会の不安定化か進んでいます。

格差の再生産・固定化

 収入の多い家庭の子どもは「成績がいい」とデータにも出ています。この頃は東京大学生の親のほうが、慶応大学生の親より収入が高いといわれています。子どもに掛ける金額に比例して学力が伸びており、そして東京大学へ。それでよいのでしょうか。経済格差が教育格差につながっている。これも危機です。子どもは家庭を選んで生まれて来れません。

 進学させたくてもお金がないとか、経済的な問題は学力格差につながっています。貧しい家の子どもは、進学が難しいのです。以前公立の学校は荒れていました。先生方はそのような学校には異動したがりませんでした。現在「子どもの貧困」が顕在化しています。日本は先進国でありながら、子どもの貧困も大きな問題になっています。家庭の貧困は、否応なしに学校にも影響を及ぼし大きな問題となっています。

地域社会・家族の変容

 地域の都市化や過疎化の進行は、大家族世帯が激減し、核家族や一人親世帯が増え、家族形態が変化してきています。価値観やライフスタイルが多様化するなかで、地域社会のつながりや支え合いは希薄になり、セーフティネット機能が低下しています。「地域で育てる子ども」という考え方が失われ、核家族の中だけでの「子育て」が多くなってきました。

 家庭や地域社会が、教育の場として十分な機能を発揮することなしに、子どもたちの健やかな成長はありません。家庭をめぐる状況の変化や地域社会の教育力の低下、そして子どもの教育に関する当事者意識も失われていくなかで、学校だけにさまざまな課題や責任が課せられているのではないでしょうか。教育は学校だけで担いきれるものではありません。

 「子育て」は、地域社会も保護者も当事者意識をもって、自分の子どもだけではなく、自分の地域の子どもですから、地域で協力して育てていかなければなりません。

地域コミュニティの再構築

 一方、いろいろな取り組みを通じて、保護者をはじめ地域住民らが積極的に子どもたちと関わり、支援することによって、学校をより良くし、子どもたちを育てていこうとする活動が生まれてきています。また、各地域で学校を核にして、子どもや大人も自らが主体となって地域を活性化する取り組みをし、地域全体を「学びの場」と捉え、街全体の元気を取り戻しつつあります。

 こうした意識の高まりの中で、かつての地縁を再生するということにとどまらず、新たに地域コミュニティを創り出すという視点に立って、学校と保護者、地域住民らが力を合わせて、子どもたちの学びや育ちを支援する地域基盤を再構築していくことが大切です。
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