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パワーポイントなんかいらない。

『スティーブ・ジョブス 驚異の伝説』より

「ヒアリング」とは何か。

 アップルに復帰し再建を始めたジョブズは、製品の絞り込みと同時に、複雑化、過剰化していた組織の統廃合に取り組んだ。それは、「スティーブされる」(解雇される)という隠語が生まれるほど猛烈な組織整理だった。

 しかし、手続きは短兵急ではなかった。ジョブズは一つひとつの部署や製品チームからじっくり意見聴取した。それがヒアリングだ。

 ヒアリングの結果、「必要だ」と判定されれば生き延び、「不要」と判断されれば居場所を失うのだから、ヒアリングにはみんな必死で挑んだ。自分たちの立場を訴えようと、懸命にプレゼンテーションを試みる。狭い会議室に入りきれない人数が押しかけ、時間をかけてつくり上げたパワーポイントを見せるのだ。

 しかし、ジョブズはすぐにパワーポイントの使用を禁止してしまった。

 アップルには無数の問題があった。重要なのは、自分たちの立場をパワーポイントで説明することではなく、問題を発見し、解決策を示すことだった。社員が説明し、ジョブズが話を聞くのではなく、互いに解決策を考える場がヒアリングだったのだ。パワーポイントなど不要だった。

 この時、ジョブズは「大切なことなら覚えているはずだ」とメモも禁じた。

 ジョブズには、会議の内容や問題点を頭の中にしまい込み、整理する力があった。それを社員にも求めたのである。厳しいようだが、本当に製品や仕事のことを理解していれば、メモなどしなくとも記憶できるし、メモを見ずに話もできると考えた。ジョブズはこうした真の理解と真剣さを部下に求めたのだった。

大切なのは人を巻き込むこと

 ジョブズはプレゼンの達人として知られるが、会議などでパワーポイントやスライドを多用するのは大嫌いだった。

 iPod開発に向けて、最終的にジョブズの了解を得る会議の席上でのことだ。開発担当者トニー・ファデルは、用意したモデルを見せる前に、当時のMP3プレーヤー市場をスライドで分析し始めた。プレゼンの常套手段と言える。

 だが、スライドがスター卜して一分間もたたないうちに、ジョブズはいらだちを隠さなくなった。スライドが必要なのは、自分の話していることがわかっていない証拠だというのだ。ファデルはスライドをすぐに打ち切り、モデルの説明に移った。するといらだちは消え、ジョブズはたちまち生き生きとしてきたという。

 ジョブズはスライドなどの機器を駆使した説明より、実際にものを見て、さわって話し合うことを好むのだ。

 ファデルがかつて働いていた家電メーカーのフィリップスでは、製品の開発決定までにはたくさんのプレゼンと会議が必要だったが、ジョブズには、そんな手続きは直感を鈍らせるものでしかなかった。

 「パワーポイントを使った講演は眠くなる」とは、ある講演の達人の言葉だ。

 パワーポイントによるプレゼンや講演はあまりにも完璧に準備されていて、聞く側の思考が入り込む余地がない。そのために眠くなってしまう。聴衆は、プレゼンや講演を聞きながら自分であれこれ思考をめぐらすことが楽しいのであり、思考が止まると、どんなに立派な内容でも眠くなるのを防ぐのは難しいという。

 ジョブズのプレゼンは完璧だと言われるが、それは聴衆の巻き込み方が完璧なのである。うかつに表面だけをなぞっても効果は少ないに違いない。合法的なやり方がないからだ。

 かつて音楽の違法ダウンロードが横行していた時代に、違法行為をなくすにはどうすればいいかを語った言葉だ。

 インターネットが登場した時、またファイル共有ソフトのナップスターが誕生した時、両者が結びつくことで音楽業界が大ダメージを受けると想像した人はいなかったはずだ。

 だが、実際にはナップスターや、その後継者的なサービスが続々誕生する中で、音楽の違法ダウンロードがあっという間に一般化し、その猛威は音楽業界を脅かすほどになってしまった。
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