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コミュニティ心理学

『心のしくみとはたらき図鑑』より
コミュニティ心理学
 人々の暮らすコミュニティ、そして広く社会や文化は、その精神的発達に非常に大きな影響を与える。身近に関わりを持つ人々や場所は、その人が何かを考え、信じ、行動する際の文脈を形づくるとともに、日常生活を方向づける明示的な、あるいは暗黙の規範を形成する。ただし、人々は周囲の環境から影響されるだけでなく、逆に文化やコミュニティを生み出し、発展の方向を決める存在でもある。
コミュニティはどのように働くか
 コミュニティは継続的に進化していく生態系であり、何かを共有する個人の集まりから成る。そして、コミュニティを取り巻くより広い文化のあり方を反映するとともに、その発展に影響を与える。
 どのような概念か?
  コミュニティは、住む場所の近さ、共有の関心、価値観、職業、宗教的慣習、民族的背景、性的志向、趣味など、いろいろな共通点によって築かれる。個人にとってはアイデンティティの支えであるとともに、自分よりも大きく、さまざまな要素の統合された存在の一部となれる場でもある。このような関わり合いにより、人は心理的コミュニティ感覚(自分が他者と似ているという感覚、他者との相互依存の認識、所属意識、安定した構造の一部であるという感覚)を得ることができる。
  コミュニティ心理学者のマクミランとチャビスは、心理的コミュニティ感覚の要素として、メンバーシップ、影響力、統合とニーズの充足、情緒的結合の共有の4つを挙げ、それぞれを定義している。メンバーシップは安心感、所属意識、メンバーによる献身などを意味する。影響力とは、コミュニティとその各メンバーが互いに影響を与え合う関係を指す。統合とニーズの充足は、コミュニティの一員であることによって、メンバーが報酬(ニーズの充足)を得られるという感覚である。情緒的結合の共有には、共有されたコミュニティの歴史などが含まれ、真のコミュニティ感覚を最もよく表す要素と言える。
 コミュニティ心理学者の仕事
  コミュニティ心理学者は、集団や組織、機関の中での個人のはたらきを理解し、その理解をもとに生活の質やコミュニティのあり方を改善することを目指している。家庭や職場、学校、礼拝所、レクリエーションセンターなど、日常のさまざまな環境や文脈の中で人々を研究する。
  コミュニティ心理学者の目的は、人々が自分の環境をコントロールする力を高められるよう支援することである。そのために、個人の成長の後押し、社会問題や精神疾患の予防、そして誰もがコミュニティに貢献するメンバーとして尊厳のある生活を送ることにつながるような制度やプログラムをつくる。たとえば、コミュニティの問題を特定し是正する方法を人々に教えたり、社会の周縁に追いやられた人や長い施設生活で自立の難しくなった人を、社会の主流に復帰させるための有効な手段を実施したりする。
エンパワーメント
 エンパワーメントとは、人々が社会に前向きな変化を起こしたり、個人あるいは組織や社会レベルの問題をコントロールしたりする力を得られるよう、積極的に働きかけていくプロセスだ。
 どのような概念か?
  コミュニティ心理学の目的の1つは、個人やコミュニティ、とりわけ社会の大勢から排除された人々の力を引き出すことだ。
  エンパワーメントにより、社会の周縁に追いやられた人々や集団が、それまで受けられなかった援助や情報を得られるよう後押しする。
  それは、少数派の人種、民族、宗教に属する人々や、ホームレス、物質使用障害などのために、社会規範から逸脱した人々への援助である。社会の大勢から外れた結果、負のスパイラルに陥ることもある--仕事が見つからない。仕事がないので、自活できず、職業的な誇りや達成感を持てない。その結果、自信がしぼむ。ついには、社会性や精神的健康が蝕まれて、慈善団体や社会福祉サービスヘの依存を強めていく、といった具合に。
  エンパワーメントでは、そうした人々が自律して、自活できるように対策をとる。その土台となる要素は、社会正義、アクション志向(社会や個人に変化をもたらすことを念頭に置いた)の研究、公共政策への働きかけである。
  コミュニティ心理学者は支援対象者の職探しや、有用な技能の習得、慈善活動への依存からの脱却などを後押しする。支援対象者やコミュニティにとってどうなることが最善か、そうした前向きな変化をどのようにもたらすべきかを慎重に考えながら、深い敬意を持って援助を行う。
  こうしたエンパワーメントの本質とは、あらゆる文化を称え、コミュニティの持つ強みを伸ばし、人権や多様性の尊重により、不当な抑圧を減らしていくことだ。
 エンパワーメントの2つのレベル
  心理学者は、2つのレベルでエンパワーメントに取り組む。第1に、ミクロのレベルで社会問題に取り組み、変化を起こす。これは、社会的な問題の解消を意図した、個人生活の支援である(たとえば、差別を受けた人々が容易に訴訟を起こせるようにする)。
  第2のレベルで扱うのは、マクロの変化だ。問題のもとになっている制度、組織構造、力関係に働きかける(たとえば、いじめ防止のための法律を設ける)。この種の変化はミクロレベルのものよりも実現に時間がかかるが、現状を覆し、多くは広範囲に望ましい影響をもたらす。
都市のコミュニティ
 都市のコミュニティに関わる環境心理学は、人々の行動を周囲の環境との関係の中で考察する研究分野である。開かれた空間、自宅や公共のビルなどのいろいろな建物、そして人々が関わり合う社会的な場面など、さまざまな環境が研究対象となる。
 環境が人に与える影響
  心理学者ハロルド・プロシャンスキーは、人間の行動や発達が基本的に環境に左右されるという説を唱え始めた先駆的な研究者の1人である。周囲の環境による直接的または将来的な影響を理解すれば、望ましい結果やウェルビーイングにつながるような物理的環境を見いだし、設計・構築することが可能になると考えた。
  実際、環境心理学の研究によれば、人間は周囲の環境から、心理的にきわめて強い影響を受けており、自分のいる場所に対する認識に強く同化して、場面に応じて行動を変化させる。
  たとえば、子どもは環境に合わせて活力のレベルを調整しており、家庭、学校、遊び場で、それぞれ振る舞いが変わる傾向がある。また、人は室内で活動する際、屋外の景色が見える方が集中できることや、ある程度のパーソナルスペースを保っている万が、心地よく感じることを示す研究もある。
  混雑、騒音、自然光が届かないこと、住居の老朽化、都市の荒廃といった問題で環境が悪化すると、人々の心身の健康や健全な社会性が損なわれてしまう。建物や公共の空間の設計が、個人や社会の全般的な健康や、ウェルビーイングの要となるのはそのためなめだ。
  建築家、都市計画者、地理学者、景観設計者、社会学者、プロダクト・デザイナー(さまざまな製品の設計者)はみな、人々が生活をより良いものとするための展望を描くのに、環境心理学の知見を利用している。
 混雑感と密度
  環境心理学者は、物理的な尺度としての密度(density、ある空間に人が何人いるか)と、混雑感(crowding、十分な空間がないという心理的感覚)とを区別している。通常、人が混雑を感じるには、その場の人口密度が高いことが前提となる。混雑感は人の感覚に過剰な刺激を与え、自制心を奪い、ストレスや不安を高める。
  しかし、混雑感は常にネガティブに作用すると言うよりは、中立的なものであり、人口密度は人々の気分や行動を強化するだけだと考える心理学者もいる。
  たとえば、楽しみにしていたコンサートに来た人は、会場の混雑を感じることで気分が高揚し、より一層演奏を楽しめる。一方、恐怖を感じる状況にいる人は、混雑感によってその体験をますます不快に感じる。
  コミュニティにおいては、混雑感は優勢な行動を際立たせることがある。たとえば、攻撃的な集団は人口密度が高まることで暴力的になるかもしれない。逆に、過密な都市環境に、公園や歩行者専用区域といった、人々が交流できる有意義な空間を設ければ、全体的な雰囲気が良くなり、緊張が和らぐこともある。

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