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中国経済の持続可能性 中国はみずからを養えるか

『中国経済入門』より 持続的経済成長は可能か? エネルギー・食料の制約と環境問題

人口と食料の推移

 改革開放以降の30年余りの間において、中国の食料生産量は大幅に増加した。それに、一人っ子政策による人口抑制の効果もあって、1人当たり食料生産量もこの間かなり増えた。米、小麦、トウモロコシといった主要穀物の自給率はこの間に95%以上を保っており、今日の中国は自力でみずからを養っているといえる。

 図が示すように、1985年から2015年の期間、総人口は33.4% (3億1、600万人)増えたが、食料の生産量はそれを上回る60.5%増だった(『中国農業発展報告』、『中国統計年鑑』各年版)。その結果、1人1年間の食料生産量は350~450キログラムという高い水準が保たれた。

 農業の大増産を反映して、米、小麦、トウモロコシは非常に高い自給率を維持している。全期間を通して米は生産過剰で純輸出の状態であり、トウモロコシは国内の畜産業の発展で飼料用の消費が増えたにもかかわらず、ほとんどの年で輸出超過となった。かつては年間1、000万トン以上の輸入超過であった小麦は、輸出入が均衡する状態にまで国内生産が成長している。輸入が急増したのは大豆および食用植物油である。1992年に輸入超過に転落した大豆は、2014年には7、100万トンの純輸入となった。これは同年の国内豆類生産量の4.4倍で、大豆の国際取引量全体の64%を占めた(2013年)。大豆の輸入増大は中国の貿易黒字を緩和する目的もあり、輸入元はアメリカなど既存市場からの割合が低く、日本とは真正面から競合してはいないが、中国の対外資源獲得戦略の一環と目されていることは確かである)。

食料需給の見通し

 中国の1人1日当たり熱量摂取は90年代半ば以降、日本のそれとほぼ同じ水準(2、800キロカロリー)に達している。今後、都市化や所得増加で消費構造が高度化し(植物性カロリーから動物性カロリーヘのシフト)、同水準の熱量摂取を維持するにしても、より多くの食料を必要とすることはいうまでもない。これは食料の間接消費(穀物などを飼料として家畜に与え、その肉や乳製品を食する)が増えるためである。しかし他方では、経済成長の過程で、就業構造が農業(肉体労働)から非農業(非肉体労働)ヘシフトしていくために、熱量消耗自体が減少する可能性もあり、直接消費の減少分によって消費構造の高度化を維持することはある程度可能である。

 1人当たり食料消費量は今後も400キログラムの水準に留まることが予想される。だとすれば、総人口のピークを迎える2030年まで、食料生産は年平均500万トン程度増産すれば足りることになる。これは年平均1%の増加率に相当するものであるが、ここ30年間の実績(1985~2015年が年平均1.66%増)を考えれば達成できないレベルではない。

 増産可能という判断の根拠について、以下の3点を挙げることができよう。田工業化や都市化などで耕地面積は若干減少するものの、中国政府は農地の転用を厳しく規制しているから、減少のスピードは日本など他の東アジア地域よりは緩慢である。(2)広東、浙江、江蘇など沿海地域の食料生産は過去十数年間たしかに減少してきたが、東北地域、中部地域の新しい生産基地が形成されている。食料の主産地が市場経済化のなかで大きく変化したのである。(3)米をはじめ、小麦、トウモロコシの単位収量については、潅漑施設などへの投資増大、品種改良を通して、今後、それを上げる余地はなお大きいといわれる。

 他に、流通システムの合理化、飼料利用効率の改善などで食料の浪費を減らすことも期待される。要するに、予想を越えた災厄に見舞われない限り、主要食料の基本自給はさまざまな政策努力によって実現可能と思われる。

 ところが、世界貿易機関(WTO)への加盟を果たした2001年以降、中国は国内の農業構造を調整し、適地適作を原則とした主産地の形成を促進する一方、比較優位論に立脚する農産物貿易にも力を入れている。具体的にいうと、野菜、水産加工、果物といった労働集約的食料品の生産と輸出を拡大しながら、大豆、食用植物油といった土地利用型の農産物輸入を増やすということである。ブラジル、アルゼンチンから大豆の契約生産・輸入を行い、近年アフリカまで食料生産資源の獲得に目を向けはじめている。

 中国政府は1997年に95%以上の食料自給率を国際公約として設定し公表し、いま(2015年)もそれを変えてはいない。主要穀物をみる限りでは、この国際公約が守られている。ところが、大豆、食用植物油、小麦、大麦(ビール生産用)などの輸入量を国内で生産する場合に必要な耕地面積に換算すると、2010年にはそれが3.8億ヘクタールに上る。輸出した野菜等の分を差し引くと、食料供給が海外の耕地に依存する割合(依存率)は2割強に達する。言い換えれば、作付面積をベースに考えれば、中国の食料自給率はすでに80%程度に低下している。同じ方法で2015年の食料自給率を試算してみると、それが70%をやや下回ったことも判明した。この観点で中国の食料自給率を中長期的に考えると、自力でみずからを養うという中国政府の公約は危うくなる。

 十分な外貨を持ち、不足分の食料を国際市場から調達することは日本、韓国、台湾も行っていることであり、非難には値するまい。しかし、中国の巨大さからして、基本自給の目標を放棄した場合の国際社会への影響は甚大にならざるをえない。当分の間は、高度成長がつづく中国の食料問題から目が離せない。
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