goo

『パレスチナ/イスラエル紛争史』より

景観を切り裂く巨大な傷跡のように見渡す限り延びている高さ八メートルもの冷酷無惨なコンクリートは、最新の占領建築の一つである。このイスラエルの壁は、状況の行き詰まりを表す究極的なシンボルである。婉曲的に「分離フェンス」と名付けられたこの醜い物体は、電流フェンス、塹壕、鉄条網、監視カメラに囲まれており、三〇〇mおきに監視塔があり、二四時間体制の見回りがなされている。完成時には全長三五〇㎞にもなる。イスラエルと占領地の至る所に壁、フェンス、検問所、バリケードが設置されている。ガザはその全土に渡り電流フェンスに囲まれているが、このような壁はない。この壁はベルリンの壁を彷彿とさせるが、それよりも大規模なイスラエルの西岸支配の強化を可能にする道具となっている。人々を投獄し、時には共同体を分断し、イスラエルと西岸のあいだの出入りを管理することで、イスラエル人居住者の対パレスチナ人包囲網を形成したいという衝動を強化し、兵力ならびに兵姑におけるイスラエルの優位を露骨に示すのである。壁はグリーンラインニ九六七年以前の軍事境界線)に沿ったかのですらなく、西岸のパレスチナの土地の真中を横断しており、事実上、最も生産性の高い農地の大部分がイスラエルに併合されている。多くの村々が、自身が生活の糧としている所有農地から隔離され続けている。壁の建設は、二〇〇二年六月の開始以来、急速に進められており、その過程において、土地は没収され、作物は破壊され、オリーヴや柑橘類の木々が引き抜かれ、家屋や財産が破壊されている。壁の通り道には何も残らないのである。

 いかにして状況はこの段階へと至ったのか?

 五月までにイスラエル軍は撤退もしくは再展開したが、六月にさらなる侵攻が行われ、この時から「分離壁」の建設が開始された。それから後の出来事には、イラクに対する戦争が暗い影を落とした。

 最近の出来事の流れを見れば、パレスチナ国家の自立を支持する準備があるとのイスラエルの主張は、その信憑性に限度が見え始めている。それと同じくらい難しいのは、ジョージ・W・ブッシュ大統領のパレスチナ国家樹立の支持声明をめぐる解釈である。それは空虚な言葉にすぎず、一方でイラクに対する攻撃を遂行するなか、自分自身を和平推進論者としてアピールするための十分な決まり文句である。

 ある中東の国家を想像して欲しい。その国家は、長年にわたり欧米によって軍備が進められ、その保護を享受している。そして、何十年にもわたり人道に対する罪を犯してきたことで知られる老いた戦争犯罪者によって統治され、暴力的に領土を包囲し、住民を立ち退かせ抑圧し、市民を攻撃し、彼らの家々と生計を破壊している。その役人たちは何のとがめもない囚人を処刑し、拷問を行っていることを自ら認めている。そして、国内および他の主権国家にまで暗殺部隊を送り込み、粉飾をばらまき真実を歪曲するプロパガンダ機関を有し、何十年にもわたり執拗に明確な意図を持って国連決議を無視し公然と反抗してきたのである。そのような国家に対して国際社会はいかに対応するべきだろうか。選択肢は二つある。まず、二一年間の制裁によってそれを窒息させ、経済を破綻させ、人々が苦しみ、子供たちが飢餓と基本的な健康管理の欠如のために死んでいくのをただ眺め、それが弱り切ったときに、大規模な軍事作戦を展開し、その救済に対して感謝を期待することである。あるいは、その国家が抱える哀れな犠牲者だちから自らを守るために用いる何十億ドルもの援助と軍備を毎年与えることか。すべてはその国家の名前次第なのである。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
« ブログ整理し... 予約システム... »
 
コメント
 
コメントはありません。
コメントを投稿する
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。