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マスメディアと反検索型ジャーナリズム

『原発報道とメディア』より

刺激的な情報を選別して伝えてゆくマスメディア・システムに抗う困難を自覚したうえで、私たちはジャーナリズムのシステムを打ち立ててゆく必要がある。そう書いた。

しかし状況にはむしろ逆風が吹いている。そんな、状況認識をしておきたい。

というのも、マスメディア・システムヘのネットメディアの取り込みが進んでいる。その台風の眼の位置にあるのは、他でもない、グーグルだろう。スタンフォード大学の博士課程に在籍していたラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンによって1998年に創業したグーグルは短期間のうちに世界最大の検索エンジンに成長した。その急成長の軌跡上でグーグルは他のネットサービスを貪欲に吸収してきた。

たとえばYouTubeのようなソーシャルメディアは、尖閣ビデオ流出の場合にそうだったように優れた当事者報告のメディアとなりえる。そしてYouTubeは検索が可能だ。動画に振られたタグをグーグルで検索することで当事者報告にアクセスできる。

こうした連携を意識して、グーグルは2006年に、まだビジネスモデルすら確かではなかったYouTubeを16億5000万ドルも支払って買収したのだろうか。いずれにせよ、こうした連携があれば、受け手が自分の知りたい情報を現場からの報告として知るという従来のジャーナリズムの使命は果たされる。かつてのように放送局や新聞社の提供するニュースをただ受け身で仕入れるのではない。自分から検索という作業を経て能動的に現実にアクセスしてゆけるのだ。

以前、筆者はネットメディアの当事者報告と、マスメディアの編集検証能力を組み合わせた、次世代ジャーナリズムの姿を想像していたが’YouTube+グーグルの組み合わせはソーシャルメディアの領域だけで筆者のジャーナリズムに対する期待を完結させてしまう。ここに新しいジャーナリズムの時代が幕を開けたように一見、思える。

しかし、実はこうした変化はジャーナリズムをマスメディア・システムに売り渡すことでもあろう。

というのもグーグルは、そのサイトにはられたリンクの数、即ち被リンク数を数えてリスティングするペイジランクという技術によって各サイトを注目度順に再配置する。アクセスランキングに従って表示配列をするサイトがあるが、グーグルはそれを更に一般化し、検索をかけるたびに人気投票を行うと考え・られる。

つまりグーグルはジャーナリスティックな情報伝達に関して言えば、単なる報道系サイトを超えて、最も知りたいと思われている現場に肉薄した報告に手を届かせる「理想の」マスメディア・システムを用意したことになるのだ。
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