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終末期にある患者への看護援助

『臨床看護総論』より 終末期における看護 終末期にある患者への看護援助

終末期にある患者への看護援助は、終末という病像に加え人生の終末に生じるトータルペインに対する緩和ケアをしながら生活全般を支え、患者が自分らしく生き抜くことができるように、チームで取り組む専門的ケアである。ナイチンゲールが述べている「看護は、患者の生命力の消耗を最小にするようすべてを整えること、つまり、患者の生きる力の消耗を最小限にすることが看護の基盤となる。

援助の方法は、患者と家族にとっての健康問題を共有し、望ましい状態をともに決定することで目標を共有し、具体策をともに立案する。終末期患者への安心・安全・安楽を最大限配慮しながら、セルフケア能力に応じて援助し、個別の状況に応じたトータルケア(全人的な援助)を実施する。

看護師の重要な役割は、患者が終末期にあっても、患者の成長を支援する、患者のQOLを支援する、患者の自己決定権を支援する、ことである。そのために看護師は、看護の専門職者として、患者の存在を尊重すること、患者のそばにいること、患者の死ではなく生への援助であることの大切さに気づくことが必要である。

①援助の基本

 ・アセスメント

  患者が自分らしく生き抜くことを支えるためには、身体の終末像を理解することが大切となる。看護師の正確なフィジカルアセスメントにより、先を見通したケアを計画的に提供することができる。また、その患者にとっての自己実現の機会をもたらすことにもなる。

  そのためには、よく観察することが大切である。終末期には複数の症状があるため、それぞれの症状について詳細に患者の話を傾聴し、ありのままを受けとめる。視覚・聴覚・嗅覚・触覚などの五感を敏感にはたらかせて、刻々と変化する状態を見逃さないように継続して観察する。さらに、家族からも情報を得て、患者の症状体験を深く理解する。さらに、患者はトータルペインをかかえているため、患者の苦痛を全人的に理解する。

  トータルペインの視点もふまえて、発達段階、全身状態(パフォーマンスステータス)、栄養状態、疾病や治療による症状の有無・程度、日常生活への影響、心理・精神面、社会・経済面など系統的に、客観的・主観的情報を収集し統合して、個別の生活者としての全体像と看護上の問題を理解する。

 ・信頼関係とコミュニケーション

  終末期にある患者や家族は、ストレスが多い状況におかれることが多いため、医療職者の一言ひと言が重く心に響く。看護師は、患者と家族の主体性を尊重し、思いやりと誠意のある言動や態度を示すことが大切である。信頼関係の形成には、時間をかけられない場合もあり、出会ったときの1回1回の対応やコミュニケーションが非常に重要となる。このときには看護師の専門性だけでなく、自分の人間性が全面に出ることを、看護師は自覚しておく必要がある。したがって、日々コミュニケーション技術をみがく努力は必要であろう。

  患者も看護師も同じ人間なので、場合によっては柑|生が合わないこともある。そのような場合には、互いのストレスが高まることを回避するために、相性の合うほかのチームメンバーが対応する、ボランティアや宗教家などの社会資源を活用する、などチーム全体で患者を支えることが大切である。

②状態に合わせた日常生活の援助

 終末期になると、疼痛、倦怠感、食欲不振、吐きけ・嘔吐、息苦しさ、などさまざまな身体症状が出現するようになる。症状をコントロールしながら患者の状態に合わせた日常生活の援助が、患者の安楽とその人らしい生活をもたらす。とくに終末期には、基本的ニードの充足への援助、とりわけ、食に関する苦痛への援助、排泄に関する苦痛への援助、清潔に関する苦痛への援助がとても重要となる。ヘンダーソンが『看護の基本となるもの』で「患者が基本的ニードを満たし、生活行動を行うことを援助する」と述べていることである。

 このような確かな理論に基づく援助が、患者の生活の質を高めることにつながる。看護師には、患者が求めているニードを見きわめて寄り添う姿勢が大切である。

③症状に関する苦痛への援助

 身体的苦痛は、ほとんどの終末期患者に生じる苦痛で、身体の機能低下・停止が原因であるため患者の努力だけでは解決できない問題である。この身体的苦痛は、トータルベインの構成要因の1つであり、ほかの要因と影響し合う。患者が痛みなど苦痛症状を訴える場合には、その症状に関する系統的な観察とトータルペインの視点からのアセスメントを行い、全体像を把握することが大切である。痛みや息苦しさなどの症状に対しては、患者の訴えを最優先し、患者にがまんさせないことが重要である。看護師には、患者の病態を正確に理解し、苦痛症状が増強する前に援助することが求められる。

④心理的安寧への援助(生き抜くことを支える)

 終末期の患者は、トータルペインをかかえながら日々過ごしている。身体的苦痛を訴えていても、その背景には、心理・社会的苦痛、霊的苦痛を伴っている。看護師は、前述した心理的・社会的ニーズを理解して、個別の患者のトータルペインを把握し、全体像をアセスメントして、その患者に適した心のケアを行う。

 重視されるおもなケアは、①患者自身が自分の生きてきた人生の意義を再確認できるようにする、②孤独にさせないように人と交わる機会をつくる、③心理的葛藤を解消または軽減するように患者のかかえている問題を一緒に整理する、④患者が語る死にまつわる話を共有する、⑤患者の希望や生きがいを見まもり支える、などである。患者の苦悩が深い場合には、精神科医や宗教家などの他職種と連携する。

 患者は、病気の過程や死にゆく過程で内面が揺れ動き、さまざまな感情を体験する。看護師は、このような状況にある患者をあたたかく見まもり、感情を受けとめる、共感的な態度でかかわる、などの情緒的な支援を行う。

 患者が療養する場は、病院、ホスピス、自宅など多様であり、患者が自己選択する意思決定を支援することも必要である。患者の状況によっては,バメディカルソーシャルワーカーや地域の社会資源を活用する。自宅で療養する場合は、必要時、家族への介護指導、症状チェックなどのセルフケア教育、死の準備教育を行う。

⑤家族への援助

 時代の移りかわりとともに家族の状況も変化している。核家族・1人世帯・老老介護の増加などの社会情勢からは、患者を含めた家族全体が潜在的・顕在的な健康問題をかかえているといえる。家族とは、通常は血縁関係にある者の集まりをいうが、患者のおかれた状況によっては血縁関係によらない場合もあるため、患者にとって家族とは誰をいうのか直接確認することも必要である。どのような立場にある家族も、死にゆく患者にとってはかけがえのない存在であり、患者を失っても存在しつづけることにかわりない。

 終末期にある患者の容態が経過するにつれ、家族の様相も変化する。終末期の患者をかかえる家族は、多岐にわたる苦悩・苦痛、いわゆるトータルペインを体験する。このような家族の状況は、看護師が意図的にわかろうと努力することで理解できる。ありのままの家族像を把握することがとても大切である。

 そのうえで、患者の残された人生の時間を患者とともに生きられるような予期悲嘆への援助、患者にとっても家族にとっても満足する看取りの援助、死別後の家族の成長をもたらし家族みずからの人生を生きつづけられるような悲嘆の援助と遺族ケアを実施する。
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