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ステルスマーケティング

『日本の広報・PR100年』より 21世紀広報の課題 ネットが変える広報

インターネットによる話題の増殖は、キャンペーンの効果を高める一方、企業にとってはリスクともなりかねない。

1999年に起きた「東芝クレーマー事件」は、リスクの側面を気づかせた最初の事件だった。詳細は省くが、東芝製品の不備に関するクレームに対応したサービス担当者が暴言を吐いたという事件である。その暴言をたまたま購買者が、録音し、これを自身のホームベーダにアップロードし、東芝に抗議をしたのである。これがネットで話題となり、さらにマスメディアにも取り上げられ、発火点であるユーザーのサイトは閉鎖までにアクセス数が1000万に昇った。最終的には東芝の副社長がユーザーに直接謝罪し一応の決着を見たが、一個人が大企業に対しインターネットを武器に異議を申し立てることが効果的であることを証明する結果となった。

掲示板サイトの「2チャンネル」は、この事件の直前に開設したばかりでこの事件では脇役にすぎなかったが、これを契機に「インターネット告発」の中核サイトとして急成長を遂げる。インターネット告発やそれに伴うアクセスの集中や批判的コメントの増加は「炎上」と呼ばれ、企業にとっての新たな脅威となった。

03年にトヨタのCM表現に問題があるとして中国国内で問題化したり、ソニーウォークマンのキャンペーンの一環であるユーザーブログが「やらせ」であると批判され、開設3日で閉鎖に追い込まれるなどの事件が相次いだ。

企業は、検索により早期に事態を把握したり、問題記事を削除する外部のサービスを導入し対策を取ることが求められるようになった。とはいえ、削除によって問題が解決するわけではない。インターネットによって社員が匿名で自社を告発するケースも増加しており、企業行動そのものを律しなければ批判を免れることはできない。ガバナンスを確立し、コンプライアンスを順守することを社会はインターネットを通じて企業に求めたのである。

11年正月、グルーポンで購入したおせち料理が、見本の写真と全く異なる粗末なものであった問題。12年にはグルメサイト「食ベログ」の評価について、裏で金銭で操作する業者の存在が発覚した問題。13年には複数の芸能人がオークション詐欺サイトの広告塔として虚偽のブログ記事を掲出していた問題など、相次いで企業姿勢が問われることとなった。

このように、企業がその正体を明かさず、第三者を装って自社に有利な情報を流そうとする行為を、レーダーに捉えにくいステルス戦闘機をもじって「ステルスマーケティング」と呼ぶ。

09年に発足したインターネット広報の業界団体WOMマーケティング協議会はガイドラインを定め、「関係性明示の原則」として企業から何らかの金銭・物品・サービス等の提供を受けた時は、その関係性を明示すべきと提唱、15年にはインターネット広告推進協議会が記事体広告(「ネイティブアド」と呼ばれる)はその旨明示すべきとの方向性を打ち出し、これが業界の共通認識となりつつあるが、反発も存在し、また中小業者を把握しきれないこともあって、ステルスマーケティングは存在し続けているところである。

新しいメディアであるインターネットの登場と成長は、マスメディアに大きなインパクトを与えている。新聞を例に取れば、新聞記事をスマートホンで無料で読む習慣が根付きつつある中、購読料・広告料の二大収入源が揃って減収に追い込まれた。

かつては新聞が世論をリードしたが、いま、ネット内の識者がそれぞれの見解を披歴し、新聞は相対的に影響力を薄めた。14年、朝日新聞は従軍慰安婦問題と福島原発報道の記事取り消しにより、大きな批判にさらされた。これまで、記者クラブが主要情報源にアクセスできることを背景に社会の木鐸であるとの自負が、ネット論調により反撃を受けた結果とみなすことができるだろう。

いま新聞に必要なことは、自身のビジネスモデルの再構築である。ワシントンタイムスを買収したアマゾン創業者ジェフ・ベゾスは地方紙との提携を進め、自社の記事の購読者を広げるとともに、記事の形態を変え、アマゾンのサイトでも読める短い記事と、ブックレットで購読できる長文の記事とのメリハリをつけ、新たなコンテンツ流通のチャネル開発を志向しているようだ。日経新聞はイギリスのフィナンシャルタイムズを買収。新たな挑戦を始めた。朝日新聞批判の波に乗り、競合紙は朝日新聞からの購読者奪取に血道をあげていたが、自社が生み出すコンテンツの価値をいかに向上させ、どう収益に結び付けるかという本質的な努力を怠ると、新聞メディアそのものの弔鐘を聴くことになりかねない。新聞以外のメディアもまた、ひとしくこの事態に直面している。テレビ、ラジオ、雑誌だけではない、インターネットもまた例外ではありえない。

スマートホンは12年以来急成長を遂げ、タブレット端末とともにいまやどこでもつながり(ユビキタス)、どこへも持ち運びできる(ウェアラブル)コンピュータヘと進化した。デスクトップやノートパソコンの地位は今後脅かされることになろう。地殻変動は終わっていない。広報がメディアと密接な立場にあることを考えれば、広報のあり方も今後激変するだろう。

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