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アメリカの時代 シェール革命と人口成長

『新西洋経済史講義』より アメリカの時代

アメリカの衰退を論じる意見も多いが、世界経済で現状、唯一好調を維持しているのがアメリカ経済であり、今後の見通しも先進諸国の中では最も明るいといえる。ここでは、今後のアメリカ経済の好調な発展に寄与すると考えられる2つの要因を簡単に説明しておく。

まず、いわゆるシェール革命によるエネルギーの自給率の上昇と価格低下があげられなければならない。シェールガスは頁岩層に含まれる天然ガスで、その存在は古くから知られていたが、ガス田から採掘される在来型天然ガスに比べて採掘がはるかに困難であり、その生産はごく一部に限られていた。ところが、21世紀に入るとアメリカにおけるシェールガス採掘技術の進歩による生産コストの低下と、石油・天然ガスの価格上昇などがあいまって、かっては採算上不可能であったシェールガスの生産が商業ベースにのるようになった。生産量の拡大でアメリカ内での天然ガス価格は急落し、2013年にはアメリカ内の原子力発電所が経済性を欠くことなどから次々と廃炉となり、天然ガス火力発電への移行が進んだ。

アメリカ合衆国には莫大な埋蔵量が見込まれることから、世界最大の経済大国がエネルギー生産国として自給を達成し、低コストな原料・燃料が調達可能となる。そのため、アメリカの製造業が復活を果たすと見られている。また、国際的なエネルギーコストの低下は、各国の経済・産業・社会のみならず国際政治にも大きな変化をもたらす可能性がある。

シェール革命の第一のメリットは、天然ガスや原油の輸入削減、さらに輸出によってアメリカの貿易赤字が大幅に削減される可能性があることである。現在GDP比2%に達している化石燃料の輸入が2020年頃までにゼロになることのメリットは大きい。

第二のメリットは、物価の安定である。少なくとも中東産原油の需給動向によってアメリカ国内の物価が左右されるリスクは現象するし、貿易赤字の削減によるドル高も物価安定に寄与し、アメリカ経済の長期成長率を押し上げてくれる可能性がある。

第三のメリットは、アメリカを地政学リスクからかなりの程度解放してくれることである。中東原油への依存率が高いと、中東での政治的リスク、紛争リスクの影響を受けざるをえない。これを回避するためにこれまでのアメリカは多額の軍事費を費やしてきた。中東原油への依存度が低下すれば、中東に展開する軍事力を削減するという選択肢が生まれ、財政赤字の削減にも通じる。

アメリカはさらに、先進国のなかで唯一労働人口の増加を見込める国である。現在、アメリカは中国、インドに次ぐ世界第3位の人口大国で、その人口は3億1千万人あまりである。国連の世界人口推計によれば、中国の人口は2025年頃に約14億人でピークを迎えるのに対して、アメリカは2050年に4億人、2100年には4億8千万人に達するとみられている。

アメリカは歴史的に移民によって築かれた国であり、現在も移民の流入が続いている。人口に占める移民の割合は13%程度で、約4,000万人にのぼる。移民の出身地域も時代とともに変化し、国勢調査局によると、1960年時点の移民1,000万人程度のうち75%がヨーロッパ出身であったが、2010年には移民の約53%がラテンアメリカ、約28%がアジア出身であった。

人種や民族間における出生率にも差があり、CDC (Centers for Disease Control and Prevention)によれば、2012年の白人の合計特殊出生率は1.76であったのに対し、ヒスパニック/ラテン系は2.19、黒人は1.90、つまり、ヒスパニック/ラテン系移民などマイノリティは人口流入ペースが速いことに加えて、出生率も高いことからアメリカ国内での人口増にも貢献していることになる。

このように、移民の流入や出生率の差などによって、アメリカの人種・民族の構造は変化を遂げており、2000年のアメリカの人口の約75%が白人であったが、2010年には約72%に低下し、白人の割合は低下が続いており、国勢調査局によれば、2060年には69%に低下することが予想されている。一方で、現在マイノリティである人種の割合は高くなる見込みである。民族では、ヒスパニック/ラテン系の割合が大きく上昇することが予想されており、2010年時点で16%程度だったヒスパニック/ラテン系の割合は、2060年には30%を超える見込みである。

人口構成の変化は、経済や社会の将来を形成する上で重要である。まず、人口とともに生産年齢人口の増加が予想されており、アメリカ国内の生産量の拡大を促すことになる。また、人口成長は、個人消費や住宅投資などの国内需要に大きく貢献することも間違いない。

他方で、これまでの白人中心の社会構造が崩れてきており、すでに政治分野にも変化が現れつつある。たとえば、2008年の大統領選挙で黒人初の大統領となった民主党・オバマ大統領が当選した要因のひとつに、黒人やヒスパニック/ラテン系などからの投票率の高さがあげられる。2012年の大統領選挙でもオバマ大統領が再選されたことなどから、共和党もヒスパニック系/ラテン系などマイノリティ有権者の対策の修正が求められている。
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