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SFDC イノベーションコミュニティを通して顧客を統合する

『グランズウェル』より

セールスフォースそのものはソフトウェアではない。ネット上で提供されるオンデマンドサービスだ。そのため、ソフトウェアよりも迅速に機能を更新・強化できる。スティーブがスピードを重視しているのはそのためだ。

セールスフォースは急速に進化している。以前は年に三回程度しか新リリースを提供しておらず、各所から不満の声があがっていた。次のリリースに追加する機能をめぐって、開発者とマーケティング担当者の意見が対立することも多かった。顧客の声を聞けばいいと思うかもしれないが、そうしていなかったわけではない。問題は、要望が多すぎることなのだ。顧客の要望は一万件に達していた。素晴らしいアイディアもあったが、そうでないものもある。重要なのは、両者をどう見分けるかだった。

二〇〇六年、プロダクトマネジャーの一人が、この問題を解決してくれそうなアプリケーションを見つけた。「クリスピーニュース」だ。クリスピーニュースを導入すれば、ディグのように顧客自身が記事を評価できるようになる。しかもディグと違って、クリスピーニュースは企業にライセンスを供与していた。「最初は自社で開発しようと思っていたんです。でもクリスピーニュースには、我々の知りたい情報を見つけるテクノロジーがありました」とSFDCの市場戦略担当バイスプレジデントのジョン・タシェクはいう。その情報とは、「どの機能が最も顧客の嗜好とニーズに合っているか」である。

二〇〇六年秋、SFDCは「アイディアエクスチェンジ」を立ち上げ、顧客が開発アイディアに優先順位を付けられるようにした。それまでは顧客から寄せられるアイディアは降り積もる雪のように、ただ蓄積されるだけだった。しかし今は顧客のグランズウェルがアイディアを整理し、並べ替えている。初年度には五〇〇〇件を超すアイディアが投稿されたが、トップページに並んでいるのは選り抜きのものだけだ。SFDCのために、顧客自身が優先順位を付けてくれたのである。

こうしたアイディアの中には、SFDCにとっては受け入れにくいものもあった。たとえば初期に多くの票を得たアイディアの一つに、セールスフォースヘのログイン時に必ず表示されるテキスト広告に関するものがあった。最新のリリースやカンファレンスに関する情報を顧客に一斉告知できるソーバナーはマーケティング部門のお気に入りだったが、セールスフォースを仕事に使っている人々は不満を感じていた。「ファイアドッグという顧客がアイディアエクスチェンジに投稿した文章を紹介しよう。ソーバナーを抹殺せよ。永遠に。

こう思っているのは私だけではないと思うが、敢えて提起したい。セールスフォースにログインするたびに表示される、このいらつくバナーを何とかできないか。

(中略)この問題の解決を望む人は、ぜひ投票してくれ。もうソーバナーはたくさんだ!

このメッセージが投稿されると、たちまち六〇〇〇人が投票し、ソーバナーの廃止を支持する熱いコメントが何百件も書き込まれた。ソーバナーの廃止に関しては、SFDCの社内でも意見が分かれた。

スティーブや多くの開発者たちは、セールスフォースのユーザビリティをできる限り高めたいと考えていた。しかしマーケティング担当者にとっては、ソーバナーは顧客にメッセージを伝えるための重要な手段だった。

どちらが勝ったって? 顧客だ。

どちらの言い分にも理はあった。しかし重要なのは顧客の満足度だ。その意味では、スティーブたちの主張のほうが有利だった。ソーバナー問題は決着がつくまでに九ヵ月を要したが、その間にSFDCは他のアイディアにも優れたものが多いことに気づき、いくつかのアイディアを製品に取り入れた。そしてソーバナー問題に結論を出す時が来ると、顧客を信頼し、ファイアドッグの希望どおりにソーバナーを「抹殺」した。

アイディアエクスチェンジによって、SFDCの商品開発プロセスは一変した。スピードを重視するスティーブを喜ばせるような変化もあった。新リリースの提供回数が二〇〇六年の二回から二〇〇七年には四回に増えたのだ。現在のリリースには三〇〇もの新機能が含まれている。以前と比べると三倍も多い。なぜ状況は変わったのか? 答えは、信頼にあった。

今ではセールスフォースに追加される新機能の約半分が、アイディアエクスチェンジに投稿されたアイディアをもとにしている。大規模な機能検討会議を開いて、ああだこうだと推測する代わりに、顧客の要望を把握した上で開発を進められるようになった。その結果、無駄が省かれ、進化のスピードが速まった。
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