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新たな公共

『日本行政学』より

公共選択論的アプローチ

 一方、新しい公共選択論的アプローチは、公共性を追求するのは政府だけではないと考える。公共性の担い手は民間企業も含め的確な主体は多様に存在すると考える。市場の失敗の方が「政府の失敗」よりもましだとも考える。したがって、できるだけ市場原理に委ねようという立場に立ち、小さな政府をめざす。ここでは官と民を分ける蓋然性がないので脱二元論的思考を原則にしているといってもよい。

 尺間委託などを例とし仮に公共領域に官民が関わるべきだという考えに立ったとしても、従来の官民パートナーシップ論は、官が指示し民が作業を行うという厚生経済的アプローチをとっていた。だがNPMでのパートナーシップ論は、公共選択の立場から、原則として官と民という分け方をしない。いずれが優位であるかで判断しようという考え方をとる。また、官民の協働という考え方をとる。

 厚生経済学的アプローチは主体論であり、公共選択論的アプローチは関係論とも言える。主体論に立つと、官だから公共性を追求する、民だから私的利益を追求するという考えになる。しかし関係論では、民でも住民との間で約束によって公共性を担保できると考えるのである。

協働の考え方

 これからの公共経営を考えるときに、「協働」という考え方は大切である。しかし、これまで日本でパートナーシップに伴う協働がうまくいかなかった理由は、従来の法体系が主体論を支える二元論で成り立っているからだと言える。公権力の主体は役所だけであり、それに関わる行政は役所の守備範囲に属するという考え方に立っていたからである。

 そうではなく、NPMの公共性の考え方は個人主義に基づいている。これは、個から発して個に帰することである。個に帰するというのは利益だけではなく、責任にっいてもである。公共性とは住民も担うものであり、住民が公共性とは何かを考えるということになる。

 NPMでいう顧客主義の「顧客」を「住民」と捉えると厚生経済的アプロ-チになるが、公共選択論的アプローチでは、住民は単に受け手(受益者) ではなく、責任も負う「主体者」「参画者」と捉えるのである。そこでは自治体と主体者である住民、企業、NPO、NGO、ボランティアなどを対等のパートナー、協働の担い手と捉えるのである。

 もとより、NPMの考え方は直ちにこれが「行政の民間化」を意味する訳ではない。公共サービスヘの民間参入を拡大することではあるが、行政が責任まで放棄する話でもない。自治体でいうなら、柔らかな「新たな公共」の考えを取り入れ、従来の直接事業を直営的に執行する事業官庁から、執行を民同等に多く委ねそれをマネージメントする政策官庁に脱皮して行くことが求められる。

 行政はもともと利潤機会が乏しく、民間ではできない、民間がやってはならない公益性の高い分野を担うのが本来の仕事である。行政自体が民間の論理一辺倒になっては、行政そのものの存在意義を失うことになる。そうではなく、あくまでNPMの潮流は事業執行の効率性を高める点に主眼があるということを忘れてはならない。

「新たな公共」の考え方の整理

 いろいろ述べたが「新たな公共」について、もう一度要点を整理しよう。

 官民二元論の立場から公共を説明しようという考え方を「厚生経済学的アプローチ」とする。これに対し新しい公共経営(NPM) の考え方を「公共選択論的アプローチ」とする。この2つのアプローチは、対照的であり、公共性に対する考え方がまったく違うといってよい。

 すなわち厚生経済学的アプローチでは、政府だけが公共性を追求できる主体だと考える。ここでは官と民を明確に分ける二元論的思考を原則としている。民間の領域は市場原理によって処理するが、公共の領域は市場原理が働かない領域(市場の失敗) で官に問題処理を委ねる。結果として、公共領域は「官」独占となる。ただ、政治のメカニズムに意志決定を委ねると、大衆民主主義の結果、それに基づく福祉国家論は大きな政府になりやすい。

 一方、公共選択論的アプローチは、公共性を追求するのは政府だけではないと考える。公共性の担い手は民間企業も含め的確な主体は多様に存在すると考える。市場の失敗の方が「政府の失敗」よりもましだとも考える。従ってできるだけ市場原理に委ねようという立場に立ち、小さな政府をめざす。ここでは官と民を分ける蓋然性がないので脱二元論的思考を原則とする。

公共領域と私的領域

 よく考えてみると「公共」領域といえども、もともと「民」を排除して官が独占すべきだという根拠はうすい。むしろ採算ベースに乗らないから民が参入しないだろうという仮説に立っている。または利益を求めて行動すると望ましい結果が得られないから官が支配すべきだと考え、民を排除している。

 しかし、「公共」領域を国、自治体が独占することは良い結果を生まないという考えが台頭してきた。 1980年代以降、英国やニュージーランドを中心とした改革の流れを「NPM」と呼んでいる。

 |新たな公」について、イメージを図表3-1に示してみた。相互に入り組んだ斜線の部分が徐々に拡大しているのが現代社会の特徴とも言える。公的部門、民間部門がそれぞれの領域に入り組んでおり、「新たな公共」とひと言で述べてもその性質は微妙に異なっていると言えよう。ただ今後、こうした新たな公共領域は拡大していくものと思われる。そこでの官民の関わり方に関するルールづくりはこれからの課題である。

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