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超国家性と政府間主義の間

『国際行政論』より 地域組織の実験 ヨーロッパ EUの性格と課題

EUには通常の国際組織とは異なる超国家性が存在するという議論があり、他方、EC/EUも基本的には政府間の合意によって設立されたのだとする政府間主義と呼ばれる議論があった(Moravcsik 1998)。歴史的には、第二次世界大戦後のヨーロッパの復興プロセスの中で、国家の自律性回復と欧州統合は同時に進められたとする、「国民国家の救出」としての欧州統合論が主張された(Milward 1992)。前述のように、条約の締結のような場面では政府間会議が登場してくるため、政治学者は概して政府間主義の立場に立ちがちであった。また、日常的な運用においても、欧州理事会、閣僚理事会、CORPER、その下の各国からの参加者による作業部会等の重層的な直接的接触や二次立法の提案作成段階において各国が参画するコミトロジー手続きという局面では、政府間主義に適合的な現象が観察された。他方、法律学者からは、EU法が直接適用され、ECJが大きな役割を果たすEUのシステムは、通常の国際組織とは異なる超国家性のあるものと理解される傾向があった。

以上のような2つの立場に対して、国家をプリンシパル(本人)、EUの諸組織をエージェント(代理人)として理解する観点から、プリンシパル・エージェント理論に基づく議論も進められた。この立場からは、いかなる条件の下でいかなる理由でどの程度の自律性をEUの組織がもつのかという観点での説明が展開された。プリンシパルたる国家がEU組織に権限委譲を行う機能的理由としては、メンバー国の履行監視、不完全契約問題への対処、複雑な信頼性を要求される問題への対応、起案制限による効率化が挙げられた。そして、欧州委員会への権限委譲は、メンバー国の履行監視、複雑な信頼性を要求される問題への対応、起案制限による効率化の観点から説明されるとされる。 ECJへの権限委譲は、メンバー国の履行監視、不完全契約問題への対処の観点から説明されるとされた。他方、プリンシパル・エージェント理論では説明できないものとして、欧州議会が位置づけられた。また、プリンシパルたる各国がEUの活動を監視する方式としては、各国自らが積極的に監視にかかわるコミトロジー手続きのような警察パトロール型(能動的監視公式)と、ECJの利用に見られるような他者に監視を任せる火災警報型(他者にょる監視に依存する受動的監視公式)の2つが示された。

また、最近は、各レベルの専門家を含む主体間のディスコース(言説)の累積的変化に注目するディスコース理論の立場からのEU理解も見られる。競争政策の現代化改革(各国規制担当機関への分権化、事前規制から事後規制への転換、欧州競争政策ネットワークの創設)を例に考えてみよう。まず、この改革を、政府間主義に基づき加盟国政府による影響力回復の成果たる分権化と理解すべきである、あるいは超国家性をもつ委員会主導の政策合理化をめざす集権化と見るべきであるといった立場がある。これに対して、ディスコース理論の観点からは、委員会側・加盟国側のいずれかの主導権が反映されたわけではなく、それ以前から蓄積されていたディスコースを経由して生まれた、緩やかな対応とみなされるべきであると考える。つまり、中期的なディスコースの醸成が政策変容を導いたと考えるのである。

また、1993年のグリーンペーパー(欧州委員会が特定の政策分野に関して政策を準備する過程で刊行する文書)「ヨーロッパの社会政策(European Social policy)](1993)を契機とし、2000年に採択されたリスボン戦略において「ヨーロッパ社会モデル」が定着する過程においても、欧州委員会や議長国が作成するさまざまな政策文書とそれに関与する学者・専門家の役割が重要であったという。
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