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地上資源文明の技術体系

『科学・技術と現代社会』より 地下資源文明から地上資源文明へ

現在は地下資源の存在とその有用さが前提となっている社会だから、地上資源を主とするような社会や文明の形式を想像することは困難であるが、現実に進められている事柄から想像できる部分もある。

まず地上資源文明における技術体系は、地下資源文明のそれとは対極的な小型化・多様化・分散化が特徴となることは明らかだろう。そもそも地上資源は地下資源ほど効率的ではないから、大型化は困難であって小型で小回りが効く技術とならざるを得ないのだ。その典型として太陽光発電を考えてみればよい。大きなものでもメガワット(MW、一〇〇万W=一〇〇〇kW)であって、その敷地だけでも広大になり、原発のようなメガキロワット(MkW、一〇〇万kW)はとても困難である。むしろ、家庭用の三~四kWのものが屋根で発電するだけでなく、壁や車の天井やパラソルなど多様なタイプが開発され、あちこちにそれぞれの規模と目的に応じて分散的に発電するようになるだろう。行楽に太陽光パネルをバッグに積み込んで出かけるのが普通になるのである。

言い換えれば、地上資源文明を支える技術は小型化・多様化・分散化にならざるを得ず、それは文明の形態にも影響を与えるようになるのは確実である。その第一は、その技術から生み出されるものは少量生産であるから地産地消が基本になり、生産と消費の距離が小さくなることである。そのため生産過程が見えるからモノを大事にする習慣につながるし、廃棄にも責任を持つようになる。買い換え使い捨てをするような無責任な消費者ではなくなるのだ。それだけでもムダなエントロピーの発生を抑え、エネルギー節約体質が身につくだろう。

もう一つ、地上資源文明となることによって必然的に重要な生き方・考え方につながっていくことを挙げておきたい。エネルギーを自分で管理して自分で始末をつけ、自分の生活領域全般に責任を持つようになるから、中央にお任せではなく自らのことは自ら決定するという分権の考え方に馴染むということである。そしてまた、欲望に振り回されるのではなく、ほどはどの豊かさで満足する自足の精神が基調となるだろう。要するに自立した個人の共同体としての社会に近づくと期待できるのだ。発展論理ではなく、持続可能性を基調にした文明は地上資源の活用によってこそ実現されるのではないだろうか。

さらにつけ加えるとすれば、小型化・多様化・分散化の技術は自然災害の多い日本にはうってつけであることだ。地震や津波、台風や洪水などに襲われると、ライフラインや交通網は遮断され、近代的な技術は機能しなくなるのが通例である。特に大都会では、生活物資や食料品の補給が途絶え、水道や電気やガスが使えなくなり、ゴミ収集がなくなって山積みになってしまう。ほんの数日であっても、これらの不便や不衛生や不健康な状況になってしまうことは阪神・淡路大震災や東日本大震災で経験したことである。そのような場合、地産地消であれば生活物資や食糧の調達は比較的容易であるし、太陽光発電や井戸水の利用、ガスボンベや貯蓄式便所などのような小型で融通が利く製品であれば、どこでも即座に役立つことは明らかだろう。

私たちは、日頃電気やガスは地域企業に、水道やゴミの収集は地方自治体にお任せしているが、それらが機能しなくなると何もできなくなってしまう。通常の生活ではそのような状況は夢にも思わないが、いったんそれら全体が止まってしまえば何もできなくなってしまうのは当たり前だろう。そのような惨状は地下資源文明における集権体質に慣らされているために生じることであり、私たちは天災に対して、実にひ弱な体質になってしまっているのである。地上資源文明での分権意識に基づく自己管理が身についておれば、災害に遭遇しても大きな苦労なく乗り越えることができるのだ。

以上述べた地下資源文明と地上資源文明の対比を図式的にまとめておこう。

         地下資源文明         地上資源文明

 技術体系    大型化・一様化・集中化    小型化・多様化・分散化

 経済構造    大量生産・大量消費・大量廃棄 少量生産・少量消費・少量廃棄

 生産と消費   集中生産と遠距離輸送     地産地消

 消費形態    買い換え・使い捨て      ものを大事に・長持ち

 人口の動向   大都会への集中        都市・地方への分散

 体質      お任せ体質          自立体質

 エネルギー使用 浪費型            節約型

 政治体制    集権体制           分権体制

 思想      発展・成長          持続可能性

 欲望      もっともっと         ほどほど

 経済体制    資本主義           共同体主義

 利益      短期の利得          長期の収支

 貧富の格差   拡大             縮小
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