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図書館員に求められる新しい専門性

『図書館員のためのPR実践講座』より いま図書館員に求められる専門性

この現実を直視して、図書館界にはいったい何か不足していたのかを謙虚に考え直す必要があります。

サービス改善やイベント企画、コミュニティヘの広報などの積極姿勢が求められるようになった現時点で省みれば、少なくとも20年前の時点で、図書館の現場で本当に必要とされていた「専門性」として、⑤指導力(指導サービス実施能力),⑥企画広報力,⑦組織力,⑧政治力などが不足していたのではないか、と思われます。

これらの能力要件は、いずれも図書館員が従来の司書養成課程や実務研修で教えられていなかった苦手な分野です。こうした落とし穴が、司書職の社会的評価の急落原因(の一つ)となったことは間違いありません。

本書では、特に教育的指導や企画広報にかかわる「伝える力」「教える力」こそが「専門家」のイメージを形成する決定的要素となるという視点から、課題と対策を整理していきます。

■非専任化・外部委託の増大

 人件費が削られると、当然ながら専任正規職員が減って、嘱託・派遣職員が増え、業務の外部委託が拡大していきます。ベテラン職員の図書館外への異動や定年前退職も多くなります。

■知識インフラの空洞化

 人の流動化が進んだ結果、長年図書館員が積み重ねてきた知識や技能が次世代に引き継がれなくなっていきます。やっと引き継いだと思ったらその人が辞めてしまい、また新しい人が来たからゼロから教えなくてはならないということが常態化していきます。

■図書館員の情報リテラシーの陳腐化

 さらに、日々進展する技術革新に対して図書館員自身の情報リテラシー(情報活用能力)が陳腐化していきます。日常業務に追われ、研修に行く時間がなかなかとれなくなります。文献データベースは、少し目を離すと中身も操作法も大幅に変わってしまうことがよくあります。利用者に指導する以前に、図書館員自身がその変化に追いつけないという深刻な事態に陥ります。

■図書館員の事務能力への疑問符

 新しいサービスを展開できない理由として、図書館員は「忙しい」という言葉をよく使います。しかし、なぜ「忙しい」のか、その原因を掘り下げて省力化を図る努力は十分だったでしょうか。

図書館員は専門家である以前に、職場での仕事を効率的にこなすために基本的な事務能力を備えていなければなりません。ところが、親組織の職員の平均的な事務能力と比べて、かなり下回っているのではないかという疑問の声を耳にします。

こうした状況が厳しい逆風となって、図書館員が目指していたはずの職業的専門性は崩壊の方向へ一気に動き出したのです。

結局、専門性の4点セットでは、図書館員の社会的地位の向上どころか、地位の低下を防ぐことさえできなかったのです。

たとえば専門職の典型である医師や弁護士の場合、資格を取って就職口がないという事態は社会問題になります。いまや司書の資格を取っても公共図書館の正規職員の就職口はほとんどありません。司書課程のある大学でさえ、司書課程の卒業生を自分の大学の図書館員に採用することはめったにありません。どうしても図書館で働きたい人は派遣や委託の会社で非正規職員になるか、無給あるいは低賃金のボランティアになるしかありません。

職種としての図書館員が、いわゆる「ワーキングプア問題」を報じる新聞記事の中で繰り返し挙げられるようになっているということは、コンビニのアルバイターなどと同程度の、専門性の低い職種と見られていることを示しています。専門職としての社会的評価はほぼ失われてしまったのです。
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