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コンビニは日本型流通の究極の形か?

『商店街はいま必要なのか』より コンビニエンス・ストア--日本型コンビニと家族経営

この章では、日本型コンビニが、さまざまな革新的要素に満ちあふれた画期的な小売業態であることを説明してきました。POSシステムによる単品管理の導入、多頻度小口配送の実現、フランチャイズ・システムの「効率性」などを基盤として、安売りはしないが、売れ筋商品を揃えて年中無休・長時間営業・最寄り立地という利便性によって、「厚利多売」とも言える画期的なビジネスモデルを生み出したという内容です。

コンビニという新業態の登場は、既存の中小小売店の近代化・活性化にもつながるものでした。すでに確認した通り、実際に、コンビニのフランチャイズ店には、地元で近所の酒店、食料品店として続いてきた小売店から転換したものが多かったからです。本部企業の側も、そうした中小小売商がもつ便利な立地や資産の蓄積を活かすことで、速中かに店舗を広げることができました。そのようなタイプのフランチャイズ店が、直営店を上回る売り上げをあげていたととも、本論のなかでみた通りです。

言い換えれば、日本型コンビニの発展を支えてきたのは、フランチャイズ店の経営に手を挙げた、まちの酒店、食料品店などの中小小売商だったのです。そのなかには、商店街に立地する小売店も少なくなかったことでしょう。日本の中小小売店が、全体として一九八〇年代半ばから減少へ転じ、商店街がさびれていく状況があらわれてからも、コンビニという業態のなかで、多くの中小小売商が発展のチャンスをつかんできました。

一方で、コンビニ店の経営をめぐっては、「コンビニ会計」におけるロス・チャージや、オーナー夫婦による過重労働、そして、それに基因する「ブラックバイト」など、さまざまな問題も生じています。これらは、それ自体として、間違いなく大きな問題と言えます。

しかし、本部企業は、そこから得た利益も含めて、商品開発や情報基盤整備に投資することで、消費者にとってますます魅力的な店舗を運営できるよう努力を重ねています。その意味では、日本型コンビニの姿は、利便性やサービスに重きを置く、日本の消費者が育ててきたものであるという見方もできるでしょう。

このように整理してみると、フランチャイズ・システムにおける家族経営の担い手も、品質やサービスに対する高い要求水準をもつ消費者も、ともに日本型流通の歴史のなかで培われてきたものであり、日本のコンビニを、日本型流通の申し子として捉え直すことができると思います。

ここまで本書を通じてみてきたように、日本型流通の歴史には、商店街という場において、消費の論理が、地域の論理や労働の論理と、ときに緊張をはらみつつも、総じてづフンスをとりながら、モノの売り買いが行われてきた時代がありました。商店街は、消費と労働と地域を結び合わせる商人家族に支えられ、そこでモノを買う人びとは、そうした商人家族に対して、ひとりの人間として、お互いの顔が見える形で向き合っていました。

それに対して、近年のさびれゆく商店街の状況と、「まちづくり」による活性化の難しさは、消費の論理と地域の論理が接点をもちにくい「いま」の流通を照らしています。商業機能と結びつかない形で、どんなにコミュニティ活動に力を入れても、それは真の意味で商店街を活性化させることにはならず、「まちづくり」が商業機能と結びつかないのであれば、商店街というコミュニティの形にこだわる理由も見いだせません。

逆に、日本型流通の申し子たるコンビニは、消費者のために、いわば消費の論理を突き詰めることで急速な成長を遂げてきました。しかし、結果として、そのことが労働へのしわ寄せとなって表れ、消費の論理と労働の論理が大きくバランスを崩しているように見受けられます。

消費者のために、安く、便利に……。しかし、そもそも人は消費者としてのみ生きているわけではなく、「消費者の利益」を追求することは、それ自体として、ただちに万人の幸福を約束するわけではない。本書から見えてきたのは、このような、考えてみればどく当たり前とも言えることです。それではいったい、「消費者」とは誰のことであり、「消費者の利益」とはどのような「利益」なのでしょうか?

こうした問題を念頭に置きつつ、小売革新の展開が私たちの暮らしを豊かなものにしてきた歴史もしっかりと見据えながら、改めて、地域社会のありようや人びとの働き方の視点を含む、トータルな人間としての「生活」をどのようなものと考えていくのか。「商店街はいま必要なのか」という問いに答えを出すのは、このような議論を積み重ねてからでも遅くはないと思います。消費と労働と地域を結び合わせる「生活」が、いま、問われています。
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