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若者×社会 変わるコミュニケーション

『日本の現場』より 群青の風 若者×社会 変わるコミュニケーション

教室で聞いた意見 単純ではなかった考え(2016年1月7日)

 昨年6月中旬、屋代南高校(千曲市)1年2組の教室。副ルーム長の堀内彩香(あやか)さん(15)がクラスメートに声を掛けた。「ねえ、文化祭の『桜苑(おうえん)祭』で着るクラスTシャツ、何色がいい?」

 堀内さん、ルーム長の五十嵐悠実さん(16)は数日前、無料通信アプリLINE(ライン)上のクラスのグループ「やなみとか言う2組」で、Tシャツを赤や紫、黄など8色の中から選ぼうと、希望を募った。LINE上で意見が割れてまとまらなかったため、希望を出さなかった人、グループに加わっていない人に、教室で意見を聞いていた。

 「俺?」。バドミントン部の中村新(あらた)君(16)は、堀内さんの呼び掛けに振り向いた「うーん、紫かな…。何でもいいけど」。Tシャツはクラスが気持ちを合わせるため、大切なものだと思っていた。色は全員がそろっていれば、何色でもいい--と考えた。

 ◇

 2組のLINEクループは、スマートフォンの扱いに詳しい込山湧也(ゆうや)君(16)が4月上旬に作った。「連絡用にあったら便利だから」。知っているクラスメートを招待し、加入者がまた別のクラスメートを招待する形で増やしていった。集合時間や持ち物などの連絡も投稿され、2組にとって便利な連絡手段になっていった。

 五十嵐さんがLINEクループでTシャツのデザインや色の希望を募った6月上旬、クラスの27人のうち、20人ほどが加入していた。残りはグループに入らないか、従来型携帯電話「がラケー」の生徒だった。

 クラスの1人、書道部の酒井琉渚(るな)さん(16)は4月下旬、込山さんからグループに招待する案内が来たが、入らずにいた。中学1年のころからスマホを使いこなしていたものの、「多人数で会話するLINEのグループに加入するのが苦手」だった。

 酒井さんは、堀内さんらに教室で「何色がいい?」と聞かれて初めて、Tシャツの色の希望を募っていることを知った。酒井さんは、色にはそれはどのこだわりは持っていなかった。LINEで先にクラスメートの意見を聞いていたことはそれほど気にしていない。今は、その場で何色と答えたかも忘れてしまった。

 色ではなく、自分がこだわりを持っている何かが、自分の知らないLINE上で先に話し合われていたらどう感じただろうか。

 Tシャツの色をめぐるLINE上での希望はぱらけたけれど、例えば「多数の意見」が固まってしまった後、LINEグループに加わっていない自分が、「私は意見が違う」と言えるだろうか。

 酒井さんも「言いづらい」と思う。

 ◇

 五十風さんは今、一人一人にTシャツの色について聞いた時のやりとりを「あまりよく覚えていない」。同じ色でも強く希望しているのか、それはどこだわりがないのか、色は妥協できるけれどデザインは譲りたくない--など、クラスメートの考えが単純ではなかったことは覚えている。

 普段通りにLINEを駆使し、「多数決」で絞る道を選んだのは、文化祭への準備に追われ、忙しかったこともある。自分の考えは伝わったと思っていたが、心のどこかで、一人一人の顔を見ながら話すことが面倒だと感じていたかもしれない。

 堀内さんも「Tシャツのデザインや色は、できれば早く決めたかった。そんな雰囲気がみんなに伝わり、異論が出なかったのかな」。

 「今回採用できなかった少数意見は、来年のTシャツ作りに生かせれぱいい」。五十嵐さんは、その思いをまだ口にはしていない。

話し合いって何だろう 相手との違い理解して(2016年1月8日)

 昨年6月中旬、屋代南高校(千曲市)1年2組のホームルーム。ルーム長の五十嵐悠実さん(16)は、普段と変わらない表情で教壇に立ち、クラスメートを見つめた。

 1ヵ月後に迫る文化祭で着るクラスTシャツをどうするか。副ルーム長の堀内彩香(あやか)さん(15)が、LINE(ライン)でTシャツのデザインや色を決めたと担任教諭の山口雅子先生に報告した時、「LINEじゃなくって、ちゃんとみんなで話し合いなさい」と言われていた。

 LINEや直接の聞き取りの結果を踏まえて切り出した。「LINEでは赤色が1番希望が多かったです。赤色が良い人は?」

 クラスのほぼ半数が手を挙げた。五十嵐さんは「赤色でよいでしょうか」と意見を求めた。異論は出なかった。

 Tシャツを話し合うクループで、自分の本音を言えなかった尾和佳依(おわかい)君(16)は結局、最後の場面でも発言しなかった。「いまさら感はより強くなっていた」

 ◇

 2組では7月の桜苑(おうえん)祭に向け、クラス展の内容や、前夜祭でクラスことに発表するパフォーマンスの中身も並行して話し合う必要があった。正副ルーム長の五十嵐さん、堀内さんは、桜苑祭実行委との打ち合わせにも奔走した。

 2人の姿を見ていた池田慧(けい)子さん(15)、栗林志帆さん(15)は桜苑祭の数日前、内緒で昼休みや掃除の時間にクラスメートに声を掛けた。「2組のために頑張った2人に感謝のメッセージを送ろうよ」

 2組の生徒たちは昨年8月22日昼、高校近くの焼き肉店で桜苑祭の打ち上げをした。27人のうち都合がついた20人ほどと、山口先生が顔を出した。食べ放題の焼き肉が一段落したころ、池田さんらが代表して五十嵐さんと堀内さんに色紙を手渡し、「ありがとう」と伝えた。2人はともに「ありがとう」と答え、顔をほころばせた。

 五十嵐さんは、その場でスマートフォンをかばんから出して、2組のLINEグループに感謝のメッセージを投稿した。

  みんな色紙ありがとう

  ひとりひとりのメッセージ

  ちゃんと読みました。ほんとありかとう

  めちゃくちゃめちゃくちゃ嬉(うれ)しかったです

 4分後、池田さんが返信した。

  いえいえ! 喜んでもらってうれしいです!

 目の前にいる者同士。感謝や感動を共有するために、LINEを使う。

 ◇

 堀内さんは昨年8~12月、千曲商工会議所が月1回、地域のまちづくりについてアイデアを出し合う「ちくま未来カフエ」に毎回出席した。12月5日には、高校生が地域に出て特産品などを売る「高校生マルシエ」を提案した。

 LINEでのTシャツをめぐるやりとりは、自分の希望する選択をやりとりするだけだった。でも、未来カフェでは、自分のアイデアを示し、なぜそれか良いと思ったのか説明し、聞いた側は自分のアイデアをどう感じたか言葉を返した。「話し合いって、言葉のやりとりを通じて、相手との違いを理解しながら、考えを深めることなんだ…」

 11月26日、生徒会の役員改選に合わせ、正副ルーム長は交代した。ルーム長には尾和君が立候補して就いた。

 「言いたいことを言えなかった自分でいることが嫌だった」。大事なことを一からみんなで決める話し合いはどうすればいいのか。やはりLINEを使うのか、それとも--。2年の文化祭に向け、今から次のクラスTシャツの決め方を思い描いている。
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