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新しいライフスタイルヘ

『2033年地図で読む未来世界』より

石油依存症の現代社会

 これまで、アメリカ合衆国の自動車保有率(2006年時点で1000人あたり820台)は、世界の石油の需要と供給のバランスを判断する基準とされてきた、だが、将来は中国の自動車保有率が世界の石油事情の重要なカギを握るようになるだろう。2010年9月時点で、中国の自動車保有台数は、人口1億5000人に対してわずか7600万台にすぎない。しかし中国政府の発表によると、2020年には2億台まで増加すると見込まれている。これはアメリカの2億5000万台(2010年)に迫る勢いだ。しかもこの時点でまだ中国の自動車保有率は、1000人あたり143台にすぎないのである。はたして考え続ける自動車に対して、エネルギーを供給しで増え続けることはできるのだろうか。当然、石油製品だけでまかなうにはすぐに限界がくるだろう。

 石油をたくさん消費するのは自動車の燃料だけではない。自動車が通行するための道路も、建材や舗装用アスファルトに大量の石油が必要とされる。将来的な石油不足に対応するには、石油に頼らずに道路を作ることができる材料や技術を見つけなければならないだろう。

 石油消費量の増加には、国際貿易の拡大も大きく関係している。まず、グローバル化に伴って取引される物資の量が増えたため、そして、農作物の栽培地と加工地、あるいは工業製品の製造地と消費地を隔てる距離が1990年頃から徐々に延びてきたためである。輸送量が増えたり、輸送距離が延びたりすれば、それだけ多くの燃料が必要になる。将来的な石油不足を考えると、物資の量を減らし、輸送距離を短くする方向へ早めにシフトする必要がある。

 だが、これは経済を国際貿易に依存している国にとって大きな痛手となるだろう。欧州のように比較的小さな国同士が隣接している地域はよいが、アメリカ合衆国、カナダ、ロシア、オーストラリア、中国のように国土が広大で他国との距離が離れた国々で輸送距離を短縮させるのは難しい。また、すでに地下鉄、バス、電車などの公共交通機関が整備されている都市であれば、石油に頼らない町づくりもスムーズに進むだろうが、ロサンゼルスやラスベガス、オーストラリアのキャンベラ、カザフスタンのアスタナ、パキスタンのラワルピンディ、ブラジルのブラジリアのように自動車が主要な移動手段である都市では、省エネ交通システムの整備に多大な費用がかかるだろう。

 人間社会はどれほど化石燃料に依存しているのだろうか。具体例を見てみよう。農作物が畑で栽培され、食品としてわれわれの手元に届くまでには、大量の化石燃料が使用されている。畑で使われるトラクタやコンバインのディーゼルエンジンの燃料は、軽油や重油などの石油製品だ。農作物の生育を助ける窒素肥料は天然ガスから、殺虫剤や除草剤は石油から作られている。農作物の種や肥料、収穫物はたいていトラックで輸送される(燃料は石油製品)。農作物が工場に到着すると、そこで食品に加工され (工場で使われている設備も石油製品を使用)、石油を原料とするプラスチックで包装され、冷蔵・冷凍保存され(電気を発生させるのに化石燃料が使われる)、われわれの手元へ輸送される……。

 つまり、化石燃料が安く簡単に手に入るからこそ、われわれは今の食生活を享受できているのである。およそ40年前、こうした食品生産システムが世界中に普及したおかげで、われわれはいつでもどこでも食糧を入手できるようになった。だが、もし原油価格が一気に高騰すれば、システム全体に多大な影響がもたらされ、世界の多<のひとびとが食糧不足に苦しむことになるだろう。実際、2008年に起きた世界的な食糧価格の高騰は、農作物の生産国における原油価格の上昇に端を発していたのだ。

 医療分野も化石燃料に大きく依存している。医学研究、ワクチンや抗生物質の製造・保管・輸送、医療施設の運営、水道設備や汚水処理場の整備……すべてに化石燃料は必要だ。われわれが健康を維持するのに化石燃料が必要不可欠だとしたら、もし化石燃料が不足したり価格が高騰したりすれば、世界の多くのひとびとが充分な医療を受けられなくなり、伝染病の流行を招きかねない。とくに発展途上国はほとんどの国が財政難にあるため、化石燃料の価格高騰に対応することができないだろう。

新しいライフスタイルヘ

 結局、工業化社会であろうが、第3次産業の割合が高い脱工業化社会であろうが、現代社会はあまりにも化石燃料に依存しすぎているため、ささいなことですぐに崩壊する危険性をはらんでいる。あらゆる分野のすべての活動に、1次エネルギー、とりわけ石油が必要とされる。だからといって石油に依存しない社会を構築することも簡単ではない。代替エネルギーの研究にかかるコストのほか、各産業分野において新しいシステムを構築する費用など、公共・民間のいずれにおいても多大な予算が必要とされるからだ。その上、たとえ莫大な予算をつぎこんだとしても、それで従来通りの生活が続けられるわけでは決してない。われわれはこれまでのライフスタイルを根本から見直す必要があるのだ。

 代替エネルギーヘの移行が進まない理由は主に4つある。1つ目は、化石燃料のエネルギーの効率のよさだ。太陽エネルギー、水力、風力、バイオマスなどの再生可能エネルギーに比べて、石油のエネルギー効率は格段によい。2つ目は、化石燃料のコストの低さ。3つ目は、化石燃料の利便性。再生可能エネルギーより輸送や保管に向いていて扱いやすい、そして4つ目の理由は、まさにわれわれの石油依存症である。われわれ人間は、日々の生活において、子どものおもちゃから空の旅まで、石油にどっぷりと依存している。そこからいかに抜け出すかが最大の問題なのである。
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