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パブリック・ライブラリーの成立

『公立図書館の無料原則と公貸権制度』より アメリカ合衆国に誕生したパブリック・ライブラリー要件 ⇒ 20年前にパブリック・ライブラリーの概念を聞いて、驚いた。それ以降、米国/北欧の図書館を訪ねた。これこそが、本当のシェア社会をなすものである。

成立の過程

 一般に、英語の“Public Library” に対応する日本語が「公共図書館」であるように考えられているが、これは正確ではない。“Public Library”の歴史をたどることで、「公費支弁・利用の公開性・無料原則」などを備えた公立図書館を示すことが判明してくる。したがって本書では、“Public Library”について検討する際は、日本語の訳語を当てはめずにそのまま「パブリック・ライブラリー」を使用する。

 アメリカ合衆国において、近代パブリック・ライブラリーの歴史をたどることは社会機関としての図書館の成長を検証することである。パブリック・ライブラリーの歴史は、偏狭な保存機能から民衆教育の推進を目指す広範なプログラムヘの移行の記録でもある。パブリック・ライブラリーの目標の変化は、社会自体の変容を反映しているにすぎない。また、近代パブリック・ライブラリーは、民主主義にとって啓蒙的な選挙民が必要であるということを代弁しているのである。

 アメリカ合衆国におけるパブリック・ライブラリーの成立の時期については、多くの主張がある。この論争は、パブリック・ライブラリーという語が正確に定義されていないことに由来していると考えられている。

 パブリック・ライブラリーの定義について、図書館の利用に注目したシカゴ大学のカールトン・ジョッケルは次のように述べている。それは、「一般的な性質の無料図書館サービスをある特定のコミュニティあるいは、そういうコミュニティの一部に対して提供するために、公的に責任を持たされてきたか、自発的に責任を負ってきたような図書館なら、どれでもパブリック・ライブラリーと考えられる。結局のところ、定義を正確に述べることは難しいだろう。しかし図書館がコミュニティのパブリック・ライブラリーとして認識されることを示すのは比較的易しい」というものである。この定義では、パブリック・ライブラリーを正確に表すものとは言えない。むしろパブリック・ライブラリーの定義を正確に述べることが難しいという結論が重要である。

 しかしパブリック・ライブラリーの用語の定義をしなければ、パブリック・ライブラリー運動の開始時について主張ができないのである。

 1850年にスミソニアン・インスティチューション(Smithsonian Institutions)の図書館部長チャールズ・ジューエットは、連邦議会に図書館の報告書を提出している。同報告書では、パブリック・ライブラリーを7つに類型化している。その類型は、①州立図書館(States libraries):州政府の管轄下にある図書館・議会図書館も含む、②ソーシャル・ライブラリー(Social libraries):アセニアム(Athenaeum図書室、文庫)・ライシアム(Lyceums公会堂、文化会館)・青年会・職工学校・商事図書館等を含む、③カレッジ・ライブラリー(学生図書館を除く)、④学生図書館(Students' libraries):カレッジ・専門学校などにあり、学生団体が相互向上を意図して組織した図書館、⑤専門学校の図書館(Libraries of professional schools)とアカデミー(academies):神学校・法律学校・医学校・アカデミー等の図書館、⑥学術団体の図書館(Libraries of Learned Societies):科学協会・歴史協会等の図書館、⑦学校区図書館(Public school libraries):タウンシップや学校区を区域に、当該区域に住む全住民を対象にした図書館9)、などの7つである。つまり1800年代後半のパブリック・ライブラリーとは、現在の「公立図書館」だけではなくさまざまな図書館を含んでいたのである。

 したがって古い意味でのパブリック・ライブラリーとは、料金を徴収する図書館でも蔵書利用ができる(開放されてぃれば)とされていた。つまり蔵書の利用が開放されていれば設立の主体の公私を問わないし、有料・無料の区別も特に問われないものであった。

 それを示しているのはアメリカ図書館協会が編纂した1943年のGlossary of LLibrary Terma おける2つの公立図書館の定義のうち、2番目の定義に見られる。2番目の定義では「初期の時代では、コミュニティの全住民が利用できる図書館をいい、必ずしも無料である必要はない。個人文庫と区別して、この語が使われてきた。

 したがって、諸団体の図書館(Society library)や会員制図書館(Subscription library)も、パブリック・ライブラリーであったとしている。しかしこれには大学や学校関係の図書館が含まれていない。定義をした時が、1900年代半ばであるため、パブリック・ライブラリーの範囲が限定されてきていると思われる。

 パブリック・ライブラリーの初期の時代とは、ボストン公立図書館の設立された1854年頃を指すと思われる。アメリカ図書館協会の用語集の定義の2番目によると、この頃のパブリック・ライブラリーは必ずしも無料ではなかったということを示しているため、無料のパブリック・ライブラリーをフリー(無料)という文字をつけて「フリー・パブリック・ライブラリー」と呼んでいた。

 1885年にサンフランシスコ公立図書館館長のフレデリック・パーキンスは、「300冊以上の蔵書をもつパブリック・ライブラリーを約5000館とし、蔵書合計1300万冊、利用冊数合計1000万冊とした。そしてかなりの館は、あらゆる人の利用のために税や寄付で支えられている『フリー・パブリック・ライブラリー』である」と言及している。無料のパブリック・ライブラリーが多かったことが、この言及により判明する。

 1903年に、ニューヨーク・パブリック・ライブラリー初代館長ジョン・ヒリングスは「現在の大多数のパブリック・ライブラリーは、市政府から充当される資金で大部分あるいはすべてを賄っていると述べている。さらに1904年には、図書分類のデューイ十進分類法の考案者であるメルヅィル・デューイが慈善的意味を持つ「フリー」という文字を取り去るように提言している。デューイの提言により19世紀の終わりから20世紀初頭にかけて、パブリック・ライブラリーとは「公立図書館」を意味するようになっていったのである。

成立に関する要因

 近代的な図書館が始まったとされる1850年代にパブリック・ライブラリーと呼ばれた図書館にはさまざまな形態のものが含まれていた。複数の形態のパブリック・ライブラリーから、新しい社会機関としての図書館(パブリック・ライブラリー)と認められるようになるには、ある要因だけが影響してできるものではない。

 パブリック・ライブラリーという新しい図書館の形態が形成されるには、長期間に蓄えられた多くの諸力が収斂していった結果である。パブリック・ライブラリーの出現に貢献した要因について、次のような要因が考えられる。それは①経済力、②学術・歴史研究・資料保存への要求、③地元の誇り、④普通教育の社会的重要性、⑤自己教育とライシアム運動、⑥職業的彫響、⑦宗教・道徳・教会などである。

 これらの要因に加えて、ヨーロッパがアメリカ合衆国のパブリック・ライブラリーに2つの影響を与えた。直接的には、実際に組織形態を移植することで、パブリック・ライブラリーの促進に寄与した。ブック・クラブ、ソーシャル・ライブラリー、貸本屋などはすべてヨーロッパの模範に由来するか、企業心旺盛な商人がアメリカ合衆国に持ち込んだものであった。また間接的には、ヨーロッパは厖大な蔵書と組織を例示することで、興隆する文化の統合に図書館が重要であることをアメリ力人に示唆したのである。

 つまり、歴史研究や保存への要求、国や地元の誇りという力、普通教育の重要性に対する信念の成長、職業的問題への関心の増大、宗教の貢献等の要因が、アメリカ合衆国自身の経済力に助けられ、さらにヨーロッパからの刺激を受け、すべての人に無料の図書館を形成したのである。各要因の基礎にあるのは、アメリカ合衆国国民自身の影響であり、多くの個人が、パブリック・ライブラリーヘの信念を持ち、図書館の社会的価値をはっきりと信じていたことである。

 アメリカ合衆国がヨーロッパからの影響を受けたことを示す英国のパブリック・ライブラリーの状況を説明している文章がある。これは18世紀および19世紀初頭の英国において、「古い意味のパブリック・ライブラリー」が存在していたことを示している。Penny Rate:Asprchs of British Public Library History 1850-1950 の著作者であるW.A.Munfordが自著の序文で次のように言及している。「全国の大図書館はみな、18世紀および少なくとも19世紀初頭にあっては公共図書館(Public Library)であった。ジョンソン博士がこの言葉(Public Library)を何度か引用している。またローランドソン(Rowlandson)の1809年の魅力的な論文『ケンブリッジ公共(実は大学)図書館の内部観察』も良い例であろう。1820年頃までは多数の私営の図書館もこの言葉(Public Library)を使用していた。これによると、英国では、アメリカ合衆国よりも50年以上も前から古い意味でのPublic Libraryが存在していたことになる。

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