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人口減少社会における財政運営の難しさ

『一番やさしい自治体予算の本』より

□本格的な人口減少社会に突入した日本

 2010年の国勢調査で日本人の人口が減少に転じました。 1970年に1億人を超え、その後も順調に増え続けた日本の人口は、現在の1億2、800万人をピークに減少し、2050年には1億人を割ると推定されています。

  なーんだ、40年前に戻るだけか」

 いいえ、人口構造がまるで違います。40年前に比べ65歳以上の高齢者は4倍に増え、14歳以下の子どもは2/3に減りました。40年後には高齢者は現在の1.3倍に増え、子どもは6割に減り、少子高齢化は一段と進み、特に高齢者の増加は、年金などの所得保障、医療、介護など福祉需要の増加をもたらします。

□すでに進んでいる生産年齢人口の減少

 一方、この高齢社会を支える15~64歳の生産年齢人口はすでにピークを迎え減少を続けており、20年後には2割減少、40年後には4割減少します。人口の減少がそのまま就労者の減少ということになれば、日本全体の生産力は低下し、税収の減少は避けられません。

 政府や自治体をどの大きさにするかは、国民や住民が決めることですが、その経営には一定の税収と、それを稼ぎ出す一定の生産力が必要です。そのためには、就労者1人当たりの生産性の向上を図るほか、女性や高齢者、障がい者などの就労を促す政策、そのための子育て支援や、バリアフリー化など労働環境の整備が不可欠です。

□1人で1人を支える社会

 1970年には、65歳以上の高齢者1人を生産年齢人口10人で支えていました。それが2010年では3人になり、2025年には2人になると予測され、さらに、2050年には生産年齢人口が人口の約半分にまで減少し、1人で1人を支える社会がやってきます。この生産年齢人口には主婦や学生が含まれていますから、1人で1人を支える社会はもっと早くやってくるでしょう。未来は74歳まで働く社会になるかもしれません。

□自治体で進む人口減少

 人口減少は日本全体の問題なのだから、そういった政策は国がやればいい」。国と自治体の役割分担でいえばそのとおりです。しかし、人口減少社会は国よりも先に自治体にやってきています。

 先の国勢調査で全国の3/4の市町村で人口が減少していることがわかりました。一方で、大都市への人口集中が顕著です。東京都は5年間で人口が60万人増加しました。これは、政令市がひとっ増えたようなものです。

 人口の増減や、年齢構成などの変化によって、自治体に求められる政策・施策はまちまちです。自治体は国の下請け産業ではありません。今こそ、自ら考え、自ら行動する自治体が求められているのです。

□平成の大合併

 1953年から1961年にかけて行われた昭和の大合併で、市町村の数はそれまでの1/3の3、400になりました。人口規模8、000人が目安とされましたが、それは「中学校が運営できる規模にする」というものでした。

 これに対し、1999年から2006年にかけて行われた平成の大合併では明確な規模は示されていません。人口減少によって税収が減少する一方で、家庭や地域コミュニティの機能の衰退により、行政ニーズはますます増大しています。また、住民の日常生活圏の拡大により地域課題も広域化してきており、これらを効率的に解決するには、今まで以上に強い行財政基盤を有する自治体が必要です。

 こうして、合併特例債の発行や地方交付税措置の特例など、国の強力な財政支援により、3、400あった市町村は1、700へと半減しました。しかし、今でも人口1万人以下の自治体が500余りあります。

□知恵の時代

 人口増加社会では、GDPの拡大が不可欠でした(食べるために働くわけです)。しかし、人口減少社会においては、成長ゼロでも人口減少分だけ1人当たりのGDPは増加します。人口減少で人口密度が低下すれば、1人当たりの社会資本は増加し、住宅、土地問題や交通渋滞の緩和も期待でき、環境への負荷も軽減されます。このように、人口減少社会は決して悪いことばかりではありません。

 しかし、これはゼロ成長が前提であって、人口減少による労働力の低下、内需の縮小などによってGDPが低下する局面では、決して安閑としていられません。少ない労働力で生産を維持するため、労働生産性を向上させ、高い付加価値を生み出す必要があるのです。ここに21世紀が「知恵の時代」といわれる由縁があります。
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