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EEUとEU

『プーチン』より

メルケルの発言力

 EUの実態をみてくると、次のように大胆な問いを提起することすら可能だろう。つまり、EUの対口政策形成に主導権を行使しているのは、必ずしもアングロ・サクソン系の米国や英国なのではない。むしろ、ドイツなのではないか、と。現に、ドイツは「EUの盟主」とすらみなされている。もとより、ドイツは一枚岩でない。たとえば対口貿易に従事している六五〇〇社の大多数は、制裁解除派に属しているに違いない。とはいえ、現ドイツ外交の最終決定論者は、一体誰か。こう改めて問うならば、それは対口貿易に従事している実業家たちではなく、政治指導部、とりわけそのトップ、アンゲラ・メルケル首相とみなさなければならないだろう。同宰相の対口・イメージやプーチン観の変遷について語る前に、彼女の出自や経歴をごく簡単に紹介しておこう。

 メルケル首相は、旧東ドイツで教育を受け、ロシア語を自由自在に話す。ドイツ語に堪能なプーチン大統領との国際電話で、ドイツ、ロシア両国語を用いて、通訳抜きで直接話し合える語学力の持ち主である。そのことも手伝って、彼女はロシアと欧米諸国とのあいだで仲介者の役割を演じるケースすら少なくなかった。そのようなメルケル首相の対口観は、しかしながら、最近大きく変化した模様である。そのきっかけをやや面白おかしく語るならば、以下のごとし。同首相は大の犬嫌い。。ところが、そのことを十分知りつつもプーチン大統領は、彼女が二〇〇七年にソチの大統領公邸を訪問した際、ラブラドール・レトリバー種の愛犬、コニー(愛称)をけしかけて、メルケル首相に向って吠えたてさせた。以来、独首相は反プーチン主義者になった。真面目な話に戻るならば、メルケル首相の対口観を変えたのは、飽くまでもプーチンの政策や手法にほかならなかった。メルケルは、まず、二〇一一年九月、プーチンがメドベージェフに代って大統領ポストに復帰すると知って、失望した。メルケルは、メドベージェフの登場によってロシアがようやく近代化への道を歩みはじめたと思っていたからである。彼女は、オバマ米大統領(当時)を含む米欧の指導者たち、そして多くのロシア国民と同様、期待を裏切られ、プーチンによってだまされたとさえ受けとった。二〇一四年三月のクリミア併合は、メルケル首相にさらなるショックをあたえた。併合直後にオバマ米大統領との電話会談やドイツ連邦議会での答弁中で語ったとされる同首相による次のプーチン評は、全世界に喧伝される有名な科白になった。「プーチンは、もはや〔われわれとは〕別の世界に住んでいるようだ。彼は、ジャングルの掟に従う異質な存在である」。ちなみに、二〇一五年、メルケル首相は米誌『タイム』によって「世界で最も影響力のある一〇〇人の一人」に選ばれた。

 このようなメルケルを宰相に戴くドイツは、英国離脱後のEUのなかでおそらくこれまで以上に大きな指導力を発揮してゆくのではなかろうか。そのような予想は、ブレグジット決定直後に明らかになりさえした。たとえばブレグジットの報が入るや、ドイツのシュタインマイヤー外相(当時)は、EU創立メンバーをベルリンに早速招集して、対応を協議した。本来ならば、ドイツと同じく創設メンバーで当時EU閣僚会議の議長国をつとめるオランダこそが、アムステルダムでこの種の会議を主宰するのが筋だったろう。それにもかかわらず、ドイツは主導権をとり、自国で同会議を主宰した。そのようなドイツのイニシアチブに対して、その他のEU諸国は何ら異議を唱えなかった。

 ドイツは、EU統合の熱心な主唱者である。対照的に、英国は従来EUの共通通貨ユーロすら採用しようとせずにポンドの維持に固執し、自国をEUから一定の距離をおこうとする態度を採ってきた。このようにややもするとEUとの同一化を忌避しがちな英国が、EUを離脱した。この動きは、EU全体、少なくともドイツにたいしては必ずしも大きな打撃とはならないのかもしれない。むしろブレグジット後にドイツは、EU統合化を益々熱心に推進しようと試みるかもしれない。もしそうなれば、それは、EUの弱体化や分裂を希望するロシアの意向に必ずしも添う動きとはいえなくなろう。たとえば、ドイツの有力週刊誌『ツァイト』の政治編集長、ヨッヘン・ビットナーは記す。「メルケル首相はEUの統一こそが自由主義の諸価値の要塞、すなわちロシアにたいする政治的、経済的な防波堤であると信じている」。

 二〇一七年五月、トランプが初の欧州訪問をおこなった際、米国の新大統領は北大西洋条約の第五条を順守するとは必ずしも断言しなかった。このような様子をみて、トランプ下の米国、もはや侍むに足らずと痛感したのかもしれない。メルケル首相は、実際のべた。「他国に完全に頼ることができた時代は、ある程度終わりをつげた。(中略)われわれ欧州は、みずからの運命を自分たちの手に握らねばならない」、と。

ロシアはEUを必要

 そろそろこの辺りで、私は最も重要な問いを提起せねばならない。すなわち、はたして現ロシアはEUの衰を本気で望んでいるのだろうか? この問いにたいする私個人の答えは、「イエス・アンド・ノー」という煮え切らないものである。EUが二〇一四年三月のクリミア併合以来科している経済制裁にロシアが強く反発していることは、改めて言うまでもない。だからといって、しかしながら、現プーチン政権がEUの政治的弱体化以上のこと、たとえばEUの解体までを望んでいる--私は、このようにはとうてい思いえないのである。その理由は、以下のごとし。

 まず、ロシア経済が、EU経済と密接不可分ともいえる相互依存関係にあること。ロシアからみて、EUは経済パートナー、ナンバー・ワンなのである。アンドレイ・グロムイコ(ロシア科学アカデミー付属の欧州研究所所長)も、断言して止まない。「EUは、ロシアにとり最大の経済パートナーである」、と。ちなみに、同所長は、ソ連時代の外相、アンドレイ・グロムイコの孫である。逆にEU側からみると、ロシアは第四位の重要性を占める貿易相手。ロシアは、EUにたいして化石燃料資源を輸出している。ロシアからEUへの輸出品の八五―九〇%までもが、同資源である。ロシアの原油の八八%、天然ガスの七〇%がョーロッパヘ輸出されている。ヨーロッパ側からいうと、それが輸入する天然ガスのうち四四・五%、原油のうち三三・〇五%までもがロシアからであぴ。逆にEUは、鉄道車輛、航空機、各種機械設備などをロシアヘ輸出している。その全輸出の六五%までをも占める。

 以上の数字をまとめるならば、EUは、二〇一六年現在、ロシアの外国貿易高の四二・八%までをも占める重要パートナーなのである。これにアメリカとの貿易高四・二%も加えると、ロシアの貿易活動の半分近くまでもが、米欧諸国とのあいだでおこなわれていることになる。他方、アジア太平洋諸国との貿易高はたしかに拡大傾向にあるとはいうものの、現時点では未だ三〇・〇%(二〇一六年)に止まっている。ビジネスの世界では、売り手と買い手のどちらが優位とは、一概に断言しえない。天然ガスの売買にかんしていうならば、売り手のロシアは買い手のEU諸国を必要としている。とくにEU諸国は通常、中国よりも若干高値でロシア産のガスを購入してくれる。

 右にのべたような、ロシアがヨーロッパ諸国とのあいだで有する緊密な経済的補完関係の存在のゆえに、経済評論家のなかには「ヨーロッパがくしゃみをすれば、ロシアは風邪を引く」と評する者がいるくらいである。その讐えの適否は別にして、現ロシアはEUの脆弱化にたいして必ずしも「乾杯する気にはとうていなりえない」といっても、差し支えないのではなかろうか。

 EUは、ロシアにとり重要な存在である。このことは、単に経済上の観点から見てそうなのではない。プーチン・ロシアには、ヨーロッパ諸国との関係を決してなおざりにしたり、冷却化させたりしてはならない、政治・外交上の理由も有している。現ロシアは、ウクライナ、シリアを巡る紛争などによって、米国とのあいだでは「すわ、ミニ冷戦の到来か」と噂されるまでに厳しい状況に見舞われている。だからといって、しかしプーチン大統領は、宿敵アメリカとの関係の改善を目指し、米国向けにみずから率先してオリーブの葉を投げかける(和平の手を差しのべる)わけにはゆくまい。だとするならば、次善の策の一つとして、アングロ・サクソン両国に比べて必ずしも厳しい対口対決姿勢をとろうとしていないEU諸国--。これらとの関係を悪化させることは、ロシアにとり決して賢明な外交政策とはならないだろう。

EEUとEUの連携?

 もとより、右のようなプーチン大統領の言葉をそっくりそのまま額面通りに受けとることは、ややナイーブであり危険かもしれない。というのも、大統領が同会議で差し当たって狙った課題は、EUの対口経済制裁を緩和させることがその第一番の目的だった。そのために、大統領はEU諸国からの参加者たちにたいして可能なかぎりのリップ・サービスをおこなうことに努めたからである。じっさい、同大統領はSPIEFの本会議の前後や合間を縫ってEUの要人だちとの会合を精力的におこなって、制裁解除の必要性を陰に陽に訴えた。たとえば、次のような人々である。ジャン=クロード・ユンケル欧州委員会委員長(前ルクセンブルク首相)、メルケル独首相、フランソフーオランド仏大統領(当時)、二コラ・サルコジ前仏大統領、マッテオ・レンツイ伊首相……等々。

 但し、私の右のような推測とほぼ同様の見方をしている有力な人物が、少なくとも一人いる。ジョージ・ソロスである。ハンガリー生まれのュダヤ系大富豪。「ソロス財団」理事長として、ロシア情勢に並々ならぬ関心を抱き、かつ一家言も持つことで知られるロシア通である。そのようなソロスはのべる。「プーチンが『大ユーラシア』構想を提唱する理由は、一体何だろうか。増大する一方の中国の影響力に〔ロシアが〕対抗するためには、〔ロシア一国の力だけではもはや決して十分でなく〕ヨーロッパという巨大貿易ブロックの形成を必要とすると考えるからに違いない」。

 EEUとEUを統合する--。これは、奇想天外かつ突拍子もない発想かもしれない。しかしながら、少なくとも理論的には十分ありうるアイディアではなかろうか。もしロシアとEUの指導者たちが経済的側面のみに注目するならば、両組織の両立は十分可能だろう。というのも、EU側は、エネルギー資源、原材料、ある程度にまで習熟した労働力を必要としており、EEUはこれらをEUに提供できる代りに、己の経済近代化のための投資と先進技術をEUから獲得したいと欲しているからだ。

 ところが、誰しもが思いつくこの種の政経分離策は、現実には起こりえない。ひとつには、経済と政治・安全保障は互いに分かち難くリンクしているからである。二〇〇八年のロシア軍によるジョージアヘの軍事侵攻、二〇一四年三月以来のクリミア併合やウクライナ東部へのロシアの介入行為が、このことを裏書きしている。つまりこ言でいうならば、ロシア側は是非ともEUと協調し、経済分野での「大ユーラシア」を形成したくさえ思っている。他方でしかし、ロシアは安全保障・軍事分野で他の国家の主権や領土を侵犯することに些かも逡巡しないタイプの国家なのだ。

 したがって、EEUとEUの協力・連携シナリオは、少なくとも今日、ほとんど考えられない選択肢だろう。とはいえ、将来EUの対口制裁の緩和に伴って、そのような道が開かれてくる可能性なきにしもあらず--。もしプーチン大統領らロシアの指導者たちが、EUにたいしてそのような希望を持っているとするならば、彼らがブレグジットのニュースに接したとき、一概に「乾杯をあげる気分にならなかった」理由が、少しは分かるような気がしてくる。ロシア指導部は、ブレグジットを機にEU諸国が抱きはじめたEUの存続や将来性にかんする危機意識に自らが巧みに乗じることによって、それをEEUとEUとの関係強化の契機として活用できないかと思案した。このようなことが、十分想定されるからである。

欧州分断の新しい可能性

 二〇一六-一七年になると、プーチンを指導者に仰ぐロシアにとって、ひょっとすると米欧諸国を分断しうるかもしれないチヤンスがめぐってきた。そのような事情の発生の事由は、ロシアと米欧諸国の双方に存在する。

 まずロシアでは、クレムリンに返り咲いたプーチン大統領が、ロシア版「保守主義」を唱道するようになった。それは、元々トマス・ホッブズ、ジョン・ロックら欧米の思想家が説いた意味での「保守主義」とは明らかに異なっていた。というのも、欧米流の保守主義は、何よりも個人の確立をその前提にしているからである。それにたいして、プーチン版「保守主義」は、単にロシア特有の価値観や伝統を固守しようともくろむ、一種の国家主義の発想にもとづいている。端的にいうと、後者は人類普遍の自由主義や個人主義の原理を否定しようとする反欧米的思想とすらみなしうるだろう。とはいえ、プーチン版「保守主義」は、一部の西欧諸国での物質主義、拝金主義、フェミニズム、LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランス・ジェンダ上、無国籍文化の横行などに警鐘を鳴らす。そのために、単にロシアばかりでなく世界各国で、一部知識人や大衆の共鳴を獲得しやすい側面をもつ。

 次いで米国では、オバマ前大統領の対口制裁を批判して止まなかったドナルド・トランプが当選し、ホワイト・ハウス入りを果たした。オバマ前大統領に比べると、トランプはロシアにたいし宥和的な立場を採ることを厭わない政治家である。すなわち、ロシアにたいし制裁を科すことよりも、イスラム系移民の流入を防止したり、「イスラム国(IS)との闘いを重視し、ロシアと協力してこれらの難問に取り組んだりするほうが一層賢明とすらみなす。しかも、米欧諸国のなかには次のように考える人々が多くなりつつある。クリミアの併合やシリアで化学兵器が使用されたか否かなどは、今日明日の己の生活に直接関係しない遠い世界での出来事である。それに比して、イスラム圏諸国からの大量移民の流入といった彼らにとってより直接かつ深刻な問題が、後回しにされ忘れがちになるのは遺憾である。

 右に関連して、思い切って大胆かつ単純化してのべるならば、ヨーロッパの指導者たちは、現在、次の二つの問題に頭を悩まされているといえるだろう。一は、「東方」問題。すなわち、プーチン・ロシアが、ソ連解体でいったん喪ったはずの旧ソ連構成諸国の或るもの(たとえば、ジョージア)を、己が依然として「特殊権益をもつ地帯」とみなして、武力介入することすら厭わない傾向。この行為を懲らしめるためには、口シアにたいし無条件に抗議し、制裁を科す必要があろう。さもないと、〈武力で国境線を変更するべからず〉と約束した第二次世界大戦後の国際政治上の基本原則が反古にされてしまう危険がある。二は、「南方」問題。何か有効な手を打たないかぎり、ヨーロッパ諸国は、イスラム圏諸国から続々と押し寄せてくる移民を食い止めえない。そして、彼らの流入と全く関係ないと断言し切れないテロリズムの発生を、根絶しえない事態をみちびくだろう。

 右の二つの問題を比べる場合、「東方」問題はどちらかといえば原理・原則に関わる抽象的な課題である。それにたいして、「南方」問題は「今、ここにある危機」と評しえよう。これら二つの問題にたいしては、もとより同時並行的に闘う--これが正解のはずである。とはいえ、資力やエネルギーの点からいってそれが困難な様相を呈する場合、一体どうすればよいのか。ヨーロッパの指導者たちの関心がややもすると前者から後者へと移行するのも止むをえない。こう評さざるをえないのではなかろうか。
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「一帯一路」VS「ユーラシア経済連合」

『プーチン』より

「一帯一路」

 ロシアが米欧諸国によって手痛い制裁措置を食っている肝心要の時期に、ロシアとのあいだで「戦略的パートナー関係」を結んでいるはずの中国が、ロシアを積極的に助けようとする気配をしめそうとしない。いや逆に、米欧・ロシア間の確執を己に有利に利用しようとさえ試みる--。このような北京のマキャベリスティックな思惑を知って、モスクワは大いに失望したに違いない。だが、北京のモスクワにたいする仕打ちは、それだけでは済まなかった。北京は既に、ューラシア地域への拡張をくわだてている巨大経済構想を発表し、少なくとも結果的にはロシアを包囲しようとしていた。

 中国の習近平国家主席は、二〇一三年九月七日、カザフスタンヘの公式訪間中に首都アスタナで巨大経済圏構想「一帯一路」を提案した。シルクロードの現代版と呼ばれる「一帯一路」プロジェクトは、二つの柱からなる。まず陸路の「一帯」は、中国から中央アジア諸国を経てヨーロッパに至る「シルクロード経済ベルト」。鉄道、道路、送電網などを整備する。次に海上の「一路」は、「二十一世紀海上シルクロード」と名づけられ、中国から南シナ海やインド洋を経て、ヨーロッパヘ達する。

 もしこれら二つの柱からなる中国の「一帯一路」構想が実現するならば、ロシアは一体どういう状態になるのか。最悪のケースを想像すると、ロシアは、陸と海の両方で中国が事実上主導権を握る経済支配圏によって囲まれ、挟撃されることになるだろう。具体的にいうと、重要な商取引はロシアの頭越しにバイパスして決定され、実施に移される。これまでロシアの特権地域だった中央アジア諸国などでの権益が大いに侵蝕される羽目になるだろう。ロシアのシベリア鉄道や北極海コースによる運送・運搬活動の重要性も、著しく減少するだろう。ロシア自身が地政学的に「袋の中の鼠」同然の立場へ追い込まれる危険にすら直面するかもしれない。

 習近平主席が「一帯一路」構想を提唱したとき、プーチン指導部は呆然とし、立腹さえしたにちがいない。そのような驚きと腹立ちは、プーチン大統領が同種のアイディアを推進しようとする矢先のことだったために、さらに大きなものになった。というのも、既に「第8章 EEU」で詳しく説明したように、プーチン首相(当時)は、二〇一一年十月、自身のペット・プロジェクト、「ユーラシア連合」のアイディアを既に発表済みだったからである。

 「ユーラシア連合」は、しばらく後になって「ユーラシア経済連合(EEU)」と改名され、結局、新組織、EEUに加盟したのは、ロシアを除くと現時点では僅か四カ国に止まっている。すなわち、ベラルーシ、アルメニアのほかに、中央アジアからはカザフスタン、キルギスの二国のみである。中央アジアは、ロシアが依然として己の「勢力圏」とみなす地域である。中国はそのような地域に侵蝕を企て、EEUを吸収しようとさえしている。ともあれ、プーチン大統領は己のEEUプロジェクトに真正面から対立し、挑戦する「一帯一路」構想の提唱によって、さぞかし虚を突かれ、いやがうえにも警戒心を高めたにちがいない。

「一帯一路」VS「ユーラシア経済連合」

 ところが、二〇一四年三月のクリミア併合をきっかけにしてG7との関係を悪化させると、ロシアは中国シフトを強め、習近平提案のOBORにたいする態度を軟化させることになった。すなわち、中国の構想はプーチンのEEU構想と単に両立できるばかりか、十分協力し合える。こう説くようになった。実際、プーチン大統領が二〇一五年五月に上海を公式訪問したさいに習主席とともに調印した共同声明は、EEUとSREBの「連携」に協力することを謳った。同声明のタイトルは次のように銘打たれている。「ユーラシア経済連合とシルクロード経済ベルト建設の連携に協力することについてのロシア連邦と中華人民共和国の共同声明」。

 プーチン大統領は、二〇一七年六月、同趣旨を次のように繰り返した。「われわれがなさねばならないことは、ユーラシア経済連合とシルクロードという中国イニシアチブを結合することだ。これは可能だと確信する。というのも、われわれの目標は合致しているし、相互補完性をもつからである」。このように(意図的に?)楽観的な考え方をするジェスチャーをしめす同大統領は、同年五月一四-十五日に北京で中国が「一帯一路」構想をテーマとして初めて開催した国際フオーラムにも参加した。

 たしかに、これらの二構想は、事が最高にうまく運ぶ場合、両者間に一種の分業、あるいは「相互補完的な関係(プーチン大統領)が成立するかもしれない。ひとつには、両構想は願望から成っている夢の大風呂敷だからである。したがって、観念上は両者をいくらでも連携させることは可能だろう。ところが、その反面、同様の理由から両者を現実に「ドッキング」させることは、なかなかむずかしい。というのも、双方は巨大経済圏構想という点では表面的な類似性をもつものの、丹念にその趣旨を見てみると、「根本的な矛盾」が存在するからだ。というのも、「ューラシア経済連合」は関税同盟を発展させるという「内向き」志向の地域的な統合プロジェクトである。それにたいして、中国の「一帯一路」は、中央アジア、ヨーロッパ諸国間の自由貿易市場というフレキシブルなネットワークづくりを目指す「外向き」志向の試みだからである。また地理的な方向としては、ロシアが南北に伸びる貿易ルートの拡大・強化を目指しているのに対して、中国プロジェクトは東西間のルート拡大を狙っているからである。そして実際、「ロシアと中国それぞれの巨大経済構想を具体的に結合するための共同作業は未だ開始されていない」。

 いや、それどころか、ロシアの経済専門家のなかからは、中国の「一帯一路」構想がプーチン提案の「ユーラシア経済連合」を全く台無しにしてしまう結果を伴うことを心配する見解がなされている。たとえば、パーベル・ミナーキルが『エクスペルト』誌(二○一七・五・十五日号)に発表した論文が、その好例である。ミナーキルは、ロシア科学アカデミー会員の経済学博士。同アカデミー付属の極東経済研究所(ハバロフスク)の所長を長年つとめている人物。

 ミナーキルは、同論文で、中国の「一帯一路」経済構想がプーチン大統領提案の「ユーラシア経済連合」構想と真っ向から衝突するばかりか、後者を打ち負かす力にさえなろうとみなして、次のように警告する。「一帯一路」は「侵略的な理念」にもとづき、「ロシアの利害と衝突する可能性」を否定しがたい政策である。それは、「ロシア主導の〝ユーラシア経済連合〟構想を完全には阻害しえないまでも、その発展に大きな困難をもたらす」。たとえば、「ロシアの中央アジア諸国にたいする政治的、経済的な影響力の低下を招来させる」。また、「ロシアのシベリア鉄道やバム鉄道を経由しての『ユーラシア・トランジット』計画を無意味なものにする」。それにもかかわらず、ミナーキルは懸念する。「ロシアには、そのように試みる中国に対抗し、競争するための現実的な力を持だないのだ」、と。

 同じくロシア科学アカデミー付属のもう一つの研究機関、経済研究所(モスクワ)が作成した報告書も、ミナーキル博士とほぼ同様の見方を、次のように記している。「〝一帯一路〟構想は、〝ユーラシア経済連合〟プロジェクトに希望をあたえる類いのものでは全くない。両構想を結合しようと提案されているアイディアは、現時点で明らかに空転している。結果として、〝一帯一路〟が〝ユーラシア経済連合〟内部メンバー間の競争をいたずらに煽るばかりか、ヨーロッパの統合を浸食し、前者の構想が後者のそれを呑み込んでしまう可能性すら否定しえない」。

中央アジアは草刈り場に

 もしモスクワが北京による「一帯一路」構想の実現を許容するならば、ロシアは出口のない状態に追い込まれてしまう危険性なきにしもあらずだろう。というのも、モスクワはとりわけ中央アジアに対する己の既得権益をさらに浸食され、ひいてはヨーロッパヘの通路の一つをふさがれる事態にもなりかねないからである。もし万一そうなれば、それはロシアのサバイバル(生き残り)にとって由々しき一大事になろう。

 中央アジア--。この言葉で総括される地域は、かつてソ連邦を構成する五つの共和国だった。ソ連が明らかに己の「勢力圏」、いな「植民地」とすらみなす地域だった。俗な言葉でいえば、ソ連の「縄張り」ないし「裏庭」にほかならなかった。具体的には、キルギス(クルグスタン)、タジキスタン、ウズベキスタン、カザフスタン、トルクメニスタンの五共和国。ところが、ソ連解体後の一九九〇年代初め頃から、これらの中央アジア諸国にたいして、中国は果敢な攻勢をはじめた。己が天然資源を必要とする事情から止むをえない等の口実を用いて積極的に介入し、少なくとも結果的にロシアの権益を大幅に蚕食するようになった。

 中央アジア諸国の側も、中国からの支援を積極的に受け入れ、中国との関係を深めるようになった。いたずらに手をこまねいているだけでは、これまでどおりロシアに搾取されっづけるだけと考えたからだった。二〇一四年、中国は中央アジア諸国との貿易高を五〇〇億ドル伸ばし、貿易パートナー、ナンバー・ワンの座に躍り出た。他方、ロシアのこれらの諸国との貿易高は一八〇億ドルに留まった。二〇一六年九月時点で、たとえば中国はカザフスタンのエネルギー部門の約二五%の権利を獲得し、トルクメニスタン産の天然ガスの主要な買い手の地位にまでのし上がった。

 最近の中国政府は単にこれだけでは決して満足せずに、中央アジアを越えてさらにヨーロッパヘ通じる回廊すら己に確保する大構想を提唱するようになったのである。これこそが、さきからのべている「一帯一路」にほかならない。ルキヤーノフは、このことを北京による当然の動きとすらみなす。というのも、もしロシアが〝東〟方へ軸足を動かそうとするならば、中国が〝西〟方へ軸足を動かそうと試みて何らの不思議もないからだ。ルキヤーノフは、中国がヨーロッパに関心を抱き、己の勢力を拡大しようとする主たる理由として、次の三点を指摘する。第一に、中国はアジア太平洋地域で米国という手強い相手と対立していること。第二に、中国は己の東部、すなわちアジア太平洋沿岸地域の目覚しい発展の影に隠れて、ややもすると等閑視されがちな自国の西部地域を発展させる必要性に迫られていること。第三に、中国はヨーロッパ市場へ直接進出し、EU諸国とのあいだでの交流を活発化させようと欲すること。米国のロシア通、リチャード・ロウリーも近著『プーチン』(二○一七年)で、全く同様のことを記している。いわく、「ロシアは〝東〟へ軸足を動かし、中国が〝西〟へ進行するならば、両国が中央アジアで衝突するのは当然といわねばならない」。
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〈今〉は過去の思い出にすぎない

素数分解アプリ

 7桁の数字を素数分解する機能をスマホに入れ込む。トヨタの従業員コードもスタバのスタッフコードも7桁です。その数字が素数分解できるかどうかが過ぎ確認できる。これはゲームになり得る。番号チェックも容易です。

サカタが来た

 我が家の居間に入れる、ブラッセル駐在。唯一の女性がやってきました。マイナス7キログラムを半年 維持できたら、ヨーロッパというルールができた。ちょっと頑張ろうか。行きたいところはいくらでもある。アレクサンドロスのマケドニア。レバノン杉のベイルート。ヒュパチアのアレキサンドリア図書館。そして、ウクライナ。

 ヘルシンキ空港のスターバックスも結局まだ行ってない。三回前を通ったけど、工事中だった。コーヒー好きのフィンランド人がスタバを追い出したから、なかなか、戻ってこれないみたい。

ストロベリーベリマッチ

 スタバといえば今日からストロベリーベリマッチフラペチーノ。Rewardが貯まった後にしようと思ったけど、みのりさんによると売れ行きが伸びてる。まるごとバナナフラペチーノ以来。早めに飲まないとなくなるとのこと。

 今日、カウンターの横の席にいてそれが実感した。女性のほとんどが「ストロベリーベリマッチ・フラペチーノ」

〈今〉は過去の思い出にすぎない

 〈今〉が過去の思い出に見えてしょうがない。これを説明できるのは「永劫回帰」しかない。ニーチェも感じていたのでしょう。
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