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アウグスティヌスの内なる世界

『あなたの人生の意味』より 神の愛 アウグスティヌス 

内なる混沌

 アウグスティヌスは全体として見れば、アメリカンードリームならぬローマン・ドリームを早いうちに実現した人だったと言える。しかし、彼がそれで幸せになったわけではなかった。その裏で、アウグスティヌスの内面は分裂し、その分裂に苦しんでいた。彼の中には精神的なエネルギーが次々に湧いてきていたのだが、その于不ルギーには向かう先がなかった。向かう先がなければ湧いたそばから消滅するしかない。彼のアダム皿としての人生は悲惨な状況に陥っていた。「私は右往左往していた」彼は『告白』の中で書いている。「自分の内にあるものを外に吐き出そうとするのだが、それはあらゆる方向へと分散してしまい、あっという間にすべて蒸発した」

 驚くほど若いうちに成功したアウグスティヌスには、宮廷で演説をする機会も与えられた。ところが彼は、自分が発することができるのは空虚な言葉ばかりだと悟る。彼がたとえ嘘を話しても、その嘘がよくできたものであれば、聞いた聴衆は喜んだ。彼には、人生で本当に愛せるものは何一つなかった。何もかもを捨てて自分を捧げるに値するものには出会っていなかった。「私の内面は飢餓状態だった。内面のための食べ物が何もなかったからだ」と本人も記している。人に認められたいという渇望は喜びにはつながらず、彼を奴隷にしてしまった。深く考えられたわけでもない他人の意見に彼は簡単に左右された。ほんの少しでも批判されれば、敏感に反応した。黄金のはしごの段を一つでも上がりたいと願っていたからだ。そうして他人の評判ばかり気にしていたために、彼には心穏やかに過ごせる時がなくなってしまった。

 この時のアウグスティヌスと同じような状況に陥っている人は、現代の若者にもきっと多いはずだ。現代の若者たちも、周囲から評価されず、そのせいで得られるはずのものが得られなくなるのを極端に恐れている。どうしても体験したくなるような魅力的なことが世界には数多く存在している。だからこそ皆、それを自分だけが逃すのは嫌だと思い、是が非でもすべて体験したいと望む。目の前にある良いものは全部手に入れたいのだ。商店にどのような品物が売られているかには、常に興味津々だ。面白いものがあるのに、自分だけが知らずにそれを逃すのは恐ろしい。しかし、本当はどれかを捨てなければ、手を広げすぎになってしまう。さらに良くないのは、そうして貪欲に面白い体験ばかりを追い求めていると、人間がどうしても自己中心的になるということだ。このように生きれば抜け目なく立ち回れるので、人生は表面上まずまずうまくいく。だが何か大きな目的を掲げて、そのために秩序立って動くことはできない。一つの大事な「イエス」を言うためには、無数の「ノー」を言わなくてはならないのだが、その能力を失ってしまう。

 アウグスティヌスは、次第に自分か孤立していくのを感じていた。欲望が人生の基礎になれば、他人はすべて、自分の望みをかなえるための手段ということになる。何もかもが単なる道具ということだ。単に性的な満足を得るための手段として売春婦が使われるように。職場での同僚たちは、自分が仕事を完遂し、出世をするための道具だ。見知らぬ他人さえ、商品を売る相手としか見ない。そして、配偶者は、自分に愛情を与えてくれる人、いわば自分が愛情を得るための道具ということになる。

 「欲望」というと、真っ先にあげられることが多いのが性的欲望である。ただ、もちろんそれだけではない。ここでいう欲望はもっと広い意味だ。利己的な望み、自分勝手な望みはすべて、ここでいう欲望にあたるだろう。本当の恋人は、相手に何かを求めることよりも、相手に何かを与えることに喜びを感じる。しかし、欲望というのは、ただ相手から何かを得ようとすることだ。欲望にかられた人は、自分の中に空洞があり、それを誰かに埋めてもらおうとする。当然、自分の方から誰かに何かを与えようとはしない。人との間に互恵的な関係を築くことはできないのだ。それでは、内側の空洞を埋めることなど決してできはしない。多くの場合、欲望は空洞から始まり、空洞に終わるということだ。

 アウグスティヌスは、一五年間、関係の続いた身分の低い内縁の妻について、「愛を求める自分の欲望を満たすためだけの取引だった」と後に書いている。ただそれでも、二人の関係が完全に空虚なものだったはずはないと思われる。アウグスティヌスほど強い感情の持ち主が、誰かと一五年間も夫婦としての関係を続けたのだから、それが表面的で軽い関係に終わるとは考えにくい。まず、彼は二人の間に生まれた子供は愛していた。また「結婚の良いところ」と題された文章の中で、間接的にではあるが、白身の妻の物に動じない態度を褒め称えたりもしている。ただ後に、より社会階層が高く、裕福な女性と結婚できるよう、母親のモニカが内縁の妻を排除してしまうことになる。その時にアウグスティヌスはどうやら苦しい思いをしていたようで、こんなことを書き残している。「彼女は確かに私の結婚にとっての障害だということで、私から引き離されることになった。彼女と結びついていた私の心は引き裂かれて傷つき、血を流した」

 アウグスティヌスはこの女性を、自分の社会的地位のために犠牲にしたのだ。氏名不詳の女性は息子とも離されて、アフリカヘと送り返された。しかも、アフリカで彼女は生涯独身でいることを誓ったと伝えられている。公式の妻として選ばれたのは、まだ当時一〇歳の女の子だった。法律で結婚が可能な年齢を二つも下回っていた。そこでアウグスティヌスは、結婚が認められるまでの間、自分の欲望を満足させるために、また別の内縁の妻を持った。この時点でのアウグスティヌスはそういう人間だったということだ。何かを為すために自分の身を犠牲にすることはなく、ともかく地位と成功のために動いていた。

 ある日、ミラノを歩いていたアウグスティヌスは、物乞いの姿を目にする。物乞いは今まさに、美昧しい食事にありつき、少し酒を飲んだのだな、とわかる様子をしていた。その男は冗談を言いながらとても楽しそうにしていた。アウグスティヌスは思った。自分は一日中、働いて疲れきっているのに、それでも不安に苦しめられている。ところが、物乞いはまったく働いていないにもかかわらず、私よりずっと幸せそうに見えると。自分が苦しむのは、高すぎる目標を掲げているからではないかと彼は思った。しかも、表面的には高い目標を掲げながら、結局、心の底で本当に求めているのは物乞いと同じく、人間としてのごく自然な喜びなのだ。彼はそういう喜びをまったく得ていなかった。

 二十代の終わり頃のアウグスティヌスは途方に暮れていた。苦労をして真剣に仕事に取り組んだにもかかわらず、彼は求めるものを何も手に入れることができずにいた。欲望が幸せをもたらしてはくれないことは明らかなのにもかかわらず、彼は欲望に突き動かされていた。いったいどうすればいいのか。

自己の内面を見つめる

 アウグスティヌスはこの危機に対処するため、まず自分自身の内面を見つめた。自分自身を見つめると、あまりに自己中心的だと気づいて愕然とする人はいる。あまりの衝撃に、その後は努めて自分を見ないようにすることもある。自分は無視し、他人にだけ注意を向けるようにするのだ。しかし、アウグスティヌスはそうではなかった。彼が自己を見つめる時の態度は非常に科学的だった。西洋の歴史でも、自身の心を彼ほど徹底的に深く掘り下げた人はいないのではないかと思われる。

 自分の内面を見つめたアウグスティヌスが気づいたのは、そこに広大な宇宙が存在するということだ。その宇宙は自分の意思では制御ができない。彼は他の誰も真似ができないほど深くまで自分の心を覗き込み、その恐ろしいほどの複雑さを知った。「一つの心の中には実に様々なカがはたらき、様々な種類の違う愛がある。誰もそのすべてについて正確に知ることはできないだろう……人の心はとてつもなく深い。何ということだろう。自分の髪の毛の数を数えたことのある者はいるだろうか。数えるのは大変だろう。だが、実は髪の毛を数える方が、感情の数を数えるよりもずっと簡単なのだ。自分の心の動きを知ることはそれほどに難しい」広大な内なる宇宙はまだら模様で、しかも時々刻々と変化を続けている。アウグスティヌスはほんのわずかな知覚によって次々に起きる動きを察知していた。そして、普段意識しているレペルよりもはるかに心は深いということも知っていた。

 アウグスティヌスは、人間の記憶に魅了された。時折、何の前触れもなしに、辛かった記憶が突然、勝手に蘇ることがある。彼は、時間と空間を簡単に超越する心の力に驚いた。「私がたとえ完全な暗闇、完全な静寂の中にいたとしても、私は記憶によって、その気になれば自ら色を作り出すことができる……そうだ、何も匂いのない場所にいても、ユリの匂い、スミレの匂いをかぐことができるのだ……」人間の記憶の力が非常に広範に及ぶことに、アウグスティヌスは驚愕した。

  偉大なのは記憶の力だ。とてつもなく偉大だ。おお神よ。記憶は果てしなく広い部屋のようなものだ。誰であろうと、記憶の底がどこにあるのかわかる者がいるのか。しかしご記憶はまぎれもなく私の力であり、私に生まれっき備わっているものである。にもかかわらず、私自身がそれをまったく理解できない。人間の心は、あまりに自然のままであるために、自らを抑え込むことすらできない。たとえそうすべきだとしても、まったく自らを抑えることができないのだ。それでも、心は自分のものだし、自分の中にあるはずだ。なのに自分で理解ができないとはどういうわけだろうか。その不思議は私を驚かせ、驚きが私をとらえる。

 アウグスティヌスは、自身の内面を探検する旅から二つの結論を導き出す。一つは、人は皆、素晴らしい資質を持って生まれてくるが、欲望が人を狂わせるということだ。それは原罪のせいだ。その頃までのアウグスティヌスは、名声、地位といったものを必死で追い求めていた。だが、それで彼が幸せになったわけではない。幸せになれないにもかかわらず、彼はやはり同じものを追い求め続けた。

 誰にも同じようなところはあるだろう。誤ったものを欲しがってしまうことは誰にでもある。デザートの載ったトレーを前にした時、または深夜のバーで注文をする時、「本当はこちらを選ぶべきなのだが」と思いながら、自分でも間違っていると知っているものを選んでしまう。新約聖書の「ローマ信徒への手紙」にもこう書かれている。「私は、善を為したいと思いながらそれを為さず、悪を為したくないと思いながら、それを為す」〔七章一九節〕

 人間とはなんと不思議な生き物なのだろうか。アウグスティヌスは考えにふけった。自分の意思はあるのに、それに従って行動することができない。どうすれば長期的に利益になるか知っていても、目の前の快楽をつい優先してしまう。なぜ、わざわざ自分の人生を台無しにするようなことをするのか。ここから導き出される結論は、人間にとって大きな問題は自分自身である、ということだ。自分自身のことは、信用できないものとして扱うべきだろう。「私は、自分の中の隠された部分をとても恐れている」とアウグスティヌスも書いている。
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パートナーの平均値 未婚率が上がっている

『世代×性別×ブランドで切る!』より

40~44歳 女性

人生、決めるか、様子見か

 1971 (昭和46年)~1976(昭和51年)生まれ。この世代の女性で既婚は68.9%。5年前は77.2%。結婚しないで生きていこうと思っている女性が増えているようだ。

 平均世帯年収は564万円と5年前から20万円減っているものの、平均個人年収は25万円増えて145万円。同世代の男性は個人年収も下がっている状況だが、彼女たちは逆だ。男女雇用機会均等法が当たり前になった世代の彼女たちは、この状況をどう考えているのだろうか。収入は独身だと実質、増えてるようです

 平均個人年収が25万円も増えているとはいえ、冷静に見ないといけない。平均世帯年数は減っているのだ。既婚率が下がっていることがその一因だろう。

 しかし、未婚の場合48.0%、ほぼ半数が両親と暮らしている。未婚に限ると個人年収は259万円あるので、両親と暮らすのであれば生活はそれほど苦しくない人が多いのかもしれない。

 同世代の独身男性の中にも両親に支援してもらっている人がいるようだが、彼女たちの方が明るく暮らしているようだ。同世代の未婚の男性はこの前の章で紹介しているが、個人年収は329万円。これでは彼女たちの結婚相手にはなりにくい。気楽な両親との暮らしを手放せないだろう。彼女たちを納得させるだけの暮らしの保証を見せられる男性だけが「結婚してください」と言えるのだろう。

 未婚のうち、実家暮らしで家事手伝いやパート・アルバイト、無職と答えている人が30.0%いることを考えると、フルタイムで働いている女性の場合、同世代の男性の収入とそれほど変わらないと考えられる。ついにそういう時代になったのだ。いっそ、彼女の家に婿入りした方がいいのではないか。

結婚という問題

 既婚者は68.9‰世帯年収631万円と余裕がありそうだ。しかし個人年収の平均は94万円。専業主婦が51.0%と過半数になる。パ-卜・アルバイトは27.5‰。男性同様にフルタイムで働くのはまだまだ難しい。法制度はあっても現実はそう簡単ではない。結婚、出産。彼女たちは家庭と仕事をどう両立させていくかを考えねばならない。

 女性は結婚して家に入るものだ、というのは今の彼女たちの考え方ではない。果たして同世代の男性たちにこうした決断に対する考慮、心遣いはあるのだろうか。今の若い男性にはそれが求められている(もちろん、そんなことを考えず、1人で生きていくという選択もある)。結婚を考えるならば必ずこの議論が起きるだろう。

 その上で、今ではこの年代の女性の31.1%が未婚、同世代の男性の44.4%が未婚だ。結婚するメリットが感じられない、子育てにもメリットが感じられない。むしろ親元でそのまま暮らしたり、親と仲良く過ごす時間を持ったりする方が楽じゃないか。調査データを調べていても、彼女たちのそんな気持ちが見えてくる。

リラックス

 肩に力の入った「仕事命」の先輩たちを見ていたせいなのか、彼女たちは逆に肩に力が入っていないブランドを好むようだ。洋服ではトップ「ユニクロ」に続いて「無印良品」が特徴的なブランドとして入っている。続くのも「GU」「しまむら」。海外高級ブランドなんてどうでもいいじゃない。自分か気持ちよければそれでいいじゃない。そんな声が聞こえてきそうだ。

 靴で特徴的なのが「クロックス」だ。確かに楽にはける。バッグではさすがにトップは「コーチサルイ・ヅィトン」「グッチ」「プラダ」と高級ブランドが続くが、特徴的なのは「レスポートサック」「アニエス・ベー」。手頃なものを愛している。

 漂うのはリラックス感だ。背筋を伸ばして、「どう?私」というのではなく、普段のままの私でいいじゃない、という印象だ。おしゃれをしているという感じも大事だが、それ以上に自分自身の心地よさを重視している。目立ちたいのではない。価値観を探っても、目立たず自分なりに心地よく生きていきたいという思いが感じられる。ちなみに好きなキャラクターは「スヌーピー」「リラックマ」「ハローキティ」「くまモン」「ミッフィー」と続く。確かにリラックス感がある。

 若干ずれるのが腕時計だが、これはまさに時代によるものだろう。男性ほど顕著ではないが、機械式腕時計を手にしている人が多い。確かにこの世代では、女性でも「タグホイヤー」を身につけている人をよく目にする。

 自動車ではホンダ「N BOX」「フリード」、卜ヨタ「ノア」などの人気が高い。やはり子育て世代のクルマだ。ハイブリッド車には手が出にくいようだ。

福山くん、天海先輩

 好きな有名人を見ると、男性では「マツコ・デラックス」「福山雅治」「大泉洋」「西島秀俊」「竹野内豊」「嵐」「福士蒼汰」と続く。大泉の躍進を感じる。しかし、男性として好きなのはきっと福山くんなのだ。音楽で見ると男性では福山くんと「B'z」「平井堅」の人気が高い。これが彼女たちの求める男性像だ。もちろん嵐も福士くんも好きだ。

 女性有名人ではまず「天海祐希」。天海先輩が彼女たちは大好きだ。だからテレビで見ているのは主にドラマなのだ。ドラマとバラエティーがあれば十分だ。続くのは「綾瀬はるか」「深津絵理」。この世代でも綾瀬はるかの強さは感じるが、同世代の深津絵里がなりたい自分なのかもしれない。

 音楽では「DREAMS COME TRUE」「Superfly」も特徴的だ。自分らしく生きている女性が好きなのだろう。その意味では「宇多田ヒカル」も同じだろう。

 海外の音楽アーティストでは「マドンナ」「レディガガ」「マライヤ・キャリー」「エンヤ」の人気が高い。自分なりの道を行く女性を目指したいという意識は高いようだ。

 データを見ていて、このギャップばかりに目がいく。自分はリラックス、ゆったり。しかし好きなのは自分の道を突き進む女性たち。周りを見回してほしい。そんな女性が多くはないだろうか。人生をどう進むのか、まだ迷っている人が多い。

実はカレーは面倒だった?

 レトルト食品はやはり便利だ。1皿分ずつ用意できるのだ。家族の食事時間が合わなくてもそれぞれに用意できる。カレーを作るのは実は面倒な作業だったようで、レトルト・レンジ商品で上位はハウス「カリー屋カレー」、大塚「Theボンカレー」、明治「銀座カリー」と上位20位のうち12品目がカレーだ。

 確かに今のレトルト商品のレベルの高さを考えると、同じ味わいを自分の鍋で作るのは難しい。時間があればさておき、ここは頼った方がいい。自分のためだけではない。様々な家族の都合からしてもレトルトの方がいい。もうお母さんのカレーを懐かしい味という人はいなくなるかもしれない。

 一方、この層の人気は圧倒的にパスタだ。日清「青の洞窟」「マ・マーあえるだけのパスタソース」「マ・マーたっぷりパスタソース」。そしてトップバリュ「ミートソース」も特徴的だ。

私たちはパスタ

 既婚、未婚で分けると大きな差が出る。既婚はカレーを選び、独身はパスタソースを選ぶ(ちなみに検索する前には、既婚女性はカレーをルーと野菜から作るだろうと思っていたが、その仮定は間違っていた。ママもカレー作りは面倒だったのだ)。

 いずれにせよ、手軽な道を選んでいるのではあるが、いちいちパスタの昧を細かく変えるのは独身女性が自分のためにすることだったということがわかる。

 1人分の分量で包装されているパスタソースに、ゆでるだけのパスタ。ゆでる間に部屋の中でちょっとした雑務はできる。そんな独身女性の日常が見える。
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再エネ大編成 アメリカは1つではない

『再エネ大編成』より 経済性前提のアメリカ市場

アメリカは1つではない

 アメリカの電力市場の将来を占う上で重要なのは、地域によって電力システムの構造が異なることだ。1つの理由は送電網が東部と西部で分断されているためである。現状では、東部と西部を統合し、広い国土をカバーする送電網を整備する経済的な理由が見出せないため、送電線を統合する機運が生まれることはなさそうだ。

 テキサス州は、東部・西部いずれの送電網からも独立している。メキシコから独立してアメリカ合衆国に組み込まれるまでテキサス共和国だった歴史を持つため、独立心が強い。エネルギーを自給自足する方針を堅持しており、電力についても独立した運用を行っている。東部送電網に含まれるテキサス以外の南部諸州も、東部とは異なる独自の経済圏を形成している。加えて、南部は伝統的にエネルギー産業の影響力が強く、シェールオイル/ガスの賦存量も南部に偏在している。

 以上のような背景から各地域の特性を活かした電源が補い合うEUのような電力システムが形成する期待はできない。アメリカでは今後も東部・西部・南部が、独自のインフラや資源、経済産業、文化の事情を反映した電力システムを運営していくと考えられる。

EU型の西部

 エネルギーの資源・供給構造、産業構造、消費者意識などから、EUの電力システムの構造に最も近いのが西部である。東部・南部に比べると天然ガス資源が少なく、シェールガスの恩恵も少ない一方、内陸部のコロラド州、ワイオミング州、ニューメキシコ州、ユタ州、アリゾナ州は豊富な石炭資源を抱え石炭火力発電の割合が高い。ワシントン州、オレゴン州には豊富な水力資源もある。カリフォルニア州を中心に住民意識が高く、スリーマイル島の事故の影響を受け脱原発依存の意向も強い。地球温暖化対策をはじめ環境問題への意識が高く、次世代エネルギー分野でイノペーションを追求する企業家も多い。これらが、再エネ中心の電カシステムヘの転換を促す基盤となっている。

 西部の内陸部は、風況が良く風力発電に適している。環境意識が高く脱石炭の指向を強めており、原子力発電の導入にも慎重で、シェールガスの賦存量も少ないため、風力発電への期待が大きくなる。風力発電の経済性が向上したこともあり、近年ではカリフォルニア州、ワシントン州、オレゴン州、コロラド州、アイダホ州、ワイオミング州などで風力発電の導入が加速している。コロラド州、アイダホ州ではすでに風力発電による発電量が電力需要の20%近くに達している。一方で、電源構成を見ると依然として石炭火力への依存度が高く、脱石炭を進めると他地域の電源に頼らざるを得ない。

 EU型の電力システムを目指す西部で、EUにおけるドイツの役割を担っているのがカリフォルニア州だ。カリフォルニア州は風力発電だけでなく、太陽光発電の導入にも力を入れている。結果として、州内の再エネ発電量は大きいものの、周辺外|が変動調整を担う羽目になっている。カリフォルニア州の電力需要に対する風力発電の割合は10%未満だが、日照時間が長いためドイツに比べて太陽光発電の発電量が多く、両方を合わせると電力需要に対する再エネの割合は20%近くに達し、今後も拡大する傾向にある。その分だけ、周辺州の調整負担が増える。

 もっとも、EUが東欧を抱えるように、アメリカの西部も一枚岩ではない。内陸部には必ずしも環境意識が高いとは言えない州もある。再エネの拡大が電気料金を押し上げるようなことがあると再エネ導入が抑制される可能性もある。

伝統産業温存の東部

 アメリカの東部は石炭資源が豊富で、歴史的に石炭産業の影響力が強い。東海岸のニューヨーク州、ニュージャージー州、ペンシルバニア州には天然ガス資源、水力資源もあるが、東部全体としては石炭資源への依存度が高い。

 ペンシルハニア州のマーセラス・シェールガス田など低コストのシェールガスも多く、シェール革命の恩恵を受けてきたが従来型のガス田も豊富である。天然ガスのパイプラインのネットワークはアメリカ中に広がっているが、ガスの産地から近いほど輸送価格が安くなるため、東部では天然ガス火力発電所の建設が進んだ。

 一方、東部送電網に含まれる中西部の、アイオワ州、ミネソタ州、カンザス州、インディアナ州、ミシガン州、ウィスコンシン州などは風力発電の適地を豊富に抱える。風力発電の経済性が向上したことと、自動車産業以来の産業基盤を抱えていることで、風力発電の勢いが増している。

 東部の電力システムはアメリカで最もバランスのとれた構造を保っていると言える。石炭から風力まで多様な供給構造に支えられている上、西部のような地域内のアンバランスもない。トランプ新政権の下でオバマ政権時代の石炭産業への圧力が緩和される方向になれば、工業地帯や大都市を多く抱える東部は、そうしたトレンドを柔軟に電力システムに取り込んでいくはずだ。 PJMのようなアメリカの電力自由化をリードする電力システムを運営してきた成果とも言える。

 PJMは再エネの需給調整に節電を積極的に用いることで、電カシステム全体の経済性を追求している。学校など節電が容易な需要家から節電分を買い取り、再エネの供給が低下する際の電力の不足を回避している。発電構成の意図的な誘導だけに頼らず、あらゆる手段を通じて経済的な電力システムを作ることを重視していることの表れだ。今後もアメリカの電力システムのモデルとしての地位を維持していくと考えられる。

資源経済の南部

 南部は農作物やエネルギー資源に恵まれ、独自の経済圏を築いてきた。保守的な土地柄で、相対的に見るとイノベーションを起こすような新産業の創出に必ずしも積極的と言えない面もある。テキサス州、ルイジアナ州は、伝統的に石油・天然ガス産業が盛んで、南部経済を支えている。石油/天然ガスの採掘の歴史が長く南部全般にパイプラインが行き渡っているだけでなく、エネルギー需要の多い東部にもガスを供給してきた。

 シェール革命の恩恵は南部全体に及び、パイプラインの整備を充実させた。フロリダ州では原子力発電の計画を天然ガス火力発電に切り替えるという動きも起こった。シェールオイル/ガスの増産で、エネルギー産業の勢いが増し、コスト競争力を増した大型の天然ガス火力発電所の新設がブームとなっている。

 天然ガス火力増設の割を食う形となったのが、原子力発電と石炭火力発電である。アメリカの投資家は短視眼指向なところがあり、シェールガスがブームになると石炭火力を閉鎖し、原子力発電所の計画を白紙にし、天然ガス火力を増設するといった行動をとる。オバマ政権がシェール革命を推進すると、南部地域はアメリカの中でも石炭火力の閉鎖数が多い地域となった。

 一方、テキサス州はアメリカで最も風力発電の導入量が多い地域でもある。風力発電の適地が多いにもかかわらず導入が進んでいなかったが、2008年にCREZ (Competitive Renewable Energy Zome)政策によって送電線整備が進むと、設備コストの低下と共鳴する形で風力発電が急速に普及した。 CREZは将来導入が見込まれる風力発電に備えて先行的に送電線を整備する政策プログラムである。テキサス州は独立した送電網運用を行っている強みを活かして、迅速なインフラ整備を進めることができたのである。

 水力発電が極端に少ない南部地域は、ガス&ウィンドパワーの特徴が際立つ電力システムとなりつつある。ガス&ウィンドパワーは今後アメリカで最も普及する可能性のあるシステムである。賦存量が豊富で経済性も高い風力発電を大量に取り入れた電力システムが発達すれば、欧州の1.5倍の約4.5兆kWhの発電量を擁するアメリカの電力市場を背景に、世界の電力システムのモデルとなる可能性もある。

 このように、アメリカは3つの地域で電力システムの構造が異なる。パリ協定の国際議論には、こうした事情を踏えて臨まざるを得ず、結果的に国内向調整を意識した対応になると考えられる。ドイツのような劇的な電力システムの転換は期待できないかもしれないが、ガス&ウィンドパワーという次世代を代表する電力システムで世界を代表する市場になる可能性がある。
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旅行の前提知識

教育改革の夢見

 教育改革の夢を見ていた。3千万円の遺産で作られた教室、そこに入っていく人達。その前に屯する私。集合教育と個別教育。内なる世界から持ってくるもの。連続性、そういった単語が出てきた。

旅行の前提知識

 ギリシャのデルフォイではアポロンの神話を知っているかどうかで印象が全然異なります。奥さんにとっては、単なる観光地で、ひたすら動いていた。、私にとっては啓示の場として、アーモンドの木の下で休んでいた。

 エジプトの赤ピラミッドには、ガイドの都合で偶々、立ち寄った。ぽつんと残されているピラミッドの中段から視る夕陽。エジプトの政治の脆弱性をガイドから事前に聞いていたので、エジプトの未来を視ることができた。変化は必ず、起こる。アラブの春の半年前の出来事。

 前提知識を旅行前、旅行中に得られる仕組みが必要。

環境社会のための環境法

 環境社会のターゲットとしての環境法。それがどこまで整備されているのか。それを徹底させる環境。環境教育設備、例えば、エコットで状況はどうなっているのか。

人生の意味

 人生の意味を独我論を扱ったものがない。その理由は何か。若干、触れているのは、4世紀のアウグスティヌスの内なる世界ぐらいです。皆、自分勝手なことを述べているだけです。

 OCR化した本の感想

  『再エネ大編成』

 経済性前提のアメリカ市場。そして、米国は一つではない。EU型の西部、伝統産業温存の東部、資源経済の南部。ついでに言うと、アッパーとミドルとアンダーの差も大きい。だからトランプが出てきたり、ケネディがでて来たりする。そんな国に依存している日本は何も考えていない。

  『世代×性別×ブランドで切る!』

 40~44歳女性はパートナーの年代です。未婚率が高くなっている。家庭というものの根本が変わろうとしている。

 60~64歳女性は、奥さんの年代です。平均値ではSMAP、ハーゲンダッツ、あずきバーが好きとなっているけど、当てはまっていない。ひたすら、「夢のスーパーめぐり」でいかに安く買うか。「半額」ラベル大好き!

 65~69歳男性は私の年代です。乃木坂もベビメタルも出てこない。皆、何のために生きているのか。

 35~39歳女性は玲子さんの年代です。ふつうにギリシャ人と結婚して、アテネに10年近く。そんな生活は出てこない。
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