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ホモロジー入門 不変量の計算

『ホモロジー入門』より

幾何学が対象とするものを総じて図形というが、我々があつかう図形は、位相構造やさらに上部の構造である距離構造、多様体構造を持つ集合である。現代の幾何学では、このような構造を持つ集合の全体のなすクラスに対し、それらの間の同値関係(すなわち、どのような図形を同じとみなすか)を定義し、2つの図形が同値かどうかを決定する問題を考える。さらに、同値類のクラスはしばしば集合となるが、それがどういうものになるかを考えるのである。同じであることを示すためには、その同値を与える写像などを構成することが必要で、その構成の手順の存在をきちんと示すことが同値性の証明となる。一方、2つの図形が同値でないことを示す手段は、考えているすべての図形に対し、そのなかの2つの図形が同値ならば同じ値をとる量を定義し、今考えている2つの図形に対してその量を計算して、値が異なることを示す必要がある。そういう量を不変量と呼ぶ。不変量は定義されるだけではなく、計算できることが重要である。

本書で解説するホモトピー群、ホモロジー群は、位相空間に対してそれらが同相かどうかを判定する不変量である。それらはホモトピー同値ならば同型という性質を持ち、それによって実際に計算可能なものになっている。図形の性質を表すよい不変量を定義しようとすると通常は非常に計算しにくいものになる。ホモトピー群、ホモロジー群は、一方で計算を容易にするホモトピー不変性という性質を持ち、他方で我々があつかいたい多様体などの空間の同相類をかなりの精度で記述できるものになっている。

本書では、まず最初に位相空間の連結性を考える。連結性のなかで考えやすい弧状連結性を一般化するものが連続写像のホモトピーによる分類である。さらに円周や球面からの写像のホモトピー類を考えることにより、空間の連結性が定義される。有限個のホモトピー類しかないという場合には、それだけでも不変量としてかなりの価値がある。しかし、通常は写像のホモトピー類の集合を考えるだけでは、我々が考える多くの空間で、可算集合となるだけで、不変量としてそれほど効果的なものにはならない。構造を持だない集合の同値類は、元の個数あるいは濃度であるので効果的ではないのである。そこで、群、特にアーベル群に値を持つ不変量にすることが考えられる。アーべル群に対しては、濃度以外に、階数、有限位数の元のなす部分群などに注目して、違いが記述できるからである。さらに、いくつかの空間の不変量の間の関係が準同型写像(すなわち行列)によって記述できることも期待できるからである。

そこで、ホモトピー類に群構造を入れることを考える。円周や球面からの写像のホモトピー類に対して、群構造を入れる有力な方法は、空間に基点を考えることである。円周や球面にも、基点を考えて、基点を基点に写す写像のホモトピー類を考えるのである。もう1つの方法は、円周や球面からの写像のホモトピー類の直和を演算とし、それが、可能になるように和を定義することである。

最初の方法はホモトピー群の定義そのものになり、2番目の方法はもう少し整備するとホモロジー群の定義を与える。

ホモトピー群の定義は基点付きの写像を考えるのと同等な空間対の間の写像を用いて定義される。一方、ホモロジー理論の公理的定式化においては空間対を考えることは理論の透明化のために必要である。本書ではホモロジー理論は公理的に与えられる。このような理論が存在すれば、計算はほとんど自動的に行われる。公理を満たすホモロジー理論が存在しなければこのような計算は無意味であるが、我々が対象にする図形に対しては、単体からの写像全体を考えることにより定義される特異ホモロジー理論が、ホモロジー理論の公理を満たすことが証明される。この証明の後に公理から導かれたホモロジー群の計算がすべて正当化されることになる。

ホモロジー理論と類似の公理を満たす理論は多くの有用な帰結を生むことが認識されて、ホモロジー理論が数学のさまざまな分野に登場することになった。

我々の図形に対する理解の出発点は、ユークリッド空間とその部分集合である球体,立方体,単体である。このような図形は次元が定まっているが、ホモロジー理論の最初の応用は次元が異なれば同相でないことを示すことである。実際、我々の次元についての理解はホモロジー理論により基礎付けられているといってもよいほどである。ホモトピー群も同様の性質を持つが、実際にはもっと複雑であることがわかっており、球面の高次のホモトピー群もまだすべては決定されていない。

ユークリッド空間、球体、立方体、単体を出発点として、ユークリッド空間の開集合を貼りあわせでっくりあげられる図形が多様体であり、単体を貼りあわせてつくりあげられる図形が単体複体である。ホモロジー理論の公理を用いて、これらの図形のホモロジー群が計算され、図形の多楡吐が明らかになる。

さて、ホモロジー群の計算に最も適合した空間の構造は単体複体や胞体複体の構造である。このような構造を持つ空間のホモロジー群の計算は単体複体や胞体複体の構造からチェイン複体が自然に導かれ、そのホモロジー群を計算するという手順になる。これにより、特に単体複体に対してのホモロジー群は、単体複体の構造から定義されることがわかる。チェイン複体は、加群と準同型のなす系列で、隣りあう準同型の合成が零準同型になるという代数的対象である。チェイン複体については、ホモロジー代数として詳細な研究が行われている。実際、現代数学では、さまざまな対象にさまざまな形でチェイン複体を定義しその性質を調べることが行われている。

微分可能多様体など多くの興味深い空間は、単体複体の構造を持つことが知られている。このような空間のホモロジー群をこの単体複体のホモロジー群として定義できるためには、2つの単体複体構造に対して、それらが与えるホモロジー群が一致することを示さなければならない。歴史的には、この方法が最初にとられたが、他の見方をすることもできる。

一般の位相空間に対してホモロジー群を定義するために、その位相空間上に実現できるすべての単体複体の構造を同時に与えることを考える。すなわち、単体からの写像の全体、そしてそれらを生成元とする自由アーベル群を考えると、これがチェイン複体になることがわかる。このチェイン複体のホモロジー群を考えるとこれがホモロジー理論の公理を満たすことがわかる。こうしてホモロジー理論が位相空間に対して存在することが示される。さらに、有限胞体複体に対してはホモロジー群は一意的に定まる。

以上のことを順に解説するのが本書の概略である。

多様体の位相の研究は、ここで準備したホモトピー群、ホモロジー群を用いて行われる。特に、単連結なコンパクト3次元多様体は3次元球面と同相であるというポアンカレ予想が、21世紀に入ってすぐに、サーストンの幾何化予想を解決するという形でペレルマンによって肯定的に解決されたことは画期的な成果であった。ペレルマンの結果の前に、より高い次元の球面夕はじめに(n>3)に対しては、スメール、フリードマンたちにより、n次元球面とホモトピー同値なコンパクトn次元多様体は、n次元球面と同相であることが示されていた。これらの結果は、さらに各次元の多様体の分類方法も与えるものとなっている。こうして、現在では、ホモトピー群、ホモロジー群が一致する多様体はどれくらいあるかということが,かなり正確にわかるようになっている。こうした研究をさらに進めるためにも、ホモトピー群、ホモロジー群の理解は必須のものとなっている。

最後の章にこのような研究に向かうための導入となる事柄のいくつかをあつかった。この章での導入をもとに参考文献を活用していただければ幸いである。

本書の主な部分は東京大学理学部数学科3年生の後期の講義の内容である。理学部数学科では、2年生の後期に学ぶ集合と位相、線形代数、3年生の前期に学ぶ多様体論、群論と環論などについての理解の上で講義しているが、本書では必要に応じて復習しながら用いている。また、できるだけ図を用いて幾何学的に理解できるように配慮した。

本書は、数年前には刊行を予定していたものであるが、さまざまな事情で準備が遅れてしまった。東京大学出版会にはそのような遅れを寛恕していただき、原稿をまとめることができた。本書を準備、刊行するために東京大学出版会の丹内利香さんに非常にお世話になった。謹んでお礼を申し上げたい。
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アレクサンドリア図書館のストライキ 格差

『中東の現場を歩く』より 若者たちの反乱 革命の検証 若者たちはなぜ動いたか ⇒ アレクサンドリア図書館はあこがれです。

エジプト革命は若者たちのデモ(2011年1月25日)が引き金となって、大規模な民衆の反体制デモ(1月28日)が始まってタハリール広場を占拠し、2月11日にムバラク大統領が辞任するというストーリーである。30年間、エジプトを支配した軍出身の独裁者が若者のデモに押されて辞任するのは「革命」と呼ぶ以外にはないものだった。

政治的な混乱は独裁が倒れてから始まった。軍はムバラク辞任の後、民主的な選挙に基づく民政移管が実現するまでの間全権を委ねられた。一方、ムバラク体制のもとで形成された官僚制や経済界、言論界などがすべて、そのまま残った。革命後には、革命を起こした若者だちと、強権下で抑えられていたムスリム同胞団という2つの力が表に出てきた。エジプト革命後に政治を動かしたのは、①軍、②革命的若者たち、③ムスリム同胞団、④旧政権勢力--という四つの勢力である。

旧政権勢力とはムバラク体制を支え、利益を得ていた政府の上級公務員や旧政権とつながって事業を行なっていた実業家や旧政権を称揚した言論人やジャーナリストなどである。革命ではムバラクとその家族や側近の一部が排除されただけで、旧政権勢力は、ほとんどそのまま残った。たとえば、政府の公務員は少数の上級公務員と多数の下級公務員では、給料の桁が一桁、二桁も違っていた。下級公務員について革命後に月700ポンド(約1万円)の最低賃金制を導入しようという要求が出た。多くの下級公務員はそれよりも少なかったということである。一方で「(上級公務員に)最高賃金の限度を導入すべきだ」という議論もあった。政府の省庁の幹部や、知事、国営企業の幹部、政府系の新聞や雑誌の編集長など政府が任命する幹部職員は月給100万円や200万円以上になるなど破格の待遇だったためだ。さらに問題だったのは、公務員の上級職の任用は有力者のコネがなければ難しかった。外交官や裁判官らは特権化していた。

かつて王政時代は外交官などの政府L級職、軍将校や裁判官など特権的な富裕階層が独占していた。それは1952年のナセルらによる青年将校団の革命で崩れた。ナセルは郵便局員の息子で、ナセルを継いだサダトはカイロの北部にあるムヌフェイヤ県の貧しい農家の息子だった。しかし、それから60年近くたち、独裁体制下で特権階層が生まれていた。特にムヌフェイヤ県は、ナセル時代以降、軍人や裁判官を排出する県となり、ムバラクも、現在のシーシ大統領の家族もムヌフェイヤ県の出身という狭い世界ができあがっていた。

民間の企業でも権力とつながっている業者だけが政府の許認可をとり、政府の事業を請け負うことができた。学生でも国内の銀行など優良企業に職を得ようとすれば、やはりコネが必要だった。今や欧米や日本でも問題になっている「格差」は中東の独裁体制のもとでは、単に経済的、社会的な問題ではなく、政治権力と結びついている。「アラブの春」で若者たちが「自由と公正」を求めて街頭に繰り出しだのは、就職や所得格差に対する強い不満があったからだ。「格差」が権力とつながっていたために、その是正を求める若者たちの動きが、体制打倒へとつながった。国民の間に張りめぐらされた秘密警察の監視網は、ムバラク体制の維持だけではなく、権力の周辺の特権階層の権益も一緒に守っていた。ムバラク辞任後も、エジプトでは至る所で労働者や従業員、職員によるストや座り込みが頻発した。

私が編集委員だった当時、エジプトのアレクサンドリアに住んでいたが、市内にあるアレクサンドリア図書館は、2011年10月下旬からしばらくの間、職員のストのため閉館していた。図書館の入り口は封鎖され、敷地内では時折、図書館員が列を組んでデモを行なっていた。--イルハル(出て行け)、イルハルと声が上がる。かつてムバラク大統領の退陣を求めて叫ばれた言葉が、イスマイル・サラゲッディン館長に向けて叫ばれていた。図書館の前にある横断幕には「出て行け、エジプトの副王、サラゲッディン」とあった。建物にぺたぺたと貼られたポスターやビラを見ていると、「アレクサンドリア図書館革命青年連合」という組織が主導していた。

アレクサンドリア図書館は、古代のアレクサンドリアにあった図書館を現代に再現する試みとして、ユネスコが援助して建設し、2002年にオープンした。サラゲッディンは前世界銀行副総裁。前ムバラク大統領の要請を受けて、館長に招かれた大物である。

革命青年連合のメンバーは図書館での賃金格差について訴えた。「大学を出た図書館員の初任給が1200エジプトポンド(1万7000円)なのに対して、サラゲッディンの月給はその100倍の12万ポンド(170万円)だ。部長クラスも4万5000ポンド(63万円)だ。このような格差が許されていいのか」と言う。さらに、「職員の突然の解雇があり、昇進は公正ではなく、腐敗がある」と訴える。

一般職員とトップの給料の大きな差は、アレクサンドリア図書館に限らず、エジプトの政府や政府系機関に共通する問題である。ムバラク時代には、政府機関の幹部は特別待遇を与えられ、それぞれ大統領を支える体制をつくっていたということである。ムバラク体制は崩れ、ムバラクは汚職とデモ隊への銃撃の関連で、裁判にかけられた。しかし、政府でも、政府関係機関でも、ムバラク時代に任命された幹部が残り、同様に高給を受けている。そのような幹部の多くは、権力とのコネで奉職し、ムバラク支持だった人々である。ムバラク大統領は去っても、各職場の「ムバラク体制」は残っている。様々な政府系の機関で、「トップは退陣せよ」「給料を上げろ」と訴える一般職員のストが続いている。

「革命の継続・貫徹」を掲げる若者たちは、次第に「軍政」批判を強めていった。2011年秋に、軍最高評議会が出した民政移管方針が軍の特権を保持しようとする内容だったことから、若者たちが反発した。同年11月中旬、タハリール広場で大規模な「軍政反対デモ」が起こった。特に広場から内務省につながるムハンマド・マフムード通りで治安部隊と若者たちの激しい衝突があり、双方で数十人の死傷者が出た。若者たちはこれを「第2革命」と唱えた。しかし、ムスリム同胞団はこの時のデモに参加しなかった。同胞団はその直後に始まる国民議会選挙に備える態勢をとっていた。

同胞団はイスラムを掲げる保守勢力であって、現実派であり、「革命継続」を唱える若者だちとは決定的な違いがあった。同胞団は「秩序回復」を第1とし、軍とも旧政権勢力とも衝突しないで、まずは民主的な選挙のもとで議会を抑えて、徐々に実権を押さえていく戦略のようだった。「革命継続」を唱える若者との立場の差が明らかになったのが、ムハンマド・マフムード事件だった。同胞団がタハリール広場のデモに参加しないと決定したことは、広場の若者だちからは「同胞団は若者を見捨てた」という批判となった。しかし、秩序回復を求める一般の人々には概ね好意的に受け止められていた。その直後に、私は「中東マガジン」で次のように書いた。

 〈国民の間には、強権体制は倒れ、国民を監視していた公安警察もいなくなって革命は達成されたのだから、早く政府も民間も、秩序回復に向かい、経済や観光を正常化させるべきだという現実論が強まっている。そのような人々の期待を担うのは、今のところ同胞団しかない、という状況である。同胞団は宗教組織ではなく、大学の医学部や工学部、法学部などを出たエリートがイスラムの実現を掲げて世直しをする組織である。医師組合や技師組合の運営を主導して実績を上げてきたことも人々の支持を集める理由となっているだろう。〉

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公共図書館サービスガイドライン 図書館の建物

『IFLA公共図書館サービスガイドライン』より 図書館利用者の情報ニーズを満足させること

図書館の機能

 図書館は、その図書館の戦略的計画と合致し、また地元や地域、あるいは全旧的な基準ないしはガイドラインに適合した、十分な範囲の各種図書館サービスを実施するために適切な広さの空間をもたなければならない。イギリスの図書館については、図書館がそのサービス対象とする地域社会に負っている諸々の義務の履行を保証する基準に適合することを求められている。

 上記のイギリスの基準に含まれる事項として:

  ・利用者地域住民にとっての図書館の近さ

  ・開館時間

  ・インターネットと毎年新たに購入される資料等へのアクセス

  ・所蔵図書の数量と毎年新たに購入される図書やその他の資料の数量

図書館の規模

 公共図書館に求められる床面積は、個々の地域社会に固有のニーズ、その図書館のもつ諸機能、入手可能な資源のレペル、所蔵資料コレクションの規模、利用可能な空間、および他の図書館にどの程度近いかというような諸要因に依存する。これらの諸要因は国によって、また建設計画によって大きく異なるために公共図書館に求められる空間に関する一般的な基準を提案することはできない。ただし、これまでいくつか地域的な基準がっくられており、カナダのオンタリオ州、スペインのバルセロナ、そしてオーストラリアのクイーンズランド州の事例を付録として掲げておいたので、図書館建設の計画作成過程において利用できるであろう。

図書館として予定すべき空間

 図書館には、成人、子ども(乳児と幼児を含む)とヤングアダルトにサービスするための空間;および家族の利用のための空間が備わっていなければならない。図書館は、地域社会のあらゆるグループと個人の抱える情報ニーズを満たすために、広範囲にわたる資料を提供することを目指さなければならない。

 図書館が備えるべき機能の範囲と、それぞれの機能に割り当てられる空間は、その図書館の規模によって異なる。新しい図書館建設を計画するには、以下の諸項目を含めて熟慮しなければならない。

  ・図書、逐次刊行物、特殊コレクション、録音資料、映像資料、その他の非印刷資料、およびデジタル情報資源を含む図書館資料コレクション

  ・成人、児童およびヤングアダルトを対象とする、余暇読書、集中的な調査研究、グループワークや一対一の授業などができる机や椅子などを備えた空間、つまりいくつかの静かな部屋が必要である

  ・アウトリーチサーピス:このサービスのために特に整えられた資料コレクションを収蔵し、サービス実施の準備をする空間が与えられなければならない。たとえば、ブックモビルの駐車スペース

  ・図書館職員のための施設:はたらく場所(机やパソコン、ワークステーションを含む)や休憩室、同僚と会議をしたり、上司とひそかに話し合いをしたりするための会議室を含む

  ・地域社会の大小のグループが会合をする部屋:その部屋は、図書館が閉まっているときでも使えるように、手洗いや出口への通路は別個に設けられなければならない

  ・技術関係の機器・設備:一般市民が利用できるワークステーション、プリンター、CD-DVDドライブ、プリンター、複写機、スキャナ、ウェブカメラ、マイクロリーダーなど

  ・特別の設備:大判地図帳収納ケース、新聞架、自動図書貸出機、辞書用書見台、壁面に備え付けられた展示設備、展示台、ファイリングキャビネット、地図ケースなど

  ・市民と図書館職員の双方が容易に動き回るために必要とされる十分な空間:これは利用者向け空間の15パーセントから20パーセント、および職員向け空間の20パーセントから25パーセントと見積もることができ、また車椅子の利用者にとっての少なくとも最低限のアクセス要件を見込む

  ・比較的規模の大きな図書館においては市民のための喫茶コーナーが、小規模図書館では自動販売機が望ましい施設としてあげられる

  ・図書館の機械的サービスのための空間。たとえばエレベーター、暖房、空調、清掃器具の維持と保管などのための空間が考慮されなければならない

設計上の特色

 図書館は、すべての利用者地域住民、特に身体および感覚に障害をもっている人たちが、容易にアクセスできることを保障しなければならない。新しい図書館の建設を計画するにあたって、以下にあげる諸点が考慮されるべきである。

  ・図書館の外観は十分に明るくなければならず、通りからよく見えるサインによりそれと認識できなければならない。

  ・図書館の入口は、はっきりとわかるものでなければならず、大部分の利用者が入ろうとする側に設けられるべきである。

  ・図書館は、利用の障害となるものを除去することに力を注ぐべきである。

  ・図書館のどの部分といえども、個人またはグループが図書館を利用するとき、その利用を制約するような設計上の障害があってはならない。

  ・図書館の内部および外側の両方の設計において、できるだけ階段の設置を避け、設計上階段設置が避けられない場合には、代替的アクセスを用意するよう配慮しなければならない。

  ・照明の水準は、国際的ないしは国内的基準に準拠しなければならない。

  ・2階あるいはそれ以上の階層をもっている図書館は、図書館の入口近くにエレベーターを備えなければならず、しかも車椅子やベビーカーが容易に利用できる仕様でなければならない。

  ・図書館は、閉館時の図書館資料の返却のための設備を備えておかなければならない。開館時間終了後の返却ボックスは、盗難防止と防水の両方の機能を備えたものでなければならない。

  ・図書館は、障害なくたやすく利用できることを確認するために、定期的に「利用しやすさ」について検査するべきである。

  ・障害をもつ人々に対して、公共施設にアクセスしやすくするための地域的、全国的、あるいは国際的基準を守るべきであるし、可能なときはいつでもそうしなければならない。

アクセスしやすい書架

 図書館資料は開架式の書架に、利用者が手を伸ばせば届く高さまでの範囲に配架され、高い書棚や低い書棚に手を伸ばしたりかがんだりできない人たちのために、脚立や可動式腰掛が用意されなければならない。すべての書架は調整できるものでなければならず、できれば容易に移動できるようにロック可能な車輪のっいたものであることが望ましい。児童室の家具は、適切なサイズでなければならない。書架は障害をもつ人たちにもアクセスできる高さと間隔でなければならない。

サイン

 図書館の外側に設けられたサインは、その建物固有の機能を識別するだけでなく、図書館の外部に対する自己表現のもっとも基本的な形態である。したがって、サインはその図書館にふさわしいイメージを伝えるよう、注意深く計画されなくてはならない。図書館内部と資料コレクションの各部分は、たとえば図書館目録、雑誌、レファレンスサービス、児童コーナー、手洗い、インターネット端末、複写機など、利用者がたやすく見つけることができるように、専門的な基準にしたがったサインによってはっきりと識別できなければならない、また、サインは必要な場所には点字でも示されなければならない。それがふさわしい場合には、地域社会のなかで用いられている少数民族の言葉で表示されたサインが提供されるべきである。図書館の開館時間を示したサインは、図書館の外部からはっきりと見えるものでなければならない。また、すべての利用者が図書館内で目的のところに行けるように道順を示す音声装置ボックスや、ウェブガイド、オーディオガイドの設置を検討するべきである。市民を図書館へ誘導するために、付近の通りや人の集まるところに図書館への行き先表示の看板を設置するべきである。また、インターネット上においても、すべての関連する地元諸機関・団体のウェブサイトから図書館のホームページヘの参照が付されるべきである。

図書館の環境

 図書館はサービスを提供するために、市民を招き入れるような物理的環境を備えなければならず、その環境は以下のとおりである。

  ・図書館資料コレクションを蓄え、展示するために十分な空間

  ・市民が図書館サービスを適切にまた便利に利用できるのに十分な、快適で魅力的な空間

  ・学習と読書のための十分に静かな空間

  ・さまざまな規模の団体が利用できる集会施設

  ・図書館職員が能率的で快適な状態でその職務を遂行するための十分な広さをもつ空間

  ・児童室には、おもちゃや遊戯施設があってもよい。

  ・ヤングアダルトコーナーには、コンピュータゲームの装置、座り心地のよい設備を備えだゆったりできる’場所、そしてテレビかプラズマディスプレイが設置されてもよい。

  ・将来のニーズに備えた空間的余裕と柔軟性

 図書館の内部は、効率的な暖房と空調を用いて、快適な温度に保たれていなければならない。湿度管理は図書館の快適性を増すだけでなく、所蔵資料を保護することにもつながる。

 大規模図書館には開館時間中か特定の時間かのいずれかに開いている喫茶室(そして小規模図書館では自動販売機)があってもよい。そのような施設は、時には契約により外部の業者に経営が委ねられる。

電子的および視聴覚設備

 公共図書館の主要な機能は、情報富裕者と情報貧困者との間のギャップを埋めることにある。このことには、インタニネットにアクセスできる個人用のパソコン、利用者用閲覧目録、マイクロリーダー、オーディオ・MP3プレイヤー、テープレコーダー、スライドプロジェクター、および視覚障害や身体障害をもつ人々のための装置など、必要とされる電子的施設設備、コンピュータおよび視聴覚装置へのアクセスの提供が含まれる。パソコンを使うための情報コンセントヘのアクセスと同様に、館内におけるワイヤレス(Wi-Fi)アクセスの整備が望まれる。図書館が提供する通信回線は最新のものであるべきであり、後日設備更新するときには簡単に取り換えられるものでなければならない。また、これらの施設設備については、定期的に点検されなければならない。

安全

 図書館が市民と職員にとって確実に安全なところであるためには、あらゆる努力が払われなければならない。煙探知機と火災警報機を備えなければならず、職員と図書館資源のための安全保護がなされるべきである。消火器と非常出口の設置場所は、誰にもわかるようにはっきりと表示しなければならない。図書館職員は救急措置について訓練されていなければならないし、救急処置に必要な医薬品や機材は容易に入手できなければならない。避難訓練は、定期的に実施しなければならない。図書館の管理者は、消防署や警察署など、緊急事態に対応する機関と協力して、たとえば火災などのような重大な事故発生の場合に実行に移せる防災計画を作成しなければならない。

駐車場

 利用者地域住民がマイカーで図書館にやって来るところでは、十分に安全で明るく照明がきいた駐車場が、図書館の敷地内またはすぐ近くにあるべきであり、そこには障害をもつ人々のために適切に表示された駐車スペースがなければならない。自転車が一般的な交通手段である場合には、図書館の外部に安全な駐輪施設を設けるべきである。
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未唯空間第9章 環境社会

大きな問題と小さな問題

 地球規模の課題として、人口問題とエネルギー問題を取り上げているが、世の中はもっと多くの課題を抱えています。人種・民族・政治に関することなどあります。EU一つとっても色々なことを抱えています。

 それに対して、地域の問題は限られています。生活の類が多い。大きな問題を解決すれば、小さな問題は片付くのか、小さな問題で大きな問題は片付くのかといった時には、小さな問題の方が大きいです。

 部分の方が大です。民族問題に取って、例えば、コンゴを取ってみても、大きな問題は解けないけど、地域の問題としては解けます。ましてや、個人間の問題とすれば、解けます。ハイアラキーが問題解決を邪魔しています。

集中と分散

 そして、集中と分散。大きな問題は、グローバリズムと多様化とのぶつかり合いで格差の問題を起こしています。これは全体にしてしまうと解決できない。共産主義と全体主義での実験がそれを証明しています。小さなところから直していくしかない。

 ただし、その時の小さいモノの集合が大きなものと思ってはダメです。これは部品表と同じで、小さいモノの方が大きいモノよりも大きい。これはトポロジー的な解です。位相空間は専門領域です。

グローバル化と多様化

 大きな視点で見ると、民主主義は何が変わろうとしているかを見た時に、グローバル化と多様化があります。グローバル化はレバノン杉伐採の時代からあります。環境問題の出発点です。多様化は地域での特徴です。地域でしか解決しようがない。そこから全体に上げて。行くことになる。

 日本はグローバル化に対応できていない。明治維新から帝国主義も多様化できなかった。ローカルのまま、大きくなっていった。米国進出にしても、アメリカのローカルに浸透していっただけです。

 グローバル化は国家連合のカタチで進んでいくしかないでしょう。国家という単位ではグローバル化に対応できない。全てをそれで統一することはできない。併せて、ローカライズ、つまり、多様化が進んでいきます。そのバランスをどう取っていくのか。

サファイア循環

 そこで、多様化とグローバル化の循環を表したものが、サファイア循環です。大きな循環と対応させます。小さなところにも循環はあります。連結できます。30年ぐらい前は、地球の軸の循環エネルギーと自分の中の循環がシンクロしていました。心地よかった。

 サファイアの特徴はフィールド間の関係だけでなく、その中に方向性を持っています。つまり、考える部分と行動する部分です。この大きな循環を見た上で、それぞれの機能を絞り込んでいきます。ファシリテーション、インタープリテーション、リアライゼーション、エンパワーメント、それぞれが機能していきます。

 これらは配置に対しての機能になります。お互いが関係し合う。オブジェクト的に働くことになります。それを具体化していきます。重要なのは、ローカル部分での活性化、つまり、エンパワーメントの部分です。

超・民主主義と超・資本主義

 それらを機能を果たすために、サファイア革命を起こす。といっても、ゆっくりした革命です。それぞれの配置で、それぞれが覚醒していく。特に政治形態については、変えていく必要がある。民主主義と資本主義を環境社会のために超えないといけない。

 資本主義は所有の欲で成り立っているけど、それを共同体主義で変えていく。お金ではなく、思いで循環させていく。全体として、循環させながら、個々を支援していくのか。そのためには中間の存在が前面に出てきます。

 民主主義は集約させて、それを分配させているが、そのロジックが維持できなくなっている。エネルギーでの原発を見ても分かります。新しいベースになるのは、自由とか平等のために、個人がいかに生きるか。

 民主主義の格差がある限り、全体の循環ができない。単にハイアラキーでの支配になります。それぞれが覚醒しながら変えていく。存在の力変えていく。新しい平等を作るという超・民主主義。

地域インフラ

 サファイア革命をどこからやるかということで、現実的になります。地域インフラを作り出す。地域の人びとが中間の存在を通して、何が自分たちにとって必要なのかというとこで、目が届く範囲で実現していく。

 それはLANの思想です。それに対して、WANで色々な組み合わせを作り出す。国ではなく、もっと、動ける単位を作り出す。それでもっと、全体をカバーリングする。分化から統合に持って行く。地域インフラが変われば、企業と行政は変わります。

企業と行政の変革

 市民のライフスタイルが変わっている以上は企業と行政は変わらざる得ない。市民が主人公になります。企業もモノを作ることよりも地域で使うこと、マーケティングを変えることが主になります。

 行政は中間の存在と協働して、コンパクト化をせざる得なくなります。これらの拠って。作られるのが環境社会です。地域で市民を保証していく。保証という考えも共同体意識で変わります。

地域で保障

 地域保証が個人保証を取り込んでいく。その中に車両保険も存在する。それらを地域で保障するのが、高度サービスです。寄り添うカタチになります。雇用もこれで成り立ちます。就職が変われば、教育が変わります。今、六次産業というものもこの中に吸収されます。

 それで、シェア社会、環境社会も作っていく。教育、企業、家庭の新しい循環ができていく。そのための個人レベルの変化は第10章で取り上げます。
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