tetujin's blog

映画の「ネタバレの場合があります。健康のため、読み過ぎにご注意ください。」

スマイルシャッターモード

2008-07-11 23:59:56 | 日記

今年もブログエアコンの季節がやってきました。昨年の不評に懲りずに今年もアップします。
怪談系が嫌いな方はご注意を。
なお、昨年のブログエアコンの記事はこちら。
コワイジョ) (けん制球) (朝よ来い) (真夜中の友人達)  (理系が書いた怪談


「やっぱり、写りましたか・・・・・・」
ベテランのJR職員は、そうつぶやくとだまってしまった。
もう定年間近と思えるJR職員の反応に、ぼくらは、再び全身に鳥肌が立つのを感じた。

********

今日、6月30日をもって、黒谷線の大滝-竹山区間の列車の運行が廃止になる。そして、大滝駅20:31着の列車がその最終便。最後の最後の運転だ。明日からは、大滝駅に1両じたてのディーゼル車が停車することもない。
その大滝駅には長年、ローカル列車に慣れ親しんだ通勤客たちやら、鉄道マニアが押し寄せていた。ねこの額ほどの狭いホームは、人であふれんばかりだった。その多くの客たちが、黒谷線大滝駅の最後の勇姿をということで、回送される茶色にペイントされたキハ47-7003を見送っていた。車内の照明を落とした車両は、心なしか、最後の別れを惜しんでいるように見えた。

買ったばかりのソニーのデジタルスチルカメラ サイバーショットのシャッターが降りないことに気がついたのはこの時だった。発車のベルに押されるように、動き出したキハ47-7003の写真を撮ろうと、いくらシャッターを押してもシャッターが降りないのだ。液晶画面を確認すると、電車の写真と言うのに、映し出された電車の窓には【顔検出枠】が表示されてしまっていた。ぼくは、いつのまにか「スマイルシャッターモード」に設定されてしまったカメラを呪いながら、あせって、【顔検出枠】をタッチしてシャッターボタンを押し、シャッターが切れるのを待った。そうしているうちにも、キハ47-7003は発射のベルの鳴り響くホームを離れて遠ざかっていく。
ようやく、シャッターが降りたのは、車両がホームから数十メートル離れた地点だった。
写ったのはフレームに半分のサイズの車両の後姿。でも、被写体震度の深いコンデジにもかかわらず、不自然にピントのあまい部分がある。しかも、その部分は車両の窓の部分なのだが、どこかの光を反射してハレーションも起こしていた。写真の失敗にブツクサ文句を言っていると、ぼくのカメラを手にして液晶を覗き込んでいた友人が、
「何これ!ここに写っているの?」
驚いたように大声を上げた。カメラの液晶部分を見ると、先ほど撮った写真がズームされていた。そして、そこに写っていたのが車両の窓。窓の向こう側の暗い車内に、白い服を着た長い髪の女性がかすかに見える。そして、その横顔が笑っている・・・・・・。
その横顔を見た瞬間、ぼくは全身に鳥肌が立った。この世のものとは、到底思えなかったからだ。

念のため、大滝駅の駅員に写真のことを告げに行ったのは言うまでもない。回送された車両に、女性の乗客が取り残されていたとしたら大変だ。
そして、応対に応じたベテランのJR職員が言った言葉。それが冒頭の言葉だ。
実はこの話には、その後の展開がある。早い話が、大滝駅からの最終回送車両では、この女の幽霊がよく運転手により目撃されていたらしい。列車の乗務員の間では、有名な話だったのだ。そして、黒谷線が廃止になる最後の日。この車両の運転手が、思い切ってその女の幽霊に声をかけたらしい。
「もう、列車の運行は今日で最後です」
女は、初めて声をかけられて、満足したようだったらしい。それまで、何人もの運転手がいたのだが、恐くて声をかけられなかったのだ。まあ、当然のことだろう。最後の最後に声をかけられたことで、女は成仏できたのだろうか。ぼくの写真に写った女の横顔を見てみると、この世の怨み辛みをすべて霧散させて晴れ晴れとしたように見える。でも、それは気のせいだろうか。あるいは、車両以外に地縛される対象が変わったのだろうか・・・・・・。考えると こ わ い。