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山の中の旅館で出てくる「海の幸」問題/奈良新聞「明風清音」第22回

2019年07月23日 | 明風清音(奈良新聞)
奈良新聞のエッセイ欄「明風清音」に月1~2回、寄稿している。先週(7/17)掲載されたのは「山奥の旅館で海の幸」だった。海から遠く離れた山間部の宿で「海の幸」を提供することの是非について、かつてはよく議論されていた。この議論の行方を以下に紹介したい。
※写真はすべて「ホテル杉の湯」(吉野郡川上村迫)で。トップ写真は2018.9.12の一品
 
勤務先で「週刊観光経済新聞」という業界紙を購読している。各種のコラムが充実しているので毎週、隅々まで愛読している。同紙令和元年6月27日付「道標 経営のヒント」欄のタイトルは《「山中の旅館で刺身を食べたいか」問題》で、筆者は九州国際大学教授の福島規子氏だった。

30年以上前、福島氏は旅館のコンサルタント関連会社に勤務していた。当時は「温泉場にいらっしゃるお客さまは、本当に、旅館料理に海の幸であるお造りなど求めているのでしょうか」と言っていたそうで、「厚顔無恥。いま、思い出すだけで嫌な汗がじわりと吹き出してくる」とふり返る。



2018.9.13の朝食。左にアマゴの干物、右下に茶がゆが見える

結びはこんな言葉だ。《情報も物流も二、三十年前に比べれば劇的に進化し、どこの旅館でもおいしい刺し身を提供できる時代である。冒頭の「山の中まで行って、刺し身を食べたいですか」が、もはや誤った認識であることを信じ、示したい》。

かつて「県内の老舗旅館のお客が夕食に刺身や伊勢エビが出てきたのを見て、箸もつけずに席を立ち、近くの民宿の地元料理を食べて満足して帰った」という話を聞いたことがあるが、もはや都市伝説だろう。今なら「美味しいサプライズをありがとう」と言うべきか。

私は3ヵ月に一度、川上村の「ホテル杉の湯」で従業員や周辺住民向けに講演をしており、講演のあとはホテルに泊めていただく。ことし6月が第20回だったので、もう20泊している計算になる。夕食には必ず新鮮で美味しい刺身が出てきて、最初は不思議だったが「そうか、物流や冷凍保存の技術が進化し、吉野の山中でも新鮮な刺身が提供できるようになったのだ」と納得した。



2018.6.6の夕食の一品、やはりこの時期はハモ!

温泉から上がり、吉野町産のキリッとした冷酒に合わせる海の幸は、この上なく美味である。カニや伊勢エビが出てくることもある。朝食には茶がゆやアマゴの干物などが出るので、1泊すれば海と山の幸の両方を味わえるという贅沢さだ。

「黒滝・森物語村」では冬場のカニ会席を売り物にしている。ことし2月に社員旅行で訪ねたときはさすがにわが目を疑ったが、考えてみれば大手のカニ料理チェーンだって、東は千葉から西は広島まで年中カニ料理を提供しているのだから同じ理屈だ。

環境面から「フードマイレージ」(食料の輸送距離)を持ち出す人がいるが、例えば吉野郡から熊野灘は案外近い。コンパスで測ってみると京都市から若狭湾までの距離と、奈良市から伊勢湾までの距離はほぼ同じだ。大阪湾までの距離なら、奈良市の方が断然近い。「海のない奈良で」とよく言われるが、「海から離れた京都で」とは聞いたことがない。今や関所があって通行手形が必要な時代ではない。地図を見ず、先入観でものを言っているとしか思えない。

かといって全く地場産品がないのも困る。杉の湯の過去の「御献立」を繰ってみると、地場産野菜やアユ、猪、大和牛などが記されている。

以前、藻谷浩介氏は「地消地産」とおっしゃっていた(「観光力創造塾」平成30年1月25日)。「地元で消費するものには1%でも多く地元産を使おう。観光客に出す食材や土産物の原材料はなおさら」という趣旨だ。画一的でない地場産品を出すことで、差別化を図ることもできる。顧客満足度の向上と地場産品の普及、このバランスが必要だ。



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