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地域外から 地域再生を支援する「関係人口」/奈良新聞「明風清音」第62回

2021年09月22日 | 明風清音(奈良新聞)
毎月2回程度(木曜日)、奈良新聞「明風清音」欄に寄稿している。先週(2021.9.16)掲載されたのは〈地域外の人材「関係人口」〉だった。人口減少や高齢化が進むなか、「定住人口」の増加は難しくなっている。かといって気まぐれな「交流人口」(観光客)に、多くを期待することはできない。コロナ禍の今では、なおさらだ。
※トップ画像は、総務省の「関係人口 ポータルサイト」から拝借

そこで注目されるのが「関係人口」という「よそ者」である。田中輝美著『関係人口の社会学~人口減少時代の地域再生~』(大阪大学出版会)で、全貌を知ることができた。では記事全文を以下に紹介する。

地域外の人材「関係人口」
関係人口とは何か。総務省の「関係人口ポータルサイト」には〈「関係人口」とは、移住した「定住人口」でもなく、観光に来た「交流人口」でもない、地域や地域の人々と多様に関わる人々のことを指します。地方圏は、人口減少・高齢化により、地域づくりの担い手不足という課題に直面していますが、地域によっては若者を中心に、変化を生み出す人材が地域に入り始めており、「関係人口」と呼ばれる地域外の人材が地域づくりの担い手となることが期待されています〉とある。

「本邦初の関係人口の研究書」というふれこみの田中輝美著『関係人口の社会学~人口減少時代の地域再生~』大阪大学出版会(税込み3520円)を読んだ。版元の「内容紹介」には〈住む人が減ったら、地域は再生できないのか?(中略)本書では、関係人口という新たな主体の存在と、関係人口が地域の再生に果たす役割を明らかにすることで、これからの人口減少時代における地域再生の在り方と、再生に向けた具体的な方法論を示す〉。本書のベースは彼女の博士論文なので、すらすらと読める本ではなかったが、以下骨子を紹介する。



▼地域外の「地域再生主体」
人口減少が段階的に進む中、高齢者が安心して暮らし続けられない過疎地域やシャッター通り商店街が広がる地方都市が、当たり前の風景となった。これまでの地域再生政策は失敗の連続だった。「地域再生の主体」としての地域住民が量的・質的ともに困難な状況に直面する中で、関係人口は、地域再生を担う新たな「地域外」の地域再生主体として期待されている。

▼「ゼロサム問題」も解決
人口減少社会において各自治体が「定住人口」の増加を目指して移住者を奪い合うことは、どこかの自治体は増えてもどこかの自治体は減るという「ゼロサム問題」が発生する。しかし関係人口は、複数の関係先を選ぶことができる。1人の関係人口を各地域が奪い合うのではなく、「シェア」(共有)するという考え方である。

▼安倍元首相も言及
〈週末の地方での兼業・副業など、関係人口の創出・拡大によって、将来的な地方移住につなげることや、企業版ふるさと納税の活用促進による、地方の魅力を一層高めていく取り組みなどの政策を通じて、地方への人・資金の流れを重層的な形でもっと太いものにしていきたい〉(「まち・ひと・しごと創生総合戦略会議」令和元年6月)。

▼関わり、つながりへの希求
「つながり」や「関係」に価値を置く都市住民や若者が増え、ふるさとや居場所が求められている。またつながりや関係は都市では失われており、まだ残っている地方がふるさとや居場所になると受け止められている。

▼5つの「よそ者効果」とは
 ①地域の再発見効果②誇りの涵養効果(他者による評価や褒め)③知識移転効果(地域にない知識や技能を持ち込む)、④地域の変容を促進(地域に驚きや気づきをもたらし地域が変容する)⑤しがらみのない立場からの問題解決。

▼まとめ
 地域再生の主役は地域住民である。人口減少の中での地域再生においては「心の過疎化」(誇りの喪失、あきらめ)に起因する住民の主体性の欠如が報告されている。住民が主体性を獲得し、地域再生の主体として形成されることが必要だ。地域社会は関係人口を「資源」として「利用」するのではなく、「対等な主体」として協働していく中で、互いに「地域再生の主体」として形成されていくべきである。

奈良県内の各地域も関係人口と手を携えて、地域再生に取り組んでいただきたいと願う。(てつだ・のりお=奈良まほろばソムリエの会専務理事)


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