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スクールバスで送迎する「かわかみ太鼓こども会」(吉野郡川上村)

2020年09月22日 | お知らせ
毎日新聞奈良版(2020.9.20付および9.21付)に、「かわかみ太鼓こども会」という記事が載っていた(2回の連載)。交通の不便な山村で、スクールバスを活用した送迎というアイデアで、親の負担なしで子どもたちが太鼓教室に通うという話だ。これはよく考えたものだ。大辻孝則さん・早稲田緑さんご夫妻の企画である。早稲田さんは以前から存じ上げているが、いつの間にか大辻さんと結婚されていたのだ!以下、記事全文を紹介する。

不安と興奮の活動再開 送迎は親の負担大(9/20付)
川上村立川上中学校の音楽室に9月4日、小学生と保育園児らの元気な太鼓の音が響いた。2019年9月に発足した任意団体「かわかみ太鼓こども会」。今年初めての活動を、代表の大辻孝則さん(36)とパートナーで副代表の早稲田緑さん(34)は不安と興奮の中で迎えた。交通手段が限られる山村で、スクールバスを使った初の送迎。「学校以外に子どもたちの居場所を作りたい」。二人の思いが村を動かした。【萱原健一】

スクールバス使用掛け合い
午後4時15分、中学校にスクールバスが到着、小学生たちが歓声を上げて降りてきた。昨年12月を最後にコロナ禍で活動が中断、久しぶりの集まりだった。この日は3~12歳の計15人と、保育園児の親が4人。まずは体操。続いて大太鼓5台と締め太鼓5個を並べ、先生の「ドーンドーン」の掛け声に合わせてバチを振り下ろす。繰り返すうち調子が出てきた。休憩中も思い思いにたたき、最後はみんなで即興曲に合わせてバチを両手にキメのポーズ。あっという間の1時間だった。

大辻さん、早稲田さん夫妻が結成した「こども会」は口コミで広がり、小学生10人、保育園児7人が入会した。昨年は毎週金曜の午後6時半から1時間、12月まで練習を続けた。「でも家庭の事情で送迎ができず、半数くらいは欠席でした」と早稲田さん。村外からの移住者が多く、共働きの家庭にとって仕事の後の送迎は親の負担が大きかった。頼れる親戚もおらず、子どもが参加したくても、続けるのが厳しい現実に直面していた。

「スクールバスを使えませんか」。移動手段と時間帯の問題と考えた早稲田さんは、教育委員会に掛け合った。小学校から午後4時の下校時に出るバスのうち中学校を経由するバスに小学生たちが乗り、中学で降りる。4時半から1時間練習して、中学の下校時間の午後5時50分のバスで一緒に帰宅する。これなら親の送迎はいらない。前例のない提案だったが、教委は好意的に受け止めてくれた。

活動再開初日、中学で小学生の到着を待つ早稲田さんは「不安で心臓がバクバクでした」。しかし、無事到着した子どもたちのうれしそうな顔を見て胸をなで下ろした。中学の校長先生も一緒に出迎えてくれ、バスの運転手さんも子どもたちに声を掛けてくれた。

元気いっぱいの子どもたちに全力で太鼓を教え、予定通りのバスに乗せて見送った。帰宅すると、大辻さんはヘトヘト、早稲田さんは興奮が冷めやらない。「暗中模索で始めましたが、やってよかった。めちゃくちゃ楽しかったです」。再スタートは順調に滑り出した。



第3の居場所作りを 親も童心に帰り
早稲田緑さん(34)が「かわかみ太鼓こども会」を作ろうと思ったきっかけは、2019年夏の保育園参観だった。早稲田さんと大辻孝則さん(36)は現在、4歳の長男と1歳の次男の子育てに奮闘中。長男の保育園参観で、太鼓をたたく機会があった。親たちも童心に帰ってたたく様子に、「太鼓は誰でもたたけて、平等でいい。もう一度やりたいなあって思ったんです」。

横浜に生まれ、東京で育った早稲田さんは翻訳システム開発会社勤務を経て、13年6月、地域おこし協力隊の1期生として村に移住した。すぐに村の和太鼓グループ「龍幻(りゅうげん)」に誘われた。和太鼓は中学時代に経験があり、二つ返事で入った。役場の職員らが作ったグループで、大辻さんもメンバーの一人だった。

10年3月、保育園で長年、園児に太鼓を教えていた先生が定年退職した。保護者から「続けさせてやりたい」との声が上がり、龍幻のメンバーが教えることに。当時の小学生らを中心に「ちびっこ龍幻」が発足、早稲田さんも13年冬に指導に加わった。子も親も熱心で、曲数も増え、県外の大会に出るまでに成長した。会は18年11月の演奏を最後に解散したが、早稲田さんは、自分の手で「太鼓をたたける場を作りたい」と思うようになった。

村教委の新井寿彦教育次長によると、以前は村にも少年野球や少女バレーなど子どもたちの活動の場があったが、今はめっきり少なくなった。少子化に加え、「送迎など親のサポートがないと続かない」のだという。早稲田さんたちが移動手段の問題と解決案を提示したことは、新井次長にとっても「村の活性化にもつながり、ありがたいこと」だった。

村教委によると、15歳以下の子どもは1990年に454人いたが、減り続け、2016年に59人で底を打った後、増加に転じ、20年には77人になった。村は13年度から「仕事・住まい・子育て・教育」をワンセットにした移住・定住促進に取り組んでおり、栗山忠昭村長は「成果が出てきたのでは」と話す。村定住促進課によると、14年度から57人が村に移住、うち17人が15歳以下の子どもだ。

小学5年と保育園児の娘2人が「こども会」に通う三宅潤子さん(40)はスクールバスの送迎を歓迎する。大阪で生まれ育った三宅さんにとって、習い事は自転車で通うのが当たり前だった。17年に村に移住し、何をするにも車が必要ということに衝撃を受けた。夫婦共働きのため「送迎は本当にありがたい」。

早稲田さんは「子ども会」を「学校でも職場でも自宅でもない第3の居場所。太鼓を通して親も子も楽しめる居心地のいい場所にしたい」と願う。交通は不便でも知恵を絞り、人とのつながりを生かして「やりたいことを実現していきたい」。早稲田さんと大辻さん、二人の挑戦は続く。
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