意思による楽観主義のための読書日記

面白きこともなき世を面白くするのは楽観力、意思に力を与えるのが良い本 *****必読****推奨**閑なれば*ムダ 

空飛ぶタイヤ(上・下) 池井戸潤 **** 

2013年06月28日 | 本の読後感
上下で900ページにもなる大作だが一気に読めた。三菱自動車関係者は読みたくない小説だろうが、あくまでフィクションである。舞台はホープ自動車、関係するのはグループ企業である東京ホープ銀行とホープ重工業。

題材はリコール隠し、それも二度目のリコールは、大型トレーラーのタイヤが外れてそのタイヤが歩行者の母子をはね、母親が即死したことに端を発する。同じような事故は過去にも起きていたが、いずれも利用者側の整備不良、というのが自動車メーカー側の調査結果であった。大会社の発表を世間も警察も監督官庁も信じた。被害者はもちろん死亡した母とその家族ではあるが、整備不良が原因とされた運送会社には家宅捜索が入り、信用を失った会社には大きな痛手であった。80人規模の運送会社を経営する赤松、先代の社長は父、経営は苦しいがぎりぎりの線でなんとか利益を出し、銀行にも融資の返済を怠ったことはなかった。

そんな赤松運送が整備不良という調査結果をつきつけられた。赤松はそんなはずはないと社内調査、しっかりと整備していた事実を確信し、ホープ自動車に調査結果の開示、故障部品の返還などを求めたが、大企業のホープ自動車からはナシのつぶて、会社にも何度も乗り込むが中小企業の社長だということで相手にされなかった。誠意のないホープ自動車の対応に訴訟に踏み切る赤松。

同時進行するのは赤松の息子の学校での盗難騒ぎとPTA会長を務める赤松への批判であった。家宅捜索を受けた人がPTA会長でいいのかとというのである。ボランティアで引き受けたPTA会長のポジションに未練などないが、痛くもない腹を探られての批判に赤松の怒りは収まらない。そして息子がクラスでの現金盗難騒ぎの犯人にまつり上げられる。息子の無実を信じる赤松、息子はクラスの中で自分を陥れようとしている友人を問い詰めて白状させる。

一方、ホープ自動車の動きを不審に思ったのは赤松だけではなかった。雑誌記者の榎本は友人のホープ銀行の井崎にホープ自動車についての探りを入れる。そして、リコール隠しの疑い有りと記事をまとめ上げるが、雑誌への広告を大量に発注するホープグループの一員であるホープ自動車からの圧力がかかり、記事は没になってしまう。榎本は赤松に取材で入手した同様の事故の関係者リストを手渡す。赤松はそのリストを頼りに、整備不良とされた全国の運送会社を回って聴きこみを行うが、良い話はなかなか聞き出せない。それどころか二度と来ないで欲しいと邪険にされる始末であった。

ホープ自動車内にも自分の会社でリコール隠しがあるかもしれないと疑いを持った社員がいた。赤松運輸を担当していた沢田である。社内にT委員会なる秘密の会議体があることを突き止めるが、従来から希望していた商品開発部への異動をエサにして口を封じられる。ホープ自動車では会社ぐるみで隠蔽工作を行い、一切の記録を社内から消去、警察の家宅捜索が入ってからも知らぬ存ぜぬを貫き通していた。そして時間ばかりが経っていった。

資金繰りに窮した赤松は取引銀行のホープ銀行に融資の依頼に日参するが、かえって融資済みの資金返還を求められることになってしまう。万事休すであった。それを救ったのは、高崎の運送会社で、同様の整備不良とされた会社からの顧客の融通と、中小企業支援に積極的な都市銀行としては下位のはるか銀行を紹介してくれたのだ。一息ついた赤松ではあったが、ホープ銀行からは融資済みの1億円もの資金を返済請求され、再び窮地に立つ。

もうどうしようもない、という時、金沢にある北陸ロジスティックスという運送会社が、新車であるにもかかわらず整備不良とされた調査結果レポートを提供してくれた。ホープ自動車はろくに調査もせずに整備不良と決めつけていたのである。さらに、ホープ自動車の社員の沢田は希望していた商品開発部でまともな仕事を与えられない毎日を送っていた。沢田は社内の極秘会議やメールのデータが入ったPCを警察に提供する。

一気にホープ自動車の容疑が固まる。警察はホープ自動車の経営者や関係者を一斉に逮捕、赤松の容疑は晴れた。はるか銀行からの融資と、ホープ自動車からの賠償金1.6億円で会社の経営は立ち直った。そして、容疑者扱いをされていたPTAでも晴れて会長の継続が投票で承認された。

全てはフィクションだというが、明らかに三菱グループを題材とした企業不正小説であり、テレビ化や映画化は望めないだろうが、エンターテインメントとしては最高の面白さである。直木賞候補にもなったというが、こちらにも圧力はかかったのであろうか。「鉄の骨」も面白かったが、本小説のほうがずっと書物としてこなれている。池井戸潤、今後注目したい。




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エッジ(上・下) 鈴木光司 ***

2013年06月23日 | 本の読後感
宇宙全体が「相転移(Phase Transition)」を起こして消滅してしまうという壮大な構想のSF物語。発端はカリフォルニアで頻発する失踪事件、同じような失踪事件が日本でも起きている。起きている場所は長野県高遠、静岡県熱海、カリフォルニアの砂漠地帯、共通するのは何。

高遠で起きた一家失踪事件を追うのはフリーライターで離婚歴のある栗山冴子、冴子は18年前にも父が失踪、行方不明になっている。冴子は小さい頃から父に、論理的思考、物理の原理、数学的考え方を教えこまれてきた。離婚した理由はそこにもあったのかもしれない。事件を追ううちに、テレビ編集者の羽柴と知り合う。羽柴は妻子ある身ではあるが、一風変わった冴子に惹かれる。

高遠での失踪事件を追ううちに、同じような失踪事件が糸魚川でも起きていることを知り、その取材に向かう冴子、そこでは見知らぬ3人の男女が同じコンビニエンスストア近辺でいなくなっていたのである。失踪事件が起きた場所を地図にプロットしていって気がついたこと、それは地質断層の上だということ。サンアンドレアス断層、糸魚川静岡構造線、断層と失踪事件につながりはあるのか。

そして、高遠の藤村一家4人の失踪事件現場で発見したのは、冴子の父が使っていた手帳なのだった。「なぜこれがここに」冴子の疑問は大きくなるばかりだった。そこには一家の主人孝太の兄だという精二がいた。冴子には嫌悪感しかもたらさない印象の精二。しかしなぜ兄が精二で弟が孝太なのか、違和感があった。

失踪事件は続いた、そして失踪規模が大きくなっていった。霊能者は、「自分の手には負えない」と匙を投げる事態だった。物理学者は世界を支えている理論が崩れだしていると言い出した。πの値を計算する大型計算機の結果が狂い出したというのだ。そしてリーマン予想も崩れ出したという。それがどうした、と考えるのは文化系思考の羽柴であったが、冴子はそこに世界の異変があるかもしれないと考えるようになった。18年前、自分の父はどうしていなくなったのか、その接点は父が失踪直前に旅行していた南米のボリビアとペルーにあるのか、藤村孝太の妻である晴子の18年前の行動を調べてみると、なんと南米を一人で旅行していたことを突き止める。父と藤村家の晴子の接点があった。

父はなぜ失踪したのか、そのきっかけは冴子にあった。父は、相転移の予想をして、その予兆である人の失踪や事件、事故を調査していた。そして、なんと藤村晴子と高遠の地にきていたのだ。冴子を救うために父がとった手段とは。

相転移とは何か。水が相転移すると個体である氷から液体である水になり、100度以上では蒸発して気体となる。宇宙が相転移するということはどうなるのか。その予兆が、人々の失踪になるという考えが冴子のなかで広がっていった。

構想の大きさは宇宙規模、鈴木光司の今までの著作、リングやらせんなどと比べると少々違うテーストであるが、SFという要素とサスペンスが入り混じった物語は共通する。面白いので一気に読めるが、その物語が示す死を超える「消失」の恐怖は、読んでみて味わってほしい。



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モンスター 百田尚樹 ***

2013年06月22日 | 本の読後感
美女に変身した38歳女性の悲恋物語で、ポイントは美容整形の描写。

瀬戸内海の田舎町に絶世の美女、鈴本美帆が新装開店したレストランオーナーとして現れた。小さな町では、美人のレストランオーナーを一目見たくて開店したフレンチレストランは大繁盛した。美帆はどうみても30歳代前半にしか見えず、人によっては20歳代だと思った。絶世の美女美帆はどこから来たのか。実は美帆は湖の街で生まれて育った少女田淵和子だった。小さい頃はブスと言われ続け、劣等感にまみれて育った。不遇の子供時代、学生時代をこの街で過ごし、好きになった青年英介の飲み物にメチルアルコールを入れるという事件を起こしてこの街を出た。

東京の小さな工場で働く和子は少ない給料をためて最初に見難い鼻を整形した。ダンコっ鼻はツンと尖った高い鼻に生まれ変わった。他の部品は変わらなくても美帆は高くなった鼻に見とれた。お金さえかければ美しくなれるんだと思った。そして次には一重のまぶたを二重にした。これでも目の印象はガラッと変わった。工場の同僚は和子の顔が変わっていくのをしらじらと見ていた。そして和子は引っ込み思案で臆病だった自分が、顔を変えることで自信が持てるように変化していくことを感じていた。顔が綺麗になれば自分に自信が持てる、もっと綺麗になれば初恋の彼氏も自分の方を向いてくれるかもしれないと思った。

アジア人の目頭は西欧人の目頭とは異なり蒙古襞とよばれる膜があり、それが顔の印象を東洋人に見せているのだという。和子は蒙古襞を切除してほしいと美容整形を行った。これでも大きく顔の印象は変わった。そして左右の目の間隔、目の横幅と間隔とのバランス、目尻の角度なども美人と言われるバランスに変えた。目が変わると顔の表情は一変したが、口と歯並びが顔の下半分を台無しにしていると思った。そして、歯を全部抜いてインプラントにして、前に突き出ていた口蓋全体を引っ込めた。そして顎のラインの骨を削ることで和子の顔はすっかり変わり、世に「美人」と言われる美しい女性の顔に変わったのであった。美人は平均的な顔、和子は平均的な顔になり、彼女は絶世の美女と呼ばれるようになった。美人はなににつけても得をすることを知った。また、ブスと言われた時には目があうことがなかったすれ違う男性とよく目があうことも知った。男性はなんのかんの言っても、顔の綺麗な女性が大好きなのだ。外見より中身だ、などと言っている男ほど見栄えにこだわった。

解説者に中村うさぎが書いている。百田尚樹は美容整形の知識は中途半端ではないと、美容整形では大金を使ったという中村うさぎも感心するほどであるという。そこまでリアルにならないとこうした美容整形で美人になる、などというお話は荒唐無稽なチープな物語になってしまう。

和子が鈴村美帆と名前も変えて帰ってきたのは、初恋の青年英介に美しいオーナーに会いに来てほしい、と願ったからだった。なんという乙女チックな夢だろう。一年という期限を区切ってのことであったが、果たして英介はレストランに妻と一緒に現れた。その青年は立派な中年にはなっていたが、初恋時代の面影を残し素敵な中年男性になっていた。美帆は彼に秋波を送り、かれも美帆に見とれた。当然、美帆が見にくかった和子であるとは気がつくことはなかった。英介は美帆に夢中になり、妻と別れても美帆と一緒になりたいと言うまでになった。美帆も長年の夢がかなったのだが、長年の無理がたたって病弱な体になっていた。そして、英介の腕の中で死んでしまう。しかし英介はその場から逃げ出した。結局は心の底から美人になった美帆を愛することはなかったのかもしれない。それでも美帆は満足して死んでいった。それだけが美帆の生きがいだった。


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ツナグ 辻村深月 ****

2013年06月17日 | 本の読後感
構成がしっかりした連作物語風の小説で、主人公というかツナグ役割を果たす男子高校生の歩美。最初は人気の女性テレビタレント水城サヲリが急死、そのサヲリに生前一度だけ偶然励ましてもらったことがある、という理由で、「ツナグ」に連絡してサヲリに合わせて欲しいと頼む地味なOL平瀬愛美。愛美はテレビなどのマスコミを通してサヲリに励まされ慰められても来た。そんなサヲリが急死したとき、彼女にひと目でいいから会いたいと申し出た。「ツナグ」への願いは一生に一度しか叶えられない。依頼者も一度、そして依頼される方も一人にしか会えない。満月の夜に月が出ているあいだだけ、一晩だけの邂逅である。その願いを叶えるのがツナグ、その行為はボランティアであり、報酬は受け取らない。そのツナグの役割を高校生で果たすことになったのが歩美だった。

二人目は母親をガンで亡くしてしまった長男、彼は不遜な男だった。その母親も昔ツナグに依頼して亡き夫に会っていたのだ。不遜な男も死んだ母親に会えることで憎まれ口を叩きながらもツナグの若造の歩美に感謝の言葉をかけた。

三人目は親友だった御園奈津を事故で亡くしてしまい、それを自分の仕掛けた氷の罠の上で自転車で滑ったため死なせてしまったと悔やむ女子高生の嵐。嵐と奈津は演劇部員、文化祭で演じる「鹿鳴館」に向けて練習する中で、主人公の役をめぐって立候補する二人だったが、奈津が選ばれて落ち込む嵐。そして奈津が毎朝通る道に水道水を流して夜中に凍らせて奈津が自転車で来た時に滑ってしまうことを狙った嵐。そして奈津は本当にそこで滑って死んでしまう。そんな奈津に一言聞いてみたくて、そして謝りたくてツナグに会うことを依頼した。ツナグが高校生で、それも同じ高校のアユミ君だったことに驚く嵐、それは歩美にとっても同じだった。同じ高校に通う女子から依頼があるなんて思ってもみなかった。そして奈津はツナグの歩美に最後に伝言を託す。その伝言が「道は凍っていなかったよ」、奈津は嵐が水道をひねって仕掛けをしていたことを知っていたのだ。それでも一晩中知らないふりをして話をした奈津、最後に取り返しのつかないタイミングで歩美を通して伝言した奈津、最後に一生悔いがのこるやり方で仕返しをした奈津。悲しいやら悔しいやら、悔やんでも悔やみきれない嵐だった。

4人目は突然の出会いから同棲することになった女性は日向キラリ、男性は土谷、あまりに素直で純粋なキラリに惹かれる土谷、しかしキラリは自分の生い立ちを話すことはなかった。ある日、結婚を決意した土谷はキラリに結婚指輪を渡す。そしてキラリは失踪した。連絡の取りようもないキラリは7年経っても帰ってこない、土谷はツナグに会いたい、と依頼した。果たしてキラリは死んでいた。本名は鍬本輝子といった。出身は熊本、家出した実家に土谷との結婚を説明しようと乗船したフェリーが沈没したのが死因、しかし名前が違うので土谷は気がつかなかった。ツナグが再会をアレンジしてくれなければ一生土谷はキラリを探し続けたかもしれない。キラリはそう思って再会をしたのだ。

そして最後の話でツナグの謎が明かされる。歩美にツナグの役割を譲ったのは祖母だった。そして歩美の両親が死んでしまった理由も明かされる。

ストーリーはよく練られていて、連作短編集なのに最後のエピソードによってしっかりと一つのお話になるように作られている。同じ筆者の「ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ」は女性っぽい話だと感じたが、このツナグはそうでもない、というよりずっと洗練されている。嵐の話と土谷の話が秀逸だった。


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鉄の骨 池井戸潤 ****

2013年06月16日 | 本の読後感
建設業界から談合がなくならないのはなぜという疑問、というより敢えて言えば「愚問」を真正面から取り上げた吉川英治文学新人賞受賞の小説。

主人公は信州上田出身で富島平太という大学卒業後4年目の若者、つきあっているのが同じ年で銀行に入社した野村萌。平太は中堅のゼネコン、一松組に入社、工事現場が自分に合っていると感じ始めていた矢先、突然に業務部に異動を命ぜられる。なぜ自分が本社の「談合課」とも言われる部署に異動するのかがわからない。

萌の勤める銀行が一松組のメインバンクで、平太は萌を通して、一松組の経済的不安定さや談合の問題、談合を取り調べている検察の動きまで知ることになる。萌は平太が好きだが、サラリーマンとして談合に加担する平太を不甲斐なく世間知らずで頼りなく感じる。その時、銀行のエリートで先輩の園田に声をかけられ平太に黙ったまま付き合うようになる。園田は談合の問題点や一松組について客観的に萌に教える。そして園田は萌に素敵なレストランやワインなどを美味しく楽しく味わう喜びを教えた。萌は今まで知らなかった世界を園田に教わり、どんどん気持ちが傾いていく。一方の平太は大きな地下鉄工事で、業界を仕切っているという三橋に紹介される。三橋は佐久は臼田出身でなんと、平太の母の幼馴染だった。異動も担当替えもふくめて、これはすべて平太の家族との関係と業界のドンとの関わりを知った上での会社上部のオペレーションであったことを悟る平太。そこまでして会社は受注したいのか、と平太は考えるが、2000億円を超える受注を単独でとれればと考えれば、これは中堅のゼネコンにとっては会社を上げての一大イベントなのだった。

読者は平太と萌を通して建設業者と金融機関の関係を知り、三橋と平太の会話で談合がなくならない背景を知る。談合を本当に裏で操っているのは政治家がいるのだが、その政治家への金の流れがポイント。何社もの会社取引に潜り込ませる形でお金が流れ、そして最後は競走馬を育てる北海道の畜産ファームが馬の購入代金として数百万円を受け取る。競走馬の価格に相場はない。いい血筋の馬には数百万円も惜しくはない。筆者のアイデアなのか、よくある手筋なのか。さらに、最後の入札で談合破りとも言えるやり方をあえて行う一松組の役員、そこまで読んで覚悟の上での入札なのかと平太は呆れるやら、感心するやら、自分の与えられた重要な役割に最後にしてようやく気づく。

謎解き、どんでん返しへのプロットなど、600Pを超える小説だが飽きることなく一気に読めて大いに楽しめる、さすが直木賞作家。「鉄の骨」というより、筆者のもともとのタイトル案「走れ平太」の方がしっくり来ると思う。


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ダンスと空想 田辺聖子 ****

2013年06月09日 | 本の読後感
若いころの田辺聖子さん、そのままのような30歳代のカオルが主人公のエッセイ風の神戸日記とでも言える読み物。時代は1980年、ポートアイランドが出来る前、神戸に暮らす30-40歳の働き自立する独身女性たちが、”ベル・フィーユ”と呼ばれるグループを結成して、神戸の町で怪気炎をあげていた。

ベル・フィーユのメンバーは次の通り。
オートクチュールのアトリエをやっているカオル、私。
女流シナリオライターの大信田さん、
ブティック経営、美人のけい子、
ミニコミ誌の編集長、平栗ミドリ、
テレビディレクターの阿佐子さん、
手芸家のモト子さん、
モダンダンスの雪野さくらさん、
平均年齢は34歳であり、みんなが元気で勢いのいい女性たちである。

仕事のあとに、行きつけの店に集まっては次のパーティやイベントの相談で盛り上がる。話の中に出てくるエピソードが面白い。
独身女性を集めて、桐島洋子さんが作るのは「あしびき会」、あしびきの、山鳥の尾のしだり尾の、長々し夜をひとりかも寝ん」。
女性の集まりが長続きするこつは「KINTAMA」、協調すれど介入せず。
ポートアイランド、略してポーアイ、ポーアイは山と海の結婚だ。

気楽に読めるが、男性の弱みを掴んで離さない女性の強さと、そして女性の本音が分かるようで大変面白い。女性がカオルさんのようにサッパリとしていると付き合いやすいと思うがどうだろう。


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ナラタージュ 島本理生 ***

2013年06月04日 | 本の読後感
高校時代の演劇部顧問の世界史教師葉山に大学2年になっても好意を抱く工藤泉、卒業した高校演劇部の部員不足から秋の公演のためにOBとしてエキストラとして呼び出される泉、同じようにOBで同じ年齢の黒川、黒川と付き合っている山田志穂、それに金田伊織、泉に好意を寄せる小野というOBメンバーが召集された。現役からは塚本柚子、そして柚子が好意を持つ新堂という二人、合計7名の演劇であった。

葉山に惹かれる泉、しかし葉山は徹底的に煮え切らない態度をとる。葉山には妻がいたのだ。しかしその妻は事件を起こして、実家の北海道に帰っていた。葉山も泉に心惹かれるが妻との暮らしをやり直すことを決める。泉は好意を寄せてくれる小野と付き合ってみるがやはり合わない。

秋の演劇の公演をはさんで、小野の長野の実家にみんなで泊まり込みで合宿したり、黒川が留学したり、柚子が家出したり、さまざまなことが起こるが、泉の心はどんどん葉山へと戻っていく。そして最後の別れ、それでも泉の心の中には葉山が生き続ける。

女性の心の中をこれでもかというくらいネットリと描くので、好悪の反応は分かれるだろう。想定される読み手は高校生から大学生の女性向きかと思うがどうだろうか。


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高熱隧道 吉村昭 ****

2013年06月01日 | 本の読後感
解説によれば「調べた小説」と呼ぶらしい。実際に起きた事件や出来事を徹底的な調査と裏とりによって事実を固めた上で、ストーリーに展開する。本書は昭和11年に着工した黒部第三発電所の隧道工事で起きた事柄、事故を物語風に仕立てあげたもの。場所は宇奈月温泉の上流にある、今は黒部のトロッコ列車が走っている付近、地名で言えば欅平にある第三発電所を第三工区としてそのさらに上流の阿曽原までを第二工区、阿曽原からさらに上流の仙人谷ダムまでを第一工区とし現在は第四発電所がある手前までの工事であった。時は中国戦線が拡大し、日本国中が戦争支援のための増産やエネルギー開発に注力された頃の話、多くの困難があった工事ではあったが、国家による強力な後押しがあったために、300名を超える多数の事故死者がでたにも拘わらず工事中止にならず完遂された。現代なら危険過ぎる工事、ということで根本的に工事技法やそもそも工事自体が取り止めになる状況であった。

黒部川、トロッコ列車に乗ったことがある方なら誰でも見るその渓谷の深さ、そして夏の気候のいい時でもトンネル内は冷たく、そして黒雉温泉を源泉とする温泉が噴き出している。冬に訪れる人は殆どいないと思うが、そこは深い雪に閉ざされ、雪崩と雪崩をきっかけに起きる洪水のように流れる奔流、雪崩も泡雪崩と呼ばれる「大爆風」を伴う想像を絶する規模の雪崩である。工事技師と人夫たちはそこに宿舎を建設しトンネルを穿ったのである。トンネル工事はじめから困難を極めた。第一工区を受け持った業者は60メートルを掘削した時点でケツを割った、つまり工事放棄をした。原因はトンネル内の温度が60度にも達して掘削する人夫が作業継続ができなくなったためであった。第二工区を担当していた業者に工事継続が依頼されるが、当初予算ではとても継続できないと、必要になる費用はすべて支払う、という契約によりやっとのことで受託できることになった。

高熱トンネルは60度からさらに80度、90度と上昇、やがてハッパのダイナマイトが自然発火する温度に達する。そもそも法律では40度以上の場所でのダイナマイト使用が禁じられているため法律を守っていては工事ができないのであった。そこで考えられたのがエボナイトによりダイナマイトを包んでの爆破である。さらに人夫の体を熱から守るため、水をシャワーのようにかぶせながら工事を進め、それでも30分以上の継続作業は難しいという状況であった。こういう状態であったため、いくら注意をしていても事故は起きた。不注意によるダイナマイト発火事故、熱水の漏出による大やけど事故、熱による熱中症、極度の暑さによる塩分不足などで多くの人夫の命が失われたが、それでも工事は続けられた。トンネル内は結局160度にまで達したのである。

技師たちはカリウム注射による塩分補給や、エボナイトに変えて竹によるダイナマイト被覆、水シャワーの工夫などで多くの困難を乗り越えようとした。そうしたなかで起きたのが泡(ほう)雪崩による80名にも登る死亡事故であった。泡雪崩は鉄筋コンクリート製6階建ての宿舎の上四階部分を数百メートルも吹き飛ばすという想像を超える事故を引き起こした。考えられない地点まで宿舎が飛ばされていたため事故当初の数週間は死体が一体も発見できなかったほどであった。その後も雪崩や爆発事故があり300名を超える人夫が死んだために、いくら給金が通常の4倍ももらえるといっても、掘削作業を担当する人夫と工事技術や爆破方法を考える技師たちの間には不穏な空気が漂った。

今ではトロッコにのってスイスイ行ける欅平から第四ダム、室堂への道だがこのような困難と犠牲のうえに成り立っていると思うと、ちょっとした感傷的な気分にもなる。映画化された「黒部の太陽」の石原裕次郎や香取慎吾を思い浮かべて、第四ダムの工事は知っていると思っていたが、その前にも多くの人たちの犠牲と努力があったこと、宇奈月や黒部に行く時には心にしっかりと抱きながら訪れようという気持ちになる。吉村昭、ちょっと見直したい気分である。


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