意思による楽観主義のための読書日記

面白きこともなき世を面白くするのは楽観力、意思に力を与えるのが良い本 *****必読****推奨**閑なれば*ムダ 

バッテリー あさのあつこ ***

2011年04月30日 | 本の読後感
小学6年生を卒業するその時、岡山県の新田市に引っ越してきた少年野球のピッチャー原田巧は自分の投球に絶対的な自信を持つ少年であり、野球に対しては決して妥協することをしない心をすでに完成させているピッチャーであった。弟の青波は4年生だが体が弱く小さい頃から病気がち、母の真紀子はそんな青波の体調がいつも気になる生活をしてきた。父の広は営業マン、東京、から転勤で福岡、岡山と移り住み、それにしたがって家族もついてきたのだ。

新田市にも中学はありそこにも同学年の子供たちが入学しようとしていた。永倉豪はキャッチャーをしている小学6年生、巧と同学年だ。豪は県大会での巧の活躍を知っていた。巧が同じ中学に入学するなら自分も是非野球部に入りたいと思っていた。

巧の子供とは思えないような野球への思いとピッチングセンス、そして巧が持つひたむきさは周りの大人達や少年たちの野球への思いをも駆り立ててしまう。弟の青波も体が弱いことを知りながら自分も兄のように野球をしたいと考えだした。巧の投げるたまを打ってみた大人たちもアマチュア野球チームを作りたいと思うようになった。豪や豪の野球部の同級生たちも同じだった。

「バッテリー」という長い物語の始まりである。児童文学として書かれたと解説にあるが、決してそうだとは思えないような内容、続きを読んでみたいと思う。「セカンドウインド」は自転車に乗る少年の物語であったが、その野球版である。
バッテリー (角川文庫)
バッテリー〈2〉 (角川文庫)
バッテリー 3 (角川文庫)
バッテリー〈4〉 (角川文庫)
バッテリー〈5〉 (角川文庫)
バッテリー〈6〉 (角川文庫)
セカンドウィンド 1 (小学館文庫)
セカンドウィンド 2 (小学館文庫)
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宗教の日本地図 武光誠 ***

2011年04月29日 | 本の読後感
都道府県別の神社仏閣と歴史解説、興味深い編集である。一向一揆、法華一揆、島原の乱などは宗教に絡んだ戦いであるが、神仏習合があり、日本では宗教対立よりも多くの宗教を受け入れてきた歴史がある。数多くの神社、八幡信仰、天満宮信仰、稲荷信仰、仏教では南都六宗から天台宗、真言宗、そして浄土、浄土真宗、時宗、臨済宗、曹洞宗、日蓮宗という鎌倉新仏教から、明治の廃仏毀釈を経て現代の新宗教まで地域別に相当の特徴もあるようだ。

歴代天皇は神社に正一位などの位階を授け、神職にも四位、五位などの位階を与えている。さらに国別に一宮、二宮などの名称を付している。仏教寺院にも定額寺などの制度で権威付け、僧侶には僧正、僧都などの僧官を与えた。弘法大師などの大師号、紫衣の着用許可も天皇が与えたという。布教にも勅許が必要であり、勅許なしには邪宗とされた。

江戸時代の江戸では流行り神として福の神をまつり、京都では伝統的行事を重んじた。北海道や沖縄では精霊崇拝的信仰がみられ、東北では山岳信仰が修験道と習合して受け継がれた。三重や和歌山には伊勢や熊野の信仰があり、出雲は出雲大社、備前は吉備津神社の影響が深い。

群馬や栃木では古代上毛野氏、下毛野氏が勢力を持ち、三角縁神獣鏡を副葬する大型古墳が築かれた。そのため有力な神社も多く、貫前神社、伊香保神社、赤城神社、総社古墳群などがある。

江戸の流行り神には稲荷、大黒天などの七福神や疱瘡神、死者の魂を神とする和霊信仰、神田明神のように平将門などの怨霊を祀る御霊信仰がある。明治以降の東京には新宗教が繁栄、神霊教、統一教会、ものみの塔、GLA総合本部、創価学会、幸福の科学、日本イスラム教、日本ムスリム協会、霊友会、立正佼成会、真如苑などである。

石川県は一向宗が広まった。蓮如は「念仏者はすべて平等である」という思想、加賀、能登の武士や農民に広く受け入れられた。白山の天台宗や時宗の宗徒も一向宗に転宗した。1488年には一向一揆を起こし90年にわたって一向宗徒の武士による合議制統治が行われた。

伊勢神宮は天武天皇の時代に成立したと言われる出雲大社に並ぶ壮大な神社である。和歌山には熊野詣と高野詣があり、修験道とも混合した神仏習合の地である。

奈良は皇室発祥の地である。皇祖神は天照大御神、それを祀るのは伊勢神宮、初期の大和朝廷が祀ったのは大神神社。王家の祖先神の三輪山の大物主神から太陽神である天照大御神に代えられたのである。仏教が伝わるとならには南都六宗が栄えた。律宗、成実宗、華厳宗、法相宗などである。全国に建てられた国分寺の中心として大仏と東大寺が建立された。

京都には古代からの渡来人である秦氏の広隆寺、松尾大社、鴨氏の上賀茂神社、下鴨神社がある。そして天台宗の比叡山延暦寺、真言宗の東寺、そして室町幕府は仏教寺院を京都五山、十刹、諸山と寺院を格付けし統制した。京都は奈良と並ぶ宗教都市になった。江戸時代の京都は本山詣での観光客で賑わった。

出雲には千家家という国造家があり、当主は現在でも県知事並みの尊敬を集めている。出雲の一宮が大社であり、石見では物部神社、隠岐では水若酢神社である。時宗や日蓮宗も広がりを見せたが仏教は他地方ほどには広まらなかった。室町時代には山名氏、戦国時代に尼子氏、その後毛利氏、そして井戸時代には松平氏の領地になった。

岡山の吉備地方は吉備津彦信仰があり、古代に勢力を持っていた吉備氏の影響力が見られる。吉備津神社はその名残である。吉備津彦の鬼退治が桃太郎伝説になったと言われる。吉備津彦は出雲における大国主の位置づけである。守護大名は赤松氏、戦国時代には宇喜多氏、江戸時代には池田氏となり、不受不施派の弾圧を行った。幕末には黒住教、金光教が起こっている。天理教と合わせて三大新宗教であるが、そのうちの二つが岡山で起こったのだ。

山口も歴史に翻弄された。キリシタンを受け入れた大内氏は陶晴賢に滅ぼされ、そして陶晴賢も毛利氏に滅ぼされた。毛利氏は宗教に寛大であったが明治には廃仏毀釈の流れになった。

香川は空海と円珍の生まれた地である。善通寺は空海の生誕地に平安時代になって建てられた。高野山、東寺とともに大師三大霊跡と呼ばれた。江戸時代には金毘羅山が航海安全の神として栄えた。四国88箇所の遍路参りの寺院もたくさんある。

地方の宗教地図は日本歴史の縮図というか切れ端というか、日本歴史の流れは全国に散らばっている。一遍や親鸞、法然などが全国のあちこちを布教に回っていることにも驚く。
宗教の日本地図 (文春新書)
日本人なら知っておきたい神道
日本人なら知っておきたい仏教 (KAWADE夢新書)
一冊でつかむ天皇と古代信仰 (平凡社新書 462)
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親指さがし 山田悠介 **

2011年04月27日 | 本の読後感
小学生の時に仲良しだった男女5人組、12歳の時に由美が言い出した「親指さがし」というゲームからこの恐ろしい話は始まった。輪になって手を繋ぎ、隣の人の左手の親指を隠して目をつぶる、そしてそこで見えてくる部屋の中で親指を探す。背後から肩を叩かれても振り返ってはいけない、元の場所に帰りたかったらろうそくを消す、というルール。最初は信じられなかったが、それは起こった。本当に見知らぬ部屋に迷い込んだ気がした。そして背後から肩を叩かれ怖さのあまり、目の前のろうそくを消した。5人とも同じような経験というか夢を見た、と思った。もう一度やろう、ということになり二度目には由美はもどってこなかった。4人は同じようにもどってきたのに、由美は本当にその場から消えてしまったのだ。

7年後、4人は失踪した由美のことを忘れたかったが忘れられない。20歳になる年、由美が失踪したその日にその現場に4人で集まった。由美を探そう、私は親指が見つからないという事件が16年前に山中湖の天界村にある別荘で起こっていることを調べていた。私はその別荘に行ってみることを提案、みんなで別荘に行ったのだ。その別荘はみんなが由美が失踪したその日に夢のなかで見た部屋そっくりだったのだ。それもそれぞれのメンバーがみたそれぞれの部屋が別々に存在した。そして一人の仲間が鎌で刺されて死んだ。誰に殺されたのか。警察が来て大騒ぎになった。16年前にこの別荘で殺された女性が呪って出てきている、というのが村人たちの噂であった。

警察は捜査をしたが、由美が死んだ経緯や幽霊の話は信じてくれない。そうするうちにのこりの3人の前にもその女性は現れた。そして私以外の2人も何者かに殺された時点で警察は私の話を信じた。しかし、同じような事件がまた別の仲良し五人組に起きているのだった。

リングのような、学校のコックリさんのような日本的なホラー物語である。通勤電車の行き帰りでさっと読めてしまうライトノベル。親指さがし
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となり町戦争 三崎亜記 ***

2011年04月26日 | 本の読後感
普通の町、舞坂で隣町と突然戦争が始まる、というちょっと変わったおはなしだ。

戦争と言っても大砲やミサイルが飛び交うわけではなく、役所に隣町戦争係が設置されて、予算が計上され、新聞に戦死者数が掲載されるだけという実感のない戦争なのだ。町の役場から偵察業務を委託するという任命書が会社員の私に届く。いったい何を偵察するというのか。実感のないまま任命に応じる。

役所の担当者香西さんは若い女性であり好感を持つ。役所としては香西さんと偽装結婚をして隣町に潜入して欲しいと言ってきた。アパートまで用意してあるという。なんのことかわからないまま、香西さんとの偽装結婚生活に入る。私の結婚生活と会社生活が続く。

そしてある時、急に戦争終結宣言がされ、香西さんとの偽装結婚も終りになる。寂しい気持ち、香西さんを忘れられない私は香西さんをデートに誘う。香西さんは隣町の町長の息子と結婚することになったという、そんな事ってあるのだろうか。

実感のない戦争、役所の手続きと新聞に掲載される戦死者数、役所の職員による決められた手続きの履行と予算執行のみが淡々と進んでいく。舞坂の町ではその戦争にもコンサルタント会社を雇い戦争遂行を委託している。

アメリカが世界の何処かで戦争をしている場合のアメリカ市民たちの気持ちを表すとこの小説のようになるのだろうか。身の回りでは危険はなさそうだが戦死者数は報告され、国家予算は消費される。戦争の必要性は国会で議論されているがアメリカ市民には実感がない。ただ、身寄りのが兵隊で怪我したり戦死すると急に実感を帯びるのが戦争。

公共事業としての戦争、予算執行のために人員をさき、無関心な市民を巻き込み、業務を外部委託する。私と香西さんはほのかな好意を抱きあうが、役所の決めた戦争に巻き込まれその気持は現実の結果としては表すことができない。なんだかやりきれない物語である。
となり町戦争 (集英社文庫)

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看守眼 横山秀夫 ****

2011年04月25日 | 本の読後感
それぞれ一回ドキッとさせられる短篇集である。

表題作「看守眼」。県警の機関誌編集を任された山名悦子は26歳、ベテラン上司が定年退職前の休暇中、定年退職者特集の定年者による回想手記、47人いるのが46人分しか集まっていない、全部集まっていると上司は言っていたはず、なぜだろう。残りの一人はF署の近藤宮男、留置所の看守係で、昨年の主婦失踪事件の被疑者を留置していた担当者だ。刑事になりたかったのになれなくて、留置場の看守をしながら刑事の真似事をしていると彼の妻は言っていた。「穴蔵刑事」だと。主婦は買物途中に失踪、不倫相手の山野井一馬が別件逮捕された。山野井と主婦は駐車場で口論しているところを目撃されていた。主婦の死体は見つからず、山野井は一貫して無実を主張、証拠不十分で勾留期限が切れた。主婦の夫は怒り、山野井を待ち伏せにして刃物で斬りかかり、逆に山野井が反撃、死んでしまった。山野井は正当防衛で無罪、話題になった主婦失踪事件だったが、主婦の夫が殺人未遂になり、山野井の疑惑は雲散霧消した。穴蔵刑事はこの事件を追っていて、回想録など書きたくないのだと悦子に告げた。ひょんなことから近藤が山野井を張り込んでいるところに出会した悦子は、山野井が失踪したはずの主婦と密会しているところを目撃する。山野井と主婦はグルだったのだ。主婦と山野井は嫉妬深くて執念深い主婦の夫を逆上させて殺害するという共犯だったことを近藤は掴んでいたのだ。看守として被疑者を観てきた近藤の眼は確かだった。そして近藤は一緒に現場を目撃した悦子に原稿を書いてやった。悦子は穴蔵刑事のことを羨ましく思った。こんな警官の人生もあるのだと。

自分が子供の時に母と子供を捨てた男、その男の自伝を書くことになったライターがその男に試される「自伝」。家庭裁判所の調停委員をする関根ゆき江、ゆき江の娘がとある男と不倫関係になっていたことを知らずに、相手の男の妻と3人の娘の離婚調停を引き受けてしまう。思わず口走った「それしきのことで騒がないでよ」、この一言で調停委員の娘が夫の不倫相手だと悟った「口癖」。警察のホームページが外部から改竄され、フランス語の詩のような文言に書き換えられている、誰の仕業だろうと調べるうちに、警察がフランス語通訳として採用した男に突き当たる。スタンダールの赤と黒のセリフ、こんなことで警察での出世や幸せな家庭を壊されてはたまらない。改ざん事件から家庭の温かさを感じることになる「午前5時の侵入者」。県民新報の記者高梨透のたまたまとった行動が、写真家とその不倫相手のアリバイに使われてしまう「静かな家」。県知事の秘書課長倉内忠信は県知事の信頼を得ていたはずだったが、新しく来たボストン大学卒の若手秘書に知事の信頼を奪われてしまう。しかし倉内も数年前前任女性秘書の地位を奪ってその地位についたことに地位を奪われたことで初めて気がつく「秘書課の男」。

一つ一つの短編が結構手が込んでいてぎょっとさせられる。横山秀夫は短編もまた素晴らしい。看守眼 (新潮文庫)

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激変!日本古代史 足立倫行 ***

2011年04月24日 | 本の読後感
箸墓古墳と卑弥呼、ヤマト王権、邪馬台国と吉備、出雲、日本書紀と藤原不比等、群馬の古墳群、聖徳太子はいなかった?、大化の改新と蘇我氏、伊勢神宮の誕生と筆者の今までの疑問を取りまとめた書物。

飛鳥博物館長白石太一郎さんの説。「倭国大乱のなかで近畿。瀬戸内海連合勢力が鉄を求めて伊都国、奴国などの玄界灘勢力と戦った。近畿連合が勝ちヤマト王権で邪馬台国が盟主となり、卑弥呼の呪術的権威により宗教的指導者としてまつり上げられた。その場所は奈良の纒向、東方にあった狗那国(濃尾平野)も従属させた。王位継承としては大和政権から天皇家が連綿と続いていたのではなく、政権を支える複数の有力集団から交代で王位につく者が現れていたと考えられる」 この際に吉備の勢力が中核だった、と主張するのは考古学者寺沢薫さん。しかし、卑弥呼は邪馬台国の女王ではなく卑弥呼という女王がいた場所が邪馬台国、だという。

岡山大学松木武彦さん、「卑弥呼が即位する80年前の倭国王は中国文献では帥升、吉備の楯築の王だと考えられる。卑弥呼は空白期を経て吉備の倭国王を継いだ、そのため卑弥呼の墓に吉備の要素が反映されている。」

佐賀女子短期大学の高島忠平さん、「日本列島が統一されたのは7世紀後半に律令制度が整備された時期、北部九州で30の小さな国々を統括していたのが卑弥呼の邪馬台国連合だった。邪馬台国は久留米・八女地域にあったと考えている。そこが磐井の本拠地だから。卑弥呼が親魏倭王に叙せられたあとも、北九州一帯を磐井が支配していた。7世紀ごろまで畿内の政権は不安定で、地方勢力の反発として磐井の乱もあった。」

中部大学大山誠一さん、「現時点で日本書紀に出てくる天皇としてその在位以降を現実の歴史に基づいた記述とみなせる候補は、崇神、仁徳、雄略、継体であるが、継体以前が前期ヤマト王権、継体以降が後期大和政権である。ヤマト王権の権力の背景は外交権独占と東日本の掌握、その二つが崩壊した間隙をついたのが東国勢力に支持された継体大王、継体にはそれ以前の大王たちと違い実在性がある。継体が神武のモデルであり、神武の大和平定の記述は壬申の乱の大海人皇子、天武天皇もモデルとなっている。自分たちの子孫をなんとしても天皇にしたかった藤原不比等が万世一系の系譜を作りたくて創作した物語、それが日本書紀だ。持統は天武の死後、自分が生んだ草壁皇子を皇位に就けようとした。しかし草壁皇子は28歳で死亡、そこで自らが即位、草壁皇子の遺児文武を天皇にした。これを助けたのが藤原不比等。藤原不比等の娘は文武天皇の妻となり、聖武天皇が生まれた。」

高崎市教育委員会若狭徹さん、「古墳時代から律令時代にかけて群馬に勢力を張っていた上毛野氏、その基盤は灌漑と農業技術にあった。上毛野の同族車持氏が登場、雄略天皇から賜ったのが車持という姓だった。8世紀の大宝律令で郡名を2文字に改める際に上毛野国は上野、車郡は群馬となった。」

中部大学の大山誠一さん、「聖徳太子の逸話は虚構、日本書紀で不比等は日本が先進国であることを示すために、日本にも進んだ為政者がいたことにしたかった。不比等は厩戸皇子を聖人の聖徳太子とすることで、理想的な為政者とした。中国の隋書倭国伝であは裴世清が倭王に会い、その王の妻の名前、後宮の様子を記述していることから608年年のこととあるが女性天皇の推古ではなかったはず。当時の倭国状況から考えるとそれは蘇我馬子であったはず。藤原不比等は蘇我氏の勢力の記述を日本書紀では意図的にしなかった、大化の改新まで続いた蘇我稲目、馬子、蝦夷、入鹿の蘇我氏は断絶、用明、崇峻、推古は大王ではなかった、大王としての施策や存在感が全くないからである。」

大山さんの主張は「蘇我氏の正体」で関裕二さんが強調していた説である。日本書紀はそのまま読むことは危険、というのは複眼的に検証すべき主張であることがよくわかる。足立さんのこの本、そして関裕二さんの本、今までにない古代史の視点を提供してくれた。激変! 日本古代史 卑弥呼から平城京まで (朝日新書)

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ブラック・ドッグ ジョン・クリード ***

2011年04月23日 | 本の読後感
ジャック・バレンタインは元英国の秘密諜報部員、現役からは退いているが、トラブルに遭遇することが多い性格である。食べ物や音楽にこだわり、度々それらが登場するのは、村上春樹や景山民夫を思い起こさせる。

ジャックの隣人ジミーの兄、ロバート・カーの認識票がアイルランドに海岸に打ち上げられる。ジミーに付き添って検視審問にでたジャックは審問が延期され、延期理由に不審を抱いた女性記者から不審な理由を聞き出している最中に女性記者が狙撃され死亡する。女性記者が最後につぶやいたのが「ブラックキャット」。ジャックの前にはドナ・マクニールという女性法医学者が現れ、二人は恋におちる。ドナはこれに関連すると思われる航空事故のパイロットから「ブラックドッグ」という言葉を聞き出したという。そしてそのパイロットの血液からはサリン、シクロサリン、タブンという毒物が含まれていたという。ブラックドッグとブラックキャット、何を意味するのであろうか。

ジャックの旧友でロシア人のサーシャ、ジャックの元恋人ディアドラ、ジャックの友人リーアムメロウズとデイビィ・マクリンクなどが登場して、ジャックの元上司や米国CIAなど国家機密も絡めた展開になっていく。

ジャックが自分で作る食事の場面が度々登場する。コロンビアコーヒー、オドハティーズのフリーレンジソーセージ、クロナキルティのブラックプディング、切ったマッシュルームとトマト、ポテトブレッドにポーチドエッグなどという英国らしい朝食、冷凍イングリッシュマフィン、オランディーズソース、エッグベネディクト、デザートにはペン&ジェリーのチョコレート・モカ・アイスクリーム、そしてレッドブレスト。

日本がいくつか登場する。サリンを使った地下鉄テロ事件、走りの良い車スバルインプレッサ、禅、日本庭園、欧米から見た日本のイメージであろう。

ブラッグドッグは誰か、ブラックキャットは誰なのか、最後に種明かしがされる。

ブラック・ドッグ (新潮文庫)
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博士の愛した数式 小川洋子 ****

2011年04月20日 | 本の読後感
数学者だった「博士」、その家に家政婦として務めることになった私は10歳の一人息子を持つ30歳前のシングルマザー。博士は義理の姉と暮らしているが、母屋と離れで別れて住んでいる。博士は数学の賞も受賞した数学者であったが、1975年に交通事故でそれ以降の記憶はなく、新しい記憶は80分しか保持できない64歳の老博士、という設定である。

博士はタイガースファン、そして数学に強い関心を持っているが、それ以外には興味を示さない。家政婦の仕事は博士の身の回りの世話、昼の食事、夜の食事であり、それが終われば帰宅できる。ストーリーのなかに数学についてのエピソードが散りばめられていて面白い。筆者の最高の発見は江夏の背番号28は「完全数」であること。約数の和がその数に等しくなるという性格を持つ珍しい数である。博士は80分しか記憶を保持できないために、毎日世話をする家政婦とも毎日が新しい出会いとなる。最初の日に博士が家政婦に聞いたのは「君の足のサイズは」、「24です」、「実に潔い数字だ、4の階乗だ、1X2X3X4」、「電話番号は」、「576-1455]、「素晴らしいじゃないか、1億までに存在する素数の個数に等しい」という調子である。

ある日、博士は家政婦に誕生日を聞いた。「2月20日です」、「それはチャーミングな数字だ。私が大学時代に超越数論に関する論文でとった学長賞の番号が284、220とは友愛数なんだよ。友愛数とは約数の合計がお互いの数に等しい数の組み合わせであり、君と私は友愛で繋がっている。フェルマーもデカルトも一組しか見つけられなかった貴重な組み合わせなんだ」。家政婦の一人息子の話をすると博士は是非一緒に食事をしなさいと言う。子どもは母と一緒にいる必要があると強く主張する博士に、家政婦は息子を呼ぶ。博士は息子の頭をなでで、「ルート」と名付ける。頭が平でどんな数も優しく包み込むのがルートだ、という説明である。

そして完全数28、それは江夏の背番号、1992年時点ではもう江夏は阪神タイガースにはいない。しかし博士には新しい記憶はない。ルートは博士に話を合わせることにする。完全数は28の次は496、そのつぎは8128、と博士の口からは次々と完全数に関係する話が飛び出してくる。家政婦はいつからか数学に興味をもつようになる。

阪神タイガースの実際の試合を見に行かないか、と家政婦は息子と博士に持ちかける。博士はルートが行きたいなら一緒に行くという。ここでも博士は数字についての話をする。博士の座席番号は714、ルートの座席は715、ベーブ・ルースのホームランは生涯で714本、ハンク・アーロンは715本でそれを上回った。714と715の積は最初の7つの素数の積に等しい。2X3X5X7X11X13=714X715=510510。両方の素因数の和は等しい、714=2X3X7X17,715=5X11X13 2+3+7+17=5+11+13=29。こうした性質をもつ連続した整数のペアはとても珍しい、2万以下には26組しかない。714と715はルース・アーロンペア、ルートと私はこの絆で結ばれている。

博士と家政婦親子は不思議な絆で結ばれていく。博士の義理の姉もそのことを認め、博士が施設に入ったあとも二人が博士を訪れて話を一緒にすることもあった。

筆者は数学の様々な橋を藤原正彦さんから取材したという。藤原さんが披露した数々の数学の逸話が実のうまく、効果的にストーリーに組み入れられている。なかでも江夏の背番号28が秀逸である。寺尾聡と深津絵里が演じたという映画も印象的な映画だろうと想像できる。いいお話である。博士の愛した数式 (新潮文庫)
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カリナン 春江一也 ***

2011年04月19日 | 本の読後感
プラハの春、ベルリンの秋を書いた筆者の手になるカリナン、フィリピンの首都マニラから1000キロ離れたダバオ空港、そこから車で1時間程度で着くのがカリナンである。柏木雪雄は都市銀行の常務にまで上り詰めたエリートであったがバブル崩壊で巨額の損失を銀行に与えたとして1年の刑期を務めていた。カリナンは記憶の中に幼い頃の記憶にある懐かしい地名、自分が生まれて5歳まで育った土地はフィリピンだった、その時に自分を優しく見守り育ててくれた現地の「イナ(お母さん)」がいたという記憶が蘇った。刑期を終えたらどうしてもその地を訪れ、イナに会いたいと強く思った。

柏木はカリナンという地名、イナという女性に世話になった、という僅かな手がかりしかないままで現地を訪れた。フィリピンでの対日感情は良くはない。日本人とみれば金をせびったり騙したりするフィリピン人は多いと聞いていた。そうした中でダバオの日本人会で柏木の父を知っているという男性に出会った。そして父が住んだカリナンを訪れ貧しいストリートチルドレンに心を痛める。ストリートチルドレンの世話をしているうちにカリナンで行き倒れになり、ダバオの病院に搬送されてしまう。

一方、雪雄が世話になったそのイナの名前はグレース、今はダバオのビジネス界では成功者として有名な男性に嫁ぎ娘を三人もうけてさらに孫にも恵まれるという幸せな人生を過ごしていた。孫の名前はアリシア、医師を目指す若き女性である。アリシアが医師になることをグレースは望んでいる。アリシアも医師になりたいと勉強し、優秀な成績で国家試験に合格、病院での勤務を始めていた。雪雄を担当したのがアリシアであった。アリシアは雪雄の話を聴くうちに、雪雄が探すイナ、それが自分の祖母グレースであることに気がつく。

アリシアは祖母を雪雄にアフタヌーンティーのパーティという口実で目合わせる。グレースと雪雄は感動的な再会を果たす。グレースは雪雄の父から預かった手帳を雪雄に与える。そこには、雪雄の父が日米開戦を前に両国の裏交渉役であったことが書かれている。さらに、山下奉文将軍が隠したとされる「ヤマシタトレジャー」の隠し場所が書きこまれていることが分かる。その手帳をフィリピン人、そして雪雄の父に恨みを持った日本人が付け狙う。雪雄は彼らに銃撃され命を落としてしまう。

感動的なストーリーであるが、臨場感、迫力の面でプラハの春には遠く及ばない。筆者と思われる堀江亮介はダバオ領事として登場するが、アリシアと雪雄の連絡役という取ってつけたような役割である。しかし、フィリピンが持つ植民地としての悲劇、日本との関係、民族性、文化が無くなってしまった国の悲しさ、国民の所得格差からくる差別などがこれでもかと描かれる。フィリピンの国としての問題点がよくわかる小説である。カリナン (集英社文庫)

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いい家は無垢の木と漆喰で建てる 神崎隆洋 ***

2011年04月18日 | 本の読後感
タイトル通りの内容の本、家を建てることを検討している人には気になる内容である。建売の住宅だけではなく、ハウジングメーカーに依頼して建てる住宅、工務店でも集積材やビニールクロス張りの家を建てる事が多い、フローリングの板も合板、土台も集積材や米ツガ、相談するとその方が反りがなくて長持ちしますよ、おまけに経済的です、等と言われて納得してしまう。

無垢の木や漆喰は古くから日本建築で使われてきた素材であり壁である。結露や断熱の観点からも無垢、漆喰が好ましいという主張である。特に青森ヒバやタモが好ましいという。合板や集積材に使われている接着剤がシックハウスの原因になる。米ツガよりもヒノキ、杉を使いたいという意見である。窓やドアの枠が施工されていない家は手抜き工事と考える。

幅木の施工にも手抜きが横行しているという。釘で打ち付けただけの「ぶっつけ工法」を見抜くには幅木が床と釘で繋げられているのかをチェック、釘で壁に打ち付けられているとしたらそれは「ぶっつけ工法」である。

基礎には布基礎とベタ基礎があるが、いずれが良いかは現地の土地次第、ベタ基礎やスラブの隅には排水の考慮が重要だという。基礎と土台の木の間に挟むのはネコ(根子)、最高の根子素材は御影石、樹脂よりはここでも自然素材を推奨する。瓦にはセメントは避けるべし。

これから家を建てたい方で、自然素材にこだわりたい方には参考になるであろう。

いい家は無垢の木と漆喰で建てる
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日本人の死に時 久坂部羊 ***

2011年04月17日 | 本の読後感
自然死こそ人間的な死に方ではないのか、という筆者の主張、現代医学は寿命は伸ばしているが、健康で幸福な寿命は伸びていない、というのである。

長生きをすると何が起きるか、排泄機能低下、筋力低下による生活機能低下、歩行困難、関節の痛み、うつ病、不眠、呼吸困難、めまい・耳鳴り・頭痛、嗅覚・味覚障害、麻痺・認知症など、長生きしていれば程度の差こそあれ必ず出てくる症状である。これに病気が加われば生きていることが苦痛になる。治療は苦しみを長引かせるばかり、ということもよくある。患者に「もう死なせて欲しい」と頼まれることもしばしばある、と医師である筆者は言う。

長寿には次のような危険があるという。身体的、心理的、経済的、放任によるなど様々な老人虐待がある。夫婦であればまだましであるが、パートナーに先立たれた一人は寂しい、孤独と憤懣の危険。幸せだと周りから見られている老人がふと考えてしまう自殺の危険。話題になる、視聴率稼ぎの番組を作るマスコミに踊らされる危険。「オムツに頼るのは危険」という論調に乗せられて老人のオムツをなんとか外そうと努力させる施設があるが、それは一概に言えない、オムツはずしの危険。

老人は老いて弱るからこそ知恵を使う。満足する力、感謝する気持ち、細かいことにこだわらない無頓着力が幸せな老後を送るコツだという。

病院に行かない利点。①濃厚医療による不自然な生を避けられる。②辛い検査や治療を受けずに住む。③余計な病気を見つけられない。④時間が無駄にならない。⑤お金が無駄にならない。⑥精神的負担がない。

お医者さんである筆者にここまで言われれば、そうかも知れないと思ってしまう。若いうちならともかく平均寿命あたりになればこれらは正しい方針であるような気もする。良く考えてみたい。ヒトはどうして死ぬのか―死の遺伝子の謎 (幻冬舎新書)

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BC!な話 竹内久美子 ***

2011年04月16日 | 本の読後感
竹内久美子の本は幾つも読んだ。本当の話なのか、筆者の与太話なのかはよくわからないが、科学風のエンターテインメント読み物だと思えば丁度いいのではないか。

ベイカーとペリスの研究によれば、男は女とセックスをするときに状況に応じて無意識のうちに精子の数をコントロールしているという研究があり、実証されているという。要因は3つ、前回の性交からの時間、その間のパートナーとの共有時間の割合、女性の体重。体重は繁殖力の強さを示す。なによりも重要なのは共有した時間であり、相手が別の男と浮気していないかどうかをよく見張っていられれば、少なめの精子、一緒にいなければどんな可能性があるかもしれないので、多くの精子を放出するというのである。これを精子戦争と呼ぶ。

女性のオルガスムス、子宮と膣が痙攣して収縮を繰り返すことにより精液を吸引する機能である。しかしそのタイミングは重要であり、オルガスムスと同時に膣内には酸性の粘液が分泌されるため、滅菌作用がある。受精のためには射精は女性のオルガスムスと同時かその直前が最も好ましいという。そして女性のマスターベーションにはこの膣内滅菌作用がある。男性がマスターベーションをすると放出される精子数は減少するが、女性に受け入れられる精子数は激増するという。

セックスパートナーとの性交についての研究、IPC(intra-pair Copulationペア交尾)とEPC(Extra-pair Copulation)があり、IPCが一番頻繁なのは妊娠可能性が低い期間であるという。女性はEPCを最も妊娠可能性が高い期間に集中しているというのだ。さらにIPCとEPCをほぼ同時期にすることにより、妊娠した子をIPCによるとパートナーに信じさせるという傾向もあるというのである。ダブルメイティングと呼ぶそうだ。その順序も重要で、IPC→EPCの順で行われ、これはEPCによる妊娠可能性が高まるという。そしてパートナーがいる女性は排卵前の妊娠可能性が高い時期に活動的になり、パートナーがいない女性はその逆、排卵前には非活動的になるという。

女性が痩せたい、という欲望は近代になって初めて起きた現象であり、中世以前は皆飢餓もしくは栄養が十分でないことが常態であった。では栄養が十分取れるのになぜ女性は痩せたいのか、それは本当に最適なパートナーと出会うまでは下手な妊娠をしたくないから。結婚前の山口百恵を連れて渡哲也宅を訪れた三浦友和、出される食事を美味しそうに全部パクパク食べる山口百恵を見た渡哲也が、三浦友和にこう言ったという。「三浦くん、よく食う女性は信用できるヨ」、痩せて避妊したいなどという裏表がある女性はおちょぼ口で少食を装う、百恵さんは信用できる、という話、本当だろうか。

精子戦争が激しい動物はオスがメスのEPCを疑うため体重に比べて睾丸の大きさが大きくなるという研究がある。霊長類で一番EPCが多いと言われるチンパンジーは0.27%、人間が0.06%、オランウータンが0.05%、ゴリラは0.02%だと。一回射精あたりの精子数はチンパンジーが6億300万、人間2億5300万、オランウータン6700万、ゴリラ5100万と人間とオランウータン間に大きな差が見られる。オランウータンとゴリラの睾丸は腹腔内に隠れており、人間とチンパンジーでは陰嚢に包まれて体温の影響から遠ざけて精子をより長い時間生き長らえさせる工夫をしている。チンパンジーはハーレムを形成、ボス猿の目を盗んで若いオスはメスと交尾をする、それをボス猿はさせまいと見張る。人間とオランウータンは一夫一妻、もしくは一夫多妻であるが、人間の方がオランウータンよりもEPCを好んでするためだという、人間は霊長類ではチンパンジーについで精子戦争が激しいのである。

では人類のなかで人種間で違いはあるのか。膨張時ペニスサイズはニグロイドが15.9-20.3cm、コーカソイドでは14.0-15.2cm、モンゴロイドは10.2-14.0cm、精子戦争が激しい順ではないかという。これも研究されていて、過去12ヶ月のセックスパートナー数はペニスサイズに比例して多く、18歳以降のパートナー数も同様、一目瞭然であるというのだ。

離婚が4年目に多い理由、昔の人類は子どもが母乳を飲んでいる間は次の子作りをしなかった、離乳期は長くほぼ子どもが4歳になるまでは母乳であったという。次の子作りに入るサイクルが4年だった、これが離婚4年説。昔の人類は逐次一夫一妻であった。つまり、一人の子どもを育てる間は同じ相手と暮らす、これが逐次一夫一妻である。

竹内理論とも言える面白い話の連続であり、まさにBiologically Correct!。BC!な話―あなたの知らない精子競争 (新潮文庫)

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川の深さは 福井晴敏 ***

2011年04月14日 | 本の読後感
「目の前に川がながれているとして、あなたはどこまで深い川だと思うか。 ①くるぶし ②膝 ③腰 ④肩」情の深さを試すこの設問、主人公の元マル暴担当警部で今は警備会社の警備員桃山は④、気に入った相手ならとことん付き合うほど情が深い男。桃山が警備しているビルに忍びこんできた若い二人連れ、増村保と葵をかくまってやったことから物語は始まる。保は20代の若者であるが、若い頃から徹底的に軍事的訓練を受けたサイボーグのような戦闘能力と強靭な精神力をもった人物、保は葵を命をかけてでも守ると言っている。葵が「川の深さ」を保に問うと保も④と答える、桃山と同類なのだ。誰に追われているのか、ビルの周りにはヤクザがうろついている。桃山はヤクザを追い払おうとして、昔情けをかけてやった金谷がそのヤクザグループを取り仕切っていることを知る。

なぜ、ヤクザが若いふたりを追っているのか、桃山は背後にある事件に知らず知らずに巻き込まれていく。保と一緒に訓練を受けた女性自衛官が涼子、自衛隊の再編・強化と今回の捕物が絡んでいることを桃山は掴むが、実際にはそれ以上の背景があったのだ。桃山に助けてもらった保と葵は恩義に感じてその後桃山が事件に巻き込まれて陥った窮地をなんども救う。それも自分たちが逃れるためではあるが、情の深さを保と蒼も持っているということ。その情の深さに涼子は惹かれる。涼子は桃山のような情の深い男に出会ったことがなかったのだ。

警察、自衛隊、ヤクザ、オウム真理教と思しき神泉教、北朝鮮、中国も絡んでの展開に、マシンガンや手榴弾、手製爆弾、アパッチヘリコプターまで登場して派手な打ち合いもある物語、著者がいつも主張する、日本の国家防衛の脆弱さと国民の防衛意識の薄さ、これがこの物語でもあぶり出される。自衛隊と警察の連携、政府と自衛隊、シビリアンコントロール、マスコミの意識などが、現代世界情勢にいかにあっていないかを主張する。

ガンダム好きの筆者が書き連ねる日本の現実に、問題を感じ共感するか、それはないだろうと思うかは、読者次第である。

川の深さは (講談社文庫)
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狗神 坂東眞砂子 ***

2011年04月12日 | 本の読後感
長野県の善光寺の寺の中、本堂の中にある内陣は真っ暗闇である。時田昴路は暗闇のなかで女性に手を握られる。暗闇のなかで女性は物語を聞かせてくれた。

高知県の山間の村、尾峰に生まれた坊之宮美希、それが女性の名前、短大時代の2年間高知の街に出たことはあるがそれ以外はこの尾峰の村に居続けている。坊之宮の家はこの尾峰にさいしょに住み着いた家族、徳島からこの地に来てここが気に入りそれ以来住み着いているという。美希は41歳の独身、この村で採れる楮やミツマタを原料にした和紙を漉いて作っている。坊之宮の家は代々、狗神筋と呼ばれる家系、京の都で鵺がでたときに成敗された鵺が、蛇や猿、狗などの神となり全国にバラバラになったという、その子孫であるといういいつたえもあるらしい。村人たちは表では声に出しては言わないが、こうした坊之宮の家系の人たちに恐れと憎しみをいだいていた。

この村に若い中学教師、奴田原晃が引っ越してくる。晃がこの村にやってきて以来、村人たちが夜に悪い夢をみる日が続いていた。美希は晃に惹かれる。

美希は高校生の頃、本家筋の隆明と愛を交わしたことがあったが、妊娠して親に引き離された。隆明はすぐに別の女性、園子と結婚して、美希は別の村の親戚で出産したのだ。その子は死産だった、と母に聞かされていたが、晃が村に来てからはその子が夢に出てくるようになった。美希の母は、狗神を守るようにと親から言いつけられてそれを守ってきているという。坊之宮の直系女性がその役割を持つと言い伝えられているからだ。

晃が来てから村人たちに狗神にとりつかれて死ぬという事件が相次ぐ。美希には狗神などは信じられないが、村の年寄りは、狗神のせいで死んだと村じゅうに言いふらしている。村人たちは坊之宮の家に恐れと憎しみを抱いてきたが、それが具体的な形をとってきたと坊之宮の家族を村八分にし始めた。晃は美希に結婚したいと申し入れる。美希は喜ぶが、美希の母は、晃の出生の場所と日時を聞いたとたん、それが美希が25年前に産んだ子だと気がつく。死産だったというのは嘘で、同じ日に出産した女性の子とすり変えたのだった。

坊之宮一族は年に一度、先祖を祀る集まりをしてきたが、ことしは美希の家がその当番、その集まりを山の中にある先祖の墓で行っているさなか、村人たちが山に火を放った。坊之宮の一族は炙り殺されてしまう。晃のその最中、美希を助けようと死んでしまう。美希も地蔵の下敷きになり死んでしまう。

時田昴路が美希の話を善光寺の地下で聞いたのはその事件が新聞で報じられた前日、まさにその事件が起きた時だったのだ。狗神は再び蘇るのだろうか。狗神 (角川文庫)

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未知なる家族 日本経済新聞社 ***

2011年04月11日 | 本の読後感
日経新聞での連載を本にしたもの。

生産年齢人口減少が始まっている日本、標準世帯、という考え方が変わってきた。親子4人家族で夫がはらき主婦は専業、という標準は少数派になってきている。企業にとってもそうした社員の標準を基本に家族手当、扶養手当、出産と育児を考えてきたのがすでに実態に合わない。そもそも子どもを育てるのは経済的に見合わないから結婚はしても子供は要らない、と考える若い夫婦、いや結婚すらもしたくないと考える若い世代、世帯、という形が変わる。塩野七生さんによれば古代ローマも少子化で悩んだ、このための施策を考えていたという。

子どもの教育にかかる費用、子どもの安全が心配なおや、子ども教育のために良い教育環境の地域に引っ越したい、不動産業者はこうした親に向けた不動産広告をしている。遺産相続にも変化が。子供に世話になりながら親は子どもに財産を相続する、という形態が変わってきている。子供は親の面倒を見たがらない、親も子供の世話になどなりたくない、財産は町に寄付したい、親子の会話がなかったのでそうした親の気持を子どもが知らないので遺産相続争いが起きている。

世界でも同じような状況がおきている。イタリアでは養子ならぬ養祖父の広告が出て話題になった。一人暮らしのお年寄りが若い学生を住まわせるというサービスが広がっている。子育てを外国人に委託するシンガポール、離婚と再婚が多くて親子の血がつながっていないケースが5割以上あるデンマーク、国によって事情は様々、文化的背景が違うので同じ施策が有効かどうかはわからない。

児童虐待、DV問題、年金問題、法と制度と家族の実態がズレている。人はひとりでは暮らしたくない、やはり誰かと一緒にいたいがプライバシーは犯されたくはない、コレクティブハウス、異なる世代同士がつかず離れず暮らしていける仕組みを模索している。

国の制度、企業の社員福利厚生と支援の考え方、個人の価値観、すべてが同期していかないと少子化と高齢化が同時に進行する今の日本の問題は解決しない。

未知なる家族
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