意思による楽観主義のための読書日記

面白きこともなき世を面白くするのは楽観力、意思に力を与えるのが良い本 *****必読****推奨**閑なれば*ムダ 

行きずりの街 志水辰夫 ****

2011年03月30日 | 本の読後感
最初の場面は六本木から歩いてしばらく入ったところにある中国大使館からほど近いマンション。12年前に東京を離れて今は京都の田舎で進学塾の教師をしている40歳の波多野は、塾の教え子である広瀬ゆかりが大学に入り東京に出て行方不明になったというので探しに来たのだ。波多野は12年前には東京の敬愛女学園で教え子と結婚、それが原因となり大学を追われた。部屋にはゆかりはいないが、それは女子大生がおいそれとは入れるようなマンションではなかった。部屋には普通の女子大生の持ち物と高級な持ち物が混在、前の住人宛と思われるダイレクトメールもあるが、行き先を示すような住所録などは一切無い、誰かが探したあとがあった。

ここから波多野の教え子ひろみ探しが始まる。わずかな手がかりからひろみにつながる情報をたぐりよせていく。捜索のプロセスで、12年前に大学を追われる原因となった結婚相手の雅子に出会う。今は六本木でクラブを経営していた。雅子は多くを語ってはくれないが、波多野は今でも雅子を愛していることを認識する。雅子は波多野を自分のマンションに案内し、自分も今でも波多野を愛していることを告げる。波多野は京都の田舎に雅子を連れて帰ることを約束。しかしゆかりの探索はやめられない。さまざまな話をたどっていくと、ひろみを連れて逃げようとしている男の存在が浮かび上がり、その男は敬愛女学園の経理部長だったことが分かる。ゆかりはその男に金を与えられたり、欲しい物を買ってもらい、男が海外に逃亡する道連れにされようとしているようなのだ。

話は敬愛女学園の不正経理と理事長夫人殺人事件のもみ消しなどが絡んできていることが分かってくる。こうした秘密を嗅ぎまわる波多野は学園で秘密を持つ側が邪魔になり、口を封じにかかる。波多野は半殺しの目にあいながら学園の秘密をあばき、ひろみを見つけ出し、連れて帰ることができる。雅子も波多野の愛情に応える。

ミステリー小説であり、波多野と雅子の純愛ストーリーでもある。プロットは手が込んでいて読んでいて引きこまれてしまうテクニックはさすがであり、シミタツのファンなら必読である。

行きずりの街 (新潮文庫)
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感染 仙川環 ***

2011年03月29日 | 本の読後感
臓器移植に関する問題提起を含む推理小説。心臓移植を日本で最初に行った和田教授、その後、脳死は正しく判断されたのか、そもそも心臓移植が必要と診断した判断は正しかったのか、と問題になり、日本における心臓移植は40年以上も欧米に遅れをとったと言われる。臓器移植もその懸念があるのではないかと問題提起をしている。

主人公は国立東都大学医学部臨床医から感染症研究の立場にかわり助手をつとめている仲沢葉月、夫は啓介、アメリカで臓器移植を手がけていた有名な外科医。妻子ある啓介と葉月は研究を通して知り合い、啓介は妻と離婚して2年前葉月と結婚した。葉月は幸せな結婚と感じていたが、啓介は臓器移植の問題に面していた。元妻公子との間にできた子供宏に拡張性心筋症でアメリカで移植手術を受けさせていたのだ。その手術の仲介をしたのが啓介、そのことを葉月は知らされていなかった。

公子が夜中に葉月に電話をかけてきた、宏がいない、誘拐されたというのである。身代金2000万円を要求されているという。犯人の要求にしたがって指定の場所に行くと、そこには壷に入った宏の遺骨が置かれていた。遺体を焼却していれたものと調査してわかった。さらに調べてみると、臓器移植をされた子供が死ぬ事件が続いていることが分かる。啓介は一体何に関わっていたのだろうか。南米で調達された子供の臓器をアメリカの病院で高い医療費をとって臓器移植する、そんなビジネスに関わっていたのであろうか、と葉月は啓介を疑う。さらに豚やヒヒの内臓を人間の子供に臓器移植する、という人体実験をも行われていたのではないかという疑いも出てくる。しかし、啓介が自分の子供に臓器移植をするなら理解できるが、その子供をどうして焼却する必要があったのか、それを啓介がやったのであろうか。

動物の臓器、遺伝子操作と臓器移植、子供の臓器の売り買い、日本での臓器移植の実態、移植失敗がもたらす札幌医大の後遺症など、日本の移植医学の問題を提起する小説である。
感染 (小学館文庫)


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日露戦争 勝利の後の誤算 黒岩比佐子 ****

2011年03月28日 | 本の読後感
日本が昭和の時代にアメリカ・イギリスと戦争を始めてしまった遠因は日露戦争勝利にあった。司馬遼太郎は「この国のかたち1」で次のように書いている。「要するに、日露戦争の勝利が日本国と日本人を調子狂いにさせたとしか思えない。・・・政府批判といういわば観念を掲げて任意に集まった大群衆としては、講和条約反対の国民大会が日本史上最初の現象ではなかったであろうか。調子狂いはここから始まった。大群衆の叫びは平和の値段が安すぎるというものであった。・・・私はこの大会と暴動こそ、むこう40年の魔の季節への出発点ではなかったかと考えている。」

筆者は日露戦争終結の講和条件から記述を始める。日清戦争では台湾領有を勝ちとり賠償金も得ていた。相手が大国ロシアであれば樺太・カムチャツカ、沿海州割譲と賠償金30億円、これが新聞などを通して、帝国大学7博士の一人戸水寛人の意見として報じられていた。ところが全権大使小村寿太郎がロシア全権ウィッテと合意したのは「樺太北緯50度以南の領有、賠償金は要求しない」というものであった。実際には、日本は韓国における日本の優位、満州からのロシア軍撤退、大連・旅順の租借権移譲、南満州鉄道の譲渡などを勝ちとっていたのだが日本の新聞は講和反対キャンペーンを行ったのである。日本の財政、軍事力は限界でありこれ以上戦争など継続できなかったというのが実情であったのにである。

当時の首相は桂太郎、通称「ニコポン宰相」と呼ばれた。ニコニコ笑ってポンと肩を叩く、親しげにふるまって懐柔するということ。人たらしであった。日英同盟締結を実現した内閣を国民は支持していた。桂は艶福家としても有名で、芸者のお鯉を落籍させて赤坂榎町に妾宅を構えさせた。これは新聞でもずいぶん叩かれた。桂は対ロ強硬論であった頭山満や杉山茂丸に相談したという。この杉山茂丸は作家夢野久作の父親である。福岡県人である杉山は薩長閥で固まっていた当時の軍部に対して日露戦争の舞台裏で活躍していたという。

9月5日に日比谷公園で講和条約反対の国民大集会が開かれ、ここで大変な騒擾になる。多くの参加者は新聞に書かれていた大会案内にしたがって集まってきただけであったが、騒擾状態を創りだそうという勢力がいた。同士連合会の小川平吉、河野広中、大竹貫一、内田良平、江間俊一などである。江間は当時東京市参事会員でその後衆議院議員にもなった。江間の孫娘は俳優上原謙に嫁いでできた息子が加山雄三である。日比谷公園では3万人が気勢を上げた。一部は暴徒となり、講和条約に賛成した新聞社を打ち壊し、別の一部は新富座を破壊した。この時巻き込まれたのが見物に来ていた神奈川県代議士小泉又次郎で小泉純一郎の祖父である。

無声映画の弁士として知られる徳川夢声は当時11歳だった。お鯉の妾宅は夢声が行きつけの銭湯のすぐとなりで、小学生であった夢声でもその存在と妾宅の意味を知っていた。お鯉の出ていない新聞は当時なかったのであり、毎日報道される人が近所にいたのである。尊敬すべき総理大臣の存在とお鯉という関係が頭の中では関係付けられなかったという。暴徒はお鯉の榎町の家にも押し寄せたという。夢声はそれを怯えて楽しんでいた、つまり大衆の期待はそうしたところであった。

日比谷焼打事件では警官が目の敵にされ、日露戦争を戦った軍隊に逆らう市民はいなかった。当時、焼き討ちに参加した多くが人力車の車夫であったという。車夫たちは日常的に巡査に取り締まりを受け、当時走り始めていた市電に生活の糧を奪われようとしていた。交番と市電が焼き討ちの対象になったのは、講和条約反対とは関係がなかったとも言われている。

政府はこの騒擾をうけて東京に戒厳令を敷く。そして、市民に向かって暴力を働いたのは軍隊ではなく警官であった。しかも警察はこの機会を利用して疑わしいものをできるだけ検挙しようと、犯罪の温床とみなした場所にも捜査の手を差し伸べている。遊郭、木賃宿などが対象となり、民衆は警察への不信感を深め、軍隊には信頼と敬意を払うようになった。

講和条約締結を受けて、アメリカの鉄道王ハリマンは日本に対して、満州鉄道の共同経営を申し出ている。アメリカが満州で権益を持てばロシアへの圧力になると考えた桂は賛成、元老の井上馨は満州鉄道経営が日本にとっての重荷になると考え賛成した。しかし小村寿太郎は自分がせっかく交渉で勝ち取った権益をアメリカに半分譲るとは何事と大反対、これを取消した。筆者はこの時の日本の選択が日米対立を生み、日米開戦への第一歩になったという説を紹介している。こののちアメリカは日本に対して「機会均等と門戸開放」を日本に要求する。筆者はハリマン協定の取り消しが単純に日米対戦の原因とは言えないとしている。つまり共同で満州鉄道経営にあたったとしても別の原因で両国はぶつかり合ったであろうというのだ。

日露戦争後には7万人のロシア軍兵士が日本に捕虜として滞在、日本は必死で捕虜を手厚く扱った。しかし、日本人としてロシアに捕虜となった兵士には厳しい世論があった。生きて敵軍に捕らえられるは不名誉だ、とう考えである。「生きて虜囚の辱めを受けず」という1941年に全陸軍に下された戦陣訓のプロローグはこのころすでに始まっていた。日本近代史で第二次桂内閣の1909年-1912年に韓国併合と大逆事件という大事件が起きている。いずれも強力な力による弱者の抑えこみである。軍隊による朝鮮半島支配と官憲の力による社会主義者弾圧、桂内閣の性格を表すものである。

この本ほど明確に日露戦争の頃の日本人の考え方と太平洋戦争突入を結びつけて詳細に立証、解説した本を私は知らない。司馬遼太郎はそのことをはっきり書いているが、この筆者黒岩さんは資料を丹念に読み、細かく一つづつ立証している。危うい勝利の裏には絶望の深い谷があった、このことに国民が気づくのは40年以上も後のことであった。
日露戦争 ―勝利のあとの誤算 文春新書
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顔に降りかかる雨 桐野夏生 ***

2011年03月27日 | 本の読後感
主人公はヤクザ相手の探偵だった村野善蔵の娘ミロ、結婚歴がある32歳である。夫はインドネシアで自殺、夫の関係ではミロに心の傷がある。広告代理店に勤めてはいたが今は貯金を食いつぶして暮らしている。唯一の親友とも言える耀子が愛人成瀬の前から消えてなくなった、と成瀬からの突然の電話がある。その前の夜中に電話があり、放っておいたのだが、それは耀子からだったかもしれないとミロは思う。成瀬は外車ディーラーで妻子があると聞いていたが、今は耀子と付き合っている話は知っていた。成瀬はミロの住む新宿二丁目のマンションにまで訪ねてきた、それもチンピラヤクザの君島を連れて。

成瀬が言うには、企業舎弟の上杉から融通してもらった1億円を持って姿をくらました、ミロのところで匿っているのではないか、いやひょっとしたらミロも共犯なのではないか、などと疑っている様子なのである。ミロは耀子がそんなことをするはずがないと思う。耀子はミロとは正反対の性格ではあるが、人のお金に手を出すような人間ではないと信じていた。

成瀬と君島に上杉の前に連れていかれたミロは1週間で耀子と1億円を探すことを約束させられる。当然、上杉は組織を上げて成田や羽田、JRなどを調べるが、それ以外の筋を探せ、というのである。上杉はミロ、成瀬、耀子とすべてを疑っている。

ミロは殆ど無い手がかりから耀子の母親、耀子の付き合っていた占い師、死体マニアの川添、ダンサーの龍太、耀子の事務所で電話番を勤めていたゆかり、プロデューサーの藤村などをたどっていく。そして、事務員のゆかりと藤村が結託して1億円を手に入れていたことを突き止める。藤村はチンピラ君島に追い詰められて川に落ちて死んでしまう。その手腕は上杉も知っていたミロの父親である探偵村善を思いこさせる。ミロの父親は娘が窮地に陥っていることを知り上京、ミロにアドバイスを与える。「これで解決したと思うな」。

そしてミロは真実を突き止める。耀子を殺したのは成瀬だった。カナダへの出国を企んでいた成瀬は成田で警察に拘束される。

ドイツのネオナチの問題、両性具有、死体愛好者、などが登場する女性作者による女性が主人公の推理小説である。作者は村野ミロのシリーズをこの後書いている。「天使に見捨てられた夜」村善が主人公の「水の眠り 灰の夢」。
顔に降りかかる雨 (講談社文庫)
天使に見捨てられた夜 (講談社文庫)
水の眠り 灰の夢 (文春文庫)
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フェイク 楡周平 ***

2011年03月26日 | 本の読後感
恨みがある人間に仕返しするために5億円を無駄に使わせる方法、ノミ屋、競輪、FⅡレース、大穴車券などを使ってそれを実現し、自分も少々儲けることができる。

主人公の岩崎陽一は22歳の若者、冴えない三流大学を卒業したものの一流企業などには職を得られず、就職したのは銀座の一流クラブのフロアーボーイ、売れっ子ホステスが一晩で数百万円稼ぐのに比べて月給15万円の身分である。そのクラブに別のクラブから引きぬかれて26歳という美人雇われママ摩耶がやってきた。大手製薬会社の山野社長、貿易会社経営者真壁、ヤミ金融経営者の横山などという最上の客が来店、一晩で100万円以上を店に落としていく。店の取り分は売上の16%、84%を店のオーナーとホステスが折半する、というのがこの店のルール。客は最初についたホステスの顧客となり、その客がその店に来る場合にはそのホステスが出勤していようといまいとそのホステスの売上になり42%の売上を手にする、というのが銀座での「永久指名」ルール。同伴を週に2回は行い、客を店に連れてくるのも歩合で働くホステスの義務、同伴出勤は食事をせずに、来店前に電話を受けて店の前で待ち合わせをして入店してもそれは同伴、事前に電話をもらうことは重要なのである。

陽一は摩耶のお抱え運転手に指名され、送り迎えで一日1万円の余録を得ることになり、大喜びする。摩耶は週に2-3回の出勤であるが、月にすれば12-13万にはなる。おまけに空いている日には送迎に使っているベンツを自由に使ってもいいという虫のいい取り決めである。陽一は大学時代から付き合っているさくらをデートに誘い、ベンツでドライブ、銀座の勤めも悪くないことを自慢する。さくらは銀座のホステスという職業に興味を示す。さくらの家は印刷業をしているが零細で経営に行き詰っていたのである。

さくらは陽一に摩耶に紹介して欲しいと頼み込み、摩耶はさくらと面談、お店にアルバイトとして雇うことになる。摩耶はさくらを妹分と自分の客筋にも紹介してもり立ててやる。真壁の輸入ワインのラベル印刷の仕事も回してやり、さくらの父親の印刷業は息を吹き返す。

摩耶は陽一に、店で販売するワインの偽物とのすり替えを提案する。ワインの卸をしている真壁社長から、安く仕入れたカリフォルニアワインのラベルを張り替え、店の本物とすり替えると、その差額で相当な稼ぎが得られるという話。摩耶は一回6万でどうかと陽一に持ちかけ、カネに目が眩んだ陽一はその話に乗ってしまう。陽一の大学時代からの親友で酒屋をやっている謙介にこの話を教えて巻き込む。陽一と謙介は数百万円の余剰収入を得るようになり、謙介はもともとハマりかかっていた競輪や賭博麻雀にのめりこんでしまい多額の借金を作る。陽一は一部を用立ててやるが、高利の金貸しからも借金を作った謙介はヤクザに追われることになってしまう。運の悪いことにそんな時に真壁が脳溢血で倒れ、ワインのすり替えができなくなってしまう。

店に出るようになったさくらはさらに欲を出し、摩耶の上客である山野社長の愛人の座を摩耶から奪いとってしまう。そしてさくらは銀座の別の店に移籍、摩耶の上客の多くを奪っていく。摩耶は激怒、特に自分を裏切った山野社長に復讐を誓う。「山野に5億円無駄使いさせてやる」これが摩耶が考えた復讐であった。相談を受けた陽一と謙介は、山野の会社が販売している毛生え薬に脱毛剤を購入して山野の会社を脅迫する手を思いつく。そして、5億円は奪い取るのではなく、謙介がいれこんでいた競輪のハズレ車券を買わせることで散財させる、それも大穴車券を5億円で買わせることで、それ以外の車券の払戻金を莫大な額にせり上げ、自分も車券を買って儲け、ひどい目に合わされたノミ屋のヤクザにも莫大な払戻金によって仕返しができると謙介は考える。陽一と謙介は山野の会社を恐喝はしたが、実際に毛生え薬のすり替えをしてそれを発表することまではしなかった。

摩耶、陽一、謙介はこうして山野に復讐するのだが、横山と摩耶はさらにウワテだった。横山は陽一と謙介が考えた脅迫を山野の製薬会社を相手に実行、株価の暴落に乗じて株の空売りで大儲けした。摩耶も貯金をはたいて空売りに便乗、数億円を手にしていたのだ。摩耶はこの資金を元手にして自分で店を持つという、そして陽一に店長になってくれと持ちかける。

銀座のクラブ、競輪などのギャンブル、ニセのワイン、株の空売り、みんなフェイクである。そんなフェオクで手にしたお金は所詮フェイク、身にはつかない、陽一と謙介は最後はそれを学ぶが、本当に理解できたのかは不明である。陽一は摩耶に世話になったとともになにか騙されたとも感じた。謙介、さくら、横山に相談して、今度は摩耶の新しい店でワインのすり替えをするのである。

フェイクに魅せられた人間は一生フェイクから逃れることは出来なくなるのであろうか。

フェイク (角川文庫)
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変わる世界、立ち遅れる日本 ビル・エモット ****

2011年03月25日 | 本の読後感
日本を良く知り、米英や中東情勢にも詳しい「エコノミスト」編集長だった筆者による日本の現状に対する提言である。

鳩山由紀夫の「市場原理主義批判」での間違いに関する指摘。一つ目はそもそも日本に市場原理主義は全く存在していないこと、小泉改革では市場力や自由化についてはいかなる拡大もなされていないという。実行したのは郵政民営化と銀行システムの一新であった。同時に起きたことは労働市場の二極分化、非正規労働者の増加である。二つ目は、2002年から2007年の日本経済拡大は3分の2は輸出に依存、相手先は中国と米国であった。さらに日本国内需要は弱く、その理由はデフレと賃金低下、そしてサービス業分野での生産性と効率向上不足。製造業は日本GDPの2割を占めるに過ぎず、7割を占めるサービス業の自由化や改革、活性化に力をいれるべきである、という主張。日本での労働者派遣法の改正は企業生産性向上に一時的には寄与したかもしれないが、世帯収入は減少し消費支出は減退、内需の脆弱化が進んだ。

金融危機を起こした要因は次の四つ。①欧米での金融機関の不正行為。②金融機関に対する国内および国際的規制の欠陥と監督上の不備。③弱いインフレ傾向とずさんな金融政策。④世界的に豊富な流動性を伴う急速な経済成長が国際貿易や収支に史上空前の格差をもたらした。これらの異なる4つの要素が信用経済にバブルを生じさせ、崩壊に導いた。4つの要因の根底には1944年の世界経済システムである、GATT、IMF、世界銀行、WTOがあった。金融危機後、ドル支配は終焉を迎え、人民元の切上げ時期が注目されている。中国政府は突如として驚くような切り上げを行う可能性があり、現在の経済危機を解決するチャンスにもなる。

原油価格の高騰は環境問題の解決策となる可能性がある。

1990年以来、アメリカイギリス、ドイツ、イタリヤ、日本では貧富の差が拡大した。その要因。①株式や不動産を保有する裕福な階層にさらなる利益をもたらす株式と不動産価格の上昇が見られる。 ②BRICsなど発展途上国、新興国の台頭で自由競争が進む経済では欧米諸国における未熟労働者の賃金を引き下げた。 ③ITが熟練した知的労働者の所得を増加させた一方、未熟練労働者は職を奪われ収入が減少した。 ④企業経営者の報酬が増えた。
いまやすべての先進国での問題は不公平な格差解消である。

示唆にとんだ指摘と主張である。グローバル資本主義は本当に変革を成し遂げられるのであろうか。
変わる世界、立ち遅れる日本 (PHP新書)


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この国のかたち(3) 司馬遼太郎 ****

2011年03月24日 | 本の読後感
明治維新時に日本がドイツに傾斜したことについて。ペリー来航で日本を開国させたのはアメリカ、しかしその後南北戦争で対日外交が手薄になった。英国は後発ながら抜きん出て能動的な外交を展開、薩長に肩入れして維新後を有利に展開した。一方フランスは幕府に肩入れし賭けに負けた。明治維新4年目にプロイセンがフランス軍を破り、在欧中の武官は目の前でドイツ軍の優勢を目の当たりにした。憲法についてはフランスは過激であり、後進性があるドイツ憲法に親近感を持った。

七福神の宝船の絵柄は江戸時代に町方で出来上がった。中国の民間信仰の道教、弥勒を布袋さんとして福神に仕立て上げた。道教には福禄寿という現世利益の神がいて、寿老人という神も作られた。毘沙門天はインドの神、財宝富貴を守る神でもある。弁財天もインドのガンジス川を神格化した女神、豊穣と技芸の神である。日本的な風貌を持つ大黒天もじつはインドの神、最澄がもたらして比叡山の台所に安置したことから台所の神として崇められた。大国主大神と習合して容貌もにこやかになり打出の小槌を持った。えびす・だいこくと併称されるこの二つの神が七福神の中心であるらしい。えびす神は日本製、各地の漁村にあった信仰であるらしい。

明治時代の東京大学は「配電盤」であったという。神田の町も配電盤に関係があるという。幕府の洋楽機関開成所は神田にあった。神田界隈に解説された私学には人材と共に欧州で学んで知識が配電盤のように配られた。

平城京を平安京に遷都した理由は寺の勢力からの離脱であった。京都にも寺は沢山あるが、門跡寺院は貴族の別荘あと、寺としては最澄と空海の比叡山と高野山金剛峯寺のみを宗教勢力とした。京都の東寺、西寺は羅生門をはさんで建設され町の南の端に作られた。その他の京都の寺は官寺ではなく、清水寺は坂上田村麻呂も私寺、神護寺も和気氏の私寺である。

東京遷都は大久保利通の決断だったが、その決断を促したのは当時まだ無名の前島密の提言だった。大久保は浪速に遷都するべきと考えた時期もあったが、宮城から官衙、学校などすべてを新築する必要がある。江戸にはそのすべてがある。

江戸時代、日本酒は灘、伊丹、池田などの醸造業者により製造され樽廻船で江戸に送られた。これを江戸下りといった。このため「下らない」とは上方のものではないという事から転じた江戸での言い回しとなった。船の艫(とも:船尾)から受ける風をトモの風という、「まとも」という言い方はそこから来た。港の船が一旦沖に出て戻ってくることを出戻りといい、一旦嫁いだ娘が戻ってくることを表すように転じた。

奈良時代後期、墾田という特例が設けられ、山野でも開墾すれば私有地とすることができた。こうしてできた貴族の荘園は律令制度を揺さぶった。さらに人集めの才能があるものが関東平野で諸国の未開地に入り、律令制度からの脱出者を集めて田園を開き、武士となった。

この国のかたち〈3〉 (文春文庫)
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読書と社会科学 内田義彦 ***

2011年03月23日 | 本の読後感
「読む」というのはどういう事なのか、経済学者の筆者が読者に語りかけている。

「本を読んでも本に読まれるな」というのが筆者の主張。同じ文章を複数の人が読むと異なる解釈がある、これが読書であり、読み手は時代と共に変わり、地域によっても異なってくる。チェホフの戯曲をロシアで演じる、同じチェホフの演劇を日本で日本の役者たちが日本の観客に向けて演じる、それぞれの意義と解釈や評価は異なるだろう。読書にも同じようなことが起きるべきである。

別な言い方をすると、書き手が読み方の細部まで指示するような書物は読みにくいであろう。読み方は読者に委ねる、そのことで深い読書ができるのであり、書物の深み自体も深まるはずである。

経済学が難しいのは、物理学や化学のような統一的な理論があるわけではなく、経験的解釈論が複数存在するからである。そして読書一般で考えると、読者の解釈する価値観は読者が属する社会のもつ価値観により左右されるのであり、読書というのは社会科学であるとも言えるからこそ難しいのである。

なにやら理屈っぽい話である。しかし、古典を読むのは自分の信を形成することに資する、自身の信がある上で筆者への信を見つける、これが読書である。「信じて疑うこと」これが読書である。筆者が言いたいことはよくわかる。
読書と社会科学 (岩波新書)
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空夜 帚木蓬生 ****

2011年03月22日 | 本の読後感
筆者の空山を先に読んでいた。その前に起きた話。登場人物や景色が似ていて読んだことがあるなとの思いがあったが、産業廃棄物の問題に発展する「空山」に続く九州の片田舎での話である。

ワインを作る菊村の家に育った真紀は父勇造がすすめる結婚に反対できず、趣味が合いそうにない誠と結婚し、娘の伽奈がいる。三十歳を過ぎたばかりの真紀は自分の人生に他の選択肢があったのではないかと考えている。夫の誠はギャンブル好きで、借金をつくっては家族を困らせている。誠との結婚を進めた勇造は誠がつくってしまう借金をなんとか面倒みているがもう愛想が尽きかけている。

もう一人の主人公は真紀よりも10歳程度年上の俊子、了平という夫がいるがこちらも全くそりが合わず、10歳年下の岩崎達士と付き合っている。俊子は自分の子供たちが育ったら独り立ちできるように「ジャルダン・ダクリマシオン」というブティックを町で経営している。

物語は九州の小さな五条村が舞台、真紀の住むその村に真紀の中学時代の同級生山岡慎一が医師として赴任してきた。母と二人暮らし、真紀は慎一に心が惹かれる。五条村を取り巻く美しい自然が描かれる。菅生連山、桜、菖蒲園、鯉釣り、蛍狩り、夏祭りには慎一のアイデアで薪能を催すことになる。出し物は「松風」、慎一が真紀のぜひ見て欲しいという出し物、松風では女性の恋する情念が表現される。真紀は新一の思いを知る。

俊子と達士の逢瀬も様々な場所を訪れる。コスモスの咲く公園、薪能が行われる清泉神社、そして真紀が初めて自宅のワイン農園で開いたワイン祭り、露天風呂、そして紅葉の季節には櫨の木の下での紅葉狩りである。元旦には太宰府天満宮、蝋梅、梅と一年の四季の移ろいと草花が真紀と俊子の暮らしと恋の行方を彩る。

自由に生きることを決意している俊子ではあったが、達士は不慮の事故で死んでしまう。真紀は慎一に愛を打ち明け二人は結ばれる。

菊村家には真紀の祖母であるタカと飼い犬のカブトがいる。そしてワイン造り職人である潜爺さん、慎一と真紀の中学時代の小川先生など魅力的な登場人物がでてくる。四季の花と五条村の自然とともに、田舎に生きている素朴で正直な人たちが活き活きと描かれていて、真紀と俊子のそれぞれの夫たちのだらしなさを綺麗に覆い隠すようである。
空夜 (講談社文庫)
空山 (講談社文庫)
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裸者と裸者(上・下) 打海文三 ***

2011年03月21日 | 本の読後感
先に続編の「愚者と愚者」を読んでいたので、順序は逆であるが佐々木海人の生立ち、月田姉妹との出会いが語られてこれも面白い本の読み方である。

佐々木海人は6歳の時に両親と死別してしまった。妹の恵は2歳、弟の隆は7ヶ月だった。応化2年、舞台は日本、金融システム崩壊と経済恐慌と財政破綻により社会的弱者と出稼ぎ外国人などが路上に放り出された。中国では政権が倒れ軍閥が覇を競うか、チベットと新疆ウイグル自治区が独立を宣言、ロシアでも極東シベリアが独立、大動乱時代となった。日本では救国を掲げる佐官グループが反乱を起こし、救国臨時政府を樹立した。政府軍の常陸軍と水戸軍、反政府軍の仙台、宇都宮、信州などの各勢力が争った。

海人は小さい妹弟を守りなんとか生き延びるための方策を考えた。そしてこうした兄弟を支える大人もいた。アパート経営で食堂も経営する竹内里里奈は家の軒先を小さな兄弟たちに提供し食事も与えて彼らが生き残ることを手伝った。街では孤児を集めて兵士とするための孤児狩りがあり、政府も15歳になる子供たちを徴兵した。海人はある時、武装勢力の孤児狩りに会い、連れ去られた。幼い恵と隆のことで頭がいっぱいになったが逃亡は銃殺を意味した。訓練を受け戦闘に参加した海人はすきを見て脱走、そこで月田姉妹と出会った。海人は桜子、椿子の双子を兵士の手から救い、恵と隆が待つ家に戻ってきた。

ロシア系のマフィアボス、ファン・バレンティンは孤児の海人がしっかり者であり、小さい妹と弟を守っていることを知り手助けをしてやる。海人はバレンティンの手引きで生きる糧を手に入れた。常陸でのマフィアである常陸TCのボスの息子に恵と隆は目をつけられる。その結果、里里菜に借りた軒先の家は焼き払われてしまう。月田姉妹と恵、隆を別の場所に匿い、海人は軍隊に入ることを決意する。この時代に収入を得て幼い妹弟を養う方法は他にはなかった。

軍隊で頭角を表した海人は軍曹になり孤児部隊の小隊長を任せられるようになった。また、密売ドラッグの輸送を遅って巨額のカネを手に入れ、恵と隆を安全な場所にかくまってもらえるように軍隊の外人部隊司令官イリイチ大尉に取り計らってもらう。孤児部隊の司令官は白川如月中尉。孤児部隊ではその後も一緒に戦うことになる多くの友人を得る。孤児部隊は女性や弱者の立場を擁護する「ンガルンガニ」と共闘する。ンガルンガニの幹部は森まり、そして月田姉妹もこの戦争を集結したいとの思いから女の子たちによる戦闘集団「パンプキンガールズ」を結成する。

上巻は海人の生い立ちと成長、下巻は月田姉妹の戦いでパンプキンガールズ結成を描く。無益とも思える戦闘が続き、多くの犠牲者が出る。誰が誰と何のために戦っているのかわからない中、東京最大のマフィア東京UFと連携した富士師団が「2月運動」とも連携して海人の孤児部隊を中心にした常陸軍に攻撃を仕掛けてくる。戦闘場所は貧民たちが集まる人種の坩堝でもある九竜シティ、激しい戦いで常陸軍とパンプキンガールズの連合軍が勝利を収めるが、テロに巻き込まれて月田姉妹の桜子と森まりは戦死する。

テーマは女性や外国人、子供たちなどの社会的弱者や性的マイノリティなどに同じ権利を与えるという勢力、そして日本人、男などの力を誇示したいグループとの価値観戦争である。そのためにこんなに多くの人達が死ななくてはならないのかという疑問がある。しかし、これらは平成以降に日本社会を覆うようになった自由競争、効率主義、成果主義、市場至上主義、強欲資本主義の現代社会を少々極端化した世界である。こんな世界にしてしまったらドウシヨウもないではないかという作者の問い掛けである。
裸者と裸者〈上〉孤児部隊の世界永久戦争
裸者と裸者〈下〉邪悪な許しがたい異端の
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NHK歴史発見(7)

2011年03月20日 | 本の読後感
カラーの図版がたくさん入った読みやすい本である。

朝鮮出兵400年、秀吉に反逆した日本武将。当時朝鮮半島には鉄砲が普及していなかったため秀吉軍に一方的に押された。しかし秀吉の独裁に嫌気が刺した日本武将がたくさんでたため形勢は逆転、とくに雑賀衆が朝鮮に鉄砲とその技術を伝えたのではないかと推理。

金山奉行の黒い噂 大久保長安、断罪の謎。鉱山技術に革命を起こした大久保長安、大きな権力を持ったが本多正信に断罪された。

水戸黄門、幻のクーデター計画 宮将軍擁立の謎。五代将軍を選ぶ際に水戸光圀は有栖川宮有仁親王を推していたのではないか。当時の老中堀田正俊は最若手であったのにもかかわらず綱吉を推しそれが最後は勢力を得た。

忠臣蔵は仮名手本忠臣蔵が作ったフィクションであり、実際には殿中での刃傷事件である赤穂事件と、大石内蔵助によるお家再興の努力、そして不公平な幕府による赤穂藩取り潰しに怒った47人の侍の討ち入り、という3つの話である。

このシリーズはもう販売していないようだ。神田の古本市場ででも探してみよう。
NHK 歴史発見〈7〉
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東大講義録 文明を解くⅡ 知価社会の構造分析 堺屋太一 ****

2011年03月19日 | 本の読後感
大震災でしばらく本を読む気にもならなかった。

久しぶりに読んだこの本は知的刺激が大いに得られる本である。

一割足りないと値段が二倍になる商品が二つある、食料とエネルギー。どちらも価格弾力性が低く価格が上がっても需要は減らないが、結果は全く逆になる。食料が足りなくなると「もっとも貧しい消費者」である家畜が減る、エネルギーは節電で不要不急のエネルギー消費が減る。家畜の中でも餌と食肉の効率の違いがあり、牛は餌の4%が食肉に、豚は5.7%、チキンは10%、つまりビフテキは高騰しハンバーグは合いびきになり、場合によってはツナやいわしに替わる。そうすると飼料のトウモロコシやコウリャンの消費が減り、次に貧しい消費者である人々がその一部を食べるようになる。さらに貧しい人々は飢える。これは食糧問題ではなく貧困問題である。

石油危機が起きると「最も贅沢な消費者」である先行投資ががっくり落ち不景気になり石油関連価格が上昇する。その結果化学肥料や農薬が値上がり次の年には食糧危機がやってくる。そうすると焼畑が拡大し、森が伐採され自然破壊が起きる。70年代の石油危機のあと、アマゾンからアフリカの熱帯林が大きく伐採された。セネガルに掘られた「モハメッド・アリの井戸」、周りに人が定住するようになり数年で周囲数キロがはげ山になって広い範囲で自然破壊が進んだ。合成の誤謬である。

国際化では国境の壁は存在するが互いに自由に出入りするようになる。グローバル化では国境の塀がなくなる。日本はグローバル化に遅れた。日本の官僚は出入りする人物金情報の管理をしようとしたためグローバル市場を対象としていた外資は日本市場から手を引いていった。

マルクス経済学の基本。①人間は経済人である。人間は経済的に有利なことを求め、物財をたくさん欲しいと考える。②それぞれの社会に適した最適規格が存在する。③最適規格は官僚などの専門家は発見できる。④規格大量生産は効率がいい。総合すると、官僚が権限を持ち最適規格の製品を大量生産すると人は幸せになれる。国民休暇村、国民宿舎、国民車、国民服、フォルクスワーゲンなどがその事例である。こうした資本論の仮説は知価社会では当てはまらない。

人口、資源環境、技術の三つが文明の犯人である。「ネクスト・ソサエティ」「脱工業化社会」「第三の波」いずれも次は何かを定義出来ていない。筆者はこれを「知価革命」であると主張する。豊富なものはたくさん使えばいいが、足りないものは節約するのが人間の美意識であり倫理観である。その人間精神に働きかけるのが文明変化の犯人である人口、資源環境、技術である。

90年代の日本では経済低迷が需要不足を促し、投資停滞と消費伸び悩みを招いた。その原因は、日本技術の停滞、新興国に比べての競争力が低下、高コスト化。グローバル化、官僚主導の行き詰まりが原因である。また、消費伸び悩みの原因は需給不適合であり、若者世代の怠情症候群、所得停滞であり、根本的には人口構造の変化、職縁社会の崩壊、価値観の変化が原因である。

金融には三つの機能がある。①大数補完、つまり保険。②時差補完、つまりヘッジ。③価格変動を対象とした取引、つまりデリバティブ。これら3つを活用してリスクを減少させる、これが金融の機能である。金融は人類の知恵である。

モノやサービスの価格は経験経済では多様化する。コーヒー豆の価格は一杯分で1-2セント、コーヒー豆のパッケージになると5-25セント、喫茶店では1-3ドル、高級レストランでは5-8ドル、ベニスのカフェ・フロリアンでは15ドルでも払う。コモディティが製品になりサービス、時間産業、そして知恵と経験の産業になっているのだ。個人、生産や産業、社会や公共という切り口と合わせて考えると、産業分類は変化してくる。物財産業、位置産業、時間産業、知識産業である。

人間の共同体の変化。狩猟時代には血縁社会、農業時代は地縁社会、工業時代は職縁社会、時間・知識産業時代には好縁社会になる。民族の絆は国家を共同体とし、国旗や国王をシンボルとした。階級や職能の絆は政党や組合を共同体としイデオロギーを心の拠り所とした。宗教は教祖を拠り所とし、地域社会はエコや地域運動を拠り所とした。好みた趣味を絆とするソサイエティではテーマが心の拠り所となる好縁社会である。

日本歴史を振り返ると、すべての時代が首都機能の所在地名で呼ばれている。飛鳥、奈良、平安、鎌倉、室町、安土桃山、江戸、そして今は東京時代である。江戸時代から東京時代に変わった狭間の10年京都に首都が移り将軍家茂、慶喜は京都に移住、明治維新が起きた。日本文化の多様性を維持するためには首都移転が必要だという主張である。

日本復活のための処方箋。①規制緩和により人・金・技術の流動性を高める。②知価創造的な個性と独創性に富んだ人材を育成する。③多様な情報収集と発信力を拡大する。
日本改革には官僚改革が必須である。

世界の問題で重要なのは先進国での出生率低下。規格大量生産時代の健全な人生は次のとおり。教育を受けて近代社会で生きる力を習得、就業して近代社会の一翼を担い、蓄財により金利を得ながら消費を進め、結婚して出産、財産相続権の明確な家族を形成する、住宅取得後65歳まで働いて老後は社会保障と自助努力で暮らす、子どもの蓄財を妨げないためには同居せず生きる。物財の極大化が前提である。知価革命では出生率が上がる。規格大量生産時代の価値観は変わる。

考えるヒントが沢山解説された良い本である。
東大講義録 文明を解くII―知価社会の構造分析 (日経ビジネス人文庫)
東大講義録 文明を解く I (日経ビジネス人文庫)

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この国のかたち(2) 司馬遼太郎 ***

2011年03月11日 | 本の読後感
司馬遼太郎ならではの話題。 紋、侍だけではなく江戸時代の百姓も元はといえば苗字も紋も持っていた。日本の紋の研究では欧州での研究が進んでいることを知った。羽織りには紋が付いている、羽織りを着た人、といえば名主、関西では庄屋、公式の場に出る代表者という意味があったという。中国にも韓国にも紋はない。世界で紋をもつ文化圏は日本とヨーロッパ貴族だとのこと。

江戸時代の天領、幕府直轄地は四公六民、大名領は六公四民以上の料率、このため天領では人々に余裕がありビジネスが生まれた。逆に明治維新の底力は大名への反発から生まれたので、天領出身では明治に偉人はほとんどいなかったという。

国持という言葉がある。加賀の前田氏は三カ国をもち、薩摩の島津氏は二カ国、長州の毛利氏、因州の池田氏、阿波の蜂須賀氏も二カ国の国持だった。筑前福岡の黒田氏、土佐の山内氏、安芸広島の浅野氏、備前岡山の池田氏、対馬の宗氏も一カ国の国持大名。仙台の伊達氏、秋田の佐竹氏、米沢の上杉氏、越前福井の松平氏は領有していないが国持大名という扱いだったという。

その他話題は広く深い。肥後の人間の扱いにくさ、華厳宗の教え、ポンペ神社、日本における金の価値の変遷、カッテンディーケ、一三世紀の文章語、日本での職人の地位、聖、会社的公の概念、ザビエルの生まれた城、杉と檜、という話題である。

書かれた時代は20年前だが、今の時代の問題をすでに感じているのではないか。

この国のかたち〈2〉 (文春文庫)
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さおだけ屋はなぜ潰れないのか 山田 真哉 ***

2011年03月10日 | 本の読後感
「もしドラ」と同じような狙いの本か。PL/BSの解説からではなく、現実に起こっている事柄を会計で考えるとどう見えるのかを解説した本。

1. さおだけ屋はなぜ潰れないのか:近所の金物屋は竹竿を注文されるとついでに配達して欲しい、と頼まれることが多いので、それならと近所を副業のつもりで空き時間に回っているから。元手がかからず、売れれば儲け物。ついでに物干しの修理も頼まれたりして結構収入になるから。原価がかかっていない、ということ、そして売上機会を増やすから。

2. 住宅街の高級フランス料理店は儲かるのか:シェフが料理教室で儲けていて、レストランとの連結経営とも言える構造だから。本業と副業は相乗効果がある組み合わせが良い。

3. 自然食品は回転率が悪いと思われるがどうか:通信販売がメインで在庫場所のつもりで店舗があるから。在庫は罪庫、できるだけ少ないほうが良い。

4. 昼前に完売した弁当、店長に怒られた:販売機会をロスしたから。機会損失は眼に見えない。

5. 雀荘の店員はオーラスでもタンヤオで上がる:顧客回転率を上げることがお店の売上につながるから。回転率、リピーターを増やす、これが商売の極意。

6. 割り勘の支払いをすると何が得か:クレジットカード払いにすればキャッシュが手に入り、キャッシュフロー的には有利。

7. 数字に強い、というのは数学ではなくて引き算と割り算、利益と回転率を計算することができて、木を見るのではなく森全体を見ることができるセンスのある人が数字に強い人。

さおだけ屋はなぜ潰れないのか? 身近な疑問からはじめる会計学 (光文社新書)
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紅蓮鬼 高橋克彦 ***

2011年03月09日 | 本の読後感
西暦908年、菅原道真が太宰府に送られて無念の死を遂げた時に起きた、鬼と陰陽師の戦いの物語。賢島に異人船が流れ着き、中には無残な死体が数十も転がっていたところから物語は始まる。浜に集まった漁師たちが8人まとめて殺される。この死体も無残な殺され方をしていた。これを京都から調べに来たのが陰陽師の家の加茂忠道、しかしこの忠道も鬼にとりつかれてしまう。この鬼は男女のまぐわいを通して人に取り付くらしい。取り付いた鬼は容赦なく人を殺す。この鬼が太宰府の菅原道真の墓から道真公に取り付いていた怨霊を取り出し泥人形にする。この鬼と泥人形が都に入って人々に取り付き騒ぎを起こす。

これを退治しようとするのが忠道の弟忠行、そしてその叔父の忠峯。忠峯は35年前に加茂家を飛び出て陰陽師の修行をしていた身、鬼退治は自分の使命だと考えている。鬼は取り付く人間を取り替えて、どんどん京都の貴族階級の上層部に接近しようとする。これを忠峯と忠行は阻もうとする。安倍晴明のような力を持った忠峯は鬼の力を封じる。

陰陽師の物語が好きな読者にはたまらないお話かもしれない。

紅蓮鬼 (角川文庫)
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