意思による楽観主義のための読書日記

面白きこともなき世を面白くするのは楽観力、意思に力を与えるのが良い本 *****必読****推奨**閑なれば*ムダ 

シモネッタのデカメロン 田丸公美子 ****

2008年03月30日 | 本の読後感
経済が不況になると一気に消極的になる日本の経営者に読ませたい。イタリヤ人のセリフが紹介されている。1991年以降のバブル崩壊の折、意気消沈する日本人を見て、イタリア人はみなあきれたものだ。「失業率と金利が一桁で、経常収支が黒字の国が、なんでこんなに大騒ぎするんだ。俺たちは貸し出し金利20パーセント、失業率12パーセントの国で商売し、人生を謳歌している。為政者が次々と替わる国に生きてきた俺たちは打たれ強いんだ。日本人はまだまだだな」

50歳代で亡くなった親友、米原さんを偲ぶ逸話にはちょっと心を引かれる。「米原:通訳には客と同じメニューを出すべきだ。通訳に食べさせない仕事はすぐ断る」団体旅行のツアーコンダクターをしていたことがあるのだが、客のしもべとなり、楽しく旅行していただけるよう細やかな心配りが必要とさっるこの仕事を彼女がどうこなしていたのか私は、常々いぶかっていた。米原:ロビーで昔のツアー客に「覚えてらっしゃいますか」と聞かれ、にべもなく「いいえ」と応える。田丸さんが母親のように「その節はいろいろお世話になりまして」「そういえば、万里さん、店でヘレンドの食器フルセットを買われて、私たちずいぶん待たされたあげく、一人で持てない量だったのでみんなで分けて運んでさしあげたんですよね」 万里さんの方は「ああ、そうでしたね」と、悪びれもせずににこにこ笑っている。文字通りの主客転倒。「万里さんによく怒られましたわ。感動するときに使う形容詞の種類が余りに貧弱だって。」と楽しそうに思い出にふけっているのだ。単なる身の程知らずか、いや大物ならではの人徳か、女帝エッ勝手リーナの面目躍如。

米原:同国人でないから後腐れがない。異国の人だけど、言葉は100%通じる。身近にいて、一緒に食事をしたり買い物をしたり、とにかく日常生活の面倒を見てくれて、通訳するためなんだけど、自分のことを懸命に理解しようとしている。これほど、身の下話を打ち明けるのに理想的な相手はいないものね。でもね、私はいろんなロシア人の通訳をしてきて小咄(こばなし)という形で男女の話はタップリ聞かされたけど、自分の体験をこんなに話してくれた人は一人もいない。ところが、田丸は吸取紙みたいに次々にイタリア男たちのエロス体験を聞き出してるんだよね。

読んでおもしろくためになる本、滅多にありませんよ。
シモネッタのデカメロン―イタリア的恋愛のススメ (文春文庫)
コメント

蒼煌 黒川博行 ***

2008年03月22日 | 本の読後感
芸術院会員をめぐる会員選挙を通じて、日本画壇の身も蓋もない現実があらわにされている。京都画壇の日本画家の室生晃人と稲山健児がライバル。前回の選挙に敗れた室生は、名誉と地位を手に入れるため画商の殿村に策略を巡らし当選を頼み込む。白い巨塔でも似たような状況があったような。画の世界には画壇内の出世ランキングがあり、入選し、特選を受賞し、芸術院会員に成り、文化勲章を受章するといった明確なステップが明確になっている。この辺は政治家の当選3回組で副大臣、5回で大臣候補というのと同じですな。必然的に上のステップを目指して賄賂が繰り返されることになる。本書では芸術院会員という大臣ポストに匹敵する重要なポストをめぐって年取った画家が繰り広げる熾烈な運動を中心にストーリー展開。誰も死なないし、怪我もしないのでこのお話は好きです。
蒼煌 (文春文庫)
コメント

ドタバタ移住夫婦の沖縄なんくる日和 仲村清司 ***

2008年03月11日 | 本の読後感
大阪出身の著者が沖縄に移住して苦労するが楽しい毎日を送っているという移住本。おもしろく読めるが、私が着目するのはその中に混じっている情報。名字の話。著者の名字は仲村。

沖縄の姓はほとんどが地名からきていて、昔はあちこちに中の字を使った地名があったらしい。ところが、17世紀の後期、第二尚氏・尚益の世子・尚貞が中頭中城間切を世襲し、中城王子を称するのにともなって、姓や村名に「中」の字を使用することが禁止されたのだそうだ。「中は高貴な字であるからして、王家以外の者が使ったらイカン」という布令を出した。これによって、浦添の中間は仲間、沖縄市の中宗根は仲宗根といった具合に改称させられた。沖縄に「仲」が多いのはお上の布令でそうなった。

沖縄にはおよそ1500種類の姓があるといわれているのだが、そのほとんどが内地にない異国風の珍しい姓ばかりで、真栄田・真栄里・仲宗根のように3文字の姓が際立って多いのが特徴。一説には沖縄の姓の半数近くを3文字姓が占めているといわれる。なぜこうした姓が生まれにいたったかというと、薩摩藩の琉球統治政策と深く関係しているらしい。琉球が薩摩藩の侵攻によってその属国になるのは1609年。それ以降、薩摩藩は「異国」を従えていることを権威づけるために、琉球が外国であることを演出するさまざまな政策を遂行する。手始めに服装や髪型を異国風に装わせ、1624年になると今度はさらに「大和めきたる名字」の使用禁止を令達する。これによって、たとえば東という姓は「比嘉・比謝」に、福山が「譜久山」、船越は「富名腰」と表記変えされ、3文字姓が増えた。沖縄の元々の姓は日本のそれに近いものだったかもしれず、沖縄の歴史家・真境名安興は、沖縄の姓は日本の姓に近かったのに、薩摩藩の政策によって「異国的」なものに改称させられたという論文を発表している。

こうした話は沖縄県の歴史にも触れられていなかった重要な史実ではないか。
ドタバタ移住夫婦の沖縄なんくる日和 (幻冬舎文庫)
コメント (1)

国境 黒川博行 ****

2008年03月02日 | 本の読後感
「疫病神」の続編、極道の桑原は、二宮の「疫病神」、舞台は北朝鮮。詐欺師が北朝鮮に逃込んだために、桑原と二宮のコンビが国境を越えて北朝鮮に密入国する。このような危険な状況でも異彩を放つ極道の桑原。口では二宮を罵りながら、二宮を助け、詐欺師を追い詰めてゆく。主人公は桑原である。黒川博行は、北朝鮮という不可思議な国家と、極道でありながらやくざの主流とはならないだろう桑原をおもしろく、しかしうまい筆致で描いている。
国境 (講談社文庫)
疫病神 (新潮文庫)

コメント