意思による楽観主義のための読書日記

面白きこともなき世を面白くするのは楽観力、意思に力を与えるのが良い本 *****必読****推奨**閑なれば*ムダ 

傷はぜったい消毒するな *****

2018年03月06日 | 本の読後感

筆者は「湿潤療法」を提唱している形成外科医。すりむき傷と熱傷の治療は次の2ポイントであるという主張。1.傷は消毒せず、消毒薬を含む薬剤をその後の治療にも使わない。2.創面を乾燥させない。この治療法は一般的に信じられている常識である「消毒して乾燥させる」とは異なるので反対者も多いという。乾燥させないのは、傷が治る過程では皮膚の再生に湿潤環境の方が適しているから。そのためには、傷にくっつかず、滲出液を外に逃がさないことが重要で、市販のハイドロコロイド、プラスモイスト、もしくはサランラップでもOK。消毒はばい菌を殺すだけではなく人の細胞膜タンパクも破壊するため、化膿を防ぐためなら水で洗浄するだけでいい。とはいえ、病院を受診した方がいい場合もある。1.創面に砂や泥が入り込み汚染されている。2.傷が深い。3.治療の過程で38度以上の発熱があり創部に痛みがある。というケース。

消毒の重要性は感染症の予防である。19世紀にはお産で死亡する母親が1-3割もいたという。原因の多くが産褥熱、つまり出産後の原因不明の発熱で、当時は消毒という概念が普及していなかったので、医者が別の外科手術をしたそのあとに出産にも立ち会うなどのケースに感染が発生したと考えられる。現に、産婆さんによるお産ではほとんど産褥熱は見られなかった。その後、医師の手の消毒が行われるようになり産褥熱による死亡は激減した。これ以降、消毒は感染症予防の第一条件と考えられるようになり、細菌の増殖を防ぐため乾燥を維持することも求められるようになった。

傷口が化膿するというのは、細菌感染によって傷が炎症を起こしている状態である。しかし傷口に細菌がいても化膿するとは限らない。もともと人の皮膚には常在菌が大量に存在していてバランスを保っている。黄色ブドウ球菌などの進入を防いでいるのは常在菌であるという。化膿するのは滲出液が滞るような場所があること、例えば縫合糸が残っていたり、湿潤療法をしていても、ハイドロコロイドを数日間取り換えずにいると、そこに悪い細菌も溜まってしまうため化膿がおきることがある。湿潤療法でも一日一回の交換は必要である。ちなみに、内出血をしているようなケースで、外部に傷口がなくても、血液中に血種が発生している場合で、例えば食中毒や怪我の直後、抜歯後には、血種に血液中の細菌が溜まり化膿が起きることもあるので注意が必要であるという。

火傷の治療のケースで見てみると、従来の治療は次の通り。創部の清浄化と消毒、その後乾燥させ、軟膏を塗ったガーゼをあてる。湿潤治療では、清浄化も消毒も不要で、創面は湿潤にするためラップなど創面被覆材で覆うだけ。このほうが治りがずっと早くなる。一部の医師はこうした湿潤治療法を取り入れているが、多くの権威ある医師がいる大学病院が一番遅れているという。

これは生物の進化の過程を考えれば分かる。46億年前に地球が誕生、30億年前に誕生した最初の生物は細菌だった。硫黄分解バクテリアやメタン生成菌などの古細菌、大腸菌やブドウ球菌などの真正細菌、そして菌類、植物、動物の真核生物が誕生したのだから、カンブリア紀に急に多くの種類が現れ始めた動物の周りにはすでに細菌類がウヨウヨいたはずである。動物はこうした細菌と共存することを覚え進化した。動物の腸管には膨大な数の腸管常在菌、口腔や皮膚、女性の膣内にも膨大な数の細菌がいて、体の外からの病原菌の進入を防いでいる。常在菌ではない人の体に害をもたらす細菌を通過菌と呼ぶ。例えば皮膚常在菌は皮脂を栄養源とし弱酸性の環境を好み嫌気性であるが、通過菌は皮脂は利用せず中性環境を好み、好気性である。これが皮膚の傷と消毒の関係につながってくる。人間の免疫システムと常在菌は共存関係にあるため、常在菌を殺菌することは免疫力低下につながる。手の洗いすぎはかえって通過菌の存在を許すことにつながる。胎児が一番最初に細菌に触れるのは出産時、経腟出産では産道、外陰部の常在菌に触れ、出産時に排便があれば大腸菌や腸球菌に触れるので、母親の常在菌を受け継げることになる。母親とのスキンシップ、母乳などは皮膚常在菌の引継ぎに有効である。

女性の多くが常識として行っているお化粧、それは界面活性剤を含む乳液などを多用することで、皮膚の常在菌を減らし皮膚の老化を速めている。髪の毛のシャンプーも同様、界面活性剤による洗いすぎはふけや抜け毛の増加につながるという。お湯だけで洗えば、ふけが減り抜け毛も減る。

本書の内容はここまで、どこまで信じるかは読者次第。先日、「人の体の9割は細菌」を読んで、抗生物質が人の腸管常在菌バランスを崩したことで現在病であるアトピーや大腸過敏症、花粉症などが増えた、という説を知ってしまった私に対しては大変説得力があった。常在菌のことはもう少し学びたい。

 

傷はぜったい消毒するな~生態系としての皮膚の科学~ (光文社新書)

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