意志による楽観主義のための読書日記

面白きこともなき世を面白くするのは楽観力、意志に力を与えるのが良い本 *****必読****推奨**閑なれば*ムダ 

古代から来た未来人 折口信夫 中沢新一 **** 

2018年04月10日 | 本の読後感

30年にもわたって折口信夫を読み続けているという筆者の中沢新一。折口信夫は日本に住んでいた古代人の心を、非言語的な民俗資料の奥に潜む思考を掘り当てるようにして探っていると表現。むろん仏教が入ってくる前の日本列島に住んでいた古代人のことである。しかし古代といえば古事記や万葉集よりもずっと以前、列島に住んでいた日本人が記録を始めた奈良時代は弥生人、つまり稲作文化と鉄器をもった人たちであり、それより前の古代人の心はその頃にはもはや失われていたと推測する。ヒントは地方に残る風習や祭り、言い伝えなどであり、折口は古いお祭りを見に、信州や東北などを巡った。

縄文分化の中には、月と女性、蛇と再生などの象徴的な比喩があり、人々が信仰していたと考えられる宗教観が偲べるという。つまり、神より以前からあったタマ、ある時は動物に、ある時は天体に、ある時は山に森に存在する。タマには霊力があり、神よりも神秘的で原初的な存在である。こうしたタマの概念はポリネシアの人たちが森にすむ精霊を表す「マナ」やアメリカ先住民が真冬の祭りを通して増殖させる霊力との共通点を感じられるという。日本の地方に残されている祭りを訪ね、夜を徹して行われるような能を見ていると、共通する精霊の存在に気が付く。

古代人は月の満ち欠け、太陽の位置に敏感で、月の満ち欠けはひと月ごとの周期的変化を、太陽は昼夜の変化と季節の変化、周期を描く。祭りは夏至や冬至、特に冬至に行われ、夏至をはさんだ夏祭りの期間には先祖や、死霊の形をとった精霊の群れに会えるため、心を込めてお迎えする必要がある。冬至をはさんだ1-2か月は霜月、夏とは違い精霊の増殖と霊力のたくわえを行う。「ふゆ」とは増える、殖やすを表す古代語から来ているという。精霊は「鬼」の形をとることが多く、全国に残る鬼にまつわる儀式や祭りは冬に訪れてくる精霊の象徴だという。花祭り、フユまつり、霜月祭などの中には、修験道や陰陽道の影響もうけて中世的なかたちに変容しているものの、その奥には古代人の考えていた精霊の到来が見える。

折口が考えたもう一つの古代の神のかたちは「まれびと」、海の彼方の異郷から来訪して人々に祝福を与えてくれる存在である。琉球地方に残る「ニライカナイ」信仰そのものである。しかし古代人が行っていたと考えられる「まれびと」の儀式は、その後の弥生人たちによる神社の儀式、そして仏教の作法などに埋もれてしまい、本州の宗教的場所にはほとんど痕跡が見当たらない。神社の儀式は奈良時代以降は厳しく形式化され、徴税や徴用にも活用されるため、中央政府による管理下に置かれていた。しかし、昔の「まれびと」にまつわる儀式は、下級の神人により演じられる芸能として神社では残り続けた。その後、神仏習合された寺社ではスポンサーがいなくなった古代型の宗教者であった芸能者は放浪する。そして修験道などに形を変えて地方の祭りやしきたりにその痕跡を遺す。今では形式が整えられた能、歌舞伎もそうした芸能の変化形であるという。能が猿楽と言われた時代からある「翁」、それはあの世からの精霊出現を儀式化したものだと。またこうした芸能者の原像は「鬼」が鮮やかに表現している。鬼は共同体の外からやってきて、死の息吹を生者の世界に吹きかけ、時に病や不幸ももたらすが、共同体の中で生きる人たちは鬼により若々しい力を吹き込まれ、病気や消耗から立ち直る。普段は近づきたくない鬼に、祭りでは競って近づく。芸能とは不穏なものであり、不穏だからこそ皆で祭りをして近づくのである。不穏な舞はエキセントリックになり、観阿弥により取り入れられた曲舞や、曲舞の一種である幸若舞が生まれ、それが歌舞伎となった。「かぶく」は「傾(かぶ)き」であり、ゴロをまく芸能である。

室町時代の金春禅竹は能の形式に固まり始めていた芸能の中から、古代の思考の息吹にさらすことにより「この世」と「あの世」の境界面で行われる不穏な芸能を思い起こさせた。あらゆる芸能はモンスターである。本書内容はここまで。

心の中にある「タマ」、多くの現代日本人も、お盆・夏祭りや墓参り、パワースポットなどで感じることがある精霊の存在。芸能になぜ心惹かれるのか、人が本来的に持っている本能的な快感なのかと思っていたが、古代人はそのことをよく知っていたのか。日本的な伝統は、古代、縄文、弥生、神道、仏教などが何重にも折り重なった重層的な歴史的存在であること感じないわけにはいかない。

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