意思による楽観のための読書日記

昭和史の論点 坂本多加雄、秦郁彦、半藤一利、保阪正康 ****

坂本多加雄、秦郁彦、半藤一利、保阪正康の4名による対談集。昭和の初めから太平洋戦争まで、日本は本当に戦争を避けられなかったのか、どこで間違ったのかを検証した。日英同盟を締結した1902年、それが終わったのがワシントン体制であり、第一次世界大戦終了後の世界を二国間条約ではなく多国間合意で維持していこうという体制、この時に日英同盟は終わっている。大前提としては1917年に革命が起きたソ連は弱体、中国も無力、極東は問題が起きないだろうという認識だった。しかし、中国では北伐、ソ連は五カ年計画と風雲急を告げる。日本にとってアメリカとは石井・ランシング協定ができて満蒙特殊権益はアメリカから認められているのでメリットはなかった、しかし国際協調の波にならなければならないという意識があった。海軍は八八艦隊計画が悲願であったが、対英米海軍主力艦10:6の条件を呑む、これは戦艦八巡洋艦八を維持するには当時の国家予算の4割が維持費で消える、という現実があったから実質的には仕方がなかった。これを日本の国の格付けのように思ってしまった。フランス、イタリアは3.5という比率であり、決して日本が国力以下の評価をされたわけではなかった。

張作霖爆殺事件は1928年、関東軍河本大作は勝手に計画をつめないままに先行した事件だったが、田中義一内閣はそれを統制できなかったために倒れた。天皇は田中義一に真相解明を命じるが田中は一向にやらない、そのため総辞職に追い込まれる。当時27歳の天皇のことを軍人たちは軽んじていたのではないか、という推察。何が何でも河本を処罰するなら、張作霖爆殺を世界中にばらす、と言って脅かしたという。1930年ロンドン会議の統帥権干犯問題、北一輝の思いついた統帥権の独立、これを盾に内閣に条約は無効と海軍は迫った。これ以降軍部と政治の勢力は逆転した。

満州事変1931年以降は陸軍の暴走とそれを止められない内閣、そして戦争を煽るマスコミとそれに乗せられる国民、という図式。日清日露戦争で獲得した権益を手放すなら世界の一等国から滑り落ちてしまう、という危機感。そして国際連盟からの脱退である。以降、国際連盟は中国が日本の横暴さを訴える格好の場となり、日本の国際広報戦略は大失敗となる。2.26事件は政権奪取の現実性があったが、天皇が育ての親とも言える鈴木貫太郎侍従長夫人から第一報の電話を受け取り激怒、反乱軍討伐を命じたことで決起した軍隊は反乱軍となった。秩父宮が反乱軍に担がれるというシナリオもあったが、事件後昭和天皇は秩父宮を呼びつけてこっぴどく説教した。

日中戦争は廬溝橋事件から始まる。南京事件、では4万人から10万人という中国人が日本軍に虐殺された。東亜新秩序声明が1938年に出され、アジアの解放というスローガンが加えられる。1939年にはノモンハン事件が起きてソ連軍の機械化部隊に日本軍は徹底的にやられるが、ソ連も対ドイツ戦があり早く始末を付けたいことで決着する。1940年には日独伊三国同盟、これはソ連も加えた4国同盟としたかったが、現実はドイツがソ連とは組まないことを決めていた。1941年には御前会議が4回開かれるが太平洋戦争は9月6日の会議で既に決められていて、その後の2回は手続き上の問題だった。

太平洋戦争では250万人の軍人が戦死、7割は餓死だった。これは兵站という技術を如何に軽んじたかということ。戦争に使われた科学技術でも英米が開発して日本にはなかったものに近接信管、バズーカ砲、ナパーム弾、ヘッジホッグ(対潜水艦爆雷)、原子爆弾などがある。また日本開発のものでもパテントに関してはジャイロコンパスはスペリー社、機銃はビッカース社、ホッチキス社、ゼロ戦の機銃はエリコン社、エンジンはライト社という風に技術はすべて欧米のライセンスだった。

振り返れば振り返るほどばかげた話が出てくる。世界の中の日本、ということを相対化できなくなったときに日本の危機が来る。明治維新は攘夷という暴論を開国という現実策が一時的にせよ封じることができたために成功した。ロンドン条約締結後の統帥権干犯問題はこうした相対化ができずに戦争への道に進んでしまった。政府、マスコミ、国民が如何に自国を世界の中で相対化できるか、自国の実力を認識できなかったことが失敗の原因であった。

昭和史の論点 (文春新書)
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