意思による楽観のための読書日記

面白きことなき世を面白くするのは楽観力、意思に力を与えるのが良き書
*****必読****推奨 **閑なれば *ムダ 

東京の子 藤井太洋 ***

2019年03月15日 | 本の読後感

舞台は2023年、東京五輪開催後の日本では少子化対策としての外国人受け入れ法案が実施された東京。仮部諫牟は26歳だが、実際には他人の戸籍を手に入れた23歳、小さい頃から両親に育児放棄されたため15歳の頃家を出ることを決意、手に入れた名前を使って、ベトナム料理店「724」で働く傍ら、逃亡した外国人労働者を探し出し仕事に戻るよう説得するという仕事をしていた。家を出たあと、高い身体能力を生かしての技をWebで披露、本名だった舟津令からZeroNutsとして海外でも知られ、ファンからはTokyo Nipper(東京っ子)と呼ばれていた。

湾岸エリアにあった五輪会場は、東京五輪で必要となった開催費用と施設解体費用など10兆円の負債を返済するために民間に払い下げられた。東京の人口は流入してきた外国人技能実習生や留学生などで1600万人に増加、東南アジアの賃金レベル向上により外国人給与は日本人と同じになっていた。そこで設置されたのが「東京デュアル」と呼ばれる職業訓練をしながら大学で学べるという大学である。500社以上のスポンサー企業は、一定の条件で学生を雇用し、大学は教育を実施する。必要な学資は奨学金として貸し付けられ、スポンサー企業への就職と引き換えに、奨学金の一部が企業により負担されるという制度もあった。

近未来フィクションであるが、現代社会の様々な問題点の近未来を描いていて、社会問題としての育児放棄や幼児虐待なども取り上げるが、ITによる決済方法や情報収集、広告、YouTuberなどの多様化も示し、描かれる殆どのエピソードを身近な問題と感じる。東京デュアルの制度は、奨学金制度、雇用確保や労働条件維持など、一見学生にとってもメリットが有るように見えるが、奨学金をもらう企業に縛られてしまうという観点からは、人手不足企業による人身売買、とも見る学生も出てきた。大学では雇用条件向上、企業にとって好都合な解雇条件変更を訴えるストライキを企画する勢力が出てくるが、一方、人身売買反対の学生も訴えを広げていた。ストの正当性を訴えるデモでは、人身売買に反対するシュプレヒコールも出てきて、大学側も譲歩を余儀なくされる。こうした動きを見て、仮部は、隠してきた過去を世の中に示した上で、Tokyo Nipperを名乗り学生たちの立場に立つことを決意する。

2019年2月8日発刊の本書、国会で議論されてきた技能労働者導入制度の大きな問題点を指摘して、国会での議論の浅さとこのままで行けばこうなるという結末予測を示すタイムリーな内容。「マルドゥックスクランブル」のようなぶっ飛んだSFではないが、冲方丁ファンならば本作品も好きなタイプなのではと思うがどうだろうか。

東京の子

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