意思による楽観主義のための読書日記

面白きこともなき世を面白くするのは楽観力、意思に力を与えるのが良い本 *****必読****推奨**閑なれば*ムダ 

生命科学の未来 本庶佑 ***

2019年01月11日 | 本の読後感

ノーベル賞受賞直後に「とにかく出そう」と発刊されたのが本書、それを図書館で一番に手にとったのが私。過去の講演録が2つ、対談が一つ、受賞後のメッセージ付き、という内容。

研究内容については報道の通り、印象に残った箇所を少々紹介。1つ目は特許を取得したPD-1抗体をヒトに応用したヒト型抗体として製品化する際、共願者であった小野薬品工業に相談したところ、一社では無理なので1年かけて共同研究してくれる相手を探したがすべて断られたといって、研究断念を通達された。そこで自分で米国のベンチャーに話を持ちかけたら、即断即決、条件は小野薬品工業が撤退すること。小野薬品工業が撤退の検討をしている間に特許期間が切れたため内容が公開、それを知った米国の別のベンチャーであるメダレックス社と小野薬品工業に共同研究を申し込み開発が開始された。本庶さんはエピソード的にサラッと紹介しているが、相当なイライラ感があったのではないかというお話である。研究は進んでいても商品化に手間取るという日本企業の典型的な事例ではないか。その後は2005年にヒト型抗体として特許を出願、2006年には米国FDAで承認され治験開始、日本では2年遅れで難治性がんを対象に治験開始。当時は免疫治療の有効性が医師の間で信じられていなかったため、もう直らないという患者ばかりで、それが大変な効果が見られた。この後は報道の通り。外科、化学、放射線いずれも身体的な免疫力を弱めることになるため、初期に免疫治療をすることが将来第一選択になると、本庶さんは2016年11月時点で予見している。

もう一つの講演録は2007年4月、「幸福の生命学」というちょっとパロディー風のタイトル。生物にとっての幸福は「生きる」こと、根底には「心地よい」があり、そのためには生殖欲、食欲、競争欲を満たすことが重要という解説である。生物にとっての快感は生命の三要素である自己複製(子孫を残す)、自律性(自分の体を一定の状態に保つためにエネルギーを摂る)、適応性(外敵から身を守り逃げる)と密接な関係がある。こうした欲望や快感を持てない生物は子孫を残せず絶滅してきたという。生物は生き残るために、今まで生き残ってきたことで獲得できた有益な情報をDNAのなかに蓄積してきた。つまり生物とはDNAという情報からできている。DNAは生まれたときにすでにある防衛能力と、生まれた後にも環境変化に対応して新たな防衛能力を獲得できる、という2つの能力を持っている。つまり母親から伝えられた免疫力に加えて、ドンドン変異してくるウイルスや環境変化にも対応しながら成長過程で新たな免疫力を獲得するという能力を持っている。ところが生物の幸福感や欲望は獲得すると麻痺する、つまり同じものを得ても満足できない、という危険性がある。ところが不安を除去する、人間で言えば「今は苦しいけれども死んだら極楽に行ける」などという宗教的安堵、という形での幸福感は麻痺しない。つまりこの2つのバランスが重要で、「安らぎと時折の快感刺激」が重要だというのが教授の主張である。

免疫治療、大いに期待したい。

生命科学の未来 〔がん免疫治療と獲得免疫〕

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