意思による楽観主義のための読書日記

面白きこともなき世を面白くするのは楽観力、意思に力を与えるのが良い本 *****必読****推奨**閑なれば*ムダ 

戦争と国土 司馬遼太郎対談集6 ***

2018年06月24日 | 本の読後感

 「草原の決戦 ノモンハン」のドキュメンタリー著作のある歴史学者クックスとの対談で、司馬「今は信州の温泉宿のご主人になっているノモンハンでの日本軍将校だった須見さんにインタビューして、ノモンハン事件の辻参謀とオイルショックの時のトイレットペーパー買い占めは根は同じだと言っていたのを思い出す。日本人は大きな目で日本全体の幸福や現在を判断できない。前線の一将校として今日明日をどうするかを考えて、またその一将校が実質的な判断を委ねられている。オイルショック時の日本でも、官僚の中で通産省の一課長が権限を与えられていて大きな判断をしている。日本中の地価が上昇して暴騰状態にあるのに不動産業者に金を貸し続ける銀行に規制をかけられない。日本的資本主義が崩れていっているのにその時の大きな視点から見た状況判断をしない、ノモンハンが続いている。」

小説家で「レイテ戦記」などの自らの体験に基づいた著作がある大岡昇平との対談で、司馬「江戸時代までの日本で将軍と言われた足利も北条も徳川も本当の意味では日本全体の実権を握ってはおらず、地方の有力者が治めているその有力者に対する権力を中央が持つという形だった。それが明治維新を経て大正昭和と軍が権力を掌握して、いわば日本全体を実質的に占領していたともいえる。陸軍の高級参謀は、米軍上陸に備える作戦の中で、避難民と軍隊の車列が同じ道でぶつかったらどうするかと聞かれて、轢き殺して進め、と言ったのを強く記憶している。日本国を守るのは人々を守る以上に、戦いに勝つことを優先するという考え方、国体の護持という集団的狂気、それが日本の軍隊だった」

評論家で哲学者の鶴見俊介との対談で、司馬「アメリカ軍を中心とする連合国軍が進駐してきたときに日本人の抵抗がなかったのは、それまでの軍による締め付けが強かったから、占領されているというよりも、軍から解放されて清々する、という方が強かった。やがて憲法が進駐軍主導で制定された時も、これでやっと本当の暮らしができる政治が始まると感じた。悪い感じはなくて、自分が生きている間にこういう国ができるとは思わなかった、こういう感覚が現在まで続いている。この平和は是が非でも守らなければならないと思います。」

 小説家の野坂昭如との対談で、司馬「農地解放されたというけれども、解放されたのは平地であって、日本の面積の7割を占めているのは山地、山林で、山林の半分は国有林、国有林の大半が旧御料林。御料林は西南戦争のあと自由民権運動が起きて、天皇家を守るためには天皇の軍隊を養えるだけの山林が必要だと考えた岩倉具視達の公家勢力が、旧有力藩が保有していた木曽や日田の山林、そして百姓の持っていた入会山を御料林にした。それが戦後国有林になっていて、この国有林がいったいどれほどあるのかが明確に開示されていないのが実情。土地の価格が高騰して、それで投機がはびこり、農民たちも土地の値上がりを期待して、農業そのものに力が入らない、これは問題。いっそ土地を国有化して国民に貸し出すという律令時代のやり方に戻るというのも一つの方法だと思う。」

社会運動家のぬやまひろしとの対談で、ぬやま「西郷隆盛が西南戦争を起こさずに、島津斉彬が掲げていた理想をベースにして産業革命を目指すとして、私学校の軍事力を、島津久光に向けて薩摩共和国を成立させ独立を宣言すれば、大久保といえども歯向かえなかったのではないかと。つまり論理的に道筋が明確で人々が信じるに足るものであれば、太政官政府は誰も動けなかったはず。」司馬「久光は既得権者の象徴であったはずで、それを倒すのが人々の利益になったはず。しかし、西南戦争に西郷が出陣するときに久光の屋敷の前を通るときに土下座して遥拝して去ったという、これでは人々の支持は得られない、西郷の限界だった。それでも日本人は西郷さんが大好きだ。」

評論家の田中直毅との対談で、司馬「列島改造論がその後のバブル経済を呼び込んだ。公共事業の複合体が国庫を圧迫していった経緯がある。そして銀行が抱えてしまった不良債権は先送りされ、実施的なトバシであった。大蔵省も銀行も金融のプロのはずなのに、将来に向けての予見能力はなかった。日本海軍と同様の過ちを再び犯してしまった。」

田中直毅との対談を終えて9日後に司馬は亡くなった。その後、不良債権を抱えた住専、そして銀行は集約され、国民からは見えなくなっているようではあるが、国家の負債として約1000兆円が残っている。これは列島改造論からバブル、そして失われた20年と平成30年間の間中日本経済を覆う暗雲として今も私たちの目の前、そして子供たち、子孫の前にも残り続ける。そのことを予言するような司馬の言葉であった。

戦争と国土―司馬遼太郎対話選集〈6〉 (文春文庫)

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