意思による楽観主義のための読書日記

面白きこともなき世を面白くするのは楽観力、意思に力を与えるのが良い本 *****必読****推奨**閑なれば*ムダ 

ウイルスは悪者か 高田礼人 ****

2019年01月09日 | 本の読後感

10年ほど前に鳥インフルエンザが人から人に感染するようになったと大騒ぎになったことを忘れてはいないだろうか。今でもH5N1高病原性ウイルスは存在して、種と宿主を乗り越えて感染するようになるリスクは依然として目の前にあるといえる。あれから10年近く立って最先端の研究はどうなっているのか知りたくて2018年11月発刊という本書を手にとった。

ウイルスは宿主を生かして自分も生きる、ある種の共生関係を自然宿主と築いている。ヒトも含めてそれぞれの宿主には、長い時間をかけて共生するようになった固有のウイルスが存在する。宿主を殺してしまえばウイルスも生きられないのに致命的な病気を人間にもたらすのは、長い時間をかけて築かれた共生関係に人間という別の宿主が踏み込んでしまったからであり、ウイルスが持つ自己複製能力と環境変化対応能力が極めて優れているからだという。自然の中で静かに生きていたウイルスと宿主の環境に、文明や科学技術の発展により活動領域を広げてきた人間が頻繁に接触し、ウイルスはそうした環境変化に対応する中で、自己複製エラーを起こしながら進化を図る中でヒトには有害な存在になる場合にエボラ出血熱や高病原性インフルエンザが発生したのだという。

ウイルスには意志がない、ヒトを傷つけようという悪意は存在せず、自己生存のための活動がヒトに害をもたらしているのがウイルス性の病原性と感染である。ウイルスの本体は遺伝子そのものであり、生物らしさで言えば自己と他者の境界を持つ、自己複製をするという特質を持っている。代謝をするというもう一つの生物の特質は、宿主の細胞に入り込むことで宿主のエネルギーを使って自己複製を成し遂げている。ウイルスの誕生は生命の誕生より前なのか後なのかは分かっていないが、30億年以上前より地球上に存在していたのではないかと考えられる。ウイルスのRNAが動物の細胞内に入り込んでいるのが内在性ウイルス、このように宿主が進化する際にウイルスの力を借りている内在性レトロウイルスの存在も確認されているという。これは細胞からRNAが飛び出してウイルスになったのかもしれない。ひょっとしたらウイルスと宿主の共進化があったのかもしれない。

筆者はエボラ出血熱とインフルエンザを研究する学者、研究の最先端にいる。よく知られるようにエボラ出血熱の致死率は8割から9割にも達する恐ろしい疫病。ワクチン開発には時間とお金が必要だが、エボラ出血熱の発生はアフリカの一部地域に限られ、患者数も限定的なため、致死性が高い割には製薬企業に利益をもたらさないため、ほとんどの企業は興味を示さないという。筆者は政府予算からの研究資金を得てエボラウイルスの対応策を研究している。

インフルエンザは季節性では致死率は0.1%、時に起きる世界的流行ではそれが0.5-2%にまで上昇する。1917年のスペイン風邪では2%にもなった。1997年には香港でH5N1の高病原性インフルエンザにヒトが感染して死亡した。これは多くのウイルス学者が恐れていたことであった。その後も数回の発生と死亡例が発生するたびにウイルス封じ込めの努力がなされたが、2009年には人から人に感染する新型インフルエンザが発生し、全世界がパニックに襲われたことは記憶に新しい。現在知られているインフルエンザウイルスは大きく分けて144種類が知られ、Hが16種類、Nが9種類でその組み合わせが144種類あるということになっている。毎年流行するのがA型と言われるH1N1、H3N2とB型のH2N2である。高病原性が確認されているのがH5N1、H7N9など。高病原性のインフルエンザは内臓の出血を伴う症状からエボラ出血熱との類似性もある。

こうしたインフルエンザウイルスによる感染症に対するワクチンには感染予防と症状抑制が期待される。生ワクチンはウイルスを体内で増殖させるため少量の投与で免疫に効果的かつ長期間免疫を獲得できるが、接種後にヒトの体内で増殖し変異してしまい、病弱なヒトは本当に感染してしまうリスクも存在するため、日本では安全性のためウイルスを不活性化しウイルスの増殖機能を取り除いたワクチンが使用されている。筆者が開発しているのは皮下注射ではなく粘膜に塗るつける方式の粘膜ワクチン。インフルエンザは上気道という粘膜から感染するため、皮下接種では上気道からのウイルス侵入は防げないという。つまり現行の不活性化ワクチンは予防効果ではなく症状抑制効果を期待して接種されているということ。粘膜ワクチンで存在するのは「フルミスト」米英カナダで認可されているが日本では未認可。

抗インフルエンザ薬として現在使用されているのはタミフルとリレンザ、2010年台にはアビガン、ゾフルーザが開発されているが現在は条件付き認可で、既存薬が効果を示さない場合の備蓄薬とされているという。また、有精卵を使ったワクチン製造には数量に限度があるため、培養細胞による開発が進められ2018年に成功した。またH1-H16全てに有効なワクチン開発にも成功しているという。全世界でパンデミックが発生し再び多くのヒトが感染してしまう事が起きる前にこうしたワクチンや対応策が現実に利用できるよう祈るばかりである。

ウイルスは悪者か―お侍先生のウイルス学講義

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