【白い自転車、おいかけて】
著:松井ラフ 画:狩野富貴子
2014年7月22日 PHP研究所発行
平日の夜、残業して帰宅すると一通の封書が届いていた
封を開けると、河童の会の松井ラフさんのデビュー作が入ってる。
弱輩にまで気遣って送ってくれる、松井さんの優しく強い目元を思い浮かぶ。
表紙には、白い自転車、おいかけてという可憐なタイトル。それに似つかわしくない女の子の目が気になって頁を捲る。
「仕舞ってたこころの鍵や虹の空」哲露
この小さな鍵が重要なモチーフとなってくる。
どこの家庭にもある平凡な日常。
だがその平凡な毎日の暮らしのなかにも、時折不協和音が忍び寄る。
静かな営みの池に、暗い感情の石が落ちてさざ波が立つのだ。
幼いゆかのなかにある独占欲が一つのきっかけで複雑な感情が発動する。日常は平凡に見えて、その実各人の行動と感情により波乱に満ちる。人生はいわばその連続とも云える。
淡々と、丁寧に紡がれる描写は幼年物の基本なのだろう。
モノクロとカラーの効果により、ゆかの気持ちを対比させる狩野さんの手法が活きている。
モノローグが続いたあとのこの絵。ゆかの孤独と不安が胸に迫る。
水辺を好む私は、自然物語世界に入っていく。
そしてこの夕焼けのシーン。
姉妹それぞれに思う気持ちが、松井さんの文と一体となって迫る。
第14回創作コンクールつばさ賞の優秀賞(幼年部門)というのも合点がいく。
膨大な紙の消費があって、この作品が誕生したのだと察する。
文字の少ない幼年物の難しさを、物書きの下積みも少しは理解できるようになった。
松井さん、デビューおめでとうございます。素敵なお話をありがとうございました。
それにしても、自転車の鍵というのは、どうして突如消えてしまうのだろう。
コロボックルが隠して遊んでいるのだろうか。
そして忘れた頃に戻ってくる。
創作も、人との出会いもその繰り返しなのかもしれないな。
今日は、同人たちの心の故郷、後藤竜二氏を偲ぶ【紅玉忌】がある。
大勢の作家や絵描き、編集者に囲まれて、また新たな触発があるだろうか。
例年より早まった足立の花火に後ろ髪ひかれつつ、無限のエネルギーが集う会場へ向かうとしよう
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