●武器輸出緩和:三原則、事実上の大転換 国民的議論なく
毎日新聞 2011年12月28日
政府は27日、武器輸出三原則の大幅緩和を発表。国際協力目的での防衛装備品の他国への供与▽友好国との武器などの共同開発--を幅広く解禁した。個別案件ごとに「例外」を設けていた従来の緩和方法を超え、事実上の三原則の転換に踏み切った。政府は、先端防衛技術の欧米との共有や、開発・生産コスト削減などのメリットを強調する。だが、公開の場での十分な議論のないまま、平和国家・日本の理念である三原則を一気に緩和したことへの批判の声も上がっている。
◆共同開発に弾み
三原則による武器禁輸政策のため、航空自衛隊の次期主力戦闘機(FX)に選んだF35など、新型兵器の共同開発に、日本はこれまで参加できずにいた。単独で開発してもコスト面で太刀打ちできず、機密情報保持のため、部品生産から外されるリスクもある。防衛省幹部は「いずれやらねばならなかった」と緩和を評価。今後、米国のほか豪州、北大西洋条約機構(NATO)加盟国との共同開発の道が開けるとみる。
国内の防衛メーカーからも「生産・技術基盤の維持・高度化につながる」(三菱重工業)など、歓迎のコメントが相次いだ。
また、国連平和維持活動(PKO)などの任務を終えた自衛隊が、従来、武器とみなされ他国に提供できずにいた、建設重機や防弾チョッキなどの装備品を支援国に渡せるようになる。自衛隊幹部は「日本の国際貢献度が増す」と話す。
◆生煮えの議論
野田政権は、年明けに予定していた公式訪米前の緩和表明を目指し、政府内での議論を加速。訪米は延期となったものの、内閣支持率の低迷を受け「野党が攻勢を強める前に」と、決着を年内に前倒しした。しかし、防衛、外務、経済産業3省の副大臣級による11~12月の非公開協議はわずか3回。公開の場での検討は皆無で、防衛省からは「国民的議論なしで大丈夫か」(幹部)との懸念が漏れる。
共同開発推進を主張してきた自民党は、緩和を容認する構えだ。しかし、共産、社民のほか公明党も「共同開発の武器が紛争国に輸出されれば、日本は『死の商人』にみられる」(斉藤鉄夫幹事長代行)と強く反発。紛争国への流出防止策を「一概に言えない」(内閣官房)と具体的な説明を避けるなど、議論の生煮えぶりも目立つ。見切り発車で緩和を決断した野田政権への批判は避けられそうにない。【朝日弘行、寺田剛、鈴木泰広】
●三原則「実質的意味失う」 抜本見直しに批判も
中国 '11/12/27
武器輸出を事実上禁じ、平和国家の象徴とされてきた武器輸出三原則。「実質的な意味を失う」「歯止めが利かない」―。防衛産業をめぐる現状から「半歩前進」と評価する声がある一方、国際共同開発・生産への道を開く初の抜本的な見直しに根強い批判もある。
見直しの背景には、防衛産業の窮状がある。防衛予算が削減続きで装備品の調達が減り、三原則がネックになって国際共同開発の流れに乗り遅れ、生産技術基盤の維持が困難なためだ。
元防衛省技術研究本部長の安江正宏(やすえ・まさひろ)さんは三原則の緩和に「防衛産業への刺激としては効果的で、半歩前進だ。ただ、近いうちに大きな共同開発・生産はなく、厳しい状況は変わらない」という。
一方、軍事ジャーナリストの前田哲男(まえだ・てつお)さんは「非核三原則と並び、日本の外交・安全保障の在り方を国際社会に示す二枚看板だった」と、武器輸出三原則の意義を強調。
かねて武器禁輸政策の緩和に警鐘を鳴らしており、今回の見直しにも「すぐにメード・イン・ジャパンの武器が国外に出るとは思わないが、建前を崩す決定の意味は大きい」と強調した。
政府はこれまで、1983年の米国への武器技術供与を皮切りに、例外として個別に武器輸出を認めてきた。
「憲法9条を具現化した施策」と三原則を評価する青井未帆(あおい・みほ)学習院大教授(憲法)も、三原則緩和を「例外と原則が実質的に逆転するのではないか。武器輸出に歯止めがきかなくなる恐れも大きい」と危ぶんでいる。
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