浪漫亭随想録「SPレコードの60年」

主に20世紀前半に活躍した演奏家の名演等を掘り起こし、現代に伝える

エドワルト・リスラーのショパン

2012年04月07日 | 洋琴弾き
以前に普通のCDではないとご紹介したことのあるリスラーのCDを久々に取り出して愉しんでゐる。前回はゴーダールのマズルカ第弐番といふ珍曲を取り上げたが、今日はよく知られたショパンの嬰ハ短調ワルツの素晴らしい名演奏をご紹介したい。

此の復刻では途中に盤がこすって振動するやうな低いノイズが混入してゐるが、そのやうなことは消し飛んでしまふ名演だ。冒頭の物憂いあの旋律は独特の品の良さを持ったリズムと間合いでどちらかと云えばさりげなく表現される。反復の際にはタッチや速度を変えて二通りの全く異なる表現を聴かせてくれる。此の作品でも前回にも書いたとおり繊細な弱音が拾いきれてゐない。電気吹き込み前の1917年の技術ではやむを得ないが、非常に残念である。

しかし、何といっても唸らされるのは中間部の歌い回しだらう。此の人は相当な腕を持った洋琴家に違ひないが、ホフマンやバレルらのやうにひけらかすやうなことは一切しない。きわめて正確な打鍵と完全に意のままになるタッチによる音色の変化から創り出される音楽は、大変上品で極上の贅沢を味わってゐる満足感に充たされる。同門のコルトーとは大きな違いだ。

CDにはベートーヴェンの作品も3つ収められてゐて。これはまた別の世界観があるやうだ。リスラーは独逸人でありながら、当時仏蘭西人しか入ることのできない巴里音楽院を主席で卒業し、のちに教授となった人である。一方でバイロイトでワーグナーに没頭したカペルマイスター時代もある。系譜を見ても、ディエメの弟子であり、ダルベーアの門下生でもある。どちらも本物だ。

盤は、伊太利Ceder&Weiss社のCD PL209(1917年のパテの全録音の復刻盤)。



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